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 神は何故に人を造り賜うたのか?

 

 

・・・不可知なり・・・ 

 

 人は何処へ行かんと欲するや?

 

 

・・・不可知なり・・・ 

 

 人の生にいかなる意義ありや?

 

 

・・・不可知なり・・・ 

 

 汝の生にいかなる意義ありや?

 

 

・・・・・不可知なり・・・・・ 

 


【2・EARS・FTER】 第拾七回


作・H.AYANAMI 


 −戦略兵器研究所・医官執務室

 シンジは硬直したまま老人の顔を見つめ続けている。彼は圧倒されていたのだ、老人から発せられている得体の知れないエナジーなようなものに。

 ・・・ようやく、シンジは口を開く。
 「僕が・・・神に、なるですって?」

 老人は頷いた。
 「そうじゃ、お前には神になる資格がある。・・・より正確に言えば、お前は神の血を受け継ぐものなのだ」

 シンジには理解できないことばかりだった。しかし・・・・・、

 (血・・・・・血を受け継ぐ・・・・・!?)

 その言葉は、シンジの心の奥底の何かに触れたらしかった。繰り返しその言葉が脳裏に響く。

 (血・・・血・・・血・・・血を受け継ぐ・・・・・受け継がれる血!?)

 シンジは目を見開く。思わず立ち上がっていた。

 「お祖父さん!、教えて下さい。血って、僕に受け継がれた・・・その神の血って、何ですか!?」

 今まで大人しかったシンジが、突然興奮した様子を見せたことに橋元は僅かに眉は動かした。だがすぐに元の表情に戻って尋ねた。
 「どうしたのじゃ、シンジ。何か思い出したのかね?・・・とにかく座りなさい」

 シンジは老人の顔を見た。穏やかに見つめるその目に、シンジは落ち着きを取り戻した。

 「あ・・・すみません」

 シンジは自分が立ち上がっていることに改めて気づいた。もといた席に腰掛けた。

 ごく穏やかに、老人は先ほどの問いを繰り返す。
 「シンジ、何か思い出したことがあったのかね?」

 だが、シンジは頼りなげにこう言っただけだった。
 「いえ・・・ただ以前にも、そんな風に言われたことがあったような気がして・・・」

 「そうか・・・」

 老人は少しの間黙り込み、そして続けた。
 「シンジよ、碇の家の者には確かに神の血とも言うべきものが流れている。それは人々の意識に、直接に働きかけることのできる力じゃ。まだ発現してはおらんようじゃが、ワシがそれを呼び起こしてやるからな」

 シンジは不安げに老人の顔を見た。
 「・・・僕にそんな力があるなんて・・・信じられません・・・」

 それに対して老人は強く言った。
 「シンジよ、お前にはもう悩んでいることなど許されないのじゃ。お前は自己の内なる力を信じ・・・ひたすら自己の救世主たるを信じていかなければならない」

 「僕が救世主!?」

 「そうじゃ・・・世界中のすべての人々が、お前の思いを共有することで、過剰な欲望から解放される。世界の人々は、それと知らずに、お前の意思に従うのだ。・・・既存の宗教の神なそは概念でしかないが、それとは違う。お前の意思は人々にとって絶対のものとなる・・・」

 「僕の・・・意思?」

 「・・・そうじゃ。お前は人類の存続を望むじゃろ?」

 「・・・ええ」

 「人々が苦しみから解放されれば良いと思うじゃろ?」

 「・・・はい」

 「お前は強く念ずれば良い。”過剰な欲望を捨てよ”と」

 「・・・・・はい・・・・・」

 シンジは曖昧に頷いた。彼は不安だったのだ。
 自分がどこの誰かも分からない・・・なのに、そんな自分がただ念じるだけで世界の人々を苦しみから救う救世主であるなどと、容易に信じることが出来ないでいた。

 老人は、シンジの不安をすぐに見てとったようだった。

 「お前は何も心配すること無いぞ、シンジ。このワシがすべて用意してあるからな」

 老人はそう言うと、傍らに置かれた杖の枝を握りしめた。

 一瞬の後、その部屋の扉が開かれた。黒服の男たちとそして医官が部屋に入ってきた。

 老人は短く言う。

 「押さえろ」

 黒服の男達が素早くシンジに近寄り、両側からその身体を押さえつけた。

 シンジは驚きの声を上げた。
 「な、何をするんです!!」

 老人は極穏やかにに言った。
 「何も心配することはない。しばらく眠ってもらうだけじゃ・・・目が覚めたとき、お前は自らの力に、自らの役割に何の疑いも持ってはいないじゃろう・・・」

 老人がそう話す間に、いつの間にか医官がシンジに近づいていた。その手には注射器が握られている。

 シンジはそれに気づき声を上げる。
 「や、止めて下さい!」

 だが、医官は動じる気配を見せず、無造作といえるほど自然な動作で注射器をシンジの腕に突き立てた。

 「うっ」
 小さなうめき声を上げ・・・シンジは意識を失った。

 

 −同研究所・大深度施設内拘禁室

 加古はあてがわれたベッドに横たわり目を瞑っていた。顔は天井の照明から影となるように、一方の壁に向けている。・・・だが決して眠っている訳では無かった。
 ”眠った振り”を続けることで、この部屋を監視している者を多少なりとも油断させられればと考えての”体勢”であった。

 そうして、加古は先ほどから、現在の状況について考えていた。

 既に、加古は自分がいまいるこの場所が、松代の戦略兵器研究所であることを確信していた。絶対の根拠は無かったが、状況から見て今度のことがEVAと無関係だとは考え難い。ここがEVAの保管場所である戦兵研である可能性は極めて高いと思われた。

 それにと、加古は思った。
 (ここの空気の匂い・・・EVAのケージと同じだ・・・)
 EVAのある場所に特有の何かが、ここにも確かにあると加古は感じていた。

 (ここが戦略兵器研究所ならばこちらにもシナリオがある。勝算はあるはずだ)

 加古は、自分の意識の中に”余裕”が生まれたことを好ましく感じた。だが同時に一つの問題点にも気づいた。
 それは,シンジがどこに連れ去られるたのか──おそらくさほど遠くに連れて行かれてはいないだろうが──現時点では分からないこと、そして自分が今、監禁されているこの場所の詳細な位置を、ミサト達に知らせる術が無いことだった。

 (何とかここを脱出して・・・葛城達と合流することはできないだろうか?)

 加古は、ミサト達が既にここへ進入していると確信していた。
 そして、改めて自分の、この部屋からの脱出の可能性について検討し始めた。

 

 −同研究所・排水管内

 行程のほぼ半分までは順調だった。4人は500メートルを3分で駆けていた。極緩い勾配であったのでミサトもなんとかついてゆくことが出来た。

 突然、一番前を走っていた日向マコトが声を上げる。
 「前方に障害物!!」

 声は管内を響きわたる。他の3人は驚いて立ち止まった。そろって前方を見た。

 其処には鋼鉄製と思われる六角形の編み目を持つ金網があり、4人の行く手を完全に塞いでいた。

 ミサトが声を上げる。
 「ちょっとぉ、何よこれ!!」

 マコトがそれに答える。
 「こんな物は設計図面には無かったものです・・・でも、大丈夫です。こんなこともあろうかと・・・」

 そう言いながら、マコトはベルトポーチから紐状のものを取り出す。

 ミサトは一目見るなり、それが何であるかを見抜く。
 「紐状爆弾ね」

 「そうです。高熱を発生するタイプのものです・・・青葉、これをそっちに回してくれ」

 「了解」

 二人は2メートルほどの紐状爆薬を楕円形に、人が通れる形に金網に張り付けてゆく。それが終わると、マコトは、2本の電極で出た小さなボックスを取り出して見せる。

 「みんな下がって、10秒で点火します。出口に向かって走って下さい」

 「分かったわ」

 ミサトのその言葉を合図に、レイやシゲルは出口に向かって走る。一歩遅れてミサトが、そして時限ヒューズを差し込んだマコトが最後に続く。

 (8・・7・・6・・5・・4・・3・・2・・)「みんな伏せて!!」

 頭の中で残り病数を数えていた、マコトの叫び声に全員がその場に伏せる。

 直後、閃光が走った。続いて鈍い爆発音。

 閃光は一瞬管内を明るく照らし出した。目を瞑って伏せていた4人にもそれは感じることが出来た。だがすぐに暗闇が戻ってくる。4人は起きあがった。すぐに金網の在った場所に駆け戻った。

 金網は一見したところ何の変化も無いようだった。ただ爆薬が燃焼した後が黒く残っているだけの様に見えた。

 ミサトが誰に言うと無く呟く。
 「駄目だったのかしら?」

 シゲルが答える。

  「いえ、成功です」

 そう言いつつ、金網の”焦げた”部分の中心を蹴った。

 「ガッシャーン!!

 管内全部に響くような音をたてて、その部分が向こう側に転がった。

 ミサトが自分の時計を見て言った。
 「1分ロスしたわ。急ぎましょう」

 シゲルを先頭に、ミサト、レイ、マコトの順に穴をくぐり抜けて、4人は残りの行程を急いだ。

 

 −同研究所・大深度施設内

 その部屋の中央には棺のような長方形のケースが置かれている。ケースの大部分は強化プラスチックの透明なカバーで覆われている。
 その中にシンジは横たわっていた。無論意識は無い。

 ケースの周囲には数人の男達がいた。白衣を着た者が3人──うち一人は先ほどの医官だったが、あとの二人は橋元が呼び寄せた、内閣諜報室の洗脳のエキスパート達だった。
 3人はシンジの身体に付けられた各種のモニターから送られるデータに見入っていたが、やがて互いの顔を見、頷きあった。

 一人が振り返った。
 「閣下、準備が整いました」

 彼らの後ろに設えられた椅子にどっかりと腰を下ろしていた橋元は鷹揚に頷いた。
 「始めたまえ」

 白衣の男の一人が傍らに置かれた機械のスイッチを入れた。間もなく低い音がシンジの入れられたケースの中に流れ始める。
 外に漏れだした僅かな音からは、それが一定の周期で繰り返されていることが分かるだけで、それがどのようにシンジに影響を与えるのかを想像するのは難しかった。

 老人が尋ねた。
 「どれぐらいかかる?」

 先ほど、準備の完了を告げた男が再び振り向いた。老人の問いに答える。

 「通常ならば2時間ほどで十分です・・・しかし、それはあくまでも目安です。この少年の自我の在りようによっては、もう少しかかるかもしれません」

 「・・・分かった」

 老人は頭を巡らして傍らの護衛の一人に命じる。
 「MAGIの搬入時刻を繰り上げろ、到着までどれくらいだ?」

 「はっ、すぐに現地に命ずれば、2時間で到着可能かと」

 「うむ」
 老人は微かに頷くと、杖を握り直す。
 「・・・少し疲れたな・・・博士達の到着までしばらく休むとするか・・・」

 杖を床に突き、老人は立ち上がった。白衣の男達に向かって言う。
 「それでは、後を頼む」

 「「「はっ」」」
 白衣の男達は橋元に向かい”最敬礼”を返した。

 老人は二人の護衛を従えて、その部屋を後にした。

 

 −旧第三新東京市跡地・仮設宿舎

 リツコは結局、再び眠ることが出来ずに、マヤを起こさぬように気を付けながら着替えを済ませた。一人宿舎を出る。

 彼女の足はやがて、MAGI3基の保管場所へと向かっていた。

 そこでは、既にMAGI搬出の為の作業が進められていた。大型トレーラーがMAGIを納めたコンテナを引き出している。

 リツコは作業を指揮している軍服の男に近づく。
 「お早う・・・随分早いのね?」

 男が振り向く。
 「ああ、これは、赤木博士・・・今ご連絡を差し上げようと思ってたところです」

 「・・・松代から連絡が入ったのね」

 「はい、可及的速やかに、MAGIの搬送を実行せよとのことです」

 リツコは僅かに眉をひそませる。事前に自分に連絡が無かったことで、彼女は自分がここではオブザーバーでしか無いことを改めて思い知らされたからだ。
 「・・・・・分かったわ。で、発進時刻は?」

 「はい、0400(マルヨンマルマル)を予定しております」

 その時刻まであと1時間も無かった。すぐに宿舎に戻り、ここを引き払う準備をしなければならない。念のため男に尋ねる。
 「私たちも一緒に行けるんでしょうね?」

 軍服の男はその問いに慇懃に答えた。
 「はい、勿論です。輸送ヘリ3号機にお二人の席をご用意してあります」

 「了解したわ」
 リツコはわざとらしくきびすを返した。靴音を響かせ宿舎への途を戻っていった。

 

 

 リツコが部屋に戻ると、マヤは既に起き出して着替えをしていた。

 マヤが振り向いた。
 「あっ、お早うございます、先輩。どこに行かれてたんですか?」

 「・・・お早う。起きたのね、マヤ。ちょうど良かったわ」

 「・・・?」

 「予定が早まったわ。4時に出発よ」

 マヤはやや驚きの表情を見せる。
 「・・・急ですね・・・あの方のご意向ですか?」

 リツコはやや投げやりに答えた。
 「多分ね。ご老人は気が短いから」

 マヤは一瞬意外なものを見るような目でリツコを見た。だがすぐに表情を戻した。

 「撤収の準備、急がないといけませんね」

 「・・・そうね」

 二人は自分達の荷物をロッカーから取り出した。ごく短期の出張であったので二人の荷物はそう多くなかった。

 手早く荷物をまとめると二人は部屋を後にした。

 

 

 午前4時、先ず護衛の戦闘へり6機が離陸を開始した。闇の中を赤い点滅灯が爆音と共に次々と地表を離れて行く。

 続いてMAGIの各ユニットを搭載した大型輸送ヘリの離陸が開始された。1号機、2号機と、その巨大なシルエットが夜明け前の暗い空へゆっくりと上がって行く。
 最後はリツコとマヤ、そしてMAGIカスパーを載せた3号機だった。その重量をものともせずに機体は轟音と共に上昇していった。

 3基の大型ターボシャフトエンジンの発する轟音は容赦なくリツコ達の乗るキャビンにも侵入していた。パイロット、コ・パイ以外はヘッドセットも付けていなかったので、”客席”の誰一人として話をする者も無かった。

 リツコは窓の近くに席を取り、じっと外の闇を見つめていた。


 ・・・不意に、リツコは、窓の闇の中に自分の顔をじっと見つめている”目”に気づく。その目はひどく不安げに、リツコには見えた。

 リツコは振り向くと、その目の持ち主の耳元に唇を寄せて言った。
 「どうかして?マヤ」

 「・・・何でもありません」
 マヤは気弱げな笑みを浮かべながら首を左右に振ると、視線を逸らしてしまった。

 「マヤ・・・」

 リツコはすぐに知る、マヤの心に自分に対する何らかのわだかまりのあることを・・・そう言う意味ではマヤは嘘をつけない人間だった。

 リツコはマヤを今回の件に巻き込んだことに対して心の咎めを感ずる。だがEVAの復元に当たってマヤの能力は必要不可欠なものであったことも事実だった。

 (済まないわね、マヤ。・・・もう少しだから・・・もう少しだけ手伝ってちょうだい)

 リツコは心の中でマヤに詫びた。

 

 既に、編隊は富士五湖の上空を通過しつつあった。

 

 −再び、戦略兵器研究所・排水管内

 先ほどと同様の障壁3つを突破して、4人は排水管の末端に到達しようとしていた。
 残り時間はあと1分ほどになっていた。

 排水口末端の調整用水槽、其処は直径10メートルあまりの円柱状の空間だった。4人は上を見上げた。

 4人の視線の先にあったのは天井近くに設けられたガス抜き用エアダクト、それが施設内へ直接進入するための”入口”だった。

 マコトが他の3人を促す。
 「時間がありません。急ぎましょう」

 ミサトが応える
 「分かってるわ」

 4人はバックパックからツールを取り出す。それは一種の折り畳み式の銃だった。
 その先端に水中銃の銛に似た棒状のものが装着されている。

 マコトは素早く組立を終えると、その”銛”にワイヤロープを接続し、ミサトに手渡した。
 「御願いします」

 「分かったわ」

 ミサトは銃を構える。目標はダクトの”羽”の間だ。息を詰め、慎重に狙いを定める。

 彼女の人差し指、その第二関節が引鉄を引き絞った。

 「プシュ」
 僅かな発射音を残して”銛”が発射された。ワイヤもまた弧を描いて空中を飛んだ。

 ミサトの腕は確かだった。ダクトの”羽”の間を通過した。

 「よっしゃあ!!」
 思わず快哉の声を上げるミサト。

 『ミサトさん・・・』
 今までじっと3人の作業を見つめていたレイが声をかけた。

 ミサトが振り向いた。レイの顔を見てすぐにその意思を察した。
 「すぐやるわ」
 そう言いながら、ミサトは銃のスイッチを操作した。ワイヤに組み込まれた光ファイバを通して信号が送られる。瞬時に”銛”の先端が十字型に開いた。

 ミサトは銃のインディケータによってそれを確認すると、シゲルに声をかけた。
 「青葉君!」

 「はい」
 シゲルは床に残された余分のワイヤを持ち上げると、力いっぱい引っ張った。

 「カチャ」
 意外なほど軽い音と共に”銛”の先がダクトの”羽”に引っかかった。

 シゲルは更に、二度三度とワイヤを引っ張った。ミサトの方を振り返る。
 「大丈夫です」

 ミサトが間髪入れずに言った。
 「今度はマコト君からよ!」

 「はい」
 ワイヤを伝いマコトはすぐに上り始めた、その時だった。シゲルの腕時計が小さな警告音を発した。
 大声で、シゲルが叫ぶ。
 「タイムアップです!ポンプが再起動します」

 「マコト君急いで!、青葉君、レイを御願い」

 ミサトがそう叫ぶのを合図にしたかのように、調整水槽に水が流れ込み始めた。

 

 −再び、同研究所・大深度施設内拘禁室

 「ぐおおー」

 突然、雄叫びにも似た声を上げて、加古はベッドの上でのたうち始めた。両手で腹を押さえ全身を痙攣させている。ベッドのスプリングがキシキシと音を立てる。

 遂に加古はベッドから転落した。狭い床を転げ回り、やがて海老のように身体をそり返すと動かなくなった。

 

 その部屋をモニタで監視していたのは、一人の下士官だった。彼の上官は既に仮眠室に去っていた。加古が動かなくなったのを確認すると、上官を起こさずにことを処理しようとした。

 拘禁室前の歩哨に連絡をとった。
 「・・・中の奴の様子がおかしい。意識を失って床に倒れてる。確認してくれ」

 「了解」

 部屋の前にいた二人の兵士、そのうちの一人は腰の拳銃を抜いた。もう一人が部屋の電磁ロックを操作する。
 やや重々しい音を立てて扉が開く。

 二人はゆっくりと部屋の中に入っていった。見ると加古はベッドの間の狭い空間に横たわっていた。まったく動きを見せない。
 拳銃を持った兵士はそれを加古の方に向けたままひざまずき、加古の顔をのぞき込もうとした。

 

 瞬間、加古は目を見開いた。かがみ込んだ兵士との視線が交錯する。兵士は驚いて銃を構え尚した。
 しかし兵士が引鉄を引く前に、加古の振り上げた手刀、その力を込めた指先は兵士の喉元を”貫いて”いた。兵士は銃を取り落として後ろ向きになって倒れた。

 二人目の兵士は加古に向けて拳銃を発射しようとした、が、加古に一撃を加えられた兵士の身体がぶつかってきたために、銃口は加古の方から大きく逸れ・・・そのまま弾丸が発射された。
 「ズキューン!!」

 加古はそれを見逃さなかった。素早くを立ち上がると、二人目の兵士に向かって突っ込んでいった。
 体勢を立て直す暇もなく兵士は加古のタックルを受けて後方へ吹き飛んだ。加古もまた自分を支えるものも無く前方に倒れ込む。

 拘禁室が極めて狭かったことが兵士には不利に働いた。彼が床に倒れてしまう前に後ろには鋼鉄製の壁面が迫っていた。彼は後頭部を壁面に激突させ、そのまま壁に背中をもたれさせたまま崩れ落ちた。彼は既に意識を失っていた。

 その時、のどを押さえながら先の兵士が、ふらふらと起きあがろうとした。
 床に倒れていた加古は再び起きあがった。振り向こうとした兵士の首筋に手刀の一撃を加えた。兵士は再び倒れ・・・今度は起きあがらなかった。

 加古は床に落ちていた二丁の拳銃を拾い上げると、部屋を飛び出した。

 

 既に施設内には非常事態を告げる警報音が鳴り響いていた。

 警報音に重なって興奮したアナウンスが響く。

 「こ、拘禁室から脱走者!!、か、各保安要員はB9エリアに急行せよ」

 加古は走りながら、自分の現在位置を確認しつつあった。彼が記憶しているこの大深度施設は各階がほぼ同じ造りになっている。加古はある施設を目指して走っていた・・・。

 



つづく ver.-1.00 1997- 12/06

ご意見・感想・誤字情報などは 綾波 光 まで。


 【後書き、本当は言い訳】

 最後までお読みいただき有り難うございました。

 気が付けば、前回の更新から1ヶ月以上が経ってしまいました。お待ちいただいていた方には本当に申し訳なく思っています。改めてお詫び致します。

 物語の進行上、今回はどうしても苦手な”アクション”を書かねばならず、どうにも、イメージした動きをうまく言葉に出来ずに悩みました。
 何度かトライ&エラーを繰り返して・・・・・結果、この程度です。笑ってやってください(^^;;)。

 今回は”地に落ちた”加持(加古)の名誉を回復させる為に、彼には脱出してもらいました。果たして無事ミサト達と合流できるのでしょうか!?

 

 改めて言うまでも無く、EVAのキャラ達は、それぞれにとても魅力的なのですが、それを作者の「世界」の中で表現しようとすると非常に難しいものがあります。
 その主たる理由は、作者自身の能力の不足によるものです。恥ずかしいことですが、正直おのれの力の無さに絶望して辞めてしまいたくなることもしばしばあります。

 それでも、このような拙い物語を支持して下さる多くの方の応援で、何とか今日まで書き続けることができました。今後とも、御支持を励みに完結まで精進いたしたいと思います。

 何より皆さんのご意見・ご感想だけが頼りですので、何とぞ宜しく御願い致します。m Q m


 綾波さんの【2・YEARS・AFTER】第拾七回、公開です。
 

 
 どうにか動き出せた加持さん、
 今度こそ、腕利きの名に恥じない活躍を見せてくれるのか!
 

 ここまでらしくない失敗を繰り返してきました彼ですが、
 ここまで信じられない失策で名を汚してきた彼ですが。

 今度こそ。今度こそ。
 

 無事脱出した加持。
 潜入したミサト達と合流して・・

 今度こそ!
 

 さあ、訪問者に皆さん。
 綾波さんに感想メールを送りましょう!


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