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『ひなまつり』前編

Novel Room 第1段SSです。

舞台は『本編EVAの7から12話あたり』をベースにしています。
ちょっと違うのは、アスカがかなり「シンジLOVE」だということです。


「なに?、ヒカリ」

 学校の中庭、昼休み。アスカは真剣なヒカリの声に、声のトーンを落とした。

「うん・・アスカ、今日なんの日か知ってる?」
「ええ、モモのセックってやつね」
「知ってるの?」

 意外そうなヒカリの言葉にアスカは不機嫌そうに答える。

「あったりまえじゃない。こんなのシンジだって知ってるわ」
「ごめんなさい、アスカかって外国育ちだから、日本の行事には詳しくないと思って いたの」

 ちょっとすねたアスカをみてヒカリは真剣に謝る。

「ふふ、もういいわよ。気にしてないから。これがシンジだったら、ほっぺに紅葉だ けどね」

 平手打ちのジェスチャーをしながら、アスカが笑って言う。

「本当にごめんなさい、アスカ」
「だから、気にしてないってば。そうゴメンゴメン言わないでよ」

 アスカが輝くような笑顔をヒカリに見せる。

「うん、わかった。ごめ・・とと・・」

 あやうく、また、ゴメンと言いかけたヒカリは自分の口を押さえた。
 そっとアスカの顔をうかがうヒカリ。アスカは笑顔を浮かべたままだ。ヒカリは そのアスカの笑顔に見とれた。

 アスカの笑顔ってほんとに素敵。女の私が見ても、どきどきする。私もこんな笑顔 ができたらなぁ・・・・


「で、ヒカリ。何なのお願いは」

ボウッと考え事をしていたヒカリはアスカの声で我に返った。

「あれ? 私、アスカにお願い事があるって言った?」

 不思議そうなヒカリ。

「言ってないわ」

 アスカの返事に

「・・え・・・何で私がアスカにお願いがあるって分かったの?」

ヒカリは益々混乱する。

 アスカはそんなヒカリに、

「わたしとヒカリの仲じゃない、ヒカリがそんな風にゴメンを連発しているときは 相手に引け目があるときなのよ。悪いことをしたとか、お願いがあるとかね」

ホームズがパイプをくゆらせているようなポーズを取りながら話しだす。

「うん・・・そうかもしれない」

 ヒカリもすっかりペースに乗せられ、ウンウンと頷く。

「で、今は、わたしはヒカリにいやな思いさせられていない。今ちょっと機嫌が悪い のはお昼のお弁当にシンジがピーマンを入れたから。あとで、お仕置きよ! って、 ちょっと脱線。ええと、ヒカリはわたしにいやな思いをさせていない、とゆう事は、 答えは一つ」

 びしっと指を突き出す。

「ヒカリはわたしにお願い事があるのよ!!」

 突きだしていた手を握りしめる。その瞬間、

「おおおおぉぉぉぉ」

と、喝采が広がる。

 いつの間にかアスカたちの周りには中庭で昼食を食べていた生徒らの人垣ができて いた。

「え?」

 アスカは一瞬驚いたあと、

「なにヨあんたたち、見せ物じゃないわよ!! しっ! し!!」

と、ギャラリーを追い払う。周りにいた生徒たちは口々に「いやぁいい暇つぶしに なった」とか、「あれ、2−Aの惣流だろ」とか言いながら散っていく。

 その横でヒカリはその様子を「十分見せ物だったわ」と、アスカに聞こえない声で つぶやいていた。


 結局中庭に居づらくなったヒカリは、「別にいいじゃない、周りを気にしすぎて、 シンジみたいよ」というアスカを引っ張って廊下の隅に移動した。

「で、もう昼休みの時間がないから簡単に言うけど・・」

 ヒカリがアスカだけに聞こえるように小声で話す。

「うん」

 アスカもつられて小声になる。

「・・・・今日、家で、ひな祭りをやろうと思うの」
「へえ、いいわね。ノゾミちゃん喜ぶわよ」

 アスカがヒカリの妹の名前を出す。

「ノゾミはお姉ちゃんが会社のパーティーに連れていくの」
「じゃあ、ヒカリ、家で一人?」
「うん、それでアスカたちにも来て欲しいの」
「なーんだ、そんなことか。もっちろんOKよ!・・・・ムググ」

 拍子抜けしたようにアスカが大きめの声で答えるのを、ヒカリがその口を押さえて 防ぐ。

「シー、アスカ。大きな声出さないで」

 口を押さえたまま、ヒカリはアスカの耳に口を近づける。

「むぐ・・・っと、分かったから。苦しいじゃない」

 アスカはヒカリの手を押しのけて息をつく。

「あ、ごめんアスカ」

 ヒカリはあわてて手を引っ込める。

「で、それだっけてことは無いわよね。ここまで引っ張っていおいて」

 アスカがジト目でヒカリを見る。

「え、ええ。・・・その・・・」
「その、なに?」
「・・・アスカに・・・」
「わたしに?」
「・・・その・・・・碇君を誘って欲しいの・・」
「!? シンジを??」
「うん」
「・・ヒカリ、まさか・・・」

 アスカは自分の心臓が激しい鼓動を打つのを感じる。

「え? ち、違うわよ、アスカ」

 ヒカリはアスカの顔色がさっと蒼白になったのを見て、アスカがなにを考えている のかを悟り、あわてて否定する。アスカがヒカリの考えを推測できるのと同じように、 ヒカリもアスカの考えがよく分かる。逆もまた真なりである。

「・・ちがうの?」
「そう、ちがうわ。・・その、碇君が来るなら・・その・・鈴原も・・」


 ああ、そうだった。ヒカリはあのジャージ男のことが好きだったんだ。シンジを 誘って欲しいなんて言うから勘違いして焦っちゃった。・・・・・・って、ちょ、 ちょっと、なにわたし焦ってるの? 誰がシンジのこと好きになってもわたしには 関係ないじゃない。・・そうよ関係ない・・あっ、また胸が苦しい・・・


 アスカは自分の鼓動が高鳴るのを不思議な気持ちで感じていた。

「アスカ、ねえ、アスカ!」

 胸に手を当て、ぼんやりと自分の世界に入っていたアスカをヒカリの声が呼び戻す。

「あ、なに? ヒカリ」
「ごめんなさいね、心配させて」
「な、なにがゴメンなの?」

 とぼけるアスカ。しかし、

「アスカが碇君のこと好きなの知っててあんな紛らわしい言い方しちゃって」
「な、なな、何で、あたしが、バカシンジなんかを・・」

ヒカリの言葉に、アスカの顔がみるみる赤くなる。アスカの肌は上等の磁器のような 透き通るような白だけに、顔色の変化は隠しようがない。


 ・・な・・・なに?・・・わたしがシンジを好き?・・この非の打ちどころのない、 天才美少女のアスカ様が・・・あんな、バカで・・・スケベで・・・・どじで・・・ ・・なんの取り柄もない・・・シンジを?


「嫌いなの?」
「き、嫌いってことは、ないけど・・・」
「好きじゃないのね?」
「・・そうよ・・・す、好きなわけないじゃない・・・・だいたいシンジなんかが

このわたしに釣り合うと思うの? ヒカリ」

 肩をすくめながら、硬い笑顔を浮かべるアスカ。

「そうね。碇君、勉強もスポーツも並だし」


 え・・・なにを言い出すの、ヒカリ・・


「・・そうよ・・」


 ・・・違う・・・人と争うのが苦手なだけ・・・


「センスもいまいちもないし」

 心底バカにしたような口調でヒカリが言う。


 ・・・やだ、ヒカリそんなこと言わないで・・・嫌いになっちゃう・・えっ?・・ どうしてなの、大好きなヒカリがイヤな人になっていく・・


「それに暗いし」


 ・・・・ちがう! ちがうわ!!・・・ヒカリはシンジのことを知らないの!!


「・・・・・違うわ。暗いんじゃない、人とのふれあいが苦手なだけよ」

 思わず言葉がアスカの口をついて出る。

「そお? 碇君、これといって得意なことないし」
「そんなことない。シンジ作る料理とってもおいしい」


 やめて、ヒカリ。ヒカリのこと嫌いになっちゃう。


「ふーん。でも、会話も下手だし」

 ヒカリはアスカの言葉を小馬鹿にしたように受け流す。


 ちがう!!ちがう!!


「そんなことない!! わたしのつまらない話をきちんと聞いてくれる! わたしの ワガママをしかってくれる。わたしが危ないと思ったら駆けつけてくれる。こんな、 イヤなわたしと一緒にいてくれる・・・・」

 アスカの瞳から涙が落ちる。

「シンジは、とっても優しいの。ヒカリでもシンジのこと悪く言うのは許さない・・ ・・・・許さないんだからぁ・・・」

 最後は涙で言葉にならない。そのまま顔を覆っておえつを漏らすアスカ。
 ヒカリはそんなアスカに優しくほほえむ。

「そう、優しいの・・」
「うん」

 アスカは涙声で応じる。

「好きなのね?」

 アスカの体がびくっとふるえる。

「そうなのかな・・・」

 アスカはゆっくりと視線をヒカリの方に向け、ヒカリの母親のような優しさが あふれる目をすがるように見つめる。
 そこにはいつものやさしいヒカリの瞳があった。


 わたし、シンジが好きなの・・・? わかんない・・・好きってなに?・・・

「ねえ、ヒカリ・・・好きってなに?」

 アスカの瞳からいつもの強い輝きが失せている。そこにいるのはただの保護を 求める子供だった。

「アスカ、碇君がいなくなったらどうする?」


 ・・えっ・・そんなの・・イヤ、考えられない・・・


 ぶんぶんと首を激しく振るアスカ。

「考えられない?」
「うん」


 ・・・そう、そんなの考えられない、考えたくない・・・・

「じゃあ、ここにいるって考えて、碇君が」


 シンジがここに・・・・・あぁ・・ほっとする。あたたかい・・・・安心できる。

 穏やかになっていくアスカの顔を見て、ヒカリは微笑む。

「ねえ、ヒカリ。これが好きってことなの?」

 同い年の少女にすがるような視線を送るアスカ。

「アスカっていつも碇君の話する。たとえ話には必ず碇君が出てくる」

 ヒカリはアスカの質問に答えずに話し続ける。

「わたしだって、アスカと同じ14歳よ『好きってなに?』なんて難しくて答えが 分からない。でも今のアスカを見ていたらはっきり分かるわ」

「ヒカリ・・・」
「アスカも分かってるんでしょ?」


 そうわたしはシンジが好き、・・アスカ様ともあろうモノが何でこんな簡単な答が 出なかったのかしら?・・・・まあいいわ、わたしは自分の気持ちに気付いた。

「うん、好き。・・・シンジが好き。・・・わたしシンジのことが好き!!」

 高いプライドゆえに言葉にできなかった思い。
 しかし、一度その言葉を口から出すと、心がすっと軽くなったような気がした。


次回に続く

ver.-1.01 1997-03-03

ご意見・感想・誤字情報などは shintaro@big.or.jpまで。

3月3日に間に合いました。
ちょっと時間不足です。細かい手直し必要ですね。


 Novel Room 第1弾SS 『ひなまつり』公開します。

  ギャグ度の高い小説を目指したのですが、いつの間にやら
  青春恋愛ものに・・・なぜ? どうして?

  どうやら私は睡眠不足でハイになってくると
  恋愛ものに走る傾向があるようです。

  「傾向ってまだ3本目だろ!」

  と言うつっこみは自分でしておきます。

   もっと余裕を持って書きたかったのですが、3月3日に合わせるのは
  小説のタイトルからして絶対だと思ったのです。

  でも、そのせいで完成度が落ちてしまいました。

   では、あとがきまでお付き合いありがとうございました。


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