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エヴァンゲリオン パラレルステージ

EPISODE:02 / Help and be helped.

第2話


守る





Bパート



知ることの悲しみ


 「アスカ、逃げて!」
 シンジは叫んだ。

 「きゃああぁぁぁぁぁっっ!!」
 アスカの悲鳴が聞こえる。

 ためらうことなくシンジは走り出した。
 アスカを、助けるため。

 「アスカ!!」
 シンジは、アスカの前に出た。
 ちょうど車からアスカをかばう形だ。

 しかし車のスピードはゆるむことなく…



 「きゃああぁぁぁぁぁっっ!」
 アスカは悲鳴を上げた。
 自分はこれでもう死ぬのだ、という恐怖で。
 事実、こんなスピードで来る車にはねられたら即死だろう。

 「アスカ!!」
 その時、自分の前にシンジが立ちはだかったのを感じた。

 だめ、だめよシンジ!
 そんなことしたら、あんたが…!
 せっかく帰ってきたあんたが…!
 そんなのは、いやあぁぁっ!

 アスカは、心の中で叫んだ。
 それしか、できなかったから。

 車の音は近づいてくる。

 10m…
  5m…

 そして。



 カキー…ン

 アスカの耳にまず入ったのは、そういう金属的な音。
 聞き慣れた、音。

 次に、

 ドガー…ン

…と、車が激しく何かにぶつかった音が響いた。
 おそるおそる目を開けるアスカ。

 目を開けたアスカは、信じられない物を見た。

 「シン…ジ…」

 彼女の目に入ったのは、全く無傷のシンジ。
 それだけでも十分驚嘆すべき事なのだが、更に彼の前には…

 みまごう事もない、オレンジ色の光の壁。
 車は、それにぶつかって見事に前部がつぶれていた。

 「AT…フィールド…」
 思わずその壁の名を口にする。
 シンジは、その言葉に少し悲しそうな表情をして振り向いた。

 さっきの衝撃で運転手も目が覚めたらしく、既にフィールドを消したシンジの前で平謝りしている。
 シンジはと言えば、あまりのことに「もういいですよ」としか言いようがない。

 アスカは、そんな光景を呆然と見つめていた。

 どうして…?
 どうしてシンジがATフィールドを張れるの?
 シンジは、私と同じ「人間」じゃなかったの?

 そのアスカの目には、さっき振り返った時に見たシンジの悲しげな赤い瞳が焼き付いている。

 シンジの目の色…変わってた。前は黒かったのに…あの娘と同じ色…。
 シンジ、どうしちゃったの?
 シンジは…。



 なんとか運転手の謝罪から解放されたシンジ達は、再び気を取り直して学校への道を進み始めた。
 しばらく無言で歩いていた2人だったが、ついにアスカが決心したように口を開く。

 「ねえ、シンジ」
 「・・・」
 シンジは、何も言わない。

 「シンジってば」
 「…ごめん」
 「何謝ってるのよ」
 「だって、僕は…アスカに…黙ってたから、僕のこと…」
 「・・・」
 「…だから、今話すよ。アスカ、驚かないで聞いて欲しいんだ。」
 「…分かったわ。」

 アスカは覚悟を決める。
 それを確認したシンジは、ぽつぽつと話し始めた。

 「ほら、この間の使徒の…覚えてるよね?」
 「・・・」
 「その時、僕は…精神だけ、初号機に…取り込まれちゃったんだ…」
 「・・・」
 「それで、抜け殻になった僕の身体は、もう死んじゃって…」
 「じゃ…じゃあ、ミサトの言ってたのは…」

 「…うん、本当のことだよ。人間としての僕の身体は、あの時…」
 「・・・」
 「…で、今のこの身体は…、つまり…」
 「・・・」
 「初号機…なんだ。」
 「・・・」

 「だから、さっきみたいにATフィールド張ったりとか…そういうこと、いろいろ出来るんだよ…。だけど…」
 「・・・」
 「でも…僕は、僕なんだ。僕は僕のままでいたいんだ。身体は変わっても…」
 「・・・」
 「わがままだよね、僕って…。わかってるんだ、そんなこと…。でも…わかってるんだけど…!」
 シンジの声にしゃくりあげる声が混じってくる。

 「でも、いやだったんだ! いやだったんだ…嫌われるのが…」
 「嫌うなんて…」
 「僕は、アスカと同じ『人間』じゃないんだ、もう。でも…、僕は…僕は…!」
 「・・・」
 「嫌なんだ…僕のせいで人が傷つくのは…。もう、そんなこと…。だから…」
 「・・・」
 「だから…僕と、今まで通りに…」

 「・・・」
 「…でも、いやだよね? 無理だよね? そんなの…」
 「そんなこと…」
 「結局、僕は自己満足の為に人を傷つけちゃうんだ。ずるくて、憶病で、弱虫で…。だから…もう、僕は…僕なんか…」

 「そんなことない!」

 アスカは叫んだ。
 朝の空気に、ビルの間に、その声がこだまする。

 「アスカ…」
 目に涙をためたまま、シンジはアスカの方を向いた。
 はっきりと、その顔には驚きの表情が見て取れた。

 「そんなことないわよ…バカシンジ…」
 「アスカ…」
 「いくら変わったってアンタはアンタ、それで…いいじゃない。」
 「・・・」
 「他人がどう見るかは勝手だけど…、少なくともアタシはシンジのこと、シンジだって思ってる。」

 「・・・」
 「だって、顔も、声も、口調だって…、みんなみんなシンジよ!それをシンジだ、って言って何が悪いの? 何処が悪いのよ!」
 「…アスカ…」
 「アンタだって、自分が自分でいたいと思ってるんでしょ?」
 「うん…」
 「だったら…それでいいじゃない。だから…もう泣かないで…アタシまで…悲しくなっちゃう…。せっかくアンタが帰ってきて嬉しかったのに…。」

 「うん…ありがとう。ありがとう、アスカ…。ごめん、隠してて。」
 「…いいのよ。」

 アスカの気持ちも、すっきり整理がついたようだ。

 「ほら、涙拭いて。そんな顔で教室に入ったら笑われちゃうわ。」
 「うん…。」

 アスカの差し出したハンカチを、少しためらいながらも受け取るシンジ。
 涙を拭くと、精いっぱいの元気で言った。

 「行こうか、遅刻しちゃうよ。」
 「そうね。」

 2人は、仲良く走り出した。



 シンジとアスカが教室に入ると、みんなが自分達の方を一瞬見る。
 そして、また元の会話に戻っていく。

 いつもの光景だ。

 2人は、鞄を机に置いて、座る。

 (よかった…)
 その反応に、シンジは少し安心した。

 すぐにアスカのところにヒカリが、シンジのところにケンスケがやってきた。

 「アスカ、おとといから学校に来なかったけど…何かあったの?」
 「…ん、ちょっとね、こないだ…。」
 「大丈夫なの?」
 「ええ。もう何ともないわ。」
 「そう、よかったわね。」
 「あったり前!何てったって、アタシは惣流アスカラングレーよ!」
 ヒカリは、その変わらない物の言い方に安堵を覚える。
 思わず、笑みがこぼれた。
 「そうね。」

 一方、シンジとケンスケは。

 「よ! 2日ぶりだな。いきなり休むもんだから心配したぞ。大丈夫だったのか?」
 「うん。まあ…ね。」
 シンジが答える。

 もちろん、シンジの本心が「本当は大丈夫じゃない」と言いたがっているのは事実だが実際にそう言ったときにどういう反応が返ってくるか…。
 それが心配だった。だから、口に出せなかった。
 シンジとって一番辛いのは、「他人を騙している」と言うことだった。
…たとえ「騙さざるをえない」としても。

 「そういえば、この間の時、何かあったのか? お前が重体だとかウワサを聞いたんだけど…」
 「い、いや。何もないけど…」
 ケンスケの質問に、シンジは動揺しながらも何とか平静を装って答える。

 「そうか…ならいいんだけどな…。なんかパパの所は大騒ぎしてたらしいからな。」
 ちなみに、ケンスケの父親はNERV管理部に勤めている、と以前シンジは聞いたことがあった。

 「そう…分かんないけど…。」
 「それならいいや…。あ、そうそう。トウジから伝言だってさ。伝えてくれって言ってたらしいぜ。」

 それを聞いてシンジは驚く。
 「ええっ、本当!?」

 思わず立ち上がるシンジをクラス中の視線が刺す。
 ケンスケはそんなシンジを座らせ、

 「『ワシは元気やさかい、心配せんでええ。事故は碇の責任やあらへん。たまたま運が悪かっただけや。ワシは碇を恨んだりはしておらへん。せやから、安心せい。』…だってさ。」
 「そう…。」
 シンジはこの間のことを思い出して、悲しそうな表情を浮かべた。

 参号機の、使徒による暴走、そしてダミープラグに切り替わった初号機がその参号機のエントリープラグを破壊した。
 シンジは、壊れたエントリープラグの中によく知った顔を見つけてしまう。
 トウジ…。

 「どんなことがあったのかは俺にはわかんないけど、まぁあいつもああ言ってるんだから、あんまり気にしない方がいいぜ。」
 「・・・」
 「なんてったってお前は全部自分でしょい込もうとするところがあるからな。」
 「…そうだね。」

 「そうよ、碇君。」
 いつの間にかヒカリもやってきていた。

 「鈴原、碇君に会いたがってた。」
 「トウジが…」
 「ええ。シンジを心配させて申し訳ない、ですって。」
 「そんな…僕の方こそ…」
 「…気持ちの区切りがつかないの?」
 「…うん…」
 「それなら、碇君。一度、一緒に鈴原をお見舞いに行きましょう。そうすれば、きっとすっきりできるはずよ。」
 「…うん。」
 「じゃ、今日の放課後は?」
 「…いいよ。」

 そんなところに始業のベルが鳴り、その日の授業が始まった。



 いつの間にか、昼休み。

 「じゃあ碇君、とりあえず途中でお花でも買って、それから行くことにしましょ。」
 「そうね。いいわね。」
 「碇君はどう思う?」
 「あ、僕も…いいと思う…」
 お弁当を食べながら、シンジ達は今日の放課後の事を話している。

 「ところで…、行くメンバーは?」
 シンジが聞いた。

 「碇君と私とアスカと相田と綾波さんで…5人ね。」
 「そう…」

 シンジは、参号機のプラグを破壊した自分の身体の一部分を見つめた。
 グチャッと手の中で何かがつぶれる感触が蘇る。
 シンジはあの時神経接続をカットされていてそんな感じはしなかったのだが、初号機と精神融合したときに初号機としての記憶がシンジの中に流れ込んできたため、否応なしに知ることになったのだ。
 シンジは、手のひらを見つめたまま心の中でつぶやく。

 トウジ…



 キーン コーン カーン コーン……

 終業のチャイムが鳴る。
 そのとたん、各教室で声があがる。

 「はあぁーっ、終わったあぁー!」
 「ねえねえ、今日一緒にあそこ行こう!」

 生徒たちは、毎日味わう開放感に今日も浸っていた。

 「きっと、鈴原驚くわよ。」
 「そうねぇ…」
 「ホントに、トウジ…怒ってないの?」
 「ええ。さっきも言ったとおり、むしろ碇君のことを心配してる位だわ。」
 「・・・」
 「まあ、それだけ元気がある、ってことなんでしょうけどね。」
 「・・・」

 強いんだな、トウジは…

 片足を無くしながらもそれだけ明るく振る舞えるという事実に、シンジはトウジがうらやましくなった。

 「碇君…」
 レイが呼びかける。

 「綾波も行くんだよね?」
 シンジの問いに、こくり、とレイが小さく頷いた。

 「さ、じゃあ行きましょうか。」

 ヒカリの号令に、4人が応じる。

 「今日は、まずお花屋さんに寄ってからね。」
 予定の確認をしてから、ヒカリは歩き出した。
 4人も、それについて行く。

 トウジ…ごめん…

 シンジは、未だ襲ってくる罪の意識にさいなまれながら、下を向いて歩いていた。



Cパートに続く

ver.-1.00 1997-06/08公開
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 次回予告

 トウジに励まされるシンジ。
 しかしシンジの心の中ではまだ自分が許せない。
 そして、ある朝トウジに起こったこととは…?


 あとがき …EPS裏話(その1)

 この話、結構サクサクと書き進んでいます(アップ時現在)。

 実は、この話の構想は僕が19・20話を見た直後からあったんです。
 その時に書いたものがまだ一応テキストで残ってはいるんですが、まぁこの話から見ると参考程度にしかなってません。
…とか言いながら結構最近まで言い回しなどを微修正して、いぢくりまわしてたんですけどね。

 その話ではシンジは死にませんし(TVと同じく身体ごと取り込まれるだけ)、初号機も「人の意志が込められている(リツコ談)」ためシンジと話すわ漫才するわ…。
 まさに今のやつとは正反対のライトな小説でした。

 しかし、「人の考えることは皆同じ」とはよく言ったもので、似たような設定がたくさんあるんですね、世の中には(まあ設定の平凡さというのもあるかも知れませんね)。
 それで、あまり他と似たものを出すのもおもしろくない、というわけでこの形に落ちついたわけです。

 でも、僕はこういう話も(結果的に)いいと思っています。
 書いてて自分で数秒間涙腺が緩くなったことがありますしね。(*^^*)

 さて、今日はこの辺で。

 Cパート、お楽しみに!


 Tossy-2さんの、『エヴァンゲリオン パラレルステージ』第2話Bパート公開です。
 

 アスカに迫る死。
 怖いのは自分の死でなく、シンジの死・・・。
 アスカの気持ち−−−。

 秘密がばれたことで二人の絆は強まりましたね。
 

 生きていたシンジが触れる心、思い。
 アスカや、トウジとの関係・・・。

 次回そのトウジとの再開は彼に何をもたらすのでしょう?

 さあ、訪問者の皆さん。
 順調に更新を重ねるTossy-2さんに、貴方の感想を送って下さい!


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