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「アスカ・・・」

 シンジが優しくアスカを抱き寄せる。

「え、あ、シンジ・・・どうしたの・・・いきなり」

 アスカは戸惑いながらシンジの胸を押し、体を離そうとする。

「アスカ・・好きだよ・・」

 ゆっくり顔を近づけてくるシンジ。
 シンジの手がアスカのほっそりとした顎に掛かり顔を上向きに引き寄せる。

「だめ・・・こんなところで」
「こんな所って?」
「え?」

 シンジの言葉にアスカは回りを見回す。
 二人の回りはぼんやりと霞がかかっていてはっきりしない。

 どこ・・ここ? わたし達どこにいるの・・・?

「アスカ・・・僕は君だけがいればいいんだ」
「シンジ・・・・・んん」

 シンジの唇がアスカの言葉を塞ぐ・・。
 シンジはアスカの上唇を挟むようにして強く吸う。

 わたしも・・ここがどこかなんてどうでもいい・・・シンジがいる、それだけで・・

 回りの霞がアスカの思考にも入り込む。なにも考えられない。

 
 シンジの舌が強引にアスカの唇を割る。

「むぅ! や!」

 アスカが顔をひねって唇を離す。

「アスカ・・・どうしたんだい?」

 シンジが怪訝な顔で尋ねる。妙に自信たっぷりな態度。

「いや・・こんなの・・・・」

 うつむいてつぶやくアスカ。
 シンジはそんなアスカのほほに手をかけ、顔を自分に向けさせる。

「どうして? 僕が嫌いなの?」

「そうじゃないけど・・・こんなの・・・んんん」

 シンジは再び強引にアスカの唇を奪い舌を押し込む。

「うむ・・・んんん・・」

 アスカの抵抗がみるみる弱くなる・・・・・

 ・・・シンジ・・変・・・強引で・・自信たっぷりで・・・・逆らえない・・

 そして・・瞳を閉じる・・


 チュプ・・・チュ・・チュク・・・

 静寂に包まれた空間に二人のキスの音だけが響いている。

 

 シンジがゆっくりと顔を離すと、二人の口を銀の糸がつなぐ。

「アスカ・・・」

 シンジはアスカの名を呼びながら、その頬に手をはわす。

「シンジ・・・」

 ・・・もう・・シンジ・・・どうなっても・・・

 アスカはうっとりとその手に頬をすりつける。
 シンジはその手をゆっくり離し、そのままその手でアスカの顔を覆う。

「・・・?・・・シンジ?・・・・・」

 シンジはアスカの顔を強く握る。

 なに? なにする気?!

「アイアンクロー!!」

「???・・・ちょ、ちょっとシンジ・・なに!?」

 シンジは力を強くしていく。

「痛いったら、もう!!」

 あまりの痛さにアスカは目を覚ました。

 

 

 仰向けで寝転ぶアスカの顔の上にだれかの手の平がある。

「知らない手の平だ・・・」

 アスカはつぶやきながらその手をどけ、上半身を起こす。
 そして、横で寝ているミサト、更にその向こうのシンジを確認する。
 しばらくぼんやりと考え・・・・

「って、夢かい!!!」

 

 ・・・・・わたし・・・シンジとああなりたいの?

  ・・・・・・ああいうコトしたいの?・・・・

 


『めぞんEVA』第2話-「第三新東京市とゆかいすぎる仲間」後編


 

  「セーフ!」

 ミサトが両手を左右に広げながら職員室にかけ込んで来る。

「おっそーい! ミサト、何してたのよ!」

 よぼよぼの、この学校には定年はないのかと聞きたくなるような老教師の前で、 簡単な学校案内を聞いていたアスカが不機嫌な声を出す。

「知り合いなのかい?」
「ええ、ちょっと」

 アスカの隣に立って同じ様に話しを聞いていたシンジが、後ろの席の若い 男性教師の問いに曖昧に答える。

「ミサト!! どうしてわたしとシンジが別々のクラスなのよ!!」

 つかつかと歩み寄るアスカにミサトは

「何言ってんの、各クラスは大体同人数にするものなの。同じ日に二人転校して 来たら別々になるのは当たり前でしょ」

、さも当然と答える。

「でもたしか、A組はB組より二人少なかったような・・・」

 若い教師のつぶやきを聞き漏らさず、アスカが猛然とミサトに食って掛かる。

「やっぱりアンタが手をまわしたのね!! このショタコンが!!」

 中学校の教師がショタコン。この爆弾発言に職員室は大騒ぎに・・・ ならなかった。
 どうやらミサトがショタコンというのは周知の事実らしい。

「大声出して気がすんだでしょ? さっ、教室にいきましょ」
「な、な、こ、の・・・」

 アスカはミサトの余裕あるあしらいに顔を真っ赤にして、口をぱくぱくしている。

「ああそうそう、日向君。いつもの奴21から5飛ばしでね!!」

 ミサトは先程の男性教師に声をかけながら職員室を出て行った。  


 
 1−A教室の前でシンジは緊張しながら中から聞こえるミサトの声を聞いていた。

「さあさあ、噂の転校生、今日より登校よ! 喜ぶのは男子か!!」
「うおぉぉぉ!!」
「それとも女子か!!」
「喜びたいぃぃぃ!!」

 ミサトの何とも調子のいい口調に教室内が盛り上がっているようだ。

「さあ! 入ってらっしゃい!!」

 ミサトが入り口の方へ体をひねって派手に手招きをする。
 シンジは隣の教室の前でこちらを心配そうに見ていたアスカに一瞥を送ると 大きく息を吸い込んで教室のドアを横に開いた。

「ああああ・・・男かぁ・・」

 シンジの姿を認めた男子たちのため息がシンジを迎える。

「ねぇ、いいんじゃない? かわいい・・・」

 女子たちは嬌声こそ上げないが隣近所の友達とひそひそと言葉を交わす。

「はい、静かに。自己紹介よろしく」

 生徒たちに一言飛ばして黙らせてから、シンジをうながす。

「え、えと・・碇シンジです。昨日第三新東京市に越してきました。 ふ、ふつつか者ですが、ど、どうぞよろしく・・」

 顔を真っ赤にして、訳の分からない挨拶をしてしどろもどろのシンジを
「ようこそ碇シンジ君!! 我が1年A組へ!!」
ミサトが芝居がかったセリフでフォローをする。

「は、はい。よろしく・・・」

 

 その時、隣の教室から

「うおおおおおお!!!!!」

 野太い男たちの歓声が聞こえてきた。
 アスカが教室に入ったんだな。
 シンジは緊張でうまく働かない頭でそんなことをぼんやり考えていた。

 

 

「はじめまして。惣流アスカです。今日から皆さんの仲間になります。 どうぞよろしく!!」

 シンジとは比べ物にならないはきはきとした声でアスカが自己紹介をすると、教室 は一瞬静まり返った後、男子達の歓声で満たされた。

「このクラスでよかったァ」
「俺達はついてるぞぉ」

 男子達のなかには涙を浮かべながら肩を組んでいる者までいる。

「お姫さまみたい・・・」
「素敵・・・」

 女子達にさえ、まるで中世ヨーロッパのヒロイックサーガから抜け出して 来たような美少女に視線だけではなく心まで囚われている者が大勢いた。

「フン、澄ましちゃってさ」
「なによ、ちょっとくらい可愛いからって」

 まあ、中にはあからさまな嫉妬の視線を飛ばす者もいたが。

 

 アスカはそんな回りの喧騒も慣れたものと、気にしていなかった。
 意識はただ、隣のクラスに飛んでいた。

 シンジ大丈夫かしら? 変な挨拶して笑われてないかしら? タチの悪いのに 絡まれてないかしら? もう、どうして別々のクラスなのよ!! シンジには わたしが付いていてあげないといけないのに!! ミサト、覚えてらっしゃい!!!

「みんな静かにして下さい!!」

 我関せずと突っ立っている老教師に変わって気の強いというか芯の強そうな おさげ髪の少女が立ち上がる。

 いつもはこれで治まる騒ぎも今日はそうは行かない。
 退屈な日常に突如出現した超絶美少女にクラス全体が浮き足立っていたのだ。

「ねえねえ、惣流さん。どこから来たの」
「その髪、本物のブロンド?」
「どこに住んでるの?」
「ハーフなの?」

 おさげの少女の声を無視した生徒達は黒板の前に立ったままのアスカの回りに 集まって来て、矢継ぎ早に質問を繰り出す。
 アスカは隣のクラスに妙な動きがない事にとりあえず安心して、 それらに愛想良く答えていっていたが、

「転校生のアスカちゃん。ボク、お友達になってあげるよ」

一人の男子が冗談めかしていったセリフにまなじりを上げる。

「ちょっとあんた!!」

 その男子の目をにらみ付けながら大声を出すアスカに教室中が静まり返る。

「え、あ、・・」
「あんたよ、あんた!! わたしがアンタに『アスカ』って名前を呼び捨てして いいって言った?」

 おろおろと回りに助けを求める男にアスカは詰め寄る。

「い、いえ・・言ってません・・」

 アスカの迫力に圧倒され、ぶんぶんと首を左右に振る。

「そう、言ってないわよ!!」

 アスカは満足そうにうなずき、セリフをグルッと見回して続ける。

「アンタたち男子はわたしのことを『惣流さん』百歩譲って『惣流』と呼びなさい。 分かったわね!!」

 うなずく男子達を満足そうに見回して、アスカは自分の席に向かった。

 あとにはいきなりの展開に付いていけなかった生徒達が立ちつくしていた。

 

 

 シンジは突然静かになった隣を気にしながらも、現在さらに差し迫った危機に 緊張していた。

「ほら、見い」
「え、あ、ありがとう」

 隣の席の男子が机をくっつけて、シンジに教科書を見せて来る。
 その男子はなぜだか制服ではなく黒のジャージを身にまとい、 きつい目つきで関西弁を操る。

「はっきりしゃべらんかぁ。わしゃ、なよなよした男は好かんのじゃ」
「ご、ごめん」

 僕はなんてついてないんだ・・・いきなり不良の隣だなんて・・・

「かー。もっとビッとしんかぁ」
「ごめん・・・」

 殴られちゃうよぉ・・

「もうええ、ちゅうね」

 とにかく生きた心地がしないシンジであった。

 

 

 午前中の休み時間は大騒ぎだった。

 とんでもなく可愛い転校生を一目見ようと隣の1ーAだけからでなく、2年、 3年のクラスからも男子生徒が入れ代わり立ち代わり窓から覗きこんで、 質問を飛ばして来るのだ。

 アスカはそれらを適当に受け流しているのだが、やはりお調子者はどこにでも 居るようで、『アスカ』と名前で呼ばれて、1時間めの教室のくり返しが 何度となく行われる。

 また、それに伴い女子の反感は高まっていった。何しろ自分の彼氏や片思いの 相手などが次々に自分以外の女の顔を見に足を運んでいるのだから。
 それだけではなく、その女に怒鳴られてすごすごと引き下がって行くものだから、 反感は敵意にまで昇華しようとしている。

 

 

 お昼休み。アスカ詣でが一段落をしたのを見計らい、おさげ髪の少女が弁当箱 を持って教室から出ていこうとしているアスカに声をかけた。
 クラス委員長として、この気まずい雰囲気をどうにかしようとの決意を込めて。

「こんにちは、惣流さん」
「あなたは?」

 今日は朝から受けるばかりだったアスカが質問を発した。

「ああごめんなさい。1年B組クラス委員の洞木です」
「洞木、なに?」

 アスカが洞木を見ながら更に聞く。

「ヒカリ」

 ヒカリはアスカの蒼い瞳にのぞき込まれて、単語でしか言葉が出てこなかった。
 アスカはにっこりと微笑んで言葉を出す。

「そう、じゃあヒカリって呼ぶわ。わたしの事はアスカって呼んで」
「え・・・いいの? 名前で呼ばれるの嫌がってたみたいだけど」

 ヒカリの頭に朝から繰り返される光景が浮かんだ。

「ああ。あれは同年代の男子に限った事よ」
「ふうん」

 ヒカリは何だか釈然としないままあいずちを打つ。

「で、何なの?」

 しばらく考えに沈んでいたヒカリをアスカが引き戻す。

「え、ええ。お昼ご一緒しない? いろいろお話したいし」

 どうしようかな・・・お昼はシンジと二人でって思ってたけど・・
 でもせっかく誘ってくれたんだし・・・・

「うーん。もう一人一緒でもいい?」

 しばらく考えてからアスカは折衷案を出す。

「ええ」

 ヒカリの返事を待って、アスカは隣の教室に向かった。

 

 

「シンジ!!」

 1ーAに入ったアスカがシンジに呼び掛ける。

「あれ? アスカ、どうしたの?」

 そのシンジの言葉に教室が凍り付く。当然このクラスの生徒もアスカが名前で、 それも呼び捨てされたときの反応を知っている。

「アンタ、お弁当どうしたの?」
「え? あれおかしいな?」

 カバンに手を突っ込みシンジがクエスチョンマークを出す。
 そのやりとりを聞いていた生徒達がざわつく。
 怒らないぞ  と。

「ここよ。わたしの鞄に入れたままだったの。一緒に食べよ!」

 アスカが見るものすべてをとろけさす笑顔をシンジに向ける。

 その笑顔を見て、ヒカリはやっとアスカがあそこまで同年代の男に名前で 呼ばれるのを嫌がっていたのかが理解できた。

 そっか。あの子、シンジ君て言ったっけ、っていう特別な存在がいたんだ・・・

 

「可愛い子ね?」
「? 葛城先生」

 突然声をかけられ、慌てて振り向いたヒカリの横でミサトが立って アスカを眺めていた。

「可愛い子ね。外見だけじゃなく、中身もよりいっそう・・」
「ええ。本当に・・・」

 やさしげな微笑みを浮かべてつぶやくように言うミサトにヒカリも微笑みながら 返事をする。

「その事で、ちょっと洞木さんにお願いがあるんだけど・・・」

 ミサトがキッと顔を引き締めた。

 

 

 アスカが名前で呼ばれても怒らない男の存在は昼休みの間に学校中に広まった。

 それと同時に、アスカがその男の子のために必死になって『アスカ』と呼ばれるの を拒否していたという事も。

 女子達の反感は一気に沈静化した。取り敢えずアスカは恋のライバルにはならない という安心感と、けなげな恋する乙女だという評判が広がったからである。

 



 夜の帷に包まれたマンション「めぞんEVA」の三階角にある碇家。

「ハイ、シンジ」

 夕食のかたずけを終えたアスカが、風呂の用意を済ませサンルームの長椅子に 座っていたシンジに紅茶を渡す。

「ん、ありがとうアスカ」
「なに見てたの? シンジ」

 聞きながらシンジの横に腰をおろす。

「あぁ、月だよ」

 視線を上に向け、シンジが答える。
 アスカもつられて月を見上げる。

「きれいね・・・」
「ああ」

 静かに紅茶を口に運ぶ。
 一口、二口。言葉もなく、時間が静かにすぎて行く。

「ねえ、シンジ?」

 シンジがカップをテーブルに置いたのを確認して、アスカが体をシンジに 寄せながら甘えた声を出す。

「な、なに? アスカ」

 戸惑いながらのシンジの返事。

「今日は二人っきりだね・・・」
「・・うん・・・」
「誰もじゃましないわ・・・」
「・・うん・・・・」

 アスカに見つめられてシンジの鼓動が高まる。

「シンジ・・・」

 アスカが目を閉じ、シンジの名を呼びながら、そっと口を差し出す。

「・・・・・だめだよアスカ」

 しばらくの躊躇の後、シンジはきっぱりと言って、アスカから体を離す。

 思いがけないシンジのはっきりとした拒否にアスカは戸惑う。

「どうして?」
「その・・・こんなとこでキスしたら・・・」
「こんな所って? 誰も見てない、二人っきりなのよ」

 アスカにはどうしてシンジがキスしてくれないのかが分からない。

「誰もいない・・・二人っきりの部屋の中」

 そう、邪魔するものはなにもないというのに・・。

 シンジがアスカから顔をそむけながら、言葉を続ける。

「きっと・・僕・・ガマンできなくなる・・・・」

「あっ・・」

 シンジの言葉の意味を理解して、アスカも体を寄せるのを止める。

「ゴメン」

 消え入りそうなシンジの声。

 気まずい空気が二人の間に流れる。

 

「わたし、お風呂はいる・・・・・」

 沈黙を破り、アスカが立ち上がる。

「え・・・」

 シンジの反応を無視してアスカは脱衣場に向かった。

 傷つけてしまったんだろうか・・・・シンジは膝を抱えて目を閉じた。

 

 

 その姿勢のまま小1時間。アスカの声でシンジは顔を上げた。

「シンジも入って来なさいよ・・・・」
「アスカ、さっきはごめん・・・」

 シンジは薄いピンク一色のパジャマを着たアスカを見つめる。

「いいから、もう。ちゃんと歯も磨くのよ」

 アスカはシンジの言葉を途中で切って、背を向け、リビングのソファーに座る。

「うん」

 シンジはアスカの背に返事をして風呂場に向かった。

 去っていくシンジの気配を感じながらアスカは決意を確かめていた。

 

「ねえ、ちゃんと洗った?」

 アスカは視線をTVに向けたまま背後の気配に声をかける。

「うん。TVなに見てたの?」

 シンジはアスカの機嫌を探りにどうでもいい言葉をかける。

「ニュース」

 ぶっきらぼうに振り向きもせずに答えるアスカ。

 まだ怒ってるのかな・・・えと・・・他に話題は・・

「ふうん・・・ねえ、アスカ。宿題しようか?」
「イヤ」
「いやって・・」

 にべも無い返事。

 今日は機嫌戻らないかな・・・・ちょっと早いけどもう寝ようかな・・・

「アスカ、僕ちょっと疲れちゃったんでもう寝るよ。だからアスカ」
「わたし帰らない」

 シンジの言葉を先読みしてアスカが返事を先に返す。

「帰らないって」

 アスカどうしちゃったんだ? いつもなら怒った時はさっさと帰っちゃうのに・・

 アスカの態度に戸惑うシンジ。
 アスカはシンジに背を向けたままTVを見ている。

 

 どれくらいそうしていただろうか、アスカが突然振り返った。

「ねえ、シンジ。キスしよう」

 いきなりのアスカの視線とセリフにシンジはうつむく。

「だめだよ。さっきも言っただろ・・・」
「ガマンしなくていいから・・・」

 つぶやくように言って、アスカがソファーの背もたれを越えてシンジの前に立つ。

「・・?・・えぇ!?」

 ア、アスカ?? 何言ってんだ? え・・え?

「シンジとなら・・・いいよ・・・」

 アスカがシンジに抱きつき、両手をその背にまわす。

 そう、シンジになら、シンジとなら・・・・
 まだ早いかもしれないけど・・
 ・・・・・・・そう・・・わたしもそれを望んでいるんだわ・・・・
 ・・・・・あんな夢見たんだもの・・・

「シンジ、いいよ・・・・あげる・・・・」

 背にまわった手に力がこもる。シンジは爆発しそうな鼓動を感じる。
 心臓の音が耳にいたい。

 ボクの心臓すごい音だ・・・破裂しそうだ・・あ、アスカの音も聞こえる・・

「アスカ・・・本当に・・・いいの?」
「・・バカ・・・・何度も言わせないで・・・」
「ゴメン。・・・・アスカ」

 名を呼び、ゆっくりと唇を重ねる。

 二度目のキス。一度目の別れを惜しむモノとは違い、愛情の確認のキス。
 時間はたっぷりとある。二人の気持ちは一つ。

「う・・・む・・・」

 シンジの舌がおずおずとアスカの唇を割る。

 アスカもしばらくの躊躇の後、自分の舌を伸ばした。

「むぁ・・・うぐ・・・んん・」

 今まで何度も読んだHowTo本の記述は頭からすっかり消えていた。
 ただもう必死で互いの唇を求めあう。
 立ったまま体を寄せあう・・シンジの男の部分がアスカの下腹に強く押さえ つけられる。

 あっ、シンジが・・・・これって・・・アレ・・・よね・・・熱い・・

「・・・や・・シンジ・」

 アスカがそれの熱さに脅えるように体を離す。

「アスカ・・・無理しなくていいんだよ・・・」
「無理なんかしてない。ちょっとビックリしただけだから・・・続けて、シンジ」

 アスカの体をそっと押さえてシンジが優しく微笑む。

「でも・・いいんだよ、アスカ。今ならまだ止められる、ガマンできるよ」

 そうだ、今ならまだ我慢できる・・・たぶん・・・・
 もう一度キスしたらもう、押さえられなくなる。
 でもアスカに無理強いしたくない。
 アスカは優しいから、本当はイヤでも、
 そうなったボクの欲望を受け入れてくれちゃう・・・

「無理してない。ほんとに。わたしもシンジと一つになりたいの・・・」

 わたし、シンジと一つになりたい・・・
 そう、ひとつになりたい・・・・・

 本当は・・・・怖い・・でも・・・イヤじゃない・・・・
 男と女のこういうこと知ったときから思ってた・・
 こうゆう事をするのはシンジが最初・・・・シンジとだけ・・・

 アスカはおずおずと離していた体を再びシンジに密着させる。
 下腹部にシンジを感じる。
 先ほどよりも強く感じる。

「アスカ・・」

 シンジもアスカの腰を引き寄せ、自分を押しつける。
 ビクビクとした動きがアスカに伝わる。

「シンジ・・・・いいよ・・・優しくしてね・・・」
「アスカ!!!」

 アスカに潤んだ瞳で見つめられ、シンジの理性の限界が崩壊した。
 名を呼びながらリビングの床に押し倒す。

「シンジぃ・・・ベッドにつれてって・・・んんん・・・」

 アスカの言葉はシンジの唇でふさがれる。
 シンジの手がアスカの胸に伸びる。
 力の加減もなく、必死に手を動かすシンジ。

「・ ・・痛い! 痛いよぉ・・シンジぃ・・やさしくして・・・よぉ・・」

 アスカが体をひねって抵抗するが、シンジの手からは逃れられない。
 アスカは手を強く握って必死になって耐える。

 どのくらいの時間耐えていたのだろうか、ふと気付くとシンジの手の動きが止まっている。

「アスカ・・・・」

 アスカがゆっくりと瞼を開くと、シンジの真剣な眼差しと目があう。

「・・・シンジ・・・・・」

 アスカは呟き、その瞳を見つめ返す・・・・
 そっと、差し出されたシンジの右手がアスカの頬を優しくなで上げる。
 アスカの大粒の涙がシンジの手の平をぬらす。。

 あ・・・・わたし泣いてる・・・

「アスカ、ごめんね・・・イヤな思いさせて・・・ごめんね・・・ひどいコトして・・・やっぱり僕たちには、少し早すぎ・・・」

 ゆっくりとのしかかっていた体を浮かして離れていくシンジにアスカが抱きつく。

「シンジ、違うの!! わたしイヤじゃないの! わたし、うれしいの! 本当よ!  シンジと一つになれるんだもの!」
「でも・・・」

 ・・・シンジ、やめないで・・・
 男の人って・・・あそこがああなったら・・・
 ・・・途中でおさめるのは、とっても辛いって・・・・・・

 今やめちゃったら、シンジに嫌われちゃう・・・・・
 ・・・嫌われちゃうよぉ・・どうして涙なんか出て来ちゃったの・・・

「お願い、シンジ続けて! わたし、我慢でき・・・」
「アスカ。僕、アスカに我慢して欲しくないよ・・・・」
「え? あ・・・違う・・シンジ・・我慢なんて・・・」

 何で・・わたし今、我慢できるって言った・・・
 ・・・わたし我慢してたの・・・?
 ・・・・・・わたし、シンジとこうなる事を望んでないの?・・
 ・・・・・あんな夢を見たのに・・・・違うの・・・?

「アスカ・・僕、アスカを泣かしたくない」
「・・シンジ・・」
「・・もうこんなコトしない・・」
「しないの?」
「・・・うん」
「それも・・・ヤだな」
「・・え?」

 シンジはその言葉に意外そう驚いてアスカを見つめる。

「シンジ・・・信じて。私、シンジにならあげてもいい・・ううん、 あげたいと思ってる・・・・でも、まだちょっと・・怖いの・・」
「アスカ・・」
「だから・・もう少し・・・待って・・」
「分かったよ、アスカ。もうアスカがいいって言うまで何もしないよ」

 シンジが優しく微笑みかける。

「ありがとう・・シンジ・・好きよ。大好き」
「僕もだよ。大好きだ、アスカ」
「シンジ・・・キスして・・・」
「いいんだよアスカ。僕待ってる」
「違うの・・キスはして欲しいの・・・・」
「・・・うん」

 ゆっくりと二人の影が重なった。

 

 

 ピンポーン ピンポーン

 
 呼び鈴が鳴る。

 ビクッとはじかれたように離れる二人。
 あわてて見回し、顔を合わせて、苦笑いをする。

「あ、シ、シンジ・・・誰か来たみたい」
「え・・・うん・・・」
「もう、こんな時間に誰かしら! 見てくるね。ちょっと待ってて」

 まだ動悸がおさまらないシンジを置いて、アスカはモニターのスイッチを入れた。

 

 
 門扉の所にまで迎えに行ったアスカにヒカリが手を振る。

「ごめんね、遅くなっちゃって」
「え? 何の事」

 話が見えない。なにか約束してたかしら。
 アスカは記憶の糸をたぐるがそういう覚えはない。

「葛城先生に聞いてないの?」

 必死に考えているアスカにヒカリが話を進める。

「ミサトに? なにを?」
「頼まれたの。アスカさんの家族まだこっちに来てなくて一人で寂しい思いを しているだろうから、遊びにいって、出来れば何日か泊まっていって欲しいって」

 その説明でアスカはすべてに合点が行った。

 ミサト・・・とことん邪魔するつもりね・・・・
 まあいいわ。本人が来るより10000倍ましよね。

「入ってヒカリ。歓迎するわ」
「ホントはもっと早く来て晩御飯一緒に作ろうと思ってたんだけど・・・」
「いいのいいの。来てくれただけで嬉しいわ。大歓迎よ!!」

 アスカはヒカリの手を引いて家に入っていった。

 

 碇家のリビングではシンジが一人うなだれていた・・・・・

「・・・はぁ・・・・カッコつけすぎたような・・・・・・」

 逃がした魚は大きいぞ。ゲンドウの声が聞こえたような気がした。


第3話に続く

ver.-1.13 1997-03/18

ご意見・感想・誤字情報などは shintaro@big.or.jpまで。
「貴方のメールが私を奮わす」。お待ちしています!!


  皆さんこんばんは。

    「めぞんEVA」第2話-後編ー公開です。

 
 何だか後編はあんまり「ゆかいすぎる仲間」出て来ませんでした。
 2of3バカも、ケンスケはセリフすらなかったし。
 でも第3話では、トウジもケンスケも大活躍!! の予定です。

 終盤ちょっとHでした。もう少し、進展してもいいかな?
 とも思いましたが、皆さんはどう思いますか?

 

 この話で一番苦労したのはなんと言ってもトウジ弁です。
 私は生まれも育ちも[大阪は八尾]のバリバリの関西人なんです。
 それだけにトウジのような中途半端な関西弁はどうにもこうにも・・・・
 本当の関西弁を使うとトウジらしくなくなるし・・・・

 難しいですね。

 また、関西弁はATOKが変換してくれないんですよぉぉ。
 いい方法ご存じないですか?

 

 あなたのご意見・ご感想お待ちしております。

              1997−03/15  自宅にて。


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