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【2・EARS・FTER】 第四回

作・H.AYANAMI  


僕は、自分のデスクに向かい、未読メールのチェックを始めた。




1通目は、クラスメイトの山城タケヒコからだった。

タケヒコは、僕らが第二新東京市へ来て転入した、市立第12中学校以来の友達だ。


メールにはビデオクリップが添付されていた。何気なく開けてみる。

映像を見て、僕は思わず声を上げる。

「な、何なんだ!」


映しだされたのは、男女のディープなキスシーンだった。


よく見ると、タケヒコと、彼の一つ年上の恋人、鈴谷ミホさんだった。

30秒ほどのキスシーンの後、並んで微笑む二人のショットに切り替わった。

タケヒコがしゃべり出す。


「やあ、碇、驚いたかい・・・僕たちがいかに愛し合ってるかを他の人たちに知ってほしいって、ミホが言うもんだから・・・」


「こんにちは、シンジ君。タケヒコは始め嫌がってたんだけど、私のわがままを聞いてもらいました。でも、タケヒコは私たちの仲をあまり人に知られたくないっていうの・・・私はとても不満なのよ。愛し合うことは決して恥ずかしいことじゃないのに・・・」


「・・・そう言う訳なんだ。碇ならば、これを見ても僕らの事を騒ぎ立てたりしないと思って・・・すまん」


「・・タケヒコ・・何を謝ってるの・・・この!」

ミホさんがタケヒコのほっぺたをつねっている。


「いて、いてて・・・やめろよ、ミホ」

二人がじゃれ合い始めたところで、ビデオクリップが終わった。



僕はしばらく呆然としてしまった。


・・・・・それにしても、と僕は思った。 二人の関係は、学校内で知らない者など無いのに・・・・。

今更こんな物を送りつけなくたって、僕だって、二人が”親しい”関係だってくらい知っているのに・・・。


女性というのは、みんな鈴谷さんのように考えるのだろうか?

僕は、綾波のことを思う。


(綾波も、鈴谷さんと同じような考えかたをしているのだろうか?)

(まさかな・・・・・綾波は、鈴谷さんとは違う・・・でも・・・)


(僕は、本当のところ綾波の心が分かっているのだろうか?・・・・)





僕は、綾波のことを考えるのを止め、2通目のメールを読むことにした。



2通目は、食糧生産性研究センターの大淀所長からだった。


”会長のお耳に入れたいことがあります。明日、学校が終わったら、センターの方をお訪ね下さい。”


いつもながら、用件だけの簡潔な内容だ。

いかにも農産物の遺伝子改良が専門の科学者らしい。



僕が「会長」と呼ばれているのには訳がある。


センター設立の目的は、セカンドインパクトによる耕作可能な土地面積の大幅な減少に対応して、より高効率な食糧生産を研究・開発することにある。

ご隠居様は、大淀所長のセンター設立の趣旨に、全面的に賛同し、ほぼ全額の資金援助を行い、そして、大淀所長の懇請を受けて「会長」になった。およそ5年前のことだ。

僕は、ご隠居様のすべてを受け継いだことで、センターの「会長」職をも継承した。


しかし、大淀所長は、僕に何を知らせたいのだろう・・・。

いままで、こんな風に僕を呼びつけることなど無かったのに・・・。


(明日、会えば分かることだ)



僕は、次のメールを見ることにした。



シンジが、自室でメールのチェックをしていた頃、レイはベッドに横たわっていた。

やはり、昨夜の寝不足が影響したのであろうか。

いつのまにか、レイは微睡みの中にいた・・・。










・・・・・あの人の、声がする。


”レイ、おまえは今日この日の為にいたのだ・・・さあ、行こう”


私が、答える。


”・・・・・はい・・・”


あの人に付き従って立ち去る自分。



”だめ、行ってはいけない!!”


レイは、夢の中の自分に対し、声の限りに呼びかける。


私には、碇君がいる。

碇君は、私を愛してくれている。

私だけを、見ていてくれる。




・・・なのに、どうして

いまさら、あの人に・・・・、


・・・あの人の望みを叶える。ただそれだけのために・・・・・。


・・・私が消えてしまう・・・それは私自身の望み・・・。


・・違う・・・違う!・・・今は、違う!!





・・・・・・。

レイは、ベッドの上に、横たわる自分に気づく。

いつのまにか眠ってしまった、らしい。




怖い夢だった。

・・・だが、夢は夢に過ぎない。


今の自分は、違う。

レイには確信があった。

(私には、碇君がいてくれる)



ふいに、窓からの光が、レイの顔を射る


・・・何かに引かれるように、レイは窓に近づいた・・・・・。




僕は、さっきからディスプレイを見つめている。

僕のパーソナルコードを知らない、どこかの誰かからのメッセイジ。

それも、たった一行の・・・。




”綾波レイは、狙われている。 気を付けたまえ”






(これは何だ。何の悪戯だ・・・冗談にしても・・・どういう意味だ・・・・・)




(もし、これが本当のことだとしたら・・・一体、誰が、何の為に・・・・・)



と、そこまで考え、僕は、綾波を一人部屋に残してきたことを思い出す。


急に、綾波が心配になり、僕は綾波の部屋に向かった。




「コンコン」 僕は綾波の部屋の扉を叩く。

返事がない。いやな予感がする。



「綾波!!」



僕は、綾波の部屋に飛び込んだ


綾波は、窓辺に立って、外を見ていた。

「・・・綾波?・・・」 僕は綾波の方へ歩いていった。


『・・・碇君・・』 綾波が振り返った。

窓からの光を反射して、綾波の髪が、きらきらと光った。

僕は、逆行の中に立つ綾波の姿のあまりの美しさに、しばし呆然と見とれてしまう。


(まるで・・・天使が地上に降り立ったようだ)



『・・碇君?・・』


「・・えっ・・あ・・うん」


綾波に呼ばれ、僕はようやく我に還る。



「・・・綾波・・・外に、何かあるの?」

僕は、綾波の姿に見とれてしまったことが、なんだか気まずく、それを誤魔化すためにそう聞いた。


綾波は、僕の問いには答えず、逆に僕にこう尋ねた。

『・・・碇君、・・碇君も、感じたの?』

「・・・感じた?・・・綾波は、何を感じたって、言うの」

僕は、綾波の言う意味がよく分からなかったので、疑問をそのまま口にした。



『・・・そう、碇君は感じなかったの・・・』



綾波の、その言葉には、少しの落胆の響きがあったと、僕は感じた。

僕は、綾波に、何か悪いことをしてしまったような気がした。


「ごめん、綾波。君が感じたことを・・分かってあげられなくて・・・」


綾波の表情が、急に明るくなった、と僕には感じられた。
僕が、綾波に対してどんな気持ちになったのか、綾波には直ぐに分かったようだった。



綾波が、僕に駆け寄り抱きついてきた。

僕は、綾波の突然の抱擁に驚きながらも、しっかりと抱き留めた。

「あ、綾波?・・・」


『・・・碇君・・ありがとう・・・私の・・わがままを・・受け止めてくれて』

「・・僕の方こそ・・・僕は、鈍感だから・・・。でも、綾波は・・何を感じたの?」

僕は、先ほどの疑問をもう一度口にする。


綾波の体が、僕の腕の中で、一瞬強ばったように感じられた。



『・・・誰かが、私を・・綾波レイを消そうと、しているの・・』



「何だって!」


綾波の言葉に、僕の脳裏には一人の男の顔が浮かぶ。



(・・・まさか、父さん?・・いや、父さんはもうこの世にはいないはずだ)


(でも父さん以外の、一体どこの誰が、綾波を消そうというのだろう?)



出来ることなら聞きたくはない。でも聞かずにはいられなかった。


「・・綾波、まさか・・・僕の父さんじゃ、ないよね?」



綾波は、しばらくの間、僕から目をそらし、窓のほうを見ていた。


やがて、僕の方を向き直ってポツリと言った。

『・・・違うと、思うわ』

「・・・そう・・」

綾波の答えに、僕は少しだけ安心する。そして同時に心配になる。


(綾波が感じたこと・・錯覚?、いや本当のことに違いない)


僕は、一瞬でも、綾波を疑ったことを心の内で少し恥じる。


(・・・あのメールは、悪戯なんかじゃない。僕たちへの、本当の警告だ)


(・・メールの事を、綾波に話すべきだろうか・・・)




僕が、黙ってしまったことに綾波は不審に思ったのか、こう尋ねてきた。



『・・・碇君、どうかしたの・・・』


「・・う、うん、何でもないよ・・・・綾波、大丈夫だから・・・僕が、綾波を、どこにも行かせたりはしない・・・僕が綾波を、守るから・・・」

僕はメールのことを話さずにおくことにした・・綾波を、これ以上不安に落としいれるようなことを言いたくはなかったから。



綾波は、僕の声に何かを感じたかもしれない・・・綾波の表情に、僅かな憂いが生じたように見えたから・・・。

けれど、綾波はそのことに触れなかった。ただ僕の胸に、頭を持たせかけて、

『・・ありがとう、碇君・・』 そう言っただけだった。






やがて僕は言った。たとえ、一時でも”不安”を忘れたかった。

「・・・綾波、そろそろお茶の時間だね・・・」


『・・・そうね・・・用意してくるわ・・・』

綾波が、部屋を出ていこうとする。


「待って、一緒に食堂に降りよう」

この家に、二人だけでいる以上、綾波を一人にはしたくなかった。それに・・・。

「・・綾波、今日は僕にお茶をいれさせてくれない?」


綾波は、困ったような顔をする。

『・・・ヨシエさんに知られたら・・・私が、怒られるわ・・』

「・・だから、ヨシエさんたちが帰ってこない、今の内に・・」


『・・・分かったわ』



この2年間というもの、僕はこの家の厨房に入れてもらえない。と言うのも、ヨシエさんが、

「お坊ちゃまは男性です。しかも碇家の当主となるべき方です。そのような方が厨房に入る等、もっての他です」

そう、断固として言い張るものだから、僕がこの家の厨房に入ったのは、いままでに2回だけ。それもヨシエさんが居ない時にだ。

ここへ来る前の僕にとって、お茶を入れたり、料理を作ったりすることは、別段楽しい事ではなかった。ただ必要だからしていた事だった。

しかし、ここへ来て台所仕事から解放されしまうと、なんだか寂しい気がした。


・・・僕にとって、お茶を入れたり、料理をしたりすることは、一つの楽しみであったことに最近気づいたのだ。


「・・・久しぶりだけど、まだ、コツは忘れていないと思うから・・・」


僕は、綾波と肩を並べて、食堂へ降りていった・・・。







つづく ver.-1.00 1997- 5/08公開

ご意見・感想・誤字情報などは iihito@gol.com まで。


【後書き、のようなもの】

なんだか今回は、過去のエピソードの”リフレイン”で終わってしまいました。

作者の、物語の進行に対する、逡巡がそのまま出てしまいました・・・すみません。


・・・次回予告(予定)です。

月曜日、いつもと変わらぬ日常の始まり(?)

シンジは、碇家当主として一端を見せる・・レイを守るために。

そして、シンジたちの知らないうちに、”敵”は間近に迫っていた・・・。



P.S. 
作者にメールを下さった方へ、この場を借りて改めて御礼を申し上げます。
引き続きの応援よろしくお願いします。
自身の構想と、乏しい筆力の格差に悩む作者に、愛のメールを・・・ぜひ!。


 [綾波 光]の連載、【2・YEARS・AFTER】第四回公開です。

 シンジとレイの愛、深い愛の物語の【2・YEARS・AFTER】ですが、
 今回一気にサスペンス色を強めました。

 綾波を狙う存在とは?
 それをシンジに伝えた人物とは?

 旧ネルフの面々は第三新東京市と共に消えたはずですから・・・謎が深まります。
 いや、ネルフは「自爆」でしたね。と、なると、脱出した者が?

 次回以降を待ちましょう。

 さあ、訪問者の皆さん、急展開を見せる物語の感想を綾波光さんに送って下さい!


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