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『めぞんEVA』 第一話 --さよなら、アスカ--後編


「・・・アスカ・・・・」

 シンジはアスカの頭を強く引き寄せた。

「パパと一緒に住めるのはとってもうれしい・・けど・・」

 シンジの胸、あたたかいな・・そうだった、シンジったら普段は泣き虫のくせに、 あたしが辛いときにはやさしく包みこんでいてくれた・・・・

「・・・分かるよ。アスカは友達多いし、生まれてからずっとここに住んでたんだ ものね・・・」

 シンジはあいている方の手をアスカの手に重ねる。

「・・・」

 シンジは分かるよって言ってくれた・・・でも分かってない。
 そう、ここはあたしの生まれた場所。そしてあたしには友達がたくさんいる。故郷 やみんなと離れるのはつらい。でも、ガマンできないほどじゃない。・・・でも・・ ・でも・・シンジと離れるのは・・・・だめ・・ガマンできない・・・・。シンジは どうなんだろう? あたしと離れることに、ガマンできるのかしら? 言ってほしい、 離れたくないって。でも、訊けない。あたしほどつらくないって考えているかも・・ そんな言葉聞いちゃったら・・・。

「アスカ、引っ越しはいつなの」

 シンジが優しく語りかける。

「明後日・・・」
「ええ!! そんなに急なの」
「うん。パパの転勤もきゅうだったし・・。多分、それを知ったママは大急ぎで準備 したんだと思う。ほら、ママって、パパ一筋の人だから・・」

 シンジのアスカの手を握る力が強くなる。
 アスカがいなくなる・・・。遠くの街に行っちゃう。そんな・・・そんなの嫌だ。 アスカがいなくなる・・・・考えるだけで目の前が暗くなる。どうしてこんなに辛い んだろう?。アスカの存在はぼくにとって当たり前だから。そう。でも、それだけ じゃない。・・それだけじゃない気がする・・・。

「ア、アスカ!!」

 うわずった声でアスカに呼び掛けるシンジ。思いがけず出た大きな声が周囲の注目 を集める。「静かにしろっ」「うるさい!!」怒鳴り声が飛ぶ。いつの間にか始まっ ていた映画に二人はまったく気付いていなかった。

「す、すいません」

 思わず立ち上がり、声のした方に謝るシンジ。そこに今度は後ろの席から、「見え ないぞ」と声がかかる。

「アワワ、すみません」
「出ましょ、シンジ」

 アスカも立ち上がり、後ろの席に謝っているシンジの手を握ると、出口に向かった。
 落ち着いて話がしたかった。


 外に出た二人は夕日に赤く染め上げられた。

 二人は無言で歩く。言葉が出てこない。
 空も街もすべてが赤く染まっている。
 シンジは、横を歩く赤いアスカがそのまま赤い町に溶けていくような気がして、 ひどく不安になった。

「アスカ」
「なに?、シンジ」

 シンジの呼び掛けに、同じ様な不安を感じていたアスカは、間をおかずに答えた。

「その、手、つないでいい?」

 アスカの顔が夕日よりも赤くなる。

「バカね、そんなことは聞かないものなのよ」

 怒ったように顔を背けながら、手をシンジの方に伸ばす。

「ありがとう」

 シンジはその手を優しく握る。

「だから、そんなことは言わないものなのよ」

 アスカは答えながら、自分も握り返す。
 駅はすぐそこ。でも、向かわない。ビルの谷間の公園にはいる。
 二人並んでベンチに腰を下ろしたころには町の色は赤から黒に移り変わっていた。


 アスカがぼくと一緒にいる時にこんなに長い時間に黙っている事って、初めて じゃないかな。

 手をつないでいるだけではいやせない不安感。アスカがいなくなるという不安感。

「ねえ、アスカ」

 シンジは思わずアスカに声をかけた。

「うん?」

 アスカは視線をシンジに向ける。

「あ、何でもないんだ。ごめん。アスカの声が聞きたくて」

 キザな台詞。普段のシンジからは考えられない、絶対に出てこない。
 キザな台詞。普段のアスカなら笑い出す。
 しかし、シンジも、アスカも、二人とも気にならない。

「私もシンジの声、聞きたかった」

 アスカも同じ不安感を感じていた。柔らかなほほえみがシンジの顔を見ていると、 自然に出てくる。

「アスカ、いくなよ」
「え?」

 アスカの顔を見て思わず出た言葉にそれを発したシンジ自身が戸惑う。

「あ・・・・その・・・。ごめん」

 アスカは謝って顔を背けようとしたシンジの手を強く握る。

「・・シンジ・・・なんて言ったの?・・・」
「・・・・・」

 シンジの目を見つめながらアスカが繰り返す。

「シンジ、なんて言ったの?」

 しばらくの間を置いてシンジが口を開く。

「・・・いくな、アスカ」

 シンジは声は小さいが、はっきりとアスカの瞳を見つめながら答えた。

「・・・シンジ・・・・」

 アスカはつぶやくようにシンジの名を呼び、目を閉じた。

「・・え・・・うん」

 シンジも目を閉じ、ゆっくりとアスカの唇に自分の唇を重ねる。
 ただ唇を重ねるだけのキス。しかしそれだけで、お互いのぬくもりが心に広がって いくのがわかる

 どれくらいそうしていただろうか。やがて、どちらからともなく唇をはなす。

「シンジ、もう一度いって。行くなって」

 シンジの胸に再び顔をうずめながら、アスカが言う。

「アスカ、行くな」

 今度は大きな声で、シンジは言った。

「うん、行かない」
「ア、アスカ・・うんって・・」

 アスカのあまりにはっきりした返事にシンジは逆にとまどう。

「そう、わたし、行かない」

 ベンチから立ち上がりシンジの反対をむいたまま、アスカがキッパリと断言する。

「でも、いいのかい?」
「なによ、シンジが言ったのよ。行くなって」

 アスカはシンジに向き直り、ちょっと意地悪な口調でシンジの顔を指差す。

「それは、そうだけど・・・いいの?」
「いいわ。パパにはママだけで我慢してもらうわ。第3東京なら月一ぐらいで遊びに いけるもの。ドイツよりずっと近いもの」

 アスカはシンジに最高の笑顔を贈る。シンジも最高の笑顔で答える。

 すっかり日も沈み、暗い公園。しかし二人は自分たちの周りだけが明るく照らされ ていると感じた。


 電車から降り、駅から家に向かって歩く。何か考え事をしていたらしく黙っていた アスカがふと口を開く。

「どこに住もうかしら」
「家があるじゃないか」

 シンジが不思議そうに答える。

「一人で住むには大きすぎるわ。そうねぇ、アパートでも探して、一人暮らしするわ」
「一人でかい? あぶないよ。だいたい、中学生じゃ部屋を貸してくれないよ」

 シンジの反論に、アスカはちょっと小首を傾げて、

「そうね・・・じゃあ、シンジの家。和室空いてたでしょ」

と、シンジの目を見ながら答えた。

「えぇ!」

 シンジは思わず立ちどまる。アスカは目の前にきたシンジの顔を見つめながら 言葉を続ける。

「わたしは布団苦手だから、シンジの部屋を使うわ。シンジは和室に行くのよ」

「で、でも・・・・」
「いやなの? 行くなって言ったのはシンジなんだから、面倒みてよね」

 してやったりの、小悪魔の微笑。

「・・・・アスカ、黙って、こんな事考えていたんだ・・・」

 見事に一本取られたシンジ。しかし少しも不快ではない。
 アスカが今までよりもさらに近くなるのだ。


「じゃあわたしは簡単に運べるもの持ってくるから、シンジは部屋空けてね」

 二人は家の前で別れ、それぞれの家に入っていった。

「まあ取り敢えず、これから運ぶか」

 シンジは簡単に部屋の整理をして、衣装ケースを
運び出そうとしたところで、ゲンドウと鉢合せた。


               「まあ、とりあえずはこんなモノね」

                アスカは自分の家から着替えと歯ブラシを持って
               シンジのうちの前に来たところで、ユイと鉢合せた。


「と、父さん? おかえり」
「うむ。なにを慌てている」

 慌てるシンジにゲンドウは眼鏡を中指で押し上げ
ながらきく。

「なんでもないよ」


               「お、おばさま。こんばんは」
               「あら、こんばんわ、アスカちゃん」

                慌てるアスカにユイは微笑みながら応じる。



 シンジの衣装ケースを見たゲンドウが

「ほう、お前にしては勘がいいな。どこで知った?」

めずらしく感情を声に出して、驚きながら、シンジに
たずねた。

「へ? 何の事?」

 シンジの頭の上でクエスチョンマークが踊る。



               「もう引っ越しの準備はじめてるの?」
               「え、おばさま、ご存知なんですか?」
               「当たり前じゃない、変なアスカちゃん」



「その荷物だ」
「こ、これ?」


               ママが言ったのかしら・・・アスカが考えていると、
               ユイの言葉が続く。

               「うちは今からなのよ」
               「え? 何がですか?」



「お前には引っ越しのことはまだ言ってなかった
はずだが・・」
「ええーー!! 引っ越すの!?」

 うちまで引っ越しだなんて、アスカ・・・



               「何って、引っ越しの準備」
               「ええーー!! 引っ越すんですか?」

                シンジのうちまで引っ越しだなんて・・シンジ・・



「なんだ、知らないのか? 私の勘違いか」

 背を向け歩み去ろうとするゲンドウに

「ちょ、ちょっと待ってよ父さん。何だよ
引っ越しって、どこ行くんだよ」

シンジが慌ててたずねる。



               「あら、知らなかったの? そう言えば、キョウコ
               に言ってなかったのよね・・・・」

                ブツブツ言っているユイに

               「おばさま、引っ越しってどこに行くんですか?

                アスカが勢い込んでたずねる。



「明後日、第3新東京に行く」


               「明後日、第3東京。アスカちゃん家の隣よ」


 ・・・え・・・第3東京・・・・。


                ・・え・・第3東京・・わたしん家の隣・・って・


シンジはしばらくほうけた後、


                アスカはしばらくほうけた後、



            「ええええーーーー」

        二人の叫び声が町じゅうに響き渡った。


 碇家のリビング。

 シンジ、アスカ、ユイが座っている。

「ごめんなさいねぇ、キョウコに言い忘れていたのはゲンドウちゃんの車の中で思い 出したんだけど、シンちゃんにも言ってなかったなんて。ユイ、一生の不覚だわ」

 ユイがぺろっと舌を出しながらテヘヘ笑いをするのを、シンジとアスカがあきれて ジト目で見る。

「まったく。忘れっぽいのにもほどがあるよ、母さん」
「ほんとに、ごめんなさいねぇ。こっちの仕事に一段落着けるのに忙しくって」
「それで、今日の朝いなかったんですね?」
「そうなのよ。もう大変」

 ニコニコ笑いながら答えるユイのおなかをみながらアスカが言う。

「無理しないで下さいね、赤ちゃんにもさわりますから」
「心配してくれてありがとう、アスカちゃん。でも今週中に仕上げたかったの。だって」

 言葉を途中で切りシンジとアスカの顔を交互に見るユイ。

「だって?」

 二人はユイに言葉の続きをうながす。

「だってアスカちゃんだけ先に向こうに行っちゃうと、シンジが寂しがるでしょう?」
「か、母さん!」
「おばさま!」

 こうして嵐の一日はHAPPYENDで幕を閉じた。

つづく

   ご近所、学校の友人などに全く挨拶をしていなかった二人は

   次の日、1日中走り回ったとさ。

   アスカの大勢の友達は泣きながら言った。

   「さよなら、アスカ」  「元気でね」


第二話 前編に続く

ver.-1.11 1997-3-03

ご意見・感想・誤字情報などは shintaro@big.or.jpまで。
ほんの一言でいいんです。感想下さい。

   とくに

行間を空けていることについて、
漢字の使用量について、

映画館から公園のシーンくさくなかったか、
シンジとアスカが碇家の引っ越しを知る場面わかりにくくなかったか、
リビングのシーンと「つづく」のあとの文章、蛇足ではなかったか

あなたの感想を教えて下さい。



 第一話後編完成です。

 自分は明るいラブコメを書きたいんです、「あっ軽い」ラブコメを。

 それなのに後編中程まで暗く甘ったるい話しになったのは、

 最初の思い付き−−基本は『学園エヴァ』。オリジナリティを出すためには
          転校してくるのはレイちゃんではなくアスカにしよう。
          でも、アスカとシンジは幼馴染みというのは外したくない。
          そうだ、二人そろって転校してくる事にしよう!!
          第一話は二人が引っ越しするまででいこう。

        と、文章力のなさのせいです。

 でも、でも、第1話後編の終わりからは「あっ軽い」になってと思います。
 これからもよろしかったらお付き合いください。


                      3月1日 21:00 VER1.01


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