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碇ゲンドウ 45歳 (前編)

Writing by HIDE






私は碇ゲンドウ。

濃い顎髭と眼鏡がチャームポイントの45歳。

渋さあふれるダンディー盛り。

妻のユイと息子のシンジと共に三人で暮らしている。

以下は私のある日の回想録である。







チュン、チュチュン。

雀の声が私の心地よい眠りを妨げる。

「むっ、朝か。」

目を開き、窓の方を見ると、カーテンの向こうが薄く白みかけている。

規則正しい生活をしている私は、毎朝決まった時刻に目が覚める。

だが、今日は少々早すぎた。

枕元にあるミッキー○ウスの目覚まし時計は、AM5:22を指している。

誤解しないでいただきたいが、これは妻の趣味だ。

私はどちらかと言えばキ○ィちゃんの方が好みだ。

まだ隣で寝ているユイを起こさぬように、布団からのそのそと這い出す。

「うむ。今日も快便だ。」

私は至って健康である。

生まれてこの方、病院の世話になったことなどない。

今日も思わず長さを測りたくなるほどの大をして一日の調子を確かめる。

42センチ7ミリ。

レコードには僅かに及ばない。

顔を洗い、顔を剃る。

『のばし放題の髭ではないか。』

以前、茶飲み友達の冬月と旅行に行ったとき、そうつっこまれたが、老いぼれにはダンディー中年の身だしなみなど理解できないのだろう。

美しい髭を剃り落とすことのないように、慎重に剃刀を操る。

「うむ、今日もダンディーだぞ。ゲンドウ。」

思わず鏡に写る自分を賛美してしまった。

それも無理からぬ事だろう。

それほど私は男前なのだ。

新聞を取りに外に出る。

快晴だ。

新聞配達の青年に出くわしたので、礼儀を重んじる私は丁寧に挨拶をしてやった。

「早いな(ニヤリ)。」

さわやかな朝の日差しに思わず笑みがこぼれる。

照れているのだろう、新聞配達の青年は私に笑いかけられた嬉しさに、歓声を上げながら凄まじい勢いで去っていった。

「なかなか純粋な青年だな。だが私にその趣味はないぞ。しかし、毎朝顔を見せてやるくらいなら構わんか。」

余談だが、三日後にその青年はバイトを止めたそうだ。

リビングに戻ると、ユイが朝食の支度をしていた。

「あら、あなた。今日は早いんですね。」

「ああ。」

「シンジを起こしてきて下さいませんか?あの子まだ寝てますから。」

「ああ、問題ない。」

私は二階のシンジの部屋に向かう。

部屋ではシンジが寝息をたてている。

私に似たのだろう、シンジは幾分軟弱そうではあるが、整った目鼻立ちをしている。

私は眼鏡を外し、シンジにかけてみた。

「うむ、こうすればますます私に似ている。」

シンジの机からマジックを取り出して、シンジに髭を書いてみる。

「おおっ、瓜二つではないか。こいつは将来、私のようなダンディーな中年になるに違いない。」

「ううーん。」

むっ、いかん!シンジが目を覚ましたようだ。

私は脱兎の如く、シンジの部屋を後にした。

撤退ではない。転進だ。

私はリビングに戻り、テーブルにつくと新聞を広げた。

「起きましたか?シンジ。」

「ああ。」

ユイに生返事を返す。

私の注意は完全に新聞に向けられていたからだ。

(今夜のトゥ○イト2はと・・・、何っ?『ススキノ風俗の実体! あんなところやこんなところまで!』?! 録画して永久保存版にせねば!)



タン、タン、タン。

まだ眠そうな階段を降りる音だ。

「ふぁ〜、おはよ、父さん。母さん。」

「おはよう。」

ユイがシンジの方を見ずに挨拶を返す。

「遅いぞ、シンジ。いつまで寝てるんだ。」

そんな私の声を聞いているのかいないのか、シンジは寝ぼけ眼で洗面所に消えていく。

一瞬の間。

「うぎゃぁ〜〜〜〜〜!!」

叫び声と共に、眼鏡をかけて、髭を生やしたシンジがリビングに怒鳴り込む。

「な、な、な、何だよこれぇ!父さん!父さんでしょっ?!」

「似合ってるぞ、シンジ。」

「『似合ってるぞ』じゃないよ!僕は今日、学校があるんだよ!」

これくらいで頭に血が上るとは、我が子ながらケツの穴の小さい奴だ。

別に試したりした訳じゃないが。

・・・あの時は惜しかったな、ユイに邪魔さえされなければ・・・。

「あらあら、どうしたの。」

シンジの声に驚いたユイが、エプロンで手を拭きながらこちらにやってくる。

なかなか主婦しているではないか。

私はこういうのも好みだ。

ユイがシンジの顔を一目見て口元に手を当てる。

「・・・ぷっ、シンジ、似合ってるわよ。」

「何だよ!母さんまで!」

「落ち着きなさいよ、シンジ。それ、水性ペンでしょ?洗えば落ちるわよ。」

シンジとユイのやりとりを聞いて、私はペンを選ばなかったことを悔やんだ。

「さあ、早く顔洗ってらっしゃい。アスカちゃんにそんな顔見られたら何言われるかわかんないわよ!」

シンジはまだ釈然としない表情をしていたが、『アスカちゃん』の一言が効いたのだろう、しぶしぶ洗面所に戻って行った。

「ふっ、尻に敷かれおって。」

「何か言いました?あなた。」

「・・・いや、何でもない。」

わっ、私は違うぞ!

妻を立ててやってるだけだ!

シンジの用意が済み、朝食もできあがって、家族で食卓を囲む。

私は新聞のテレビ欄に、まだめぼしい番組が残ってないか、隅から隅までチェックしつつ箸を伸ばす。

「あなた、御行儀悪いですよ。シンジがまねしたらどうするんですか。」

「ああ、問題ない。」

「だれが父さんのまねなんかするもんか!もう、あんなことやめてよね!」

和やかなムードで会話が弾む。

これぞ、日本の食卓と言うものだ。

そのとき、玄関の方から、まるで今日の天気のように、晴れやかな、明るい声が響く。

「おっはようございま〜す!おっじゃましま〜す!」

そう言って我が碇家のリビングに顔を出したのは、青い瞳と赤みがかった金髪の少女。

惣流・アスカ・ラングレー。

我が碇家のお隣さんであり、シンジの幼なじみだ。

殺人的なまでに可愛い。

「おはようございます、おじさま、おばさま。シンジ、用意できた?」

おじさまと言う響きが心地いい。

「あっ、ちょっとまって、もうすぐ。」

シンジは残ったみそ汁を飲み干すと、鞄をひっつかんで立ち上がる。

「それじゃあ、行って来ます!おじさま、おばさま。」

「行って来ます。」

礼儀も正しい。いい娘だ。

「ああ。」

「行ってらっしゃい」

我々が挨拶を返すと、アスカ君はシンジの襟首を掴んで引きずって行った。

「いい娘よねぇ、アスカちゃん。あんな娘がシンジのお嫁さんになってくれたら言うことないんだけど。」

私は、『アスカ君はシンジにはもったいない!むしろ私の2号さんにこそふさわしい!』と思ったが、口には出さなかった。

それが大人の男と言うものだ。

だっ、断じてユイが怖いのではないぞ!

「さてと・・・」

「あら、あなた。お出かけですか?」

「ああ、天気もいいことだし、少し散歩してくる。」

「そうですか。」

ユイの声は冷たい。

その理由は後に証すとしよう。

ユイの冷たい視線を受けて家を出た私は、我が家の前で道にうずくまる少女を見つけた。

アスカ君と同じ制服だ。

シンジと同じ学校の生徒だろう。

心優しい私はすぐに声をかけた。

「もしもし、どうしました?おぜうさん。」

「あっ、すいません。ちょっと持病の癪が・・・。」

そう言ってこちらを見上げる。

幻想的な紅い瞳に、スカイブルーでショートの髪。

その面立ちは若いころのユイにそっくりだ。

可愛いではないか!

これはチャンスだ!

時計の針は戻す事はできん。だが、自ら進める事はできる。

今こそ素敵な2号さんをゲットするのだ!

「それはいけないな。どれどれ、おぢさんにちょっと見せてみなさい(ニヤリ)。」

最高の微笑みを作ってみせる。

これで落ちない女はいない。

ユイもこれで落とした。

「ひぃぃ!結構ですぅ!もう大丈夫ですぅ!」

恥ずかしがり屋さんのようだ。

病気でよほど気分が悪いのだろう、妙な汗をかいている。

「遠慮する事はない。おぢさんがさすって・・・」

ゴワィン!!バシャァ!ガラン、ガラン。

頭頂部に凄まじい衝撃を受け、さらにびしょぬれになって私は気を失った。

意識を失い、仰向けに倒れる直前、私の目と耳に入ったのは、微笑みつつ二階の窓から両手を出したユイの姿と、金属だらいのような物が勢いを余して転がるような音だった・・・。








「はっ!」

むっ、ここは私の部屋か?

私は眠っていたのか?

それにしては布団もかかっていない。

しかも、頭がガンガンする。

おまけに、半乾きの服が気持ち悪い。

カチャ。

部屋のドアが開く。

そこから現れたのは、微笑みを浮かべたユイだった。

もう40になろうかというユイは結婚したときとほとんど変わっていない。

私は時々、ユイが怪しげな魔法を使っているのではないかと心配することがある。

あるいは、碇ユイとは仮の姿で、実は彼女はサザ○さんなのでは?と思うこともある。

話が逸れた。

ともかく、ユイの微笑みは世のほとんどの男を魅了するに足る。

そのこめかみに浮かぶ青筋さえなければ・・・。






つづく
ご意見・ご感想は hide@hakodate.club.ne.jpまで!

<あとがき>

ちょっと息抜きにこんなもの書いてみました。

舞台設定は言うまでもなく、あれ(笑)。

あんまり好きじゃないんですけどね。逃げちゃだめだ。

さあ、お茶目なゲンドウが繰り広げるドタバタコメディ!(笑)

正確な年齢がわからないので語呂がいいところで45歳。

おまけに最初は一本のつもりだったけど、結局前後編。

後編をお楽しみに!



 HIDEさんの『碇ゲンドウ45歳』公開です(^^)
 

 春映画の続きを描いている『未来のために』。
 もうすぐ夏映画が始まってしまう・・・・

 HIDEさんガンバレ!
 映画公開に作品完結が間に合わなくなってしまいます(笑)
 ・・・・・・・なんて言ってみたりして(^^;
 

 そののっぴきならない状況で書き上げられたこの作品。
 ゲンドウが・・・・・・・きしょい(^^;
 

 行動から、
 台詞から、
 心の内から、

 お前はお前はぁぁぁ 

 シンちゃん、アスカちゃん、そしてレイちゃん・・・・
 毒牙にかからないでね(^^;
 

 さあ、訪問者の皆さん。
 新作に挑むHIDEさんを感想メールで力付けて下さいね!


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