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『ある1つの可能性』

ある日のテスト


 学校での1日が終わり,アスカは定期シンクロテストのために,ジオフロントへ向かっていた.

通いなれた道程ではあったが今日のアスカは少し緊張している.

(今日もシンクロ率が下がっていたらどうしよう.)

 前回のシンクロテストでシンクロ率が低下したことをアスカは非常に気にしていた.

加持とヒカリのおかげでかなり救われた気持ちがするが,いつもの自信をどこかに置き忘れている.

(アタシってこんなに弱かったのかな?いつもなら自信満々でシンクロテストを受けてたのに.)

 そんなことを考えながら,アスカは本部に到着した.


 いつものように真紅のプラグスーツに着替え,いつものようにパイロットの控え室へと向う.

いつもと違うのはシンジが居ないということだけだ.前回のテストにもシンジは居なかったが,

アスカは気にもしなかった.しかし,今日は違う.シンクロテストへの不安な気持ちと話し相手の

シンジが居ないと言うことでアスカは,沈みがちだった.

 控え室のドアを開けると,白を基調としたプラグスーツに着替えた,零号機パイロット,

綾波レイがすでに椅子に座って待機していた.

 アスカは,レイを一瞥したが何も言わずに椅子に座り,気持ちを落ち着かせようと努める.

 レイの方も,アスカが現れたことに気付いていたが,アスカの方を見ることもなく,無言で立ち上がり,

部屋の壁にかかっている電話機の受話器を取って事務的に連絡した.

「葛城三佐,弐号機パイロットが到着しました.」

「そう,じゃいつもの通り試験場へ行って,すぐにテスト開始よ.」

「はい,分かりました.」

 受話器を置いて,レイはアスカの方を向いた.

 相変わらずの抑揚のない口調でアスカにミサトの命令を伝えると,すぐに踵を返して試験場へと向った.

 アスカも,分かったわと答えたきり無言でレイの後を試験場へと向った.


 制御室の中のディスプレーにはプラグ内のレイとアスカの映像が表示されている.

 技術部部長の赤木リツコ博士は,コンソールに向う伊吹マヤに指示を行いテストを進めている.

 その傍らで作戦部部長の葛城ミサトがオブザーバーとして立ち会っている.

 これもいつもと変わらない風景.

 リツコは,忙しく指示を出しながらいくつかのテストを行い,データをとり終えると,

今日のテストの終了を告げた.

「そろそろ限界ね.今日はこれまでにしましょうか.後,マヤちゃんお願いね.」 

「はい,先輩.お疲れ様でした.」

 ミサトは,プラグ内の2人との回線を開いて命令を伝える.

「はい,お疲れ様.今日はここまでよ.2人とも後で制御室に来て頂戴.」

「わかったわ,ミサト.」

「わかりました.」

 アスカは,シンクロ率の結果を気にしてか,声の調子が重い.

 レイは相変わらず感情のない口調だ.

 LCLで濡れた髪をタオルで軽く拭きながら,濡れたプラグスーツのままの2人が制御室に現れた.

アスカは,ミサトの顔を見るなり不平を言う.

「早くシャワーを浴びたいんだから手短にしてよね.」

「わかってるわよ,手短な話よ.まず,今日の結果だけど,2人とも前回と変わらず.アスカは,

シンクロ率の低下が止まってよかったわね.それと零号機と弐号機の修理が完了したわ.

いつでも出撃できるわよ.」

 ミサトは,簡潔に結果だけをレイとアスカに伝えた.

 アスカは,シンクロ率が低下していなことを聞いてほっとしたが,いつもの癖でついついミサトに

強がりを言ってしまう.

「当ったり前じゃない,アタシがいつまでもスランプなわけないでしょう.」

「あらあら,頼もしいわね.まぁ,シンちゃんがいない間は2人にがんばってもらわなくちゃね.」

 ミサトが何気なくシンジの名前を口にしたことで,アスカはリツコに尋ねたかったことを思い出した.

「リツコ,シンジのサルベージっていつ実行できるの?」

「あ〜ら,アスカ,シンちゃんのことが,そ〜んなに気になるの?」

 作戦部部長ではなく,からかい好きな,アスカの同居人としてのミサトが顔を出す.

「そ,そりゃ気になって当然じゃない.シンジが居るのと居ないのとじゃ,戦力が1.5倍も違うじゃないの,

アンタ,指揮官なのにそんなこともわからないの?」

 アスカは戦略的な正当論をもって答えるが,いかんせん頬が染まっていることをアスカの倍長く女性を

やっている2人は見逃さなかった.

(若いわね.)

(まったく,かーいいんだから.それにしても,いつもは,アタシ1人で十分というアスカが,

シンちゃんを自分と同等の戦力と認めるとは,どういう風の吹き回しかしら.)

「赤木博士,いつなんですか?」

 今まで無言だったレイが,突然口を開いた.

 いつものレイと同じ淡々とした口調ではあったが,慌てたような,急っつくような響きが

含まれていることを3人は感じて思わずレイの方を見た.

 3人の視線の先にはいつもと変わらぬ表情のレイが立っている.レイは,まっすぐにリツコの方を見ており,

レイの方に視線を移したリツコと目が合った.

 リツコは視線を合わせ,赤い瞳の中から感情を読み取ろうとしたが,できなかった.

 レイの真意を読むことをあきらめたリツコは,レイの質問に答えを返した.

「2週間後よ.」

 アスカが信じられないといった顔で反論する.

「ちょ,ちょっと待ってよ,なぜそんなに早く実行できるのよ?現状把握や,理論の構築が1ヶ月や

そこらでできるわけないじゃない.もしかして前例があるの?」

「ええ,あるわ.」

 即座に答えたリツコが先を続けようとするのを,ミサトが視線で押し止めようとした.

しかし,リツコは,分かっているというと言うようにミサトをちらっと見た後,アスカに向き直った.

「10年前,実験中にシンジ君と同じように取り込まれた人がいたの.その人のサルベージが計画され,

実行されたわ.私が立ち会ったわけじゃないけど,報告書とデータが残っているのよ.

今回もそれらを元にサルベージ計画を行うからこんな短時間で実行できるの.」

 リツコが説明する横でミサトも訳知り顔で立っている.

 アスカは,リツコの説明に納得し,今回も同じ理論を使うということは前回も成功したのであろうと考えていた.

 取り込まれた人にその時の感想を聞こうと軽い気持ちで聞いてみた.

「その時は誰が取り込まれたの?」

 リツコに代わってミサトが答えた.

「碇ユイ,碇司令の奥さん,つまりシンちゃんのお母さんよ.」

「シンジのお母さん,ということは,サルベージは失敗・・・,なんで失敗した理論をまた使うのよ.

同じ事の繰り返しじゃない.アンタ達,本当にシンジを助ける気あるの?」

 シンジの母親が,シンジが小さいころに亡くなったということをアスカは知っていた.その亡くなった原因が,

サルベージ計画の失敗である,ということに即座に気付き,詰問するような調子でリツコに食って掛かった.

「今回はマギの手助けがあるから前回とは状況が異なるわ.それにね,アスカ,どんな理論を立てたとしても

サルベージ計画が100%成功するとは限らないの.非常に微妙な計画なのよ.」

 リツコがいかにも科学者らしい説明をアスカにした後,もう話すことはないというふうに,

マヤの方へと行ってしまった.

 アスカとミサトが何か言いたげな視線でリツコの背中を追ったが,無駄なことだった.

 ミサトはアスカとレイに向き直り,アスカは青い瞳をミサトへと向けた.

 ミサトはばつが悪そうに視線を外す.

 ミサトも今回のサルベージ計画についての詳細を知らされているわけではないので,

説明を求められてもどうしようもないのだ.

「まぁ,とにかく今日は解散.お疲れ様.」

 わざと明るい声の挨拶を残して,ミサトも踵を返した.

 アスカは不満だったが,ミサトはこれ以上知らない様だし,リツコは知っているがこれ以上は

しゃべらないだろう,それにアスカはリツコが苦手だったこともありこれ以上の追求をあきらめた.

 シャワーを浴びて帰ろうとドアに向って振り向いた時に,後ろにいたレイがアスカの目に入った.

 レイはその赤い瞳で,じっとリツコの背中を見つめて立っていた.


 シャワーを浴び,制服を着て身支度を整えたアスカは,なんとなくケイジにやって来ていた.

そこには弐号機にならんで初号機が拘束されていた.目の前に立つ初号機は,いつもの見慣れた拘束具を

つけられたエヴァではなく,人皮に酷似した体表を持つまさに人造の巨人であった.

 その巨人は今,シンジをその中に取り込んだまま静かに拘束されている.

 初号機に修理を施した様子はないのだが,S2機関を取り込んだ初号機の回復力はすさまじく,

使徒の攻撃によって露出していたコアは,すでに肉の中に埋没し,外面からは窺い知る事ができなかった.

 あまりに生々しいエヴァの姿にアスカは軽い嫌悪感を感じた.長い訓練期間の間も拘束具を

取り除かれたエヴァをアスカは見たことがなかったのだ.

「これが生身のエヴァ.」

 アスカは呟いた,そして,弐号機の方を見て,弐号機も中身は同じか,と言う事に思い当たった.

(アタシ達いったい何に乗って戦っているの?エヴァって何?単なる兵器じゃないの?)

 アスカの頭に沸き上がってくる疑問について,アスカが知る限りの知識を総動員するが,

到底回答が得られるはずがなかった.

 アスカは考える事をあきらめて,初号機の顔を見上げ,中にいるであろうシンジに向って叫んだ.

「こら,シンジ,早く出てきなさい.こんな美少女が待ってるんだから,出てこないと承知しないわよ!」

 馬鹿馬鹿しいとは思いながらも,叫ばずにはいられないアスカであった.

(今度はもう少しシンジに優しくしてあげるか.)


次回に続く

ver.-1.10 1998+08/30公開

ver.-1.00 1997-04/23公開

ご意見・感想・誤字情報などは okazaki@alles.or.jpまで。


 本編では支えが現れず壊れていったアスカが
 ここではシンジを思いやる余裕を持てるまで回復しています・・・・
 シンジという存在に追いつめられていた彼女が、
 彼を”戦力”とまで言えています。

 ああ、アスカちゃん。よくぞここまで・・・ヨヨヨヨ

 シンジは無事サルベージされるのでしょうか?
 壊れるアスカが無事に救われると言うオリジナル設定があるだけに
 そこの所に興味があります。

 アスカはシンジとラブラブ出来るのか?(^^)

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