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魔導王シンジ


第七話 国境を越えて 




「お話は前々から伺っていたんですが・・・・。」

洞木ヒカリのお店、「サクラ&パスタ」の閉店後、客のいない食堂に四人(+天井裏に一人)がテーブルを囲んで話をしていた。

「すいません、その話はお断りしようと思ってたんです。」

申し訳なさそうにヒカリがアスカに言う。料理を作るように依頼したのはアスカではなくリーザスの王様なのだが、それでも目の前のアスカに謝ってしまうのはその性格故だろう。

「私は自分の料理を食べてくれに来てくれる人のためだけに、料理を作りたいんです。リーザスの結婚式では私の料理を食べに来るのではなく、結婚式を祝いに大勢の人が来るのです。そのうえ、自分の出した料理が見向きもされず大量に残されるなんて私には耐えられません。」
「大丈夫よ、ヒカリの料理はおいしいから残されるなんて絶対ないわ。」

いつの間にか、ヒカリと呼んでいるアスカ。どうやら短期間の間にも友情が芽生えたらしい。

「あのーーーー・・・・・・」

天井裏から遠慮がちな声が漏れる。言わずと知れた忍者ケンスケである。

「何よ!」
「一言だけ言わせてもらっていいですか?あの王様に関しては誘いを断るなんて事は絶対やめた方がいいと思います。」
「何でよ、断ったら死刑にでもするって言うの?ここはネルフ領よ、そんなことは絶対させないわ。」
「怒ってこの国に攻め込んで来かねません。」

ケンスケの一言にその場にいた全員が唖然とする。激憤してその沈黙を破ったのはアスカである。

「な、なんて無茶苦茶な王様なの。リーザスにもマナみたいなタイプの人間がいるのね。」
「・・・アスカ、それどういう意味・・・・・。」
「どういう人なんですか、その人。」

アスカの言葉にかぶせるようにシンジがケンスケに尋ねる。ケンスケは自分の知識を誇るように、得意げに答える。得てしてこういう人間は説明好きなものである。

「なんでも、自由都市国家出身の冒険者らしいです。名前はランス。」
「聞いたこと無いわね。」
「かなり名の通った冒険者ですよ。なんでも噂では魔人をも殺したらしい。」
「魔人を!?」

驚きの声が上がる。それもそのはず。この世界で魔王、そしてその下僕の魔人と言えば恐怖の代名詞である。かつて人間を支配し、奴隷としてきた恐るべき魔物。その強さも人間を遥かに凌駕し、さらには・・・・。

「それはデマよ。だいたいどうやって殺したって言うのよ。あいつらは不死身なのよ。並の武器や魔法では傷一つつけることは出来ないわ。」

アスカが怒りを込めて言い放つ。魔人の住む国と隣接しているネルフにとって魔人は長年恐れ、忌み嫌ってきた存在である。それをたかが冒険者風情が倒したなどと・・・。

「それが事実なんだな、驚くことに。」

いつの間にかケンスケはすっかりため口である。しかしアスカはそんなことは気づく余裕がない。

「なんでも、そのランスって男。魔人を殺すことの出来る伝説の武器・・・・、えっとなんていったかな・・・・・確か魔剣・・・・」
「魔剣「カオス」。聖剣「日光」と対をなし、魔人を切り裂くインテリジェンスソード・・・・・。」

声は意外なところから聞こえてきた。シンジがぼそっと呟いたのだ。その場の全員の視線が驚きを含んでシンジに集中する。それに気づいたシンジがきょとんとして言う。

「え?何?どうしたの?」
「シンジ君・・・。意外と物知りなのね。」
「何か言った?僕?」
「シンジ君が今、魔剣「カオス」がどうのこうのって・・・。」
「かおす?何、それ?」
「そうそう、その魔剣「カオス」だよ。」

なんのことだかわかってないシンジと、しゃくぜんとしないマナを残して、ケンスケが話を進める。

「魔人と手を組んだヘルマン第三軍がリーザス城を占領した時、そのカオスでもって魔人を殺し、ヘルマン第三軍を追い払った、救国の英雄、それがランスさ。」
「英雄か・・・・。そんな凄い人がなんでそんな大人げないことをするの?」

シンジが釈然としない風に言う。国を救い、英雄となり、王女を娶り、王となる。かつてシンジがあこがれた生き方そのままである。

「そのランスの異名を知ってるか?「鬼畜戦士」っていうんだぜ。」
「きちくぅーーー?」
「うん、その名の通り。逆らう奴は容赦なし、世界の女は俺の者、わがまましほうだい、正義を蹴散らし、いついかなる時も自分の欲望のために戦う男。それがランスって奴らしい。」
「そ、そんな恐ろしい人・・・・。」

ヒカリがすっかり怯えて青ざめて呟く。ヒカリでなくとも今の話を聞いて、その人物の言うことに逆らおうと言う気がおきる者はそういないだろう。

「そんな人がなんで私の事を・・。」
「なんでも冒険者時代にこの店で食べた料理がえらく気に入ったとか・・・。」
「身に覚えが無いけど・・・・。あ!!」

ヒカリが突然、思い出したように声を上げる。

「何、どうしたの。」
「そういえば、思い出した。招待状の最後に「今度はフライパンを馳走になる必要はないからな、がはは。」って書いてあったの。」
「思い当たることがあるの?」
「以前、いかにもって感じの野蛮そうな男と、その恋人・・・というより奴隷みたいな女の子の二人が、店で散々飲み食いしたあげく、食い逃げしたことがあるの。」
「それが、まさか・・・・?でもなんでフライパンなの。」
「逃げるその男の後頭部にフライパン投げつけてぶつけたの・・・・。」

それを聞いたアスカは深い深い深いため息をつくと、ぽんっとヒカリの肩に手を置いて言った。

「ヒカリ・・・・・、もう、観念して行くしかないわ。命の保証だけは私がしてあげるから。」






かくして、一夜が明け、そのメンバーを一人増やして5人とした一行は一路アダムの砦へと向かうことになった。旅は「うし車」という乗り物にのって進めている。その名の通り、うしと呼ばれる生き物に引かせて進む車で、最高100キロ程度のスピードはでる。 今のスピードはだいたい70キロくらいか・・・。外の景色が流れるように車の背後に消えていく。

「うわー、速いなー!」

窓の景色を見ながらシンジが素直に感嘆の声を上げる。自力以外の力で動く乗り物に乗ったのは初めてなので無理もないだろう。そんなシンジをアスカやマナはしょうがないわねぇといった表情で見ている。が、ケンスケがやれやれといった風に肩をすくめて言う。

「ふっ、ネルフ屈指の魔法使いといえど人の子か。この程度のスピードで驚くとは。我ら忍者にとってこの程度のスピード、亀の歩みも同然。」
「へぇー、それは凄いわね。じゃ、あなたはこれより速く走れるんだ。」
「当然!」
「じゃあ、実地で見せてもらおうかな。」
「へっ?」

そう言ってマナはケンスケをけ飛ばし車から突き落とす。そのまま車外に放り出され、慣性の法則の任せるまま、地面に激突して転がり出すケンスケ。

「なんで俺だけこんな扱いがひどいんだああぁぁぁーーーーーー・・・・・・・」

ケンスケの絶叫が消える頃、ケンスケの姿もまた、うし車から遠ざかり見えなくなっていった。

「・・・あれはちょっと酷すぎない。」
「リーザスにつく頃には追いついてくるわよ。」

シンジにはとてもそうは思えなかったが、「まあ、ケンスケだから」と考えて自分を納得さえたあたり、周りに染まってきたと言えよう。






数時間後、うし車から降りたアスカ達は、眼前に広がる巨大な砦を見上げやる。アダムの砦・・・ネルフとリーザスの国境を守ってそびえる巨大な砦。一万を越える兵力を擁し、城壁には数十門の魔力砲が備え付けてある。

「へえー、これが再建されたアダムの砦か。噂には聞いてたけどすごいものね。」
「ほんとだー。大きいねぇ・・・・。」

シンジがとぼけたセリフを吐く。仮にもネルフの四大将軍の一人が、この砦を見てその程度の感想しか抱かないとは・・・。そんな思いがよぎり、アスカとマナは少々めまいがした。
砦にしては少々華美かと思われる門をくぐり、砦の中に入る。食事の用意が出来ていると、兵士から言い渡され、アスカ達は本来客間らしい部屋に通された。食卓の席に着いた一行を一人の男が出迎えに来た。

「よう、みんな元気そうで何よりだ。」

一同を歓迎しに来た男は加持リョウジ。アダムの砦の守備隊長で、シンジと同じ四大将軍の一人である。そうとわかったとたん、約一名が黄色い声を飛ばす。

「加持さーーん。加持さんが来てくれただけで私は元気でーす。」

言わずと知れたアスカである。元気になるアスカに比べて、沈んでいくシンジ。そんなシンジを横目で見てかわいそうと思いながらもアスカに話しかけるヒカリ。

「ねえねえ、あれが加持さん?」
「そうよ、かっこいいでしょう。シンジなんかとは月とすっぽん。比べるだけ加持さんに申し訳ないわ。」

容赦なく加持を褒めちぎるアスカ。シンジは再起不能寸前である。絶望感と孤独感を紛らわすため、ひたすら食事に専念するシンジ。ケンスケがこの場にいたならさぞかし彼に同情しただろう。

「ねぇー、加持さんはリーザスまでついてきてくれないのー。」
「ははは・・・、悪いけどこの砦を守るっていう任務があるからな。」
「守る・・・・?リーザスからですか?」
「ああ、表面上は友好国だが、10年前の戦争の根は深い。特にここアダムでの事件のこともあるからな。」
「10年前・・・・解放戦争のことですね。ネルフでの奴隷解放の原因になった・・・。でもアダムの事件って・・・?」

シンジの言葉にアスカとマナが意外そうな顔をする。

「あれ・・・、シンジ君。もしかして知らなかったんじゃ・・・・・。」
「そういえば、シンジがネルフに来た以前の記憶が無いのよね。シンジが来たのは解放戦争終了直後だから、しかたないか。」
「・・・・そうか。シンジ君は知らなかったのか。無理もない、一般には知られてないことだからな。いい機会だ。リーザスに行くのならば、ここで話しておいた方がいいだろう。」

加持は食事をする手を休めて、一同を見渡す。民間人であるヒカリの姿を見て、この子にも話していいものか迷ったが、リーザスに行く以上、知っておいた方がいいだろう、と考えた。

「解放戦争のことは知っているな。」
「ええ、教科書に載っている程度には・・・。当時、奴隷制度があったネルフから数人の奴隷がリーザス、ヘルマンに逃亡したのが始まりだとか・・・。」
「そうだ、全てはそこから始まったんだ。」






10年前・・・、GI歴1008年。

魔法国家ネルフ・・・。魔法により作られた街、魔法により強大な軍隊、魔法により織られた歴史。このような国では住む人間が二種類に分けられてしまうのは仕方のないことだった。すなわち、魔法を使える者と使えない者。
やがて、それらの境目が「貴族と奴隷」、「裕福と貧困」、「支配する者とされる者」という意味も含まれるようになるのにも時間はかからなかった。この時代のネルフも然り、魔法を使えない者は奴隷の烙印を押され、家畜以下の値段で売買されることすら平然と行われていた。

そんななか、ある日、数人の奴隷が自由を求めてネルフから逃げ出した。奴隷達は奇跡的に無事国外脱出を果たし、ヘルマン、リーザスにそれぞれたどり着いた。そして、自分たちの人間としての権利を求めるとともに、各国の王に懇願した。どうか、まだネルフに残っている自分たちの仲間を助けてほしいと・・・。
自分たちの国に救いを求めて、やってきた奴隷。だが、それによってリーザス、ヘルマンの王が動かされたのは、同情と正義の心ではなく、野望と野心だった。一月後、リーザス、ヘルマン両国は奴隷の亡命を契機に、ネルフに対し、奴隷制度を近代国家にあるまじき、恥ずべき人倫に背く制度として批判。ならび奴隷制度の廃止。現時点の奴隷の解放を要求した。
ネルフにとってはとんでもないことである。あまたいる奴隷に対し、自由と職と金と土地を国庫から与える。どれだけの損害か計り知れない。
さらに奴隷と言えば魔法を使えない落伍者が主だった。そのため奴隷は軍として起用されるとき、もっぱら魔法使いに盾となるべき、足軽となる。まさに「肉の壁」としてである。奴隷を解放する、ということは同時それらの軍の解散も意味する。すなわち軍備の大幅激減。
当然、ネルフはその要求を却下。翌日、リーザス、ヘルマンが奴隷解放を大義名分に宣戦布告。
こうして、正義の名の下に、しかしその実状は誰の目にも明らかな解放戦争と呼ばれる戦争が勃発した。

「ヘルマンの誇るブラックナイツ、リーザスの多種多様の様々な軍隊。さらに国内での奴隷兵の相次ぐ反乱。誰の目にも敗北は明らかだった。」

加持が当時を思い返すように話す。加持は戦争の時は二十歳になるかならないかの年齢だ。当時は魔法兵として参戦もしていたのだろう。

「それでも王宮陥落という最悪の事態を防げたのは、塔の聖女の張る結界。さらには当時の四大将軍、六分儀ゲンドウ、冬月コウゾウ、葛城ミサトの父親、葛城ハヤト、そして、廃嫡された王子、渚カヲルの活躍。」
「・・・・・!」

カヲルの名が出たときアスカとシンジの肩がピクリと震える。そんな二人の様子に気づく様子もなく、加持が話を続ける。

「戦争は膠着状態に陥った。そのうちヘルマンは、国内で内乱が起き、ついに戦線から離脱。しかしリーザスはあきらめず、大がかりな援軍を引き連れここアダムの砦に攻め込んだ。四大将軍も国内の戦力を結集してアダムの砦で決戦を挑んだ。それはこの戦争の命運を決する最大の戦いになると思われた。そんな戦いの中・・・・それは起こった。」






加持はその時、アダムの砦へ仲間達と共に救援へ向かっている途中だった。ネルフ国内に未だ残留していたヘルマンの部隊から、各地を解放するため戦っていたのだ。

「リョウジ、出遅れてしまったな。急がねえと・・・。」

彼の仲間が加持に話しかける。この戦乱を共にくぐり抜けてきた、いわば戦友である。その実力も人間性も互いに信頼しあっている。

「ああ、アダムの砦からの連絡は大分前からとぎれている・・・・・。間に合うか・・。」
「・・・・大丈夫だぜ、おまえの彼女はそう簡単に死にやしねえよ。」

ポンっと親友が加持の肩を叩く。それがミサトのことを指していることは確認するまでもなかった。それに対してうなずきかけたその時、

ォォォォォォォォォォ・・・・・・・・・

「?何だ、今の声は!」
「声?俺には聞こえなかったが?」

ォォォォォォ・・・・・

「また聞こえる、アダムの砦の方からだ・・・・。」
「空耳じゃねえのか、アダムの砦まではまだ距離がある。人の声なんて聞こえるわけねえぜ。」

だが、確かに加持には聞こえた。声が・・・。人の声じゃない、魔物の声でもない。そして声は咆吼とも悲鳴ともつかなかった。

「嫌な予感がする。急ごう。」
「お、おい待てよ。」

加持の部隊はアダムの砦への道を急ぐ。やがて、ようやく遠見にアダムの砦が見え始めようとした。その時、

「な、なんだ?」

突然友人が悲鳴を上げる。その原因は加持にも瞬時にわかった。普通の人間には感じられることのない魔力の波動。それが今、ここら一帯を通過していったのだ。
しかし、今のは特別だった。恐ろしく巨大な魔力。加持は全身に鳥肌が立っていくのを自覚した。周りの鳥が一斉に飛び立ち、木々が風も無いのに揺れる。

「なにか・・・・・・・来る!」

全員が立ち止まり、アダムの砦の方を凝視した。魔力の波動はそこから来る。アダムの砦までは距離が大分あり、戦いの音すらも聞こえないはずだったのに・・・・。

そのまま、時間だけが流れていく。しかし、誰も凍り付いたように身動き一つしなかった。いや、出来なかったのかも知れない。それは好奇心よりも恐怖に縛られていたのだから・・・。

誰が最初に気づいただろうか、アダムの砦の方角から光が漏れ始めていた。明らかに魔法の光とは違っていた。陽の光とも違う・・・見たことのない光。やがてその光は閃光となり、閃光は収束し翼の形を作り始める。さながら悪魔が巨大な翼で羽ばたこうとしているかのように。それに少し遅れて轟音が響く。

アアアアアアアアアァァァァァァァァァァーーーーー!!!!

「な、何だあの光は」

加持達はアダムの砦の辺りに巨大な光の羽が天空に大きく伸び上がっていくのを見た。おそらくアダムの砦に破壊と死をまき散らしながら・・・。今では光は天空に突き出された二本の柱のように見えた。そして、その光からと思われる衝撃波が加持達の所に届く。その衝撃波に辺りの木は大きく揺れ、岩が転がる。加持達は吹き飛ばされそうになるのをなんとかこらえる。

オオオオオオオオォォォォォォォォォ・・・・・・・

そして、加持だけに聞こえていたあの声が、風に乗ってまた耳に届いた。今度は何の声か加持にははっきり理解できた。 断末魔だった。






「原因は分からない。だが、結果は明らかだった。アダムの砦はおろか周辺の街も跡形無く吹き飛んだ。その場で戦っていた何万もの兵隊、周辺に住んでいた大勢の国民を巻き添えにしてな。」

加持は実際、自分が体験したことを思い出しながら、かいつまんでシンジ達に話をしていた。シンジは息を飲み、その話に聞き入っていた。

「何だったんですか、それ?魔法?」
「かもしれん。だが、俺の知る限りそんな威力をもつ魔法はない。この事件で葛城ハヤト将軍が死亡。ミサトはかろうじて、アダムの砦から脱出している。両陣営はこの事件で甚大な被害を受け、それをきっかけに戦争は終結した。講和をリーザスから出してくれたこともあり、ネルフは奴隷解放の約束と賠償金を支払う程度ですんだ。」
「知らなかった、教科書ではアダムの砦は老朽化で壊れたんだって・・・。」
「このことは何故か執拗に隠蔽させられた。リーザス側には魔法の暴発と発表している。だだ、リーザスはそのことを決して忘れてはいない。アダムの砦での悲劇はな・・・。」

加持が話し終わった頃には、すっかり冷めた料理が悲しそうに湯気を枯らしていた。シンジが深刻な顔をして呟く。

「リーザスとのそんなことがあったんですか・・・。」
「ま、そういうことね。だから、うちの親父(ネルフ国王)が戦争に負けたこと根にもって、リーザスに立ち入ろうとしたがらないのよ。」
「ネルフの社会体制が根本的に覆されたわけだからな。その後は大変なものだった。数十万を越える奴隷が一度に解放されたものだから、国中、大混乱さ。」

そして、そう言いながらアスカや加持の脳裏には一つの確信に近い仮定があった。シンジはおそらくその混乱の中で捨てられたのではないかと・・・。そしてネルフ国王が身元を引き取った。時期的にも一致している。
ならばおかしなものだとアスカは思った。戦争がなければ私とシンジは出会ってなかったかも知れない。死という永遠の別れを無数に生んだ戦争が、シンジとの出会いを生んだ。何という皮肉な事だろう。いや運命的と言うべきだろうか・・・。
だが・・・、いつか自分とシンジを分かつものも戦争によるものかも知れない。シンジが軍に入ったことでその可能性は色濃くなってきている。
大丈夫・・・。戦争なんて起こるわけがない。私たちが今、リーザスに何しに向かってるか考えなさいよ。安心しなさい・・・アスカ。

世界は平和に向かっているのよ・・・。






「世界は混乱に向かっております・・・。予定通りに。」

サァァァァァァァァ・・・・・・

辺りにはかすかな砂の音が響いている。シャングリラの名物の砂舟が砂漠を緩やかに行進している音である。この風情のある音がモニターの奥の男にも聞こえているだろうか、いや、聞こえていたとしてもこの男はそんなことに風情は感じないか・・・・。慣れない敬語を使いながら、砂舟の主、アル・ウェポンは考えていた。
アルが甲板の上で、テーブルに置いてるのは魔法による通信機である。この手のマジックアイテムは魔力を持たない者でも使うことが出来る。誰にでも映像と音声をリアルに遠方に伝えることができるのである。

(しかし、今からめでたい結婚式に行こうって旅に出てんのに、こんな髭面のおっさんの顔を見なあかんとは・・・・。)

頭の中で通信機のモニターに写る人物の悪口を数十個は並べながら、しかし、表面上は礼儀正しくアルは言葉を続ける。

「ただいま例の件でリーザスに向かっております。計画は滞り無く運んでいます。が、少し前に提出した修正案は考慮してもらえたでしょうか。」

相変わらず口上は敬語だが、語調は少し荒くなっている。アルはこの男が嫌いだった。しかも上に「大」がつく。この男の第一印象が「イヤな男」であったのは決して自分だけではないだろう、とアルは確信していた。
モニターの男は両手をくんで、口元を隠したまま微動だにしない。と思いきや、何の前触れも無く、そのままのポーズで口を開く。

「目は通した。だが、計画を修正する必要はない。」
「・・・・ゼーレの方にも打診はしてもらえたでしょうか?」
「必要ない。報告は以上か?」
「・・・・・はい。」
「では、通信を切る。」

ぷつっとモニターの男の返答と同様に、愛想無く映像が切られる。アルは切られてからそのまま硬直して動かない。彼のそばにいた鳥の姿をした従者、ビジョンが心配げに肩に止まる。止まってからふと、ビジョンは自分の体が震えていることに気づく。いや、自分ではない。自分が止まっている肩の持ち主、ひいては自分の主人が震えているのだ。やがて、

「けっっっっっったくそ悪い奴やなぁぁぁぁぁーーーー!!ほんまにぃぃーーーーーー!!」

と大声でわめいたかと思うと、通信機をアルが思いっきり蹴り上げる。罪なき通信機は大きく弧を描きながら、砂舟を飛び出し砂漠の海に埋まる。しかし、それでも腹の虫が収まらないらしく、辺りの物を蹴り飛ばしたり、叩いたりしている。

「アル様・・・・・。お願いですから物を壊さないでくださいよ。仮にも商人なんですから、そんなもったいないこと・・・。」

アルはその声にピタッと暴れるのをやめる。別にビジョンの苦言が聞こえたわけではなく、うさ晴らしの相手を別に見つけただけである。
アルはつかつかとビジョンの方に歩み寄ると、両手で掴んで締め上げる。

「ぐぁぁぁぁぁ・・・・。ちょ、ちょっとおおぉぉぉーーーー。」
「せっかく人が「こうした方がいいんじゃないですか」っていっとるものをあの男はーーー。」
「お、落ち着いて。」
「だいたい10年前、E計画をしばらく凍結する羽目に陥らせたんはあの男やないか。ゼーレの威を借りて好き放題やりおって・・・・。」
「く、苦し・・・」
「だいたい、なんでゼーレはあの男を信用しとるんや。あのサングラスの奥で何考えとるんかわからん男やのに。」
「・・・・・」
「くっそーーー。今に見とれよ。ゼーレにもあの男にもほえずらかかせてやるからな。」

ようやく手から解放されたビジョンは力無く地面に落下していく。それを尻目にアルはようやく落ち着いたとみえて、テーブルにつくと、グラスにおもむろにワインをつぐ。それを片手に持ちながら船首の方に歩いていき、砂舟の進む先を眺めやった。
遥か先にも見える風景は真っ青の空と黄土色の砂漠のみ。その二つの色を分ける境界をなす地平線。あの神の定めし天と地を分ける国境に比べれば、今から自分達の通過する人の定めた国境のなんと小さく、卑小なものか。

「人が神に近づくなど、夢物語に過ぎない。」

普段は細めている目をはっきりと開けアルが呟く。先刻とはまるで別人である。静かに呟く声は誰に聞かせているのか・・・、下で気絶している彼の従者か、自分自身にか・・。

「それでも、それを現世に見いだすのか。ゼーレ・・・・。」

アルは目線を少し上に向ける。雲一つ無い青空、そこのある一点を何かが映っているかの様に凝視しながら、苦々しげに呟く。彼の未来、いや、人類の未来を左右するその言葉を・・・・。

「人類補完計画か・・・・・。」






加持はアダムの砦の国境側の入り口に立ち、子供達を乗せリーザスへと進む車を見送っていた。その目には何ともいえない感情が浮かんでいた。自分は嘘を言った。話したことは事実だ。だが、真実ではない。だが、つらい真実は自分たちだけが引き受ければそれでいいではないか。子供達には真実は重すぎる。だが、自分だって真実の一部を知っているにすぎない。

「すいません・・・・ぜぇ・・・・ぜぇ・・・・。」
「うん?」

考え込んでいるところをいきなり背後から声をかけられ、驚き振り返ると、迷彩服を着込んだ妙な少年が立っていた。全身は汗にまみれており、呼吸も荒い。体全体で思いっきり「疲労困憊」を表していた。

「き、君は?」
「ケンスケと申します。申し訳・・・・ございませんが・・・・・アスカ王女一行は・・・いらっしゃいますでしょうか・・・。」
「お、王女達ならもう行ったけど・・・。」
「ぐ・・・・、そ、そんな・・・・・。」

少年は呻くと崩れるようにその場に倒れ込んだ。時には事実も残酷なものである。






一時間後、シンジ達は歴史があるが真新しい砦を遠くに眺めやりながら、国境を越える道を走っている。

「もうすぐリーザスか・・。あんな因縁があった国だなんて・・・。」

シンジは何気なく、外の景色を見る。景色は砦を出る前と殆ど代わりはないはずだが、あんな話を聞いた後だと、シンジの目には全てが違って見える。この道を10年前、リーザスの大軍勢が通り、そして、帰らぬ人となった。

「あんた、ホントに知らなかったの。」

何やら考え込んでいたアスカが、シンジのつぶやきを耳にして話しかける。それでも、シンジは窓の外を向いたままだった。シンジは窓から入ってくる風に前髪を揺らしながら、遥か遠く先にあるだろう、リーザスの方を見やっていた。

(僕は何も知らなかった・・・。いや、何も知ろうとはしてなかった・・・。)
(今まではそれでも良かった。でもこれからは・・・?)

シンジの前髪を揺らした風はそのまま不愛想に車内を通過し、同じく窓の外を向き考え込んでいるアスカの髪を揺らす。

(戦争が起こればシンジは戦いに出向くことになる。その時あたしは・・・?)
(守られるだけなんて絶対にイヤ。強くならなくちゃ・・・・あたしも。)

それぞれの過去への、そして未来への想いを乗せて・・・・・。一同を乗せた車は国境を越えていった・・・・・。

第七話 終わり


第八話に続く

ver.-1.001997-10/19公開

ご意見・感想・誤字情報などは persona@po2.nsknet.or.jpまでお送り下さい!


あとがき・・・・・改

ヒカリ「今回もこんな伏線張りまくり無責任小説を読んで頂き、まことにありがとうございます。」
YOU「ひ、ひどい言いぐさを・・・。でも、ここまで張ればある意味本編に忠実だと思いませんか?」
ヒカリ「人類補完計画なんて単語出してきて・・・。まさか、なんの伏線も処理しないまま、ラストでみんなで「おめでとう」って拍手して終わらせる気じゃ・・。」
YOU「・・・・それもいいかも知れない・・・。最近メールも減ってきたし・・・・・うじうじ。」
ヒカリ「なんて情けない。・・・・ところでこの作品誰か足りない気がしませんか。」
YOU「は?」
ヒカリ「ほら・・・・その・・・エヴァのキャラでまだ出てきてない人・・・。」
YOU「えーーと、誰かいたかな・・・?」
ヒカリ「ほら、私、相田とくれば後一人・・・・。」
YOU「ああーー!そうか、そうか。」
ヒカリ「思い出してくれた?」
YOU「ペンペンですね。でも世界観からしてペンギンは登場させづらい・・・・。」
ヒカリ「・・・フライパンアタック!」

ゴス!

YOU「ぐっ・・・フライパンの底でなく、縦にして殴るとは・・・・。む、酷い・・・。」






おまけその弐・・・ネルフの軍編成

とある人から魔法使いだけの部隊はおかしいと御指摘があったので、ネルフの軍隊の説明を補足しときます。というより、単に設定ばらし。

炎の軍、雷の軍、氷の軍、光の軍・・・・・ネルフの軍隊の中心となる魔法部隊。それぞれ、四大将軍と呼ばれる将軍が率いている。

塔の警備隊・・・・塔の聖女及び塔の警護をする魔法部隊。管轄はそれぞれの塔の聖女が行う。

奴隷部隊・・・・・魔法の使えない奴隷を集めた部隊。ろくな武器も持たされず、ただ、魔法使いの盾となるだけの存在である。解放戦争での敗北をきっかけに廃止。

ウォール・・・・赤城ナオコが開発した疑似魔法生命体。等身大の円柱のような体と、目を一つだけ持つ。奴隷部隊の代わりに、魔法使いの盾となるべく前衛を務める。思考能力は無く、ただ敵の邪魔をするだけ。しかし、魔法を透過する能力があるため、味方の邪魔にはならない。動く柵みたいな物。

傭兵部隊・・・・ネルフが有事の際に雇う傭兵部隊。歴戦の戦士だけあって腕は確かなものである。

???・・・・ここでばらすわけには・・・(もうバレバレだって)。

主な部隊はこれだけです。他にもこの作品を読んで、疑問に思ったこと、わかりにくいことなどありましたら、是非ご連絡ください。


 YOUさんの『魔導王シンジ』第七話、公開です。
 

 加持さ〜ん、登場(^^)

 渋い大人の語る、
 重い歴史。
 

 因縁浅からぬリーザスに向かう王女ご一行・・・

 死んでいった者達の縁者や、
 ネルフへの恨みを持つ者って多いだろうなぁ

 それに何より、
 リーザスの王はあの女好きの破綻者・・

 アスカちゃんに危機迫る!?
 

 さあ、訪問者の皆さん。
 加持とケンスケ。対極を描く(^^;YOUさんに感想メールを送りましょう!


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