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 遙かな太古、彼方よりこの国に渡ってきた一群の人々がいた。

 

 彼らは常人には無い”力”を秘めていた。

 

 彼らの”力”・・・それは人の心に触れそれを改変しうると言うものだった。

 

 彼らの”力”は常に権力と共にあってこの国を動かし続けていた。

 

 だがこの一世紀あまり、その”力”が使われることは無かった。

 


【2・EARS・FTER】 第拾四回


作・H.AYANAMI 


 

 −橋元リュウイチロウの屋敷

 

 レイが未だ目覚めてはいない時刻、一台のトラックが屋敷の正門をくぐって中に入っていった。

 そのボディにはその名を聞けば誰も知っている某運送会社の名が大書してあった。

 車が玄関前に停止すると、運転席から作業着を男が一人降りてきた。運送会社のユニフォームはその男にはいかにも不似合いだった。

 屋敷内から一群の男たちが出てきた。彼らは素早くトラックに近づくと後部の扉を開け、中から黒い棺のようなコンテナを二つ取り出すと屋敷内に運び込んだ。

 作業着の男は”棺”の後を追って屋敷内に入っていった。

 コンテナの一つはシンジの縛められている部屋に運び込まれた。

 

 橋元リュウイチロウがその部屋に入ってきた。作業着の男が老人に向かって挨拶する。

 老人は軽く頷くと、説明を促す。

  「この”棺”かな。人の”気配”を消す装置というのは?」

 科学者であるその男は、老人の”非科学的”な表現にいささか呆れながら答えた。

  「・・・その通りです、閣下。人の持つ放射性の生体エネルギーはこのコンテナの中からは放出されません」

 そう言いながら、男の一人がコンテナにつけられたスイッチを押した。油圧装置が働き蓋が上方に開く。

 中には赤みを帯びた液体が満たされている。

  「これが赤木博士が新たに開発されたLCL−γです。この液体の持つ負触媒効果によって中の人間の生体エネルギーは・・・」

  「分かった。すぐに始めてくれ」

 なおも説明を続けようとする男を老人が遮った。

 話の腰を折られ、男はいささか気分を害した様だった、だが抗うことなく作業を始める。

  「念のために目的地到着まで眠らせておいた方が良いな」

 老人の言葉に部下の男たちはすばやく反応する。意識のないシンジの腕に注射器が突き立てられる。

 それが済むと、男たちはシンジの縛めをといて彼の体をコンテナに移す。

 顔をLCLに浸けられるとき、意識の無いはずのシンジは一瞬苦しそうに身じろぎをした。だがすぐに落ち着いて液体の中に沈んでいった。

 作業着の男がモニタ装置を一瞥する。

  「大丈夫です。呼吸・心拍共に安定しています」

 老人が応じた。

  「よし、隣の部屋の男の方も頼む」

  「わかりました」

 

 到着からきっかり15分後、トラックは再び橋元の屋敷の門をくぐりどこかへ走り去っていった。

 それから5分後、今度は黒塗りのサルーンが同じく屋敷の門を出てきた。

 車はトラックとは反対方向に走り去った。

 

********
 

 

 −第二新東京市中央病院

 集中治療室前の廊下に設置されたベンチにレイは座らされている。

 すぐ近くには担当医師とヨシエが立ち、先ほどから話し続けている。

 医師が言った。

  「ですから、退院は許可できません。今日一晩様子を見た上で明日もう一度、精密検査をした上でないと」

  「ですが、レイ様のご様子をみる限り大丈夫だと思いますが」

 先ほどから同じ様な問答を繰り返したのだろう。医師は辟易したようにため息を吐く。

  「・・・もう一度申し上げますが、精密検査をした上でないと大丈夫かどうかを判断するのは危険です」

  「それではいますぐ、その精密検査というのをしてくださいませ」

  「それも不可能です。検査技師はみな帰宅してしまいましたから」

  「なんとか呼び出していただく訳にはまいりませんか」

 ヨシエは尚も畳みかける。

  「そんなことできる訳はありません。ここは公立の病院ですよ。一患者のわがままにいちいち応じられる訳無いじゃないですか!」

 ついに我慢の限界が来たのだろう、医師は思わず声を荒らげる。

 その時、押し黙っていたレイが声を発した。

  『・・ヨシエさん』

 レイはヨシエを手招きした。ヨシエは前屈みになりレイの口元に耳を寄せる。

  「・・・はい・・・はい、分かりました・・・ではそのように」

 ヨシエは医師に向き直って言った。

  「わかりましたわ。先生のおっしゃるとおりにいたします」

  「・・・ご理解いただけて恐縮です。では看護婦に病室へ案内させます・・・」

 

**
 

 −約1時間後・レイの個室

 病室には、形ばかりベッドに横臥するレイとヨシエとそして運転手の田中夫妻がいた。

 

 田中の妻は先ほど夫に呼び出されここへ来たばかりだ。何故かその年齢には相応しくないような水色のワンピースを着ている。

  「ミサエ、早速だが服を脱いでくれ」

 あまりに直截なその物言いを、ヨシエがたしなめる。

  「田中さん、奥さんばかりではなくレイ様もお着替えになるのですよ」
  「貴方は扉の外で、誰か来ないか見張っててください」

  「・・これは失礼いたしました」

 田中はレイに対して詫びの言葉を述べると部屋を出て行く。

 レイがベッドから立ち上がった。

  『・・ミサエさん、お願いします』

  「はい」

 レイに促され、ミサエは着ているものを脱ぎだした。レイも自分のパジャマを脱ぎ始める。

 ヨシエに手伝ってもらいレイは手早くミサエの着ていたものを身につける。

 ミサエはレイの着ていたパジャマを身につけるとベッドに横たわった。

 ヨシエが言った。

  「ミサエさん、それじゃあお願いします」

 ミサエのスカーフで髪を隠し終わったレイがヨシエに向かって言った。

  『ヨシエさんはここに残っていて』

  「まあ、なぜですの」

  『一緒にヨシエさんが出ていったら、疑われるかもしれないもの』

 レイの言い分はもっともなことだった。連絡を受け病院へ駆けつけて以来、ヨシエはレイの傍らを決して離れることはなかった。

 いくらレイが意識を取り戻したからと言っても、そんなヨシエが急に帰ることを不審がるものがいるかもしれなかった。

 渋々ではあったがヨシエはレイに言い分が正しいことを納得した。

  「・・・分かりましたわ。レイ様」

 レイは微笑んで言った。

  『心配しないでヨシエさん・・・きっと碇君と一緒に帰ってくるから』

 レイは病室を出た。田中に声をかける。

  『行きましょう』

  「はい、まいりましょう」

 二人は誰からの誰何を受けることも無く、無事、病院の建物を出て駐車場に向かった。

 

**
 

 

 運転席から田中が聞いた。

  「どこへまいりましょうか?取り合えず、お屋敷へ戻りますか?」

 後席に座るレイは即座に言った。

  『食糧生産性研究センター、大淀所長のところへ行ってください』

  「はっ?はい」

 本当の事情を知らない田中はレイがなぜ大淀の元へ行こうとするのかが分からなかった。

 だが有能な運転手らしく必要な助言をする。

  「この時間ですともうご自宅にお帰りかもしれません。連絡してみますか?」

  『・・・はい、そうしてください』

  「かしこまりました」

 田中はダッシュボードの受話器をとって研究所へ電話する。

  「・・・では、これからすぐにまいります。はい、それでは」

 田中は電話を終えると言った。

  「まだ、研究所にいらっしゃるそうです。レイ様をお待ちくださるとのことです」

  『・・・お願いします』

  「はい」


 ごく静かに田中は車を発進させた・・・。

 

********
 

 

 −碇家屋敷前の路上

 碇家の屋敷前に先ほどから黒塗りのサルーンが停車していた。

 不意に碇家の塀の上に人影が現れる。身軽な身のこなしで歩道に降り立つと車の助手席に滑り込んだ。

 

  「建物内には誰もいません。やはり全員が綾波レイのいる病院にいるものと思われます」

  「わかった。発火装置セットしたな?」

  「はい、およそ7分後に作動します」

 助手席の男は時計を確認しつつ答えた。

  「よし、では戻ろう」

  「・・しかし、なぜ閣下は・・」

  「詮索はよせ。我々は与えられた命令を果たすだけだ」

  「・・・はい・・・」

  「・・・・・閣下は敵対する者を決して許さない」

  「・・・・・・」

 

 男たちを乗せた車は音もなく屋敷前を離れた。

 

********
 

 

 −食糧生産性研究センター

 大淀はレイを昨日シンジ達と話した例の小部屋へと招き入れた。

 

  「・・・それでレイさん、私に用事と言うのは何ですか?」

 大淀のこの問いに対するレイの答えはいささか唐突だった。

  『大淀所長、私に碇君の行方を教えてください!!』

  「会長の行方?・・・会長の身にいったいなにが起こったというのです」

 大淀にはまだなにも知らされてはいなかった。彼のこの問いは当然のことだった。

  「とにかく落ち着いて、訳を話してください」

  『・・・碇君は・・・』

 レイは今朝からの一連の出来事をかいつまんで話した。

 シンジが拉致されたこと・・・レイがシンジの”気配”を追って橋元の屋敷に至ったこと・・・シンジに会えたものの、気絶させられ、気づいたときには車に乗せられていたこと・・・事故により再び気絶してしまったこと。
 そして次に気がついた時には病院にいて、その時にはシンジの”気配”を感じられなくなってしまったことなどを。

  『・・・所長はEVAの復活を謀っている者がいることを話してくださいました・・・きっとEVAのあるところに碇君は連れて行かれたはずです』

  「・・・なるほど、分かりました。レイさんの推測はおそらく正しいのでしょう・・・確かにEVAがいまどこにあるのかは私にはだいたい分かっています・・・」
  「・・ですがそれを聞いてレイさんはどうなさるおつもりですか?言うまでもないことですがEVAは戦自の厳重な監視下にある施設に保管されています。侵入は不可能です」 

 

 常識的に考えれば大淀の言葉が正しいのは明らかだった。だが・・・・

 決然としてレイは言い放つ。

  『私が行かなければ、碇君を助けることはできません』

 大淀は奇妙な思いにかられ、目を細めレイの顔を見つめる。

  (・・・この華奢な少女のどこからこの強さが生じているのだろうか)

 

 ”ピッ”と短いビープ音がした。大淀は音のした方を振り向く。

 見ると、部屋の扉近くに赤いランプが点っている。

  「ちょっと失礼します、レイさん。連絡が入っているようですので」

 レイは黙ったまま頷く。

 大淀は部屋を出たが、すぐに戻ってきてレイを呼び寄せた。

  「レイさん、田中さんが緊急のお話があるそうです」

 レイは立ち上がり部屋を出てくる。

  「こちらのインターホンで話せます」

 頷いて受話器を受け取る。古風な有線式のものだった。

  『・・田中さん、なにかあったの?』

  「レイ様・・・お屋敷が焼失したそうです」

  『お屋敷が!?』

  「はい、病院のヨシエさんから今連絡がありました・・・IHKSの方の話では予め警報装置が破壊されていて自動消火設備も作動せず・・・ご近所の方が通報してくださった時にはすでに手がつけられない位に燃え上がっていたそうです・・・これは明らかに放火によるものだそうです」

  『・・・分かりました』

 短く答えると受話器を置き、レイはそのままそこに佇んだ。

 ただならぬ様子に大淀がその背中に声をかける。

  「レイさん、どうなさいました?」

 レイはゆっくりと大淀を振り返り、言った。

  『碇家が・・放火され・・燃えてしまったそうです・・・』

  「お屋敷が放火されたのですか!?どなたかお怪我でも?」

  『いいえ、屋敷には誰もいませんでした』

 それきり2人の間の会話は途切れた。しばらくの間、それぞれの思いに沈んだからだ。

 

  (・・・すべてが燃えてしまったのね。碇君やご隠居様、ヨシエさんとの大切な思い出が・・・)

 

  (碇家屋敷が放火された・・・しかもこの時期に・・・これは明らかにあの男の警告だろう)

 

 沈黙を破り、大淀が言った。その声にレイも我に還る。

  「レイさん、今回のことは明らかに、橋元からの警告だと受け取るべきです」
  「ご存じ無いかもしれませんが、あの男はたくさんの人間を殺しています・・・セカンドインパクト後の混乱を鎮めるためといえ、やはり人として許されないことでした・・・」
  「あの男は目的のためには手段を選ばぬ人間です。・・・残念ですが、会長のことは諦めてください。そうしなければ貴方の命が危うくなります」

 それに対してレイはこう答えた。意思を込めた強い瞳で大淀を見つめながら・・・

  『・・・私の命は碇君のためのもの。碇君がいない世界では私の命に意味はありません・・・だから・・・教えてください、碇君の居場所を!』

 大淀はレイの顔を見つめ、その意思の強さを改めて確認すると思わず嘆息した。

  「・・・どうしても行かれるのですね?」

 レイは黙ったまま頷く。

  「・・・分かりました・・・現在EVAは、旧NERV第二実験場・・・現在の戦略兵器研究所に保管されているはずです。おそらく会長もそこへ・・・」

  『・・・松代に連れて行かれたのですね、碇君は』

  「はい、おそらくは・・・ですがどうやって施設内に入り込むつもりですか?」

  『・・・それについては、ある方に相談したいと思います』

  「誰ですかそれは」

  『・・・IHKSの加古部長です』

 大淀は加古と面識があった。どこか油断ならない男、と言うのが彼の印象だった。

  (だが、あの男なら何か”策”を持っているかもしれない)


  「・・なるほど、彼なら何か情報を持っているかもしれませんね・・・」

  『・・・それではこれで失礼します』

  「はい、それでは・・・レイさん、気をつけて」

  『・・・有り難う』

 

 レイは研究所を後にしてIHKS社本社に向かった。

 

 −IHKS本社ビル最上階・特別応接室

 レイを出迎えたのは加古ではなかった。警備副部長の剣崎だった。

 剣崎は報告書を見つつレイに説明をした。

  「・・・加古部長はレイさんが橋元邸から連れ出されてから15分後に屋敷内に入っています」
  「・・それから52分後、橋元邸を監視していた要員に対して、部長から直接に撤収命令が発せられそれに従いました」
  「・・それ以降、部長からの消息は不明です。一応、橋元邸に問い合わせましたが”既に屋敷を出た”の一点張りです・・・確認する術もありませんので・・・」

 ここで剣崎は額の汗を拭いた。警察庁の中堅官僚出身で40代も後半になる彼の額は”相当に”広かった。彼の物言いはどこか言い訳じみてきた・・・彼は”あの”元首相を敵に回したことを恐れていた。

  「・・・レイさんを救助に向かった14名のうち、無事だったのはレイ様を病院に運んだ二名だけです」
  「・・重体者1名、レイさんもご存じの三隅君です・・・残り11名の内、死亡が確認されたもの8名。行方不明3名です。我々は事態の掌握と収拾に忙殺されて・・・その上、お屋敷が放火され・・・正直、会長や部長の捜索どころではなかったのです・・・」

 レイは剣崎の話を黙って聞いていたが、”損害”を聞いて詫びの言葉を発した。

  『・・・ごめんなさい』

 剣崎は話すのをやめレイの顔を見た。レイの赤い瞳には涙が浮かんでいる。

  『本当に・・ごめんなさい。私の為に沢山の人を犠牲にしてしまって・・・』

 

  「・・・彼らは職務を果たすために働きました。そしてそれを果たしただけです・・・」

 声を震わせながら彼は続けた。

  「・・・みな”満足”して死んでいったと思います。レイさんが気になさることではありませんよ・・・」
  「ですがこれ以上、会長達の行方を追及するのは危険です。・・・お屋敷への放火と言い・・・レイさんや周囲の方の命に関わります・・・」

 剣崎の脳裏には妻や来年大学を受験する一人娘の顔が浮かんでいた。もちろん彼がもっとも恐れたのは彼自身の”死”だったが・・・。

 レイは言った。

  『・・・おっしゃることは分かりました・・・それで加古部長は何か”伝言”のようなものを残してはいませんか?』

  「はっ?・・・わたくしには別に・・・念のため部長秘書の松君に聞いてみましょうか・・・」

 そう言いながら、剣崎はソファから立ち上がり部屋の隅の電話機に歩み寄った。

  「・・・松君かね・・・・・」

 

**
 

 

 まもなくレイはIHKSの本社を出た。加古は自分に万が一のことがあれば自分の住むマンションを訪ねてもらうよう、秘書に伝言してあったからだ。

 秘書によれば、そこには加古と同居する者がいると言う。

 加古のマンションは本社から車で10分ほどのところにあった。

 エレベーターを降りて、教えられた扉の前に立ちインターホンのスイッチを押す。

  「はい」

  『・・・碇家から来ました。綾波レイと言います』

  「・・・ちょっと待ってね。すぐ開けるから」

 レイはその声に聞き覚えのあるような気がした。

 まもなく扉が開けられた・・・白いシャツにレザーのミニスカートといういでたちでそこに立っていたのはレイのよく知る人物だった。

 

  『・・・・・葛城三佐・・・・・どうして』

 驚きのあまりレイはその場に立ちすくんだ。それは極めて当然のことだった。生きていることなど夢にも思えなかった人物に出会ったのだから。

 だが、葛城ミサトは以前と変わらぬ、聞きようによっては少しおどけているとも言える口調でこう言った。

  「・・・幽霊じゃないわよ。ちゃんと足もあるし・・・とにかく立ち話も何だから、あがって」

  『・・・はい』

 ミサトの後についてレイは室内に入った。二人はダイニングテーブルの前に向かい合って座った。

 いきなりミサトが話し出す。

  「あなたがここに来たと言うことは、シンジ君ばかりじゃなく加古も・・いえレイ、あなたはもう知っているんでしょ?」

  『はい、加持さんは碇君と一緒に連れていかれたと思います・・・』

 レイは自分の経験、そして剣崎から聞いたことの概略を話した。

 話を聞き終わりミサトが言った。

  「わかったわ・・・加持が今朝預けていったものがあるの、ちょっと待っててね」

 ミサトは席を立ち奥の部屋へ入ったがすぐに戻ってきた。手には小さめのアルミケースが握られていた。
 立ったままミサトはケースを開けた・・・中に入っていたのは1枚のカードキーと一片のメモだった。

 ミサトはメモを取り上げて読んだ。そこにはこう書いてあった。

  ”すべてはここに揃えてある。シンジ君達を頼む”

  ”いつまでも愛してる”

 そしてメモの最後にはどこかのマンションらしい住所が書かれていた。

 

 ミサトは思った。

  (随分と素っ気ない”遺言”ね・・・でも貴方の気持ちは受け取ったわ)

 ミサトはレイに見られないようメモを折り畳んで胸のポケットにしまった。そしてレイに向かってこう言った。

  「行くわよ。レイ」

  『えっ、どこへ?』

  「もちろんシンジ君達を助けによ!」

 その言葉にレイは大きく頷き、応えた。

  『はい!』

 

 マンションを出て、田中が待つ車に歩み寄るとレイは言った。

  『田中さんは病院に戻っていて・・ヨシエさん達のことお願いします』

  「しかし、レイ様・・・」

 田中はレイの側から離れることに難色を示した。だが結局はレイに押し切られてしまった。

  『・・・必ず、碇君と戻りますから』

  「・・・分かりました、レイ様・・・お気を付けて」

 ミサトが声をかけた。

  「行きましょう、レイ」

  『・・・はい』

 

 ミサトの運転する車でおよそ10分、レイ達は郊外の小さなマンションの一室にいた。

 そこはいわゆるワンルームで、部屋の中には生活の”痕跡”はなかった。

 部屋にあるのは洋ダンスと一組の机と椅子、そして机の上のノートパソコンだった。

 ミサトはそのパソコンを見つけると、すぐに歩み寄った。レイもそれに従う。

 電源を入れる。OSが起動した、だがすぐにパスワード入力画面になる。

 ミサトは一瞬考えたが、すぐにある言葉を入力する。

 

 ”PASSWORD CLEAR”

 一発でパスワードが入った。すぐに”マクロ”が起動してテキスト画面になる。

 2人はしばし画面に見入った・・・・・。

 






 

 ミサトが言った。

  「・・・・・まったく”うら若き”美女二人にやらせることじゃないわね・・・」

 だがレイの反応は違っていた。

  『いいです・・・碇君の為ですから』

 その言葉にミサトも言った。

  「そうね。シンジ君と加持の為だもんね・・・それじゃあレイ、すぐに準備しましょう」

  『はい』

 二人は洋ダンスを開けて、加持の用意していてくれたものを取り出し始めた・・・・・

 

 



つづく ver.-1.00 1997- 8/30

ご意見・感想・誤字情報などは iihito@gol.com まで。


 【後書き、と言うより言い訳】

 最後までお読みいただいてありがとうございました。

 作者得意の「御都合主義」大暴走してしまいました。その「補完」についてはいずれ外伝のような形でさせていただければと思っております。

 自身の「設定」を壊すような人物の登場に驚いているのは、実は作者自身だったりします(^^;;;)・・・実を言えば綾波レイに次いで好きなキャラクタだったりするんです、葛城ミサトは・・・・・どうか節操の無い作者をお許しください。

 リセット後の作者人気投票において作者の如き者に投票くださった方に、ここで改めて御礼申し上げたいと存じます。

 今後とも、どうか”見捨てないでデイジー(?)”宜しくお願いいたします。

 

 さて、長かった「第二新東京市」編(?)も今回で終わり、次回からは「松代」編となります。

 「世界の人の為になるなら・・・」
 「・・・君の本当の望みは何なのか考えるべきじゃないのか?」
 「お前こそがワシの意思を継ぐべき人間なのだ・・・」
 「・・・あなたは造られし者・・・なのにどうして私の邪魔ばかりするの?」
 「本当に・・・なんですか?」

 

 次回「2・YEARS・AFTER」をお楽しみに・・・・


 綾波光さんの【2・YEARS・AFTER】第拾四回、公開です。
 

 碇側とIHKSの甚大なる損害。
 橋本氏の大いなる力ゆえのでしょう。

 でも、この損害は当たり前のような気もします(^^;

 だって・・・
 IHKSの連中にはまるっきり”策”とか”考え”とか言う物が見えないんだもん。

 隙だらけだし、
 甘いし、
 判断おかしいし・・・

 全てに後手後手で、良いようにやられている。

 なんで、屋敷に誰もいないの?!
 やっと助け出したレイに護衛は付けないの?!
 

 しかし!!
 この状況を打破できる期待の星が!!

 ミサトさ〜ん、頑張ってね(^^)/
 軽く蹴散らしちゃえ!

 ・・・単独で行くの・・・
   何か搦め手を用意しようよ (;;)
   IHKSに後ろを固めさせようよ、
   加持の昔の仲間か何かいないの・・

 チョッチ、不安・・・(^^;
 

 さあ、訪問者の皆さん。
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