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『地上げ屋シンちゃん』

 照り付ける日差しもすっかり影を潜め,そろそろ夜の帳が下りはじめる頃,簡単に荷物の整理を終えた男は,隣人のドアをノックした.

 ドアには惣流と書かれた紙が張られている.

「はあ〜い,どちら様ですか?」

 返事はするが扉は開かれない.

「今度隣の103号室に引っ越してきた者ですが,引越しのご挨拶に参りました.」

 扉が開き,少女が顔を出した.

 男は,ほお〜,という言葉が思わずこぼれそうになった.

 それほどの美少女だ.

 長い赤毛がまず目を引く.そして端正な顔立ち,白い肌,プロポーションが少女の美をより一層高め,青い瞳が,それらに生命を吹き込んでいる.

 男はしばし言葉を失った.

 少女の美しさに見とれながら,チェーンロックがないというひどく現実的な事を気に留めていた.

「こんばんは,103号室に引っ越して来ました碇です.これつまらない物ですが,どうぞ.」

「ご丁寧にどうもすいません.」

 少女は男よりも1つか2つ年下のように見えた.

第三者が見れば,もっと年が離れているように見えるだろうが,それは男の雰囲気の為であろう.

 少女も男に好感を抱いた.

 こんな時期に引っ越してくるとは,と多少訝しんだが,男の持つ雰囲気が少女の警戒心をゆるめた.

「よろしくお願いいたします.」

「こちらこそ.」

 型通りの挨拶を交わし,男は自室に戻った.

 事体は,アメリカ留学中の碇シンジが受け取った電子メールから始まった.

『シンジ,来週土曜日に帰ってこい.夏休み中は日本にいろ.ゲンドウ.』

 突然の呼び出しであった.

 友人との約束を全てキャンセルし,シンジはスポンサーである父親の意向に従った.

 父親と顔を合わせるのは実に3年ぶりであった.

「シンジ,よく来た.」

「お久しぶりです.ところで僕に何の御用ですか?」

 シンジは多少の皮肉を込める.

「単純な話だ,私のビジネスを手伝え.」

 ゲンドウは関東で1,2を争う暴力団,ネルフ組の組長,シンジはその一人息子である.

 ゲンドウはビジネスの内容について説明した.

 地上げのターゲットである「めぞんEVA」という名のアパートに立ち退かない部屋が一室だけあること,その一室には,精神障害の母親と中学を出て働いている娘が居ること,そのターゲットは別の地上げ屋も狙っていることなどを簡潔にゲンドウが説明した.

「そこで,おまえの仕事だが,その母娘を追い出す事だ.なるべく早く,そして費用を掛けずに.」

 なぜ,この時期にわざわざ自分がというシンジの質問には,隣のアパートの取り壊しが始まるという言葉と,含みのある笑いでゲンドウは答えた.

「おまえには舎弟を2人付けてやる.諜報活動のスペシャリストの相田ケンスケと荒事専門の鈴原トウジだ.使いこなせよ.」

 何もない部屋に戻ったシンジは,昨日のゲンドウとの会話を思い返していた.

「惣流アスカか.さっさと立ち退けばいいが,下手に強情張るとろくな事にならないぞ.」

 その頃,何も知らない102号室の惣流家に,今日2人目の訪問者が訪ねていた.

「こんばんわぁ,隣の101号室に越してきた鈴原です.これ,田舎で取れたもんやけど,食べてえや.」

 変な関西弁がシンジの部屋にまで聞こえてくる.

 扉を閉める音が響き,沈黙の後,アスカの悲鳴が響き渡った.

「クックッ.トウジのやつ,何かやったな.さて,いい人の出番だな.」

 急いで部屋を飛び出すと,シンジは心配そうに102号室のドアをたたいた.

「どうしました?大丈夫ですか?」

 中から,顔から血の気が失せたアスカが飛び出した来た.

「ネ,ネコの死体・・,く,首が・・,お,お腹も・・・.」

 アスカは,込み上げる物を堪えるため口に手を当てたが,堪えきれなかった.

 シンジは,アスカを戸口に残し,部屋に入り,手早くネコの死体をビニール袋に包むと,ごみ捨て場に捨てに行った.

 シンジが戻ると,アスカは汚物を片づけていた.

「大丈夫?」

「ええ,何とか・・・.まったく,アイツ何のつもりかしら.こんな気持ちの悪いもの持ってきて.いたずらにしてもほどがあるわ.きっと,変質者ね.警察に通報してやる!」

 怖さを紛らわすためか,急にアスカは饒舌になった.

 なかなか気丈な娘だ,とシンジは思った.

「まって,下手に警察沙汰にしない方がいいよ.変質者には関わらない方がいい.」

「そ,そうね・・・.だけど次何かあったら警察に通報するわ.」

 まだ,気が動転しているのか,シンジの言うことをアスカは素直に信じてしまう.

「ごめんなさい.靴汚しちゃたわね.」

 汚物がシンジの靴に掛っていた.

「いや,大丈夫,これくらい.拭けば落ちるよ.」

「碇さん.どうもありがとうございました.」

「いいえ.それから,シンジでいいよ.惣流さん.」

「アタシもアスカでいいわ.それじゃおやすみなさい.」

「じゃ,おやすみ.」

 シンジが部屋へ戻った後,アスカは部屋に残った血の跡を拭き取った.

 部屋の奥ではアスカの母親が人形に話し掛けている.

「はぁ〜.」

 アスカにはネコの死体を送られる理由に心当たりがあった.

 このアパートの最後の住人である惣流家に,立ち退き要求があったのは2ヶ月ほど前である.

 立ち退き期限はすでにすぎている.催促通知はかなり物騒な文面になっていた.

「ここを出てどこへ行けって言うのよ.そんなお金があればとっくに出ていってるわよ!」

 泣きたくなる.しかし,泣いても事体が変わらない事をアスカは知っている.

 アスカは,中学を出た後,近くのコンビニでアルバイトをしながら,母親の面倒を見ていた.

母親の治療費の負担が重く,日本には頼るべき人も居ないので,生活は困窮を極めていた.

 その日も,母親の世話を一通り終え,アスカは着替えて銭湯へ出かけていった.

 アスカが出かけたのを見計らって,男が2人103号室に現れた.

「兄貴,どうでっか,効いてたやろ?」

 黒いジャージ姿の男がシンジに話し掛けた.

「ああ,結構まいってたようだ.」

「まったく,兄貴はおいしいところ持っていくよなぁ.」

 めがねを掛けたそばかす顔の男が冷やかす.

「ケンスケ,そう言うなよ.信用させておいて最後に突き放すのが俺の役目だからな.」

「で,兄貴,最後はやっちゃうんですか?」

 二人の舎弟がそろって好色そうな顔をした.

「さあなぁ.だが,俺がやれと言わない限りは・・・,わかってるな.」

 シンジは,2人の顔をそれぞれ睨んだ.

「も,もちろんです.」

「も,もちろんや.」

 2人はシンジの実力を熟知していた.

「そうそう,兄貴,お隣さんのセミヌード写真にメッセージを添えて,ドアのところに挟んでおきました.」

「ご苦労.明日からここもにぎやかになるぞ.」

「ええ,そうですね.」

 打ち合わせを終えたシンジ達は,本来のねぐらへと引き上げた行った.

 翌朝から,めぞんEVAの右隣のアパートの取り壊しが始まった.工事のため周りには鉄板の柵が張られ,外から中の様子が見えなくなった.

 時を同じくしてめぞんEVAの左隣のアパートも同じように取り壊しが始まった.

 少し奥まったところにめぞんEVAが立っているため,鉄板で仕切られた私道を通らないとアパートにたどり着けない.道路からはめぞんEVAの様子はまったく見えなくなっていた.

 騒音はすごいが,取り壊し工事事体はあまり進まなかった.

 工事の騒音に混じって,スピーカーからは物騒な言葉が惣流家に向けて放たれていた.

 そんな日々が何日か続いたある日,誰かがシンジの部屋のドアをたたいた.

「シンジさん,ママが,ママが・・・.」

 戸口にはアスカが立っていた.

 顔から血の気は失せており,瞳からは緊迫した雰囲気が感じられた.

 シンジがアスカに促されて入った102号室は,異様な臭いが立ち込めていた.

 部屋の中には何か物体がぶら下がっており,その下には染みが広がっていた.

臭いはその染みから発せられている.

 そのぶら下がっている物体は,アスカの母親の亡骸であった.

 ぶら下がっていたため,首は伸びきり,体中の穴が開ききり,そこから漏れ出した体液や糞尿が畳に染みを作っている.

 シンジもこの光景に言葉を失った.

「ママ,最近落着かなかったの・・・,突然叫んだり,黙り込んだりして・・・.

みんなあの騒音のせいよ!あいつらがママを殺したのよ!」

 アスカは,涙一つ見せていなかった.

 気丈なのか,それとも現実をまだ受け入れられないのか,それともその両方なのかシンジには判断ができなかった.

 そろそろ潮時かとシンジは判断した.

「早く立ち退かないからだよ.」

 アスカは,こわばった表情でシンジを見た.

「どうして,知ってるの?もしかして,アンタもグル?」

 青い瞳が,シンジを射抜く.

「片方はね.もう片方は競争相手だよ.」

「ママの仇!殺してやる!殺してやる!殺してやる!」

 アスカは台所で包丁を掴むと,シンジに向って行く.

 顔を狙ってアスカは包丁で切り付ける.

 アスカの包丁を体さばきでかわし,手首をきめて投げるシンジ.投げたアスカを,うつぶせにし,包丁を奪い取る.全く無駄のない流れるような一連の動作.

「痛ッタッタッタ.離しなさいよ!離して!」

 手首をきめられたアスカは逃げようと暴れまわるが,全く身動きできなかった.

「今はこんなことをしている場合じゃないよ!お母さんの遺体を弔ってあげる事が先じゃないのかい?それと,いくつか忠告しておくけど.アスカ,君には僕は殺せないし,殺しても何にもならない.君の一生を棒に振るだけだ.いいかい,よく考えてみて,アスカ,君は自由なんだ!母親の事を気にせずどこにでも行けるんだよ!」

「ええ,そうよ!行き先が刑務所だろうと私の自由よ!」

「そうかい・・・,そこまで言うのならいつでも僕を殺しに来ればいいよ.ただ,失敗しても成功しても刑務所には入れないよ!君は,美人だから特にね.」

 シンジはアスカを開放した.

 アスカはうつぶせのまま起き上がろうとしなかった.

 シンジは何も言わず102号室を後にした.

 数日後の夜,めぞんEVAから外出していたシンジに,ケンスケから突然電話が入った.

「兄貴,ゼーレ組の者が3人,めぞんEVAに到着しました.どうやら例の娘の部屋を狙っているようです.」

「そうか,すぐ戻る.」

 それだけ言って,シンジは駆け出した.

 102号室のドアは開け放たれており,内部からは数人がもみ合う気配が伝わってくる.

 シンジが到着した時,アスカが男3人に組み敷かれていた.

 衣服は剥ぎ取られ,アスカは必死で抵抗していたが,今まさに最後の一枚がはがされようとしている.

 部屋に飛び込み,下着を脱がそうとしている男をシンジは,後ろから蹴りつけた.

 突然の進入者に一瞬うろたえた男達は,条件反射で戦闘態勢をとる.

 一人が前蹴りでシンジの鳩尾を狙う.その足をかわし,蹴り足をすくいあげて男を後頭部から床に叩き付ける.

 もう一人の男は,フットワークで間合いを詰め,顔面目掛けて突きを放ってくる.シンジは突きをさばき,懐に沈み込み,体側へ肘打ちを入れ,浴びせるように眉間へ裏拳を放つ.

 最初に蹴りを入れられた男が起き上がり,ナイフを構えてシンジと対峙する.

 両者の間に殺気が走る.

 その時,シンジの両腕を羽交い締めにする者がいた.アスカである.

意外なほどの力でシンジを羽交い締めに身動きできなくする.

 ナイフを持った男は薄笑いを浮かべ,ゆっくりと間合いを詰める.

「ようしいい子だ,そのまま押さえてろ!後で可愛がってやるからな.」

 男は,シンジの腹部目掛けてナイフを突き込んだ.

 シンジの前蹴りがカウンターで男の鳩尾に食い込む.返す足を蹴り上げ,こんどは顎に食い込んだ.

 男は仰向けに崩れ落ちる.

 アスカの腕の力が緩み,シンジを開放した.

 ケンスケとトウジを呼び出し,床でうめく3人を縛って連れて行かせた.

 部屋にはシンジと半裸のアスカとそして沈黙が残った.

「なかなかうまいこと考えたね,アスカ.」

 沈黙をシンジが破る.

「アタシをどうする気?」

 アスカは体を隠しもせず,シンジと向かい合っている.

「あれ,怖くないの?」

「まあね,どうでもよくなったの.さっきの奴等かアンタとその仲間かの違いよ.どうせアタシを犯すんでしょう?」

 アスカの瞳は言葉とは裏腹に鮮烈な光を放っていた.

「そうとも限らないよ.僕は帰るから.戸締まりをしっかりして寝るように・・・.

それから,明日僕とデートしてくれないか?」

「え?」

 この状況で何を言っているのだろう?アスカの素直な感想だった.

「だめ?」

 シンジの瞳は残念そうだった.少なくともアスカにはそう映った.

「い,いいわよ.」

「そう,じゃ明日10時に迎えに来るからね.お休み.」

 そう言い残し,シンジは隣の部屋へと帰っていった.

 シンジが帰った後,アスカはのろのろと部屋を片づけ,寝ようとしたが,お風呂に入っていない事に気付いて慌てて支度を始めるた.しかし,ふと手が止まり,シンジの言葉を思い出す.

(デートなんて回りくどい事言ってたけど,要するにアタシが欲しいんでしょ.)

 アスカは逃げ出したい衝動に駆られた.だが,行く宛はない.

 アスカは,考える事を止めて,銭湯へと向った.

 その夜,アスカは眠れなかった.

 目を閉じると先ほどの光景が蘇ってくる.

 怖い,今まで感じたことのない恐怖がアスカの体を縛り付ける.冷や汗で体が冷たい.

 未遂なのだと自分に言い聞かせて何とか落ち着く.

 だが今度はシンジの言葉が頭に浮かんでくる.デートと言っていたが,

本当にデートだろうか?

私はどこかへ連れて行かれるのだろうか?

もしかすると風俗店に連れて行かれて働かされるのだろうか?

それとも誰かのおもちゃに?

止め処もなく悪い想像が溢れてくる.その中でアスカは一つだけ確信したことがあった.

それは,碇シンジという男から逃れられない,と言う事実である.

 明くる日も朝から暑い日であった.

 10時きっかりにシンジは102号室を訪れた.

「おはよう,よく眠れた?」

 嫌みな挨拶に反論もせず,アスカは無言で戸口に現れた.

「じゃ,まず.洋服を買いに行こう.今日のデートはそれからだ.」

 アスカはシンジの意外な言葉に目を丸くしたが,どうせ嘘だろうと何も口を挟まなかった.

 二人の行動はまさにシンジの言葉通りデートであった.ただ一つを除いては.

 ブティックでのショッピング,何年かぶりの美容院,一流レストランでのちょっと遅い昼食.

どれもが趣味のいい選択だった.

 この夢のような時間も,アスカにとっては死刑を前にした最後の晩餐のように感じられた.

だからアスカも途中からは,最後と思いシンジのエスコートを楽しんだ,いや楽しもうと努めた.

 昼食のデザートを終え,くつろぐシンジにアスカは問い掛けた.

「ねぇ,これからアタシをどこかに連れて行くの?」

「よく分かったねぇ.」

 アスカは,ビクッと体を強張らせる.

「アスカのその美貌が生かせる仕事を紹介してあげるよ.その仕事のオフィスさ,これから行くのは.」

 アスカは,そうっと小さな声で言ったきり黙り込んでしまった.

 

 二人は,目的地のオフィスについた.

『MAGIモデルクラブ』と入り口に記されている.

 この名前は,さすがのアスカでも耳にしたことがあった.

 えっ.

「いらっしゃい,待ってたのよ.あなたが惣流アスカさんね.まぁ,シンちゃんの言う通り本当にきれいな子ね.」

 えっ,えっ.

「こちら母の知り合いで,ここのモデル事務所の社長さん,葛城ミサトさんって言うんだ.」

 えっ,えっ,えっ.

 アスカは突然の話の展開についていけず,ただ目を見開いて立ち尽くしていた.

「よろしく,惣流さん.」

「は,はい.よろしくお願いします.」

 アスカは反射的に答える.

「驚いた?僕がミサトさんにアスカを紹介したんだ.そしたら気に入ってぜひ合わせろというので,今日連れてきたというわけなんだ.」

「そうよ,シンちゃんがぜひアタシに預かってくれって,言うもんだから.」

 シンジは少し顔を赤くしてそっぽを向いた.

「まぁ,ここなら寮もあるし,あのアパートから出られるよ.後はアスカの努力と運次第だけど.」

 アスカは何も言わず,下を向いていた.

 心なしか肩が震えている.

「じゃ,僕は用事があるので.がんばれよ,アスカ.」

 シンジはドアの方へ歩きはじめた.

「待って.」

 振り向くシンジの唇にアスカの唇が重なった.

 

 アスカがめぞんEVAに戻り,103号室を訪ねるとシンジはいなかった.

 明くる朝も,アスカが引っ越す時も103号室の主は不在だった.

 そして,月日が流れた.

 アスカをミサトのオフィスに連れていった翌日,シンジはアメリカへと帰ってきていた.

アスカの活躍ぶりは最初はミサトを通して知り得たが,2年も経つとTV等のマスコミを通じて

知るようになっていた.

 シンジも高校を卒業し,大学へと進学していた.

 そんなある日,レポートを書いているシンジに電子メールが到着した.

「おや,日本語のメールか,珍しいな.」

『シンジ,元気にしてる?アスカよ!覚えてる?今度お命もらいに行きますので,よろしく』

 メールの中でアスカがにっこり微笑んでナイフを振り回している.

「スーパーモデルのお出ましか.いつ来るんだ?アイツ.」

 明くる日,シンジが大学から帰ると,部屋の鍵が空いていた.

 シンジは,静かにドアを開け部屋に滑り込み,辺りの様子を伺う.人の動く気配はない.慎重に部屋じゅうを確認してまわる.

 すると,ベットの上に女神が寝息を立てていた.

「無防備な奴.」

 アスカをそのままにし,シンジはレポートの作成に取り掛かった.

 暗くなる頃,アスカは起きだしてきた.それも下着姿で.

「おはよ〜,シンジ.」

「アスカ,おはようじゃないよ.鍵も掛けずに下着で寝てるし,何か着なよ!

それにどうやって部屋に入ったんだい?」

「良いじゃない,前にも見られてるし.部屋に入れたのは,シンジのお母さんが,アメリカへ行くなら持っていきなさいって,合鍵を渡してくれたからよ.」

 こともなげに言うアスカ.

 狼狽するシンジ.シンジは母親に合鍵を渡した覚えはないのだ.

「母さんに会ったの?」

「ええ,毎朝合ってるわよ.お父さんにもね.」

 さも当然というよう顔のアスカ.

「ま,毎朝?」

「あれ,知らないの?アタシ今シンジの家に住んでるのよ.」

「ええ!全然知らないよ,そんなこと!」

 両親の悪魔のようなニヤリと笑った顔が目に浮かぶ.

「シンジの家ほど安全なところはそうないわね!マスコミ避けにも最適だし.」

 やくざの家に居候している方がよっぽどマスコミネタになると思ったが,

シンジはなにも言わなかった.

 その後,二人は別れてからの3年間を埋めるように会話が弾んだ.

「アスカ,ホテル取ってあるんだろ?もう遅いからそろそろ戻らないと.送っていくよ.」

「ホテル?取ってないわよ.1ヶ月の休暇の間ここでお世話になるつもりよ.」

「ここでぇ?い,1ヶ月!何考えてるんだよ!」

 1ヶ月間こんな美女と二人っきりというのは男としてこれ以上の幸せはない.

ただ,1ヶ月間我慢できる自信をシンジは微塵も持ち合わせていなかった.

 結局シンジの我慢は1日も持たなかった.

「シンジ,逃がさないわよ.」

「逆だよ,捕まったのはアスカの方さ.」

 スーパーモデルのヒモというのも悪くないかな,と不埒な事を考えるシンジであった.


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ver.-1.00 1997-06/09 公開

ご意見・感想・誤字情報などは okazaki@alles.or.jpまで。


後書き&言い訳

 こんにちは岡崎です.

 お読みいただきありがとうございます.いかがでしたでしょうか?

 最初は悪逆非道を尽くすシンジを書こうと始めたのですが,

なぜか”いい人”になってしまいました.

どうもアスカに対して悪逆非道を尽くす話が書けませんでした.

 誤字・脱字,ご意見・御感想などを頂ければ幸いです.

 それではこれにて失礼致します.


 岡崎さんのカウンタ80000記念SS『地上げ屋シンちゃん』公開です!
 

 良かった、アスカが不幸にならなくて。
 ・・・・最近こんなコメントばかりですね(^^;

 やくざなシンジと不幸なアスカ、
 汚い計画にゼーレ組。

 マジにアスカが不幸になるんじゃないかと読んでいましたが、
 何だかんだでHAPPYEND。

 この辺りに岡崎さんの愛が見える! って(^^;
 

 訪問者の皆さんも「アスカを幸せにしてくれてありがとう」メールを岡崎さんに!


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