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碇ゲンドウ 45歳 (後編)

Writing by HIDE






「あなたって人は、いい年をして・・・」

くどくどくど。

ユイの説教が続く。

正座をさせられて、かれこれ2時間あまり。

そろそろ足に感覚がなくなってきた。

仕方ない、一旦後退だ。

「君には失望した。」

そう言い残して私は立ち上がる。

そのときユイは、微笑みながら天井からつり下がっているひもを引いた。

今朝には見あたらなかったそれに、先ほどから私は少なからず関心を寄せていたが、不精者がよく電灯のスイッチに取り付けるあれだろうと思っていた。

だが、それは間違っていた。

そのひもが引かれた瞬間、私の頭上約1メートルの地点に金属だらいが出現していたのだ!

避ける暇はなかった。

ゴワン

30年前のコントのネタが私の頭頂部を直撃する。

たいして痛くはないのだが、精神的ダメージが著しい。

「くっ、ド○フとは卑怯な・・・」

昨夜家族で観た『ド○フ大爆笑 2015』がまずかった。

80を過ぎてヨボヨボになりながらも「だめだコリャ」を連発する、いか○や長介。

じじいであるにも関わらずジャリガキネタを見事にこなす、志○けん。

髪はなくともハゲヅラを手放すことのない、加○茶。

永遠のサラリーマン、仲○工事。

そして、高○ブーの雷様の切れ味は、30年経った今でも衰えてはいなかった。

ユイはなにやらメモを取りながら、食い入るように観ていた。

それがこう言う結果を生むとは・・・。

まずいっ!

金だらいが来たのなら、次は・・・。

朦朧とする意識の中で私が顔を上げると、灯油缶を振り上げたユイが微笑んでいた。







「あなたー。ご飯ですよー。」



「はっ!」

むっ、ここは私の部屋か?!

私は眠っていたのか?!

それにしては布団もかかっていない。

しかも、頭頂部がガンガンする。

その感覚に何故か既視感をおぼえた私は、我知らず呟いてしまった。

「ふっ、またしてもこの天井か・・・。」



リビングでは、ユイが既に食事を始めていた。

私も食卓に着く。

何か違和感を感じて私はユイに問いかけた。

「おかずはどうした。」

そうなのだ、私の前には茶碗で湯気をたてている白米のみしか置かれていない。

一方、ユイの前には唐揚げだの、焼き魚だの、私の好物が所狭しと並べられている。

「なにかおっしゃいましたか?あなた。」

ユイが春風のような微笑みをたたえて、聞き返した。

「い、いや何でもない・・・。やはり米はそれのみで食すのが一番うまい。よくわかっているではないか。」

「あら、毎日でもよろしくてよ。」

「・・・。」

おのれ、ユイ!大人げないぞ!

悔しいので目一杯食ってやることにした。

「おかわりだ。ユイ。」

「おかわり。」

「おかわり。」

ユイは黙々とよそいでくれる。

しかし、やはり米だけでは味気ない。

私は一つの作戦を実行に移すことにした。

箸であらぬ方向を指し示し、ユイに言う。

「おお、あんな所で冬月が裸踊りを・・・」

ユイがそれに気を取られている隙におかずをゲットする。

完璧な作戦だ。

私は唐揚げの皿に箸を伸ばす。

だが、それは目標に到達する前にユイの手にはたき落とされた。

「あらあら、幻覚が見えるのは痴呆の始まりかも知れませんね。ちょっと早いですが老人ホームを手配しておきましょうか?」

「・・・おかわり。」

作戦失敗。






「ただいまー!母さん、ちょっと友達連れてきたから。」

「おじゃましまーす。」

私がけだるい午後を堪能していると、シンジが学校から帰ってきた。

ユイがパタパタと玄関に出迎える。

私もシンジの後に続いた女の子の声が気になって、覗いてみることにした。

「あら、お友達って女の子じゃないの。」

ユイが嬉しそうに言う。

「うん、来週からテストでしょ。綾波は転校してきたばっかりなんだけど、前の学校で勉強が遅れてたみたいだから、教えてあげることにしたんだ。」

「シンジがアスカちゃん以外の女の子を家に連れてくるなんて、今日はお赤飯かしら。」

「か、母さん!そんなのじゃないって・・・」

シンジが連れてきた女の子は、少し恥ずかしそうにもじもじしている。

しかし、あの子はどこかで・・・。

「あ、あの、今朝はありがとうございました!」

その子がユイに向かって頭を下げる。

「えっ?ああ、そう言えば、あなたは今朝の・・・」

「ええ、ここの前でホ・・・」

そのとき、その子と私の目が合った。

にっこりと柔和な微笑みを作って見せる。

ニヤリ。

「きゃあ!」

その子は歓喜の声を上げてシンジにしがみついた。

おお、あの神秘的な紅の瞳。

思い出したぞ!

今朝、家の前で、私に声をかけられるという幸運を授けられた女の子ではないか。

しかし、『ホ』とは何だ?

うむ、わかったぞ。

きっと、『惚れ惚れするようなダンディーなおじさま』と言いたかったに違いない。




※作者注

彼女は『ホームレスの変質者』と言おうとしていました。



「ど、どうしたの!綾波!」

「い、碇君、あれ・・・」

綾波と呼ばれた少女は、私を指さしながら、再び出会えた嬉しさで感動に打ちふるえている。

「えっ?父さんがどうかした?」

「ええっ?!お父さんなの?!」

彼女の様子を見て、ユイが私の方にやってきた。

「あなた〜。ちょっと向こうに行ってましょうね。」

「う、うむ。」

ユイの微笑みには2つのバージョンがある。

傍目にはわからないのだが、長年連れ添ってきた私には、その微妙な違いが手に取るようにわかる。

身の危険を感じた私は、リビングに転進することにした。

階段を上がる音が聞こえてくる。

おのれ、シンジめ!

アスカ君のみならず、あんな可愛い娘を部屋に連れ込むとは!

私の息子なのだから、当然のことなのだが、やはり釈然としない。

私は電話を手にすると、短縮の一番を押した。

トゥルルル、トゥルルル・・・

カチャ。

「はい、惣流です。」

「ああ、アスカ君かね?私だが。」

「その声は碇のおじさまですね?電話なんて珍しいですね。どうしたんですか?」

「ああ、今、シンジの奴が部屋に可愛い女の子を・・・」

バタン!!

「おじゃまします!!」

電話は既に切れていた。

玄関の方から大音量で『THE BEAST(初号機暴走のBGM)』が聞こえてくる。

私が玄関に行ったときには、自前のラジカセを手にしたアスカ君が二階にのしのしと上がっていくのが見えた。

二階から怒声が響く。



「シンジ〜。部屋に転校してきたばかりの女の子連れ込むなんて、あんたがそんなに手が早いとは思わなかったわ!」

「そ、そんなんじゃないって!勉強教えていただけだよ!」

「あんた、いつの間に人に教えるほど賢くなったのよ!下心丸出しじゃない!!」

「う、うるさいなぁ!アスカには関係ないだろ!!」

「ぬわぁんですってぇ〜!」

「碇君も、惣流さんも、落ち着いて!」

「うるさいっ!この、女ギツネ!!」

「誰が女ギツネよ!!」

「こっそり人の物盗ろうとするあんたのことよ!!」

「へえ〜、やっぱりそうゆう関係だったんだ〜。」

「い、今のは言葉のあやよ!!」

「じゃあ、別に碇君が誰と仲良くしようと関係ないでしょ?」

「あ、綾波、あんまりくっつかないで・・・。」

「こんの、くそアマぁ〜!」




その後、しばらくしてシンジの悲鳴が聞こえ、二階は静かになった。

「ふっ、シナリオ通りだ。」

私が作戦成功の余韻に浸っていると、背後から私をつつく者がいた。

「なんだ?私は今、忙しいのだ。」

「あなた〜、ちょっとこっちへ来て下さらないかしら?」

ユイの微笑み(悪 LEVEL-MAX)だ・・・。

「はい・・・。」






「どうしてあなたはいつもいつもシンジを目の敵にするんですか!!」

決まっている。

羨ましいからだ!!

おのれ、シンジめ!!

薔薇色の青春時代を過ごしおって!!

だが、口には出せん。

金だらいや灯油缶では済まなくなりそうだからな。

「あなたって人は、昔っから・・・」

足が痺れてきた。

「毎日毎日ぶらぶらして・・・」

もう、よいではないか。

「聞いているんですか?!」

「ああ、問題ない。」

「大有りです!!せめて仕事くらい探して下さい!!お爺様の遺産だって無限じゃないんですよ!!」






碇ゲンドウ、45歳。

妻と、15になる息子がいる。

無職。

妻の財産を、食いつぶす男・・・。







Ver.-1.00
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<あとがき>

ゲンドウは48歳だそうですね。

相変わらず、いい加減です(笑)。

まあ、いいか。弐拾六話分岐だし。

A.D 2015になっても『ド○フ大爆笑』やってるかなぁ。

生きてたら、やってるでしょう(笑)。

エンディングのフィルムは40年前?(爆)




 HIDEさんの『碇ゲンドウ45歳』後編、公開です。
 

 アスカちゃんに電話したゲンドウ。

 アンタの行動は正しい!

 そもそもアスカというとびっきりの彼女をキープしておきながら、
 転校生に手を出そうとは!

 金ダライよ、シンジの上に落ちろ!!
 

 け、け、決して羨ましいからこんな事を言っているわけでは(^^;

 モラルとか、
 中学生らしい交際とかを考えてですね・・(^^;(^^;

 ・・・・嘘です。羨ましいんですよ (;;)
 

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