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第三新東京幽霊奇譚


(中編)


絶好の葬式日和・・・。
と言ったらおかしいのだろうが、とにかく碇シンジの葬式が行われたその日は真夏の昼にも関わらず、緞帳のような黒雲が兆し、陽の光が封じられていた。地上のちっぽけな命の明滅に興味を示すはずもない天候も、今日だけは寛大だったようだ。
喪主である碇ゲンドウは、葬式を自宅で執り行うことにした。シンジを見知った者達だけでつつましく、というのが碇夫妻の意見の一致したところだった。
葬式の日、シンジの父ゲンドウや、ユイの知人友人、親戚一同らが弔問にやって来た。さらに、第一中の生徒らも多数、招かれてもいないのに押し寄せた。もちろん、全員が自主参加なわけではなく、遠足のごとく、強制的に授業の半ばにつれられてきたのだ。というわけで中には、周りが顔をしかめるような態度の人間も幾人かいる。

「・・・・・・碇ってだれだっけ。」
「ばっかだなぁ、知らねぇの?ほら、惣流とつきあってるって噂の・・・。」
「んじゃ、あの子フリーになったんかよ。・・・やったぜ。」

「いやぁ、碇もいい日いいときに死んでくれた。こうも堂々と○○の野郎の授業をさぼれるとはねぇー。」
「そうそう、来週あたりまた誰か死んでくれねぇかなぁ。っていうかいっそのこと○○が死んでくれるのが一番だけど。」

「うわああああ、こいつら人の葬式をなんだとおもってるんだよおお!殴るぞ、蹴るぞ、祟るぞ!」
「・・・・・・碇君。落ち着いて・・・。」

レイはあきれるように、不届きな学友に虚しい攻撃を続けるシンジに囁いた。化けて出た理由も成仏する方法もわからず彷徨い出たアホな幽霊、碇シンジはすることもないのでレイにくっついて自分の葬式に弔問しに来ている。
シンジはほとんどの時間、レイと一緒いる。まぁ、シンジの存在を認識できるのは、レイしかいないのだから仕方ないが。ただ、さすがに、レイの自宅まではついてこなかったが・・・。

(ひょっとして、これは碇君に’とり憑かている’という状態なの?)

ひょっとしても何もその通りなのだが、当然、当のシンジに自覚はあるまい。生徒らが大挙して碇家に入れるわけもないので、全員、焼香の時まで外で待っていることになった。遠足気分ではしゃいでいる集団から離れたところで、レイはシンジと話をしていた。
端から見れば、一人でぶつぶつ話してる危ない人なのだが、もとから周りからそう言う目で見られてるレイなので問題なかった。

「碇君。聞きたかったんだけど、死ぬ瞬間ってどんな気分?」
「ずいぶん、酷いこと聞くんだね。でも一瞬だったから、よく覚えてないんだよ。」
「思い出して。この問の答えは哲学、宗教上の命題の一つとも言えるのよ。」
「・・・よくわかんないけど、思い出すよ。えっとぉーーー。」

シンジは一生懸命、記憶を辿ろうとするのだが、肝心なところで記憶の糸が切れていてはっきりとわからない。感じ取れたのはただ一つのこと・・・。

「夢だ・・・。」
「夢?夢を見たの?」
「違うよ。うまく言えないけど、えっと・・・、その、いい夢を見てる途中で起こされた、そんな感じがしたんだ。もっとここにいたいのに急速にそれが離れて、何かに引っ張られて、それに対して理不尽な怒りを感じて、それすらも徐々に消えて・・・。」
「碇君の生が一瞬、全て夢だったと感じられたってこと?」
「・・・どうだろ?やっぱわかんないや。どのみち僕はかなり特殊なケースだから参考にならないと思うけど。」
「そんなことないわ。・・・そう、夢・・・。」

レイはまた一人で思考にふけりだす。時々レイはこんなふうにシンジを目の前にしても、自分一人の世界に入ってしまう。シンジにはそれが、自分一人世界に取り残された感覚がして、急に怖くなる。

「あのさぁ、そんなことより、僕が生き返る方法とか、成仏する方法とか考えてよ。」
「生き返るのは無理。貴方の死体も今日で燃やされるし。成仏は・・・とりあえずお経でも聞いてきたら?」
「お経・・・?今、中でお坊さんが唱えてるやつ?」
「そうよ、意外とあっさり逝けるかも。」
「でも、あそこに行くのつらいんだよ。悲しんでる母さんの顔見るのはいたたまれなくて・・・。」
「じゃあ、やめれば。」
「・・・・・・・・・・・わかったよ、いくよ。」

思考するのををやめようともしないまま、言い放つレイに半ば腹を立ててシンジは家の中に入っていく。

(どうして、綾波はこういうところで異様に冷淡なんだろう・・・。・・・・・・いや、僕が甘えてるだけなのか。)

棺の前には、頭が見事に禿げ上がった坊さんと、彼の両親と親戚、そしてアスカがいた。

ユイもゲンドウも、さすがにもう泣いてはいなかったが、時折思い出した様に目元を拭っていた。ゲンドウは・・・、相変わらずサングラスをはずしてないが、それは赤くなった目を隠すためであるのかも知れない。

(ごめん・・・、ごめんね。父さん、母さん。)

死んでまで謝ってばかりだ。そんな自分がおかしくなった。 滔々とお経が、木魚の音ともに響きわたっている。しかし、当然、シンジにとっては訳の分からない文句でしかなかった。

(駄目だな、これじゃあ・・・。)

シンジが仏教徒であれば、あるいは成仏できたのかも知れないが。しかし、シンジがこのお経で救われないのなら、この葬式の存在意義はなんなんだろうか?
ボーーっとお経を聞いているうちに、弔問客が焼香する段階に入った。

最初にゲンドウが、ユイが・・・、そして親戚が次々と棺の前に焼香しに行く。黙って香合から抹香を掴んで香炉に入れ、手を合わせる。死者に対する最後の言葉を銘々の心内で唱えて・・・。

「みんな、どういうこと考えてるのかなぁ・・・。」
「聞きたい?」

いつの間にか、レイが隣に立ってシンジに小声で話しかけている。いつの間に背後にたったのだろうか?まるでレイの方が本物の幽霊のようだ。もっとも彼女は生きたまま幽体をとばせるので、言ってしまえばシンジより幽霊として先輩なのだが。

「え?出来るの?」
「人の頭の脳の辺り自分の頭を合わせて。それで表層的に考えてることなら、伝わるわ。」
「何でそういうことをもっと早く教えてくれないの?」
「聞かれなかったもの。」

言い合っても時間の無駄と悟って、とりあえずシンジは試してみることにした。近くにいたちょっとひねた感じの男子生徒の頭に、恐る恐る自分の頭を合わせていく。軽く触れたと思えた瞬間、ダイレクトにシンジの頭の中に声がイメージとして飛び込んでくる。

(はぁ、めんどくせぇ。なんで、みんな葬式したり墓立てたりするのかねぇ・・・。死んだ人間のために金使ってやるなんて無駄以外なんでもねぇよ。世の中、馬鹿ばっかりだな。)

「へぇ・・・。テレパシーみたいだね。」
「似たようなものよ。相手が’心の中で呟いてる’ぐらいはっきりした思考じゃないと伝わらないから。」

やがて焼香の順番が弔問に来た生徒達の番になる。全員やっていたら陽が暮れるので、代表者としてシンジと親しかった、アスカ、親友のトウジ、ケンスケ、委員長のヒカリ等がが香の前に出てきた。
人の頭の中を覗くという罪悪感より、好奇心が勝り、シンジはとりあえず、一番手に出てきたトウジの頭の中を覗いてみた。

(シンジ・・・。なんで死んでしもうたんや。子供が親より先に死ぬことより、親不孝なことないのやで。惣流も、当分立ちなおれんやろうし。なんや、これから寂しくなるのぉ・・・。)
(トウジ・・・、ごめんな・・・。)

そして、シンジのクラスの委員長の洞木ヒカリ・・・。

(碇君の馬鹿!アスカを悲しませるようなことだけはしないで、って言ったのに。一番悲しませることになって・・・。)
(ホントにそうだね。最低だよ、僕。)
(・・・だからせめて天国でアスカのこと見守ってて、碇君。)
(委員長・・・。ロマンチストなところは相変わらずだね・・・。)
(・・・後、ついでに私と鈴原がうまくいくように・・・・・・)
(・・・そして、少しずれたところも相変わらずだ・・・・・)

次に現れたのは、トウジと同じく親友の相田ケンスケだった。シンジは同じく、ケンスケの考えを読む。

(シンジィ・・・。なんでこんなに早く死んじまうんだよ。どうせ死ぬなら、一緒に戦自に入って戦場で劇的な人間ドラマを演じつつ死んでほしかったのに・・・)
(ケンスケ・・・。まっぴらごめんだよ・・・。)
(それとごめんなぁ。お前のアルバムから黙って惣流の小さい頃の写真持ち出して、売りさばいたの俺なんだ。あの時の儲けは全部香典にいれといたからなぁ・・・。)
(・・・・・・やっぱりお前の仕業か!後で僕のせいにされて、アスカにボコボコにされたよ。・・・成仏出来なかったら三代祟ってやるからな・・・。)

その後も、幾人か、シンジを格別親しかった人間がお焼香していく。最後に、アスカが棺の前で焼香する番になった。アスカはシンジが死んだ日に比べればすっかり落ち着いたような表情で、香炉の方に向かう。
ゆっくりと抹香をくべ、アスカは手を合わせる。そこにいるはずもない人に向かって手を合わせ、届くはずも無い言葉を発しているのだろうか?
シンジはそんなアスカに近づけないでいた。やっぱりやめよう、たとえ自分に語りかけているとはいえ、人の考えを覗くなんてなんとなく卑怯なような気がするし・・・。そう自分に言い訳したが、シンジの足を止めていたのはまったく別種の感情だった。怖かった。アスカは涙も見せず、他の生徒と変わらない様子に見える。
もしかしたら・・・、アスカはシンジに別れを告げているかもしれない。
それを聞いてしまったら、いままでかろうじて持っていたシンジの大切な物が切れてしまう・・・。そんな気がして怖かった。
それ以前に、アスカの中にシンジの影はもう無くなっていたら?

(・・・そうだ、やめよう。いいじゃないか。見たくないんだったら見なければいいんだ。聞きたくなければ耳を塞いでいればいい。そうすれば・・・。)

そうすれば・・・?
そうして生きてきた自分の一生に何が残った?
好きな人に想いを告げることも出来ず、彷徨う羽目になった哀れな自分?
これからもずっとそうなのか?
違う、僕は・・・・・・・・・。

シンジは踏み出す。アスカの方へと。
そして、少しずつアスカの頭に自分の頭を近づけた。
微かに触れあう。その瞬間、光が弾けた。光はシンジの視界を、目を通して頭の中を白く白く満たしていった。





光の中には世界があった。
彼女の意志があまりに強くて
彼女の想いがあまりに大きくて、
シンジに伝わったそれは言葉ではなく、一つの世界だった。
それは夢と言ってしまってもいいのかもしれない。眠りに堕ちていようとなかろうと、純粋に人の想いだけで構成されたことには変わりないのだから。





世界はいちめん淡いセピア色に包まれていて、
そして、その世界には二人がいた・・・。
シンジとアスカ。
幼い頃・・・、年齢は定かではないが物心がつくかつかないかの頃だろう・・・。

「いい?ばかしんじ。」

声が聞こえる。舌足らずな、子供の声。小さい頃、アスカは本当にこんな声をしていただろうか?どうだっただろう?シンジはどうしても思い出せなかった。

「あんたはあたしのけらいになるんだからね。あたしのほうがかけっこもはやいし、あたまもいいし、かわいいんだから。」
「え・・・、けらい?・・・けらいってなぁに?」

’しんじ’が小首を傾げながら答えた。やはりそれがシンジの記憶の中にあった’しんじ’の声とは違っているように思えて滑稽だった。

「あんたばかー。けらいっていうのはねぇ・・・、ええと・・・、ええと・・・、とにかく、あんたはあたしの側にずっといなきゃなんないの。わかった?」
「ずーっとそばにいるの?」
「そーよ。」
「うん、わかった。ぼくあすかのそばにいたいからけらいになるぅー。」

それから二人は無邪気に「けらい、けらい」といって笑いあっていた。

(・・・そんなこともあったかな?)

シンジはとうに忘れていたが、記憶の片隅にそれらしき断片はある。どうりで幼い頃、よくアスカに下僕呼ばわりされていたわけだ。いまでもシンジがアスカに頭が上がらないのは、
潜在意識に僕はアスカの家来というのが刷り込まれているせいかもしれない。





景色が突然ブラックアウトする。今まで見ていた風景は突然途切れ、代わりに新たな
シーンが写し出される。
舞い散る桜が見える。
その中で、さっきより少し成長した二人が見える。
小学校に入学したときの風景だ。





また景色変わる。
映画のように、次々と時間が、場所が入れ替わっていく。
あるいはそれは彼女の記憶のアルバムというべきものだったかも知れない。
シンジとアスカ、二人が写ったそのアルバム。幼い頃の約束通り二人はずっと一緒にいた。しかし、これから先は永遠に二人が共にいることはない。シンジはもうすでにアスカの中では過去のみしか生きておらず、こうして思い出としてセピア色のアルバムの中にしまわれるべき存在なのだから・・・。





・・・そう、わかっていた。
綾波に言われるまでもなく、僕の存在をアスカに知らせたい、そんなことはエゴだって。
だってアスカは生きているから。
僕は死んでいるから。
もう、冗談を言って笑いあうこともできない。
二人で出かける事もできない。
一緒に写真に写ることもない。
だから、今の僕は彼女の枷になることはあっても、支えになることはないのかも知れない。
生きているアスカは、こうした思い出を僕以外の誰かとこれからつくっていかなきゃならないんだから。もし、僕がこうして彷徨っている事を知ったら、アスカは他の誰かを好きになることすら出来ないかも知れない。
わかってる。だから・・・





でも、
でもそんなのはイヤなんだよ!
アスカが他の誰かと並んで歩くのを、
笑いあうのを、
恋を語るのを見るのは、
僕の存在がその中で徐々に薄れていくのを見るのは、
僕が消えるのを見るのは!
いつまでも僕のことを覚えていてほしい。
僕との思い出を大事にしていてほしい。
僕が短い間生きてきた証に。だから・・・





シンジは叫んだ、アスカの名を。
理性からか、エゴからか・・・。
永遠の別離か、存在の主張か・・・。
唯一、真なのはそれが魂からの叫びだったということだろう。





ああ、そうか僕は・・・・・・・・・。






アスカが、ゆっくりと視線をあげた。視線がシンジと交差する。思えば、死んでから自分を’見てくれた’のはレイをのぞけばこれが初めてであったかもしれない。
シンジがアスカを見る。
アスカがシンジを見る。
互いの瞳に互いの像を写し出す。
それだけのことが行われた、そんな僅かな間。
真に’刹那’と呼べる時間の後・・・。





死んでまで、生きていたときと同じことに苦しんで・・・。






彼女の名を呼ぶ声がした。シンジの声ではなく、別種の、彼女を現実に呼び戻す声。
とたんに景色が揺れ、ぶれる。
夢がさめるように、現実がゆっくりとしみ出してきた。

同時にアスカの姿も消える。





僅かでもアスカの心に近づきたい。その想いはずっと同じだった・・・。だけどそうするには僕は臆病すぎた・・・。今、少し踏み出せた気がしたけど、それも、もう・・・・・・・・・







終わりがきた。
逢瀬と呼ぶにはあまりに儚く、微かな、例えば玉と玉が触れあうのに似た、そんな出来事だった。





「アスカ・・・、アスカ!」

声を抑えた、しかし、強い声と共に肩が揺さぶられた。
何度目かの’それ’の後、アスカは目を覚ました。目を覚ますといっても、何から目を覚ましたのか・・・。夢・・・、だったのだろうか?

「ヒカリ・・・。」

アスカは掠れる声で友の名を呼び、振り返った。アスカがどのくらい目を閉じ手を合わせていたのか知らないが、様子がおかしかったのに気づいて心配して声をかけたのだろう。親友の目には、不安げな色と気遣わしげな色が交錯している。

「アスカ、大丈夫?」
「うん・・・、平気。」

ヒカリに手伝われるように、アスカは元の席に戻る。立ちすくんでいたシンジの前を通り過ぎて・・・。当然、アスカにとって今のシンジは空気と同じとしか感じ取れなかった。今までと同じように。さきほどの出来事がなかったことのように。

(奇蹟・・・だったのかなさっきのは。)

シンジの頭に浮かんだのはそんな言葉だった。

(きっとそうだ。そもそも僕がいまこうして幽霊として存在していることだって、奇蹟みたいなものじゃないか。)

天使の慈悲か悪魔の気まぐれか知らないが。シンジはそれをもたらしたものに感謝した。
なにか、今まで頭の中に掛かっていた靄のようなとれたように、シンジは妙にすっきりした気分だった。悲しくなくなったわけじゃなく、寂しくなくなったわけでもないけれども。なにか一つ区切りがついたようなそんな気分だった。

葬式はそれ以後、滞りなくすすみ終わりに近づいていく。
死者を弔うための儀式。
が、死者のためのそれは生者にとって何かの区切りでもあるのだ。愛する者に去られ、残された人間がそれでも生きていくための。決して癒えない悲しみを背負いながら前に進むための儀式。

「綾波、もう行こうか?」

式が終わり、いままさにシンジの棺が火葬場に運ばれようとしているそんなとき、シンジは戸口に立っていたレイに声をかけた。すると、レイはいま初めてシンジを目にしたように、まじまじとシンジを見つめる。

「・・・何?」
「・・・なんか碇君、いい顔になったわ。」
「え?そ、そうかな・・・?」
「なんて言うか・・・・・・そう、幽霊らしくなった。」
「・・・・・・・・・それ、誉めてるの?」

砂利をはじく音を立てて、誰もが目にしたことはあるけど乗ったことはない金色の車が、棺を乗せて火葬場へと走っていく。続いて親族が、そしてアスカもまた車に乗って後に付こうとする。
シンジは振り返って、車に乗ろうとする両親やアスカを見た。

「さよなら・・・。」

そんなつぶやきが無意識に漏れた。隣にいたレイにすら聞こえたかどうかわからない微かなものであったけれども。でもそれは・・・・・・。





「また・・・。」

車内に乗り込んだアスカが急に呟く。その顔は式の最中と同じく、無表情で悲しい表情をつくるのすら疲れたような、そんな印象を他人に与えた。

「また・・・?」

アスカが心配で隣に乗っていたヒカリが、不思議そうな顔をしてオウム返しに尋ねた。本来彼女はここまでついてくるほどシンジと親しかったわけではなかったが、どうしてもアスカが放っておけなかったのだ。

「ん・・・、また聞こえたの。さっきと同じようにシンジの声が・・・。今度は’さよなら’って・・・。」
「アスカ・・・。」
「やっぱ気のせいよね、こんなの。空耳に決まってるのに。シンジが天国でそう言ってるんじゃないか、とか思っちゃうの。ヒカリ、あたし変かな?」

そう言ってアスカは、初めて親友の方に振り返った。その顔には微笑が浮かんでいて
---もちろんいつもの陽光のような笑顔とは比べるまでもないほど翳っていたけれど---ヒカリは思わず微笑み返し、親友のためにこう言った。

「・・・ううん、変じゃない、ちっとも変じゃないよ。」






「・・・ってここでめでたく天に召されて逝くと思ったのに・・・。何故貴方はここにいるの?」
「・・・こっちが聞きたいよ。」

というわけで、なんかもう全部決着がついたような気分に浸っていたシンジは、余韻がさめた後、肝心要のこと、自分が成仏してないという事実に気づかされた。そんなシンジの頭の中を恐ろしい想像が過ぎる。

「まさかこのまま一生成仏できないんじゃあ・・・。」
「・・・安心して、そのときは第三新東京市に住む幽霊・碇シンジを私が永遠に語り継ぐわ。毎夜かかさず音楽室でチェロでも弾いてれば、そのうち伝説になって第一中学七不思議の一つに数えてもらえるかもしれない・・・。」
「そんな覚えられかたはいやだあああああああ!」
「・・・でも幽霊の存在意義なんて化けて出るくらいしか・・・・・・。」

と、そこまで言ってレイは何か思いついたように考え込んだ。と言っても、端から見れば急に黙り込んだとしか見えないだろうが、シンジにはそうとわかった。

「碇君。貴方、自分をひき逃げした犯人を恨んでるってことはないの?」
「恨む・・・、そりゃあ、憎んでないと言えば嘘になるけど。」
「犯人はまだ捕まってないわ。・・・もし、貴方が犯人を恨みに思って化けて出た怨霊だとしたら?」
「怨霊って?僕が?」

それはシンジにとっては盲点だった。確かに、幽霊と言えば「うらめしや」と出るのが最もポピュラーだ。が、自分は犯人を呪い殺したいとか、とり憑きたいとかそこまで恨みに思ってはいない。それでも、もしかしたら心の奥底で酷く恨みに思ってるのかも知れない。どちらにしろ、他に道があるわけもなかった・・・。

「・・・そうだね、ひょっとしたら、そうなのかも・・・。でも、だからって僕にどうしろと・・・?」
「知らない。とにかく犯人に会ってみて。その後は、枕元に立ったり、ポルターガイスト起こしたり、お皿数えたり、気が済むようにすれば・・・。」
「人を悪霊扱いしないでよ。・・・それに、どうやって犯人を見つけるの?警察ですらまだ捕まえてないのに。」
「それは私に考えがあるの、ついてきて・・・。」

返答をまたず、歩き出すレイの後ろ姿を見やってシンジは深々とため息を吐き、呟いた。考えてみれば、レイに対してシンジが主導権をもっていたときなんて一度もないんじゃないだろうか。

「尻に敷かれる性格は、死んでも治らないんだな・・・。」






「ここ・・・どこ?」

碇シンジは呆然として目の前の家を見やった。巨大な鉄格子の門。その先に広がる、並の家なら数軒立ち並べそうな広大な庭。そして、さらにその先にある華美な屋敷。なんだかわからないモニュメントまで建っている。これぞ金持ちといった体だ。
それだけならいいのだが、何故か屋敷全体に不穏なオーラが立ち上っていた。まず、人の気配が全くしない。二、三年空き家であったようだ。さらに、門やら屋根やらそこら中にカラスがとまっている。まるでお化け屋敷だ。

「私の家・・・。」

レイがぽつりと呟いた。

(綾波の・・・家・・・。)

ここまでお約束通りであればシンジも何も言うことはなかった。くるりと180度ターンしてシンジは片手をしゅたっ、っとあげる。

「それじゃあ、僕はそろそろ帰らせて・・・。」
「言い忘れてた・・・。成仏させる方法はしらないけど、成仏させない方法なら知ってるわ。・・・・・・封印されるとしたら壺の中と電子ジャーの中・・・・・・どっちがいい?」
「是非とも寄らせていただきます。」

綾波は巨大な門扉をくぐりスタスタと歩いていく。シンジも後を追ってついていく。
屋敷の外見とは裏腹に、庭には種々の花が咲き誇っていた。白・・・赤・・・紫・・・。その間を蝶が飛び回り、うららかな初夏を演出している。

「綺麗な花だね・・・。綾波が植えたの?」
「そうよ。」
「へぇ・・・。やっぱり綾波も女の子なんだ。あ、この花なんか見たことないけど、綺麗な花だね。なんて名前なの。」
「芥子・・・。」
「けし・・・?・・・・・・あ、綾波いいいいいいぃぃ!」
「大丈夫。・・・呪術用に栽培してるだけだから。」
「そういう問題じゃないーーーー!」

他にも、見慣れない花がたくさんあったが、知るのが怖いのでシンジはあえて聞かないことにした。そしていよいよ屋敷の中に入る。ぎいぃ・・・と不吉な音をたてて扉が開いた。そこは巨大な広間だった。正面には二階へあがるらしい大階段。左右に扉。地面には赤い絨毯が惹かれ、吹き抜けになった天井には巨大なシャンデリアがぶら下がっている。

(・・・昔やったホラーゲームの舞台がこんなところだった様な・・・悲鳴とか聞こえてもおかしくないよな・・・はは・・・。)

ヒィィィ・・・・・・・

「・・・・・・」
「・・・・・・」
「テ、テレビの音だよね・・・。」
「何のこと?」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・あああ!やっぱり帰るぅーーーーー!」
「・・・碇君。逃げては駄目よ。・・・逃げると電子ジャーの中で永遠に自分と禅問答する羽目になるわ。」
「うわあああん、もう許してよぉぉ!」

泣き叫ぶシンジを無視し、レイはかって知りたる我が家を、突き進む。
シンジは勇気の因にするように、綾波の肩に手をかけしがみついている。どうにも不気味で仕方がない。窓には分厚いカーテンが掛かってて光が全く射し込まないし、床は一歩歩く度に埃が舞上がる。

すっーーーーーーー。

「?」

一瞬、シンジの背後を何かが通り過ぎた様な気がした。思わず振り返るが、廊下の奥まったところであるため、一寸先も見ることはできない。精神の健康のために気のせいだと無理に思いこんでシンジは先を急ぐ。

すすっーーーーーーー。

「・・・・・・・・。」

パタパタパターーーーーー。

「綾波・・・、今なんか・・・。」
「・・・・・・・・・。」

ピタピタピタピタ・・・・・・・・・・・・・・。

「うわああああああ!綾波、なんかいるよーーーー!絶対なんかいるってーーー!」
「・・・碇君、うるさい・・・。」

その時だった。シンジの前方に顔が浮かび上がった。顔は大きく目を見開き、口はニタリと笑う形に歪んでいる。その顔だけが暗闇に仄かな光を放って浮かび上がっているのだ。その凶月の形に開いた口から不気味な笑い声が発された。

「ケケケケケケケケ・・・・・。」
「おんぎゃああああああああああああああああああああああ!」

シンジは絶叫をあげて、そこにへたり込んだ。そうか、幽霊でも腰が抜けることがあるのか。シンジは後日そう思ったという。

「・・・いい加減にしなさい。」

レイはおもしろくもなさそうに、その顔をぺしっと叩いた。ごろんごろんと床に何かが転がる音がして顔が消える。落ちたものの正体はすぐ解った。懐中電灯だ。
レイは側にあった電灯のスイッチを入れた。灯りが幾度か明滅して、やがて明に固定する。 現れたのは二人のレイ。いや、本物?のレイとそれより一回り小さいレイが。

「あ、綾波のミニバージョン?・・・・・・綾波・・・分裂したの?」
「・・・碇君、私をなんだと思ってるの?」
「・・・くすくす・・・貴方、臆病者。・・・ふふ・・・腰抜けなのね・・・。」

綾波(ミニ)が笑うのをシンジは唖然として見ていた。どうやらさっきの顔は、この綾波が下から懐中電灯で照らし出したらしい。そう、わかると、シンジの顔がみるみる羞恥で染まった。

「・・・綾波、この子は?」
「私の妹、名前はアイ・・・。今、五歳・・・。・・・アイ・・・なんでここにいるの?」
「道に迷ったの・・・。」
「・・・どうやったら自分の家で道に迷うの?」
「あ、あはははは。ア、アイちゃんか。よろしく僕は・・・。」
「知ってる、貴方碇君でしょ?」

名前を先に言われたことにシンジは軽く驚いた。

「なんで僕の名を・・・?」
「だっておねぇちゃんが前に言ってたもの。碇君は・・・。」

アイの言葉はそこまでだった。レイが無造作に、猫を掴むようにアイの襟首を掴み持ち上げたからだ。暴れないところをみると慣れてるんだろうか?

「ふにゃぁ・・・」
「・・・・・・おしゃべりは嫌い・・・。碇君、ちょっとそこで待ってて。」

荷物か何かのように実妹を掴むレイと、何故かぶら下げられてご機嫌のアイをシンジは唖然として見送っていた。






「ここ・・・私の部屋。」

レイがシンジを通したところは意外にまともな部屋だった。ただ、この屋敷の中では一番まともというだけで、平均的な女子中学生の部屋からはほど遠い。
部屋には明かりとりの窓が一つ、壁は壁紙も張ってなく、病院の様に真っ白。部屋の隅には机、本棚とクローゼット、そして少し大きいベット。全体的に殺風景であるだけではなく、その部屋には本来あるべき’人の生活の匂い’とも言うべき物が感じ取れなかった。

シンジがきょときょとと部屋を見渡している間に、レイは机の引き出しをあけてなにやら、トランプの様な物を取り出した。

「何、それ?」
「タロットカードよ、見たことないの?」
「タロット・・・?」

深淵のような黒を背景に白で怪しげな文様が書かれたそれをシンジはじっと見つめた。タロットカードが占いの道具だと言うことはシンジにもわかる。ただ、なぜそんな物を今取り出してるのかが解らない。

「これで、犯人を突き止めるの。」

レイがシンジの心を見透かしたようにそう言った。
’これ’というのがタロットカードのことで、’突き止める’とは犯人のことを言っているのだと、シンジが理解したとたん、がっかりとした表情を隠せなかったのは仕方ないことだった。

「綾波、タロットで占うっていうの?」
「そうよ。」
「そんな占いなんて非常識な・・・。」
「非常識な存在の分際で非常識な物を非常識と呼んでること自体、すでに非常識よ。それに占いじゃなくて超心理学と呼んで。」
「・・・あぅ・・・わかったよぉ・・・・・・。」

レイはまずタロットを切ろうとする。トランプの様にシャッフルするのではなく、一旦、床にばらまいてそれを両手で混ぜる。タロットの黒と、レイの手の白がシンジの眼前でめまぐるしく交差し、重なり、散らばり、それは幻想的とも神秘的とも言える光景だった。

「碇君、貴方も一緒にカードを混ぜて。」
「一緒に?」
「そう、一緒に。そうしなければ意味がないわ。」

自分がこの儀式に参加するのは邪魔の様な気がして、シンジは恐る恐る手を伸ばしカードを混ぜはじめる。そのうえ、レイの手と指先が触れる度、シンジは思わず顔を赤らめてしまった。

「・・・もう、いいわ。」

暫くたってレイがそう言った。ふうとシンジは息をつく。ただカードを混ぜていただけなのになぜか酷く疲れた気がした。レイは散らばったカードを整え、一枚ずつカードをめくり始めた。さっきまでは半信半疑だったシンジも、何故か魅入られるようにそのめくられたカードを見る。カードの書かれていた絵は不可思議な物だった。
上部に闇夜の砂漠の絵。悪魔の角のような三日月が地上に落ちて見えるほど沈んでいる。それに向かって伸びている道に人影が一つ。下部には黒をバックに、古めかしいコップが重なって八つ描かれていた。

「聖杯の8の正位置・・・。」

レイがぽつりと呟く。考え深げにちょっと首を傾げてみせる。

「何か解ったの?」
「これだけじゃわからないわ、他のカードも見ないと。」

レイは次々とカードをめくる。束ねた棒を担いだ男の姿。山羊の頭をした悪魔の姿。金貨、剣、裸の女・・・。レイは一枚めくる度、深く考え込む。その仕草には神秘性が満ち満ちていた。まるで神話か何かから抜け出たかのよう。

「綾波ってさぁ、なんでこういうことに興味を持ちだしたの?」

不意に浮かんだ疑問をシンジはそのまま口に出した。別段、答えが返ってくることを期待して言ったわけでもなかったのだが、意外にもレイはカードを捲る手はそのままに、返答を返してきた。

「知りたかったから・・・。」
「知りたいって?何を?」
「・・・生とか死とか、魂は存在するのかとか、生きる意味とか色々なこと。だから、哲学、科学、宗教様々なことを学んだ。」
「ふーん・・・。」
「でも本当に知りたかったのは・・・。」

レイはまたタロットを捲る。カードに書かれたのは裸で道を歩く男。上部に’0’と大きくふってある。

「自分自身のこと。・・・もしかしたら、私は何も無い人間なのかもしれない・・・。」
「何も・・・無いって?」

どういうこと?と続けようとしてシンジは言葉を飲み込んだ。なんとなく聞いてはいけないようなことのような気がしたからだ。何も無い・・・。そう言ったレイの顔に一瞬、寂しそうな表情が浮かんだ気がした。
気まずくなって、シンジは無理にでも話題を変えようと明るく振る舞う。

「で、でもさぁ、凄いよ。占いなんて出来るなんて。未来が解るんだったら、ギャンブルとか株とかにつかったら大金持ちになれるんじゃぁ・・・。」
「占いを私欲に対して使用するのはタブーになってるの。それに的中率はそんなによくないわ。・・・調子がいいときで二割くらい・・・。」

ふーん二割か・・と、つぶやきかけて、シンジは仰天した。

「二割!?たったの?」
「大丈夫、怪しいところを片端から当たっていけばいつかはたどり着くわ。」
「そんなの当てずっぽうと変わりないじゃないかあ!」






「碇君、最初はあの人・・・。」

とりあえず、レイの占い、もとい超心理学に基づいて、犯人と目される人間の家に来ていた。
第三新東京市郊外の結構小綺麗なアパートだ。

「・・・名前は・・・・葛城ミサト。29歳、独身の一人暮らし。」
「女の人なの?」
「そうよ。・・・さぁ、碇君。」
「僕にどうしろと?」
「忘れたの?貴方は人の頭の中を覗き見することができるの。犯人の頭の中は今頃、事故のことでいっぱいのはずよ。見ればすぐ解る・・・。」
「う、うん。あまり気は進まないけど・・・。」

シンジは言われるまま、葛城という人が住んでるらしい部屋のドアをすり抜けて中に入る。入ったとたん目を丸くする。
部屋の中は、控えめに言って乱雑。遠慮なくいえば人の住みかじゃなかった。あちこちにつもったビールの缶。レトルトの残骸。雑誌類。脱ぎ散らかした服。
きちんとした2LDKの部屋をどうやったらここまで汚せるのか。部屋の主であるミサトはビールの缶に、キャミソールとパンツ一枚という霰もない格好で大の字になって寝転がっていた。

(この時点ですでに犯人じゃないような・・・)

思いつつも、最善は尽くさないと本気でレイに封印されそうなので恐る恐る頭を覗く。

・・・・・・・ふふふ、加持君・・・。
・・・・・・・葛城・・・。
・・・・・・・やだ、変なものいれないでよ♪・・・。
・・・
・・・
・・・

一方外で待っていたレイは、ボーっと流れる雲を眺めていたが、そのうち何か思い出したようにゆっくりと手を打つ。

「そういえば、不用意に寝ている人間の思考をよんでしまうと、その人の抑圧された自我が投射された夢が逆流するって、碇君に言わないと・・・。」
「うわあああああああ、不潔だ不潔だフケツだあああああああ!」
「・・・・・・いけないような気がしたけど・・・・・・、まぁ、いいわね、別に。」





「次は赤木リツコ。30歳独身。どこかのマッドサイエンテイスト。」
「ふふふ・・・猫。・・・猫こそは至福の生き物。いつの日か全人類を猫人間に改造・・・。」


「次は伊吹マヤ。20歳独身。多少レズの気あり。」
「ああ、先輩ぃ・・・。先輩に汚されるんだったら私、本望です・・・。」


「次は・・・・・・。」
「次は・・・・・・・・・。」

・・・・・
・・・・・
・・・・・





「ふふふ・・・、綾波。僕は今悟ったよ。人間なんて、所詮互いに傷つけあうだけの悲しい生き物なんだ。出来損ないの群体なんだ。だからみんな死んでしまえばいいのに・・・。あはははは・・・・・・。」
「・・・性格変わって、すっかり人間不信でペシミストね、碇君。・・・なかなかいい感じよ。」

雑多で様々な思考がダイレクトにシンジの頭の中に叩き込まれたので、かなり精神的に疲れていた。どうも考えてることが自分の考えって気がしない。

「・・・リーディング症候群の軽い奴よ。十人やそこらに影響された程度なら、時間が経てばすぐ直るわ。」
「あ・・・、うん、だんだん落ち着いてきた・・・。」
「碇君、セラピストには向いてないわね。人の心に影響され過ぎよ。」
「もとからそんなもの目指してないよ。・・・で、次こそは間違いないんだよね?」
「残りはここだけなの・・・。たぶん、そうだと思う。名前は・・・青葉シゲル。独身の一人暮らし。」
「そう、じゃ行って来る・・・。」
「待って、最後は私も行くわ。」

レイは自分の肉体を木の陰に横たえておくと、幽体だけ抜け出してみせる。はっきり言ってレイがついてきてくれるのはかなり心強かった。自分を殺した人間・・・。そんな人間に会うというのはどんな気分なのだろう?
薄汚れたアパートの一室。シンジがそこに踏み入れると、うっ、となるほどのきつい酒の匂いが鼻腔に飛び込んできた。部屋は夕暮れだというのに電気もついてない。そして、部屋の中身は・・・凄惨だった。割れた食器や酒瓶、無惨に壊れたギター。破れた本。そしてその中央に、丸く盛り上がった布団があった。

「あの中、あれがたぶん犯人よ。」

シンジはまじまじと、その男の顔をのぞき見る。無精ひげと痩せこけた顔のせいで、よくはわからないが、おそらく30には達していまい。20代半ばぐらいだろう。
どこにでもいそうな、平凡な、普通の男だった。もちろん角や牙が生えていると思っていたわけではないがもう少し悪人そうな顔をしているのかと思ったのだ。

「どうしよう・・・?」

シンジは困り顔でレイの方を振り返った。犯人はこの男に間違いないし、この様子なら警察に通報すればめでたく逮捕されるだろう。ただ、それでシンジの気が晴れてめでたく成仏できるとはとうてい思えない。

「今、思いついたのだけど・・・。」

レイも同じ事を思ったらしく、思案顔でシンジの顔を見、次いで足下の青葉という男を見る。

「この男の頭の中に入って、事故の真相を直接見たらどう?そうすれば色々なことがわかる気がする・・・。」
「いろんな事・・・。」

事故のときのこと、
死んだときのこと、
この青葉という男のこと・・・。

シンジは何も知らない。自分が死んだという事実が大きすぎて、それらが霞んで見えたからか、単に目を背けていただけなのか。でもシンジは今、それらを知りたいと思った。たとえ、つらい事実があったとしても。
シンジはゆっくりと青葉に近づく。もちろん幽体であるシンジ達に青葉が気づくわけでもなく、おびえるように布団を被ったままだった。かがみ込んだシンジの視界に、見慣れた淡い色の髪が見えた。レイの髪だ。

「綾波・・・?」

ちょうど青葉を挟んで向こう側で、同じようにかがみ込んでいるレイを見て、シンジは驚いたような声をだす。

「私も一緒にいくわ。」
「え?」
「最初に言わなかった?」

レイはゆっくりと青葉の額に頭を近づけていく。幽体のレイの頭が青葉の頭と少しずつ重なっていった。

「私は貴方に興味があるの。」

そう言ったレイが、少し、ほんの少し、微笑んだ気がした。それこそ、夢でも見た後のように、シンジは惚けていたが、やがて自分も青葉の額に頭を近づけていった。
恐怖や絶望など負の思いではあったけれども、その想いは強く、アスカの時と同じように、それは一つの夢をシンジ達に見せてくれた。
遡ること二日前、その夢はその日の光景を写し出す・・・・・・。


後編に続く

ver.-1.001997-11/05公開

ご意見・感想・誤字情報などは persona@po2.nsknet.or.jpまでお送り下さい!


後書き

というわけで、遅くなりましたが中編ようやく書き終わりました。公開は10月中などと言っておいてこのざまですが、もはや誰も僕の予告など信じてないでしょうし、別にいいですね(爆)
つーわけで何故かこの作品はベイスタ日本一記念です。ベイスタファンの人からもメールをいただいたし全然オッケーですね。・・・苦情は大家さんに言ってください(笑)・・・ところで後編は何記念にすれば・・・(爆)。
キタンについて・・・。
ええと、キタンは奇譚と書きます。直してもらうよう大家さんに頼んでおきました。なんか前の方がよかったかもとか思ったりして(ずっとキタンで書いてたから)、つくづくアホですね、俺って。
では今回の話について・・・。
プロット段階では、この中編の前半、アスカとの逢瀬?までが前編、残りが後編の予定でした。でも文章量が80k近くだと読みにくいかなぁと思って無理に区切ったのでちょっと話のバランスが変です。うーん、そこのとこどんなものでしょう?
この話は半ば凍結状態の碇探偵事務所の代わりに書きました。コンセプトはコメディタッチのちょっといい話。・・・のはずが、煮詰まった部分がいくつか出てきてこんなになりました。中盤のアスカとシンジの逢瀬?の場面では必死に「照れちゃ駄目だ、照れちゃ駄目だ。」と自分に言い聞かせていました。分不相応なテーマを書こうとするとこうなるという、いい見本です。ぅぅ・・・。
オカルトについて・・・。
僕は素人です。タロット占いすらしたことはありません。占いの描写についてはデタラメもいいとこですのであしからず。どうでもいいけど、よく電光掲示板で見る「●○先生のタロット占い」、運勢が◎○△×表記なのにどこにタロット占いの要素が・・・。恋愛運◎、金運○って競走馬かい、俺ら。・・・・・・ローカルな上、ホントにどうでもいいことですね。
次回更新は、11月の下旬くらいを予定してます。あはははは・・・←乾いてる
ではでは。



 YOUさんの『第三新東京幽霊奇譚』中編、公開です。





 うぅぅ やった

 ついについに、
 大きな役・重要な役っ

 青葉さん、良かったね(^^)


 でも、
 シンジをひき殺した役・・・

 新犯人だとしたら、
 キッツイよね。



 でも、分不相応な(爆)大きな役。

 さあさあさあ、どうなるどうなる〜



 シンジのこの先、
 協力者のレイ、

 残されたアスカ達、
 あと、
 レイちゃんの妹も(爆)

 気になるけど、
 青葉も気になるよね。


     青葉が気になる・・・初のことかもしんない(^^;





 さあ、訪問者の皆さん。
 後編の冠に悩むYOUさんに感想メールと共にアイデアも送りましょう!







後編は・・・

ベイスタネタなら
『佐々木MVP獲得記念』

横浜ネタと言うことならば
『フリューゲルス消滅記念』
熱心なサポータからイタイメールが来る事が予想されます。

野球ネタなら
『野村さん阪神監督就任記念』
トラキチからの熱いメールが来るかもしれない。

日本一から
『富士山冠雪記念』
・・・公開のタイミングが難しい。
?もう冠雪している??

公開時期の時事ネタにするのなら
『アスカ誕生日記念』
12月上旬・・・・フフフ  m(__)m
もしかして
『クリスマス記念』
12月下旬・・・・ククク   m(__)mm(__)m



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