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エヴァンゲリオン パラレルステージ

EPISODE:02 / Help and be helped.

第2話


守る





Cパート



日常へ

 「これなんか、どうかな?」
 「うーん、こっちの方がいいんじゃない?」
 「碇君はどう思う?」
 「どっちもいいと思う…。」

 「ふーん。じゃあ、両方買いましょ。」

 すいませーん、これとこれ、下さーい!

 アスカが店員に言った。

 彼らは、花屋でトウジのお見舞い用の花を買っている最中だ。

 「2,480円です。」
 「はい。」
 「毎度ありがとうございます。」

 包まれてきた花を受け取って、シンジ達は再び歩き出した。

 トウジの待っている病院へと。



 コン、コン…

 『はいはい、開いてまっせ』
 中からトウジの声が聞こえた。

 「失礼します。」
 5人は、一応挨拶をして入る。

 「なんや、また委員長たちかいな。」
 トウジは、なんとなくつまらなさそうに呟いた。

 「何よ、折角来てやってるのよ。ちっとは感謝しなさい!」
 「へいへい。ほんま、惣流の相手させられとるシンジは大変やな。」
 「! な、何言ってるのよ!」

 「あ、そういえば。」
 ヒカリは、後ろに独りぽつんと立っていたシンジを前に出して言う。

 「シ、シンジ…いたんかいな…早よ言ってくれればええのに…。」
 「ご、ごめん…」
 「碇君、謝ること無いわ。鈴原もそんなこと言わないの。折角来てくれたんだし。」
 「それもそやな。」

 「じゃあ、積もる話もあるでしょうから、私達はしばらく下でジュースでも飲んで来るわ。」
 「ん? あ、ああ…別に構へんけど…」
 「じゃ、また後でね。」

 そしてヒカリ達は、シンジを病室に残して出て行ってしまった。

 病室に残ったのは、沈黙だけ。

 「…シンジ?」
 「・・・」
 「まあ、座ってくれ。」

 椅子を勧められて、シンジはその通りにした。

 再び、沈黙が訪れる。



 今度沈黙を破ったのは、シンジの方だった。

 「ごめん…」
 「シンジ、謝ることあらへん。お前は悪くない。」
 「トウジ…」
 「当り前やんか。ワシに怪我させたんはシンジがやったことやないんやろ?」
 「それは…そうだけど…」
 「だったらなおさらや。シンジは色々気にしすぎるで。ワシは元気やから、気にせんでええ。」

 「でも、足が…」
 「足の一本ぐらいどうにでもなるわ。」
 「それより、ナツミは元気なんか?」
 「ナツミ? …ああ、トウジの妹さんだよね?」
 「そや。」
 「よくはなってるらしいけど…元通りにはもう、戻らないだろうって…」
 「そうか…。」

 ふと、トウジは遠い目をした。

 「でも、ナツミちゃんの怪我も…」
 「あれは、もうチャラにしたさかい、ワシは気にしてへん。ナツミは元からシンジのこと責めてなんかおらへんかったしな。」
 「でも、あれは…」
 「シンジは、ワシらの怪我のことはあんまり気にせんでくれ。せやないと、ワシの方が逆に気になって眠れへん。」

 「でも、あのとき…この手が…」
 「…どしたんや、シンジ?」
 この手がトウジを…!
 シンジは、右手を力いっぱい握り締めながら言った。

 最初の時だって、僕が…僕が…!
 「せやから、お前のせいやないって言うとる…」
 でも! この手が、トウジのエントリープラグを潰したんだ!
 「お前の手やなかったやないか、あれは…。」
 「・・・」
 シンジは、やっと冷静に判断して口をつぐんだ。

 そうか…トウジには話してなかったもんな…。

 「もう、ええのんや。ワシは、気にしてへん。」
 「トウジ…」
 「だいたい、見舞いに来た奴が入院してる奴に励まされてどーするねん。」
 「・・・」
 「せやから、元気だしぃな。」
 「うん…ありがとう…」



 その日の夕食後。
 シンジは、風呂に入っていた。

 「・・・」
 無言で、風呂に浸かっているシンジ。

 ちゃぷ…

 ふと、シンジは右手をお湯から出して見つめる。
 2・3回握ったり開いたりを繰り返したあと、再びシンジは手をぐっと握った。

 ざば…っ

 それに反応するかのように、シンジの身体が姿勢を崩さず湯船から空中に出た。
 水滴が、全身から滴り落ちる。

 そのことを確認して、シンジがすっと目を閉じる。
 シンジの身体が一瞬白い光に包まれ…消えたときには、もう滴り落ちるべき水は蒸発してしまっていた。

 (いつか、みんなにも話さなきゃいけないのかな…。でも、きっとその時は…)

 クラスのみんなが、シンジを遠巻きにとりまいて、ひそひそ話をしているイメージが浮かんだ。
 みんな口々に、シンジの事を噂しあっている。

…あいつ、人間じゃないんだって…

 それはそうだけど…

…鈴原くん、碇君に怪我させられたって…

 でも、トウジは許してくれた。

…化け物よ、化け物…

 違う…

…今まで騙してたんだぜ、俺たちを…

 違う…

…殺人未遂…
…人殺し…
…人殺し…
…人殺し…

 違う…違う!ちがう! …チガウ…
 違うんだ…!

 どうして、誰も信じてくれないの…?

 (きっと、こうなるんだろうな…)
 ふっと遠い悲しげな目をするシンジ。

 シンジの身体はゆっくり降下し、再びお湯につかる。

 「はぁ…」
 思わず、溜息を一つついた。

 『人殺し…』
 その言葉がシンジの心に深く突き刺さった。
 傷ついたトウジの姿が浮かぶ。

 シンジは、決心した。

 (明日、もう一度病院に行こう)

 せめてもの、罪滅ぼしに。




夢と、現実と

 トウジは、夢を見ていた。

 「トウジ…」
 どこからか、小さな声が聞こえてくる。

 「誰や?」
 「トウジ…」
 声と共に、トウジの目の前にシンジの姿が現れた。
 いきなり現れたシンジに、トウジはうろたえる。

 「な、なんや。なんでシンジがここにおるのや?」
 「僕は、トウジに話があって来たんだ。」
 「何や、また『ごめん』か? あれならワシは全然気にしてなんかおらへんて…」
 「確かに、トウジはそう言ってくれたけど…。でも、僕は…」
 「・・・」
 「僕は…僕を許せないんだ、まだ。」
 「シンジ…」

 「だから、僕は来たんだ。ここに。」
 「何のためにや?」

 「僕からの、せめてものお詫びだよ…」



 そして、目が覚めた。
 いつもの天井が目に入る。

 しかし、その視界の一部分に人影が入った。

 「シンジ…」

 「トウジ、起きた?」
 「あ、ああ。せやけど何でシンジがおるのや? 今日は学校あるんやろ?」
 「うん。でもまだ早いから。」

 「よくこんな時間に面会許可降りたもんやな」
 そういうトウジに、シンジは答えにくそうに言った。

 「実は…許可、とってないんだ。」
 「許可とってないて…じゃあどうして入れたんや?」
 「いや、窓から…」
 「ん? ああ、窓伝ってきたんか。」
 「いや、そうじゃないんだけど…」

 「なんや、違うんか。…ま、ええわ。で? 何の用なんや?今日は。」
 「いや、ちょっと…」

 そう言うと、シンジはトウジの足の方に歩いて行き、おもむろに足の裏をくすぐりはじめた。

 あひゃひゃひゃ、や、やめんかい!
 当然トウジはくすぐったがりだし…シンジは、その反応を見て手を止めた。

 な、何すんのやいきなり!
 「ごめん。ところで、どっちの足をくすぐったかわかった?」
 「当り前やんか! 左…」
 そう叫びかけて、トウジはある矛盾に気付いた。

…自分の左足はもう無かったのではないか…?

 しかし、たしかにトウジは左足の所に布団の感覚を感じている。
 ありえないことの筈だが…。

 がばっ!

 トウジはあわてて布団をはぐった。
 そこにあったのは、紛れもなく自分の左足。

 「・・・」
 無言のトウジに、シンジは告白した。

 「それ…僕が治してあげたんだ。」
 「な…何やと!? ホンマか?」
 「うん…。」

 「そこまでしてもろて…すまへんな…。」
 「いいんだ、そんなこと。だって、トウジは許してくれたけど…でも、それだけじゃいつまで経ったって僕の気持ちの整理がつかないんだ!」
 「・・・」
 「だから、せめて…」
 「シンジ…」
 「それに…」

 シンジはそう言うと、病室の扉を開いた。
 薄暗い廊下が見える。
 その廊下から、女の子の声がした。

 「お兄ちゃん…」

 その声に、トウジが反応した。

 「ナ、ナツミか?」

 その女の子…トウジの妹・ナツミは、シンジと一緒に病室に入ってきた。

 「あーん、お兄ちゃん、会いたかったよう!」
 「ナツミ…お前もう怪我は治ったんか?」
 「うん。今日起きたらね、治ってたの。」

 「シンジ…」
 視線をシンジの方に向けるトウジ。

 それに気付いて、シンジは小さくうなづいた。

 そのまま、3人は黙っている。
 外から、蝉の鳴き声が聞こえて来る。

 ポーン…

 唐突にチャイムが鳴った。
 回診の始まりを表す音だ。

 「お、もうこんな時間か。ナツミ、そろそろ病室に戻らんと…」
 「うん、じゃあまた来るね、お兄ちゃん。」
 「ん。」

 パタパタ…

 ナツミは笑顔で走って行った。



 ナツミが帰ってから、しばらくの間は、再び沈黙が続いた。
 それを、トウジが唐突に破る。

 「ナツミ…嬉しそうやった…。」
 「うん。」
 「あいつの怪我はな、ここの医者がみんなでサジを投げかけるほどやったらしい。」
 「そうだね、すごく酷かった…。ごめんね、トウジ…」
 「もうええ。あいつも治ったんやし。」
 「・・・」
 「それよりもな、あいつ自身おまえのことこれっぽっちも責めておらんかった。」
 「・・・」
 「せやから、もう気にすな、な? むしろワシの方がお礼言わなならんぐらいや。」
 「いいよ、僕も。僕のせいだったんだし。」
 「…ところで、ワシ治したんも…シンジなんやろ?」
 「そうだよ。」
 「なして、そんなことできたんや? …ワシは、足はもう生えてけえへん言われたんやで?」
 「それは…」

 その質問を聞くと、シンジは表情を硬くしてうつむいた。
…このことは予想していたと言うのに。

 「実は…」
 アスカに言うときと同じく、ゆっくりとシンジは話しだした。
 もう、躊躇はしない。そう、決めたから。



 「実はね…」

 そう、シンジは切り出した。

 「…僕は、もう人間じゃない。この身体は、エヴァと同じ。そのものなんだ…。」

 「・・・」
 トウジはそれを黙って聞いている。

 「この間の時、僕は心を初号機に取り込まれて…、抜け殻になった僕の身体は生きていけなくなっちゃったんだ。」

 「・・・」

 「…でも、初号機は自分の身体を僕にくれた。だから僕は生きてるんだ。」

 「・・・」

 「…というわけ。」
 「そうやったんか…。せやけど…それ、そんな大変なこと、秘密事項やろ?」
 「・・・」
 「やっぱりな…。何でワシなんかに話したんや?」
 「…知っておいてほしかったから、真実を。」
 「真実? なんのや?」
 「全部だよ。」
 「・・・」

 再度沈黙が訪れる。

 開いている窓から入って来る風がすずしい。
 蝉の声は相変わらず聞こえて来る。
 日の光が、風でそよぐカーテンの隙間から入ってきた。

 「…そろそろ帰らなくちゃ。」
 「そういえば今日は学校あるんやったな。」
 「じゃあ、多分今日中には2人とも退院できると…」
 「ああ、ありがとな。」
 「お礼はいいって…」
 「そか。そやったな…」

 そう言うと、シンジは自分が入って来るとき開けた窓の方に向かっていった。

 「それじゃ…」
 そう言って窓をぱたん、と閉めると、シンジは軽く手を振った。
 その口元が少しだけほころぶ。

 「ああ、またな。」
 窓ガラスが隔てているので声は聞こえないだろうが、トウジもそれに答えて手を振り返す。

 それを見たシンジは、青空の方へと向き直った。
 そして、ベランダの手すりに手を掛け…
 そのまま、地を蹴った。

 シンジの身体は、宙に舞う。



 それを確認すると、トウジは自分の足で床に再び立った。2本の足で。
 左足の感覚を確認するように、ゆっくりと歩を進めて行く。

 「ホンマ、ありがとな…」
 窓に手を掛けて、トウジはつぶやいた。
 小さくなっていくシンジの後ろ姿に。

 青い空のまっただ中に浮かぶシンジの背中からは、12枚の光の羽が発していた。
 オレンジ色の光の粒を後に残しながら、シンジの姿は遠くなっていく…。



第3話に続く

ver.-1.00 1997-06/09公開
ご意見・感想・誤字情報などは VFE02615@niftyserve.or.jp まで。


 次回予告

 足も治り、トウジが復帰する。
 そんなとき、第15の使徒が現れた。出撃する弐号機・零号機。
 だが、使徒の精神攻撃の前に成す術もない。
 大切な仲間の為、シンジは決心した…。

 次回、「私の価値は?」 この次も、サービスサービスっ!


 あとがき

 2話、終わりました。
 次の話からトウジが復活します。
 久しぶりの3バカトリオ勢揃い。さてさて、どうやることやら(こらこら、自分で言うなよ)。

 やっぱり使い慣れてない言葉は難しいですね。トウジのセリフがなんか思いっきり間違ってそうで心配です。
…ああ、関西在住の方からの指摘がこわい。 (^^;

 ところで、1・2話はレイの出番が少ないですね(自分で言うなってば)。
 だから、3話からは増やすつもりです。
 レイ派の方(僕もです)、お楽しみに!
(特に4話はレイが主人公Bになる予定ですから。…え?主人公A? それはもちろんシンジ君ですよ。)


 Tossy-2さんの『エヴァンゲリオン パラレルステージ』第2話Cパート公開です。
 

 シンジが得た力は、正に『神の如く』ですね。
 トウジの足を治し、トウジの妹を全快させ・・・・

 常識を越えた力故にその存在は隠さなければならない筈でしょうが、
 シンジの優しさは”使う”を選択しました。

 いや、そこまでシンジは考えてないのかな?
 ・・・・空を飛んでいるし(^^;
 

 レイ派の訪問者の皆さん、
 次回が楽しみでしょう(^^)
 貴方の期待をTossy-2さんに伝えて下さいね!
 

 TVを見ていたときから考えていたのですが、
 トウジの妹の怪我はどんな物なんでしょうね。
 シンジを殴ったトウジを叱ったりしていたのに、
 何ヶ月経っても退院できない−−

 知っている人! 教えて下さいm(__)m


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