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 −地球圏・最外縁部・シリウス船籍貿易船”ネオフロンティア−Y”

 

 「ぴーぴーぴー・・・・」

 聴く者の耳を逆なでする連続した警報音。それに合成音が重なる。

 「反応炉制御不能、制御不能・・・臨界突破まで残り12.8・・・8.9・・・6.2・・・3.1・・・」

 アウターリミッツの最初の一撃はその貿易船の運命を決定づけた。

 本来ならば、アウターリミッツ達は船の噴射口を攻撃し、その行き足を止める積もりであったのだろう。何故ならアウターリミッツにとって積み荷を奪う前に船を破壊するのはまったく割に合わないことだからだ。

 だがその攻撃は反応炉中枢部に命中した。炉は暴走し太陽に向かって船を加速し始めた。

 

 

 船長は一人の娘を抱きかかえる様にして走っていた。既に船内のシステムは停止し、自分の身体を使う以外、船内で行動する術がなかった。彼らが向かっているのは手動でも押し出すことの出来る一人用の脱出カプセルの格納庫だった。

 加速は徐々に高まり、彼らの二人に身体は次第に重くなってきていた。二人は最期の力を振り絞って格納庫へたどり着いた。

 船長は娘の身体をカプセルに押し込むと、無理に作った笑顔でこう言った。

 「・・・お嬢さん、社長に宜しく伝えて下さい。船長は最期まで冷静であったと・・・」

 「船長さん!」

 船長はカプセルを閉じると、外部エアハッチを破壊した。急速な空気の流出に、カプセルは外へと押し流されて行った・・・。

 


【宇宙刑事シンジ】episode-02/接触


作・H.AYANAMI 


 −シリウス星系・第八番惑星エセロウカ・第一衛星オジャール・首都市シャベタリーノ

 

 シリウス星系は必ずしも地球人類の生存に十分適した条件を備えていた訳ではなかった。
 しかし大気改造技術の発達とヒトそれ自体の遺伝子改良によって、今では星系全体では100億近い人口を擁していた。エセロウカ最大の衛星オジャールはそのような”シリウス人”の住む星の内では最外縁に位置している。

 開発が始まってからまだ数百年しか経っておらず、そのため大きさはほぼ地球衛星・月と同じくらいであるにも関わらず、その総人口は5000万人あまり。首都市シャベタリーノの人口は100万人ほどだった。従って地球のような高さ十数キロにも及ぶという超高層の建物はなく、最も高い建物でも僅かに百数十メートルほどという、銀河系ではごくありふれた”地方都市”にしか過ぎなかった。

 ところが三年前に突如として事情が変わった。銀河でも10本の指に入るといわれる総合商社SARP社がその本社をここシャベタリーノに移すことを発表したのだ。それはシャベタリーノ出身の、時のシリウス連邦大統領が自らの故郷ををシリウス一の”都市”とすべく、大胆な優遇税制によって大企業の誘致を計ったためであった。

 そして一年前、SARPの本社ビルは完成した。高さ約5キロメートル、周囲を八つの付属ビルに囲まれたその姿は、あたかも八本の足を振り上げるタコのように見えた。そのため誰言うと無く、そのビルはオクトパタワーと呼ばれるようになっていた。

 −オクトパタワー最上階・会長執務室

 この部屋の主、乃ちSARP社会長・鈴原エイゾウは苦虫を噛み潰したような表情で自らのデスクの後ろに座り、前に立つ二人の男たちを交互に見た。彼はこの単純作業をもう何度も繰り返していた。やがてエイゾウは二人の内の一人、年かさの方の男に向かって言った。

 「・・・ワレがしでかしたことや、コウジ。・・・ワイの許しも得ずに・・・自分で始末を付けてきーや」

 いつもは銀河全体にその勢力を広げている商社の総帥にはあるまじき物として、慎重に避けている”シリウス訛”丸出しでエイゾウは話していた。それは相手が家族同然の者だあったこともあるが、それ以上に、冷徹な、死刑宣告にも等しいこの言い渡しを、少しでも”柔らかなもの”にしたいと言う意識がそうさせているのだろう。

 言われた男、洞木コウジは答える。

 「・・・分かってます。これから自分が行って、話を着けてきます」

 その時、コウジの隣にいた若い男が口を挟んだ。エイゾウの一粒種のトウジだ。

 「親父、叔父貴を行かしたらあかん。そりゃ死ね言うんと同じやないか!!」

 トウジは年取った父親に食ってかかるように、両手をデスクの上に手を付き顔を突きだした。

 コウジはトウジの肩に手をおいて押し留めるようにする。

 「・・・良いんや、若。こうなってしまっては仕方が無い。ワシの命一つでアーロングループが、いやSARP社が守れるなら本望や・・・」

 だが、トウジは尚も父親に向かい言いつのる。

 「叔父貴がやったことは、ヒカリの敵討ちや。あいつの乗っとった、うちの貿易船はシュバルツの奴らに沈められたんやで・・・ヒカリは・・・ヒカリは・・・」

 トウジは言葉を詰まらせる。涙が流れ出しそうになるのを必死に堪えるように唇を噛みしめている。

 実はシリウス星系を根城にするアウターリミッツ、アーロングループを率いているのは、SARP社の会長でもある鈴原エイゾウなのだ。彼が一代でSARP社を銀河連邦内でも屈指の総合商社に出来たのは、アーロングループを影から動かしていたからである。ライバル会社は次々とアーロンの攻撃対象となり消えて行くが、或いはSARP社の傘下に入った。現社長である洞木コウジはそのような「黒い」仕事をすべて仕切ってきた。エイゾウにとって洞木コウジは誰よりも大切な右腕の筈だった。今回のことが起こるまでは・・・。

 ・・・話は2ヶ月ほど前に遡る。コウジの一人娘であり、トウジの幼なじみの洞木ヒカリは最新のウェディングドレスを自ら調達するために地球へ向かう船に乗っていた。そうなのだ。まもなくヒカリはトウジと結婚することになっていたのだ。地球から戻りトウジと結婚式をあげられることをヒカリは何よりも楽しみにしていた。

 だがその気持ちはトウジも同じだった。ごく幼いときに母を亡くし、また多忙であった父に代わって、トウジはコウジの家でヒカリと共に育てられたと言っても過言では無かった。ごく自然に・・・トウジとヒカリは互いを生涯の伴侶として意識するようになっていた。

 だがヒカリの乗ったその船はシュバルツの船に襲われた。生存者は・・・皆無だった。それを知ったトウジは半狂乱になり、シュバルツを壊滅させると息巻いた。それを制止したのはエイゾウと、そしてコウジだった。

 その時コウジはトウジに向かって言った。

 「ワイに考えがありますから・・・若、しばらく待っていて下さい」

 コウジの考えとは、乃ちシュバルツの幹部を抱き込みシュバルツの総帥、惣流キョウイチを暗殺することだった。そしてそれは失敗した。

 情報によってすでにシュバルツの巨大戦闘空母プロキオン号がこちらに向かいつつあることが分かっていた。彼らはアーロンへの復讐のためにやってくるのだ。残念ながらアーロンの所有する戦闘艦をすべて投入してもプロキオン号を撃退することは困難であると思われた。

 今、鈴原エイゾウは暗殺計画の首謀者、洞木コウジをシュバルツ側に差し出すことで、事態を収拾しようとしていた。

 落ち着きを取り戻したのかトウジが再び口を開いた。

 「・・・親父、キョウイチは死んではおらへんのや・・・ヒカリのこともまだケリはついてはおらん・・・そやから、シュバルツとの談判にはワシが行ったる」

 エイゾウとコウジは息を合わせたようにトウジに顔を向けた。トウジの顔には並々ならぬ決意が秘められていた。

 

 

*****

 −地球圏・火星上空・巨大人工衛星ジオフロント

 

 シンジは呼び出しを受けた第3ポートに到着した所だった。そこではミサトとレイが待っていた。

 シンジの顔を見るなり、ミサトは叫ぶように言った。

 「緊急事態よ!!シンジ君」

 シンジはミサトの言葉に緊張する。

 「・・・一体何が起こったんですか?」

 これ以上は無いほどにシンジは生真面目に尋ねる。だが、次の瞬間、ミサトは吹き出した。シンジのあまりの生真面目さが可笑しかったのだ。

 「あはっ・・・あはははははははは・・・」

 「・・・・・・・」

 シンジはミサトの爆笑が理解できずぽかんとしている。

 「・・・はははは・・・はあ、はあ、はあ・・」

 ミサトはあまりに笑いすぎたために息を切らす。ひとしきり息を吐いた後で彼女は目に浮かんだ涙を片手の小指を使い拭いながら言った。

 「・・・ご、ご免なさいね、シンジ君。本当はそれほどの緊急事態じゃないの。ちょっと火星までお使いに言ってきて欲しいの・・・」

 しばらくの間、シンジはミサトの顔を見つめていた。彼は自分がからかわれたことにすぐには気が付かなかったのだ。だが次第に、その表情には怒りの色が現れ始めた。

 必死に感情を抑えてシンジは言った。

 「・・・それじゃあ・・・緊急事態と言うのは・・・冗談、だったんですね」

 シンジの怒りはその抑えたしゃべり方にも如実に露われ出ていた。ミサトもそれに気づいて極真面目にこう答えた。

 「・・・騙したりして、ご免なさい。・・・これはここ独特の新人歓迎セレモニーなの。・・・だから許して頂戴」

 (注:ここジオフロントにおいて、かってこのような”セレモニー”が行われたことはない)

 シンジはそれに応えなかった。怒りの表情はしばらく変わらず、じっとミサトの顔を見据えていた。

 ミサトはそんなシンジを上目遣いに見ている。その表情はまるで”おイタ”をして叱られている子供の様だった。

 その表情を見て、シンジは次第に自分の中の怒りの感情が消え去って行くのを留めることが出来なくなった。

 シンジは呟く様に言った。

 「・・・・・もう良いですよ、ミサトさん。・・・それより、さっき言ってた”おつかい”って言うのは何のことですか?」

 ミサトはシンジの怒りが静まったのを見て少し安心した様だった。

 「・・・許してくれたのね、シンジ君。・・・ああ、お使いって言うのはね、貴方の歓迎パーティーの材料が少し足らないのよ。貴方にはレイと一緒にそれを買いに火星まで行って来て欲しいの」

 シンジは呆れた。ミサトはパーティーの主賓で在るはずのシンジにその準備をさせようと言うのだ。

 「・・・・・分かりました」

 「それじゃあ御願いね。場所はペンペンが知っているから」

 「ペンペン!?」

 それまで黙って二人のやりとりを聞いていたレイが唐突に言う。

 『フリゲート・エヴァンゲリオンのナヴィゲートシステム・・・制式名・GGNP−2014V125α』

 ミサトが説明を加える。

 「私が名前を付けてあげたのよ。昔飼ってたシリウス・ペンギンと同じ名前・・・」

 (注:シリウス・ペンギンとはシリウス星系EBISUYAコーポレーションでペットとして開発された機械知性体で、かって地球に生息していたという鳥類の一種に似せて作られていた為にそう名付けられたものである。
 比較的安価であったにも関わらず、その愛らしい姿とともに、日常の話し相手として優れた語彙処理能力を有していたため、10年ほど前に地球でも大ヒット商品となった)

 シンジは再び呆れていた。官給品に”私的”な名前を付けるなど・・・少なくとも公務員がすべきことでは無いと思ったからだ。念の為、尋ねてみる。

 「・・・ミサトさん、まさかそれは、正式に登録されたものでは無いですよね?」

 だが、ミサトはこともなげに言った。

 「いいえ、既に登録済みよ。彼は自分をペンペンとしか認識していないわ・・・一応言っとくけど彼は私の唯一無二の相棒だったのよ。だからシンジ君も彼を単なる機械とは思わないで欲しいの」

 シンジは不思議そうにミサトを見た。ペンペンのことを語る、その物言いには今までとは違って少しも冗談めかじたようなところが無かったからだ。

 シンジにはミサトのペンペンに対する気持ちが分かるような気がした。この時代、機械知性体はほとんど生身の人間と同じ様な存在である人々に認識されていた。
 シンジにも覚えがあった。幼い頃、どちらかと言えば内気な少年であった彼は自分のパソコンの中に一匹の猫、ピーターを”飼っていた”。シリウス・ペンギンなどより更に低級なソフトウェアでしか無かったが、それでもよく飽きもせずにずっと二人だけで話していたものだった。

 シンジは敬礼をしつつ、微笑みを浮かべ言った。

 「はい、了解しました。葛城課長」

 ミサトもまた、にっこりと微笑みながら敬礼を返す。

 「・・・それじゃあ宜しくね。それから、これは貴方達とペンペンとの新しいチームの”初仕事”でもあるからね。気張ってやって頂戴・・・」

 かくして、シンジとレイはNERV所属のフリゲート・エヴァンゲリオンに乗り、火星へと向かった。

 

 

*****

 −シリウス星系・最外縁部

 

 シリウス太陽からおよそ10億宇宙キロ(注:ヤ○ト以来、ポピュラー?な単位だが、具体的にはまったく分からないという不思議な距離単位ではある)の虚空、そこには長さ300メートルほどの小さな宇宙船が漂流していた。より正確に言えば、あらゆる加速度を相殺するように重力場バーニアを使用し、その場に静止しているのだ。
 航法灯は消されており、ビーコンも発信を停止していた。従ってシリウス星系の広域監視局にも、それが人の乗る宇宙船なのか、それとも遺棄されたブースターなのか、それとも宇宙船の外形に酷似した隕石なのかの判断は付かなかった。

 全長の大部分を機関部が占める高機動艦シャイニング・スター号−無武装ではあるが、その航宙性能はこの銀河に存在するあらゆる艦船にひけを取らなかった。おそらくNERVのエヴァンゲリオン級にも匹敵するであろう運動性をその白銀に輝く優美な船体に備えていた。

 そのブリッジにいるのは、SARP社の御曹司、鈴原トウジただ一人であった。彼は彼の行動を阻止しようとした”二人の”父親−正確にはうち一人は義父になる予定であった人物であるが−を実力で排除して今この場に来ていた。


 ・・・二人は当然の如く、彼を押し留めようとした。興奮しきった実の父親の方は彼に殴りかかろうとさえした。あわてて義父がそれを止めに入った。トウジにはそうなることが予測できていた。二人の身体が絡み合った瞬間を狙い、彼は二人の鼻先に無力化ガスを吹き付けたのだ。

 一言も発することなく、彼らは意識を失って倒れた。トウジは二人を縛りあげクローゼットに放り込むと、一人この船に乗りこの宙域に到着していた。


 そう、彼は待っているのだ。シュバルツグループの旗艦プロキオンが出現するのを。

 シャイニング・スター号のナヴィシステムは地球圏からハイパースペースを通ってシリウスに向かって来るプロキオンが通常空間に戻る宙域をこの辺りと予測したからだ。

 「ぴーーーー」

 突然、艦内に警報が鳴り響いた。同時にセンサーが外部環境の異変を告げる。

 「本艦の前方、1万宇宙キロニ重力場ノ急速ナ変化ガ見ラレマス」

 「よっしゃ、本艦への影響はどや?」

 「プラス、.04デ引キ寄セラレル可能性ガ、97.88%。シカシ、バーニアデ現位置ヲ保持デキマス」

 「いんや、バーニアは使わんでエエ。そのまま引かれるに任しとくんや」

 「了解シマシタ・・・」

 「前方監視カメラ、最大望遠や」

 「了解、スクリーン・オン」

 ブリッジのスクリーンに前方宙域が大写しになる。既にプロキオンの巨大な艦影が現れ始めていた。

 

 

 プロキオンの早期警戒システムは、艦が通常空間に戻ると同時に前方の障害物を関知して警告を発した。

 「本艦の前方1万宇宙キロに浮遊物があります。衝突コース」

 間髪を入れずに加持が命令を発する。

 「艦首ビーム砲をセット、照準データ自動入力」

 「イエス・サー・・・ロック・オンしました」

 「目標完全破壊。用意・・・」

 加持が”発射”を指示しようとした、その瞬間だった。

 「目標物より本艦に通信・・・」

 加持は出かかった命令を飲み込み、アスカの方を振り返った。アスカは加持に頷いて見せる。

 加持も頷きを返すと、艦に命じた。

 「チャンネル・オープン、ヴィジスクリーン・オン」

 プロキオンの戦闘情報司令室のメインスクリーンに、鈴原トウジの顔が大写しになる。

 「ワイはアーロングループの総帥、鈴原エイゾウの息子、鈴原トウジや。今回のことの談判に来たんや。そちらの責任者を出してくれへんか?」

 アスカが叫ぶ。

 「談判ですって!!今更何を言ってんのよ。パパをあんな酷い目に会わせておいて、あんた達、アーロンはこの私が皆殺しにしてやるわ!!・・・加持、攻撃して!!」

 だがトウジはアスカの剣幕に気圧されることもなく、ごく静かな調子でこう返答した。。

 「あんたの父親に対する気持ちはワシにもよう分かる。だがな、あんたにはワシの気持ちは分からへんやろ?」

 アスカはトウジの言葉に、何か哀しげな響きがあることに気づいた。俄に興味を引かれアスカは尋ねた。

 「あんたの気持ちって・・・・・いったい何のことよ?」

 「・・・今回のことは、ヒカリの乗った船をあんたらが襲ったことから始まったんや・・・」

 「ヒカリ?・・・ヒカリって誰よ?」

 「洞木ヒカリ。・・・ワシの許嫁や。2ヶ月前に、地球に花嫁衣装をあつらえに行って・・・あんたらに襲われたんや」

 その言葉にアスカは加持を振り返った。加持は首を振ってみせる。少なくとも加持が知る限りにおいて、シュバルツがそのような襲撃を行ったと言う事実は無かった。

 アスカは再びスクリーンのトウジを見つめ、そして言った。

 「・・・どうやら、じっくりと話し合う必要があるようね。こっちへ来てもらえる?」

 「おう、ワイはどこへでも行くで」



 まもなく、シャイニング・スター号はプロキオン艦内に収容された・・・。

 

 

*****

 −地球・アジア地区・ホンシュウアイランド・ハコネ

 ここハコネには、地球最大規模とも言われる医療施設M.C.HAKONEがあった。だが施設の大きさだけでは無くその医療技術の高さも超一流であり、特に宇宙病原菌の研究とその治療法に関する限りその水準は銀河一と言っても過言では無かった。

 その入院用施設の特別個室の一つに、その男はいた。名前を天上・U・ハルヲと言う。アルデバラン星系出身の貿易商である。彼は地球への渡航中に謎の病原菌に侵されここへ収容された。

 収容された当初は危篤状態が続いたが、今はこの病室内は自分の足で歩けるほどまでに回復している。

 天上は病室の窓辺に立って部屋に面した中庭にいる車椅子の患者を見ていた。

 その中庭はこの病院の入院患者達の日光浴の場になっていた。歩ける者は自分の足で、そうでない者は機械知性体によって制御される車椅子に乗ってそこにやってくる。

 その車椅子に乗っている患者の中に一人の娘がいた。黒い髪は無造作に束ねられ、胸の前に垂らされている。未だ双頬にそばかすの名残が見られるものの、年の頃はそう彼の娘と同じ位だろう。初めて彼女を見たときから天上は何故かその娘のことが気になっていた。


 それはその少女の目だった。およそ少女の目には光りと言うものが無く、その視線はいつも虚空を漂っていた・・・。

 不意に、部屋のインターホンが鳴る。自動的に壁に作りつけのスクリーンが開かれる。天上は振り返った。

 スクリーンに映っていたのは、この部屋の専任看護婦・緒方ユウだった。

 「天上さん、宜しいですか?」

 「ああ、緒方どん、入って下さってかまわんでごわす」

 天上はアルデバラン訛丸出しで答える。だがもしこの場に”本物の”アルデバラン出身者がいたなら、天上が本当のアルデバラン出身者で無いことをすぐに見抜いているだろう。幸いにもここにはアルデバランの者を見かけることは無かった。

 扉が開き、緒方看護婦が入ってきた。

 「御気分はいかかですか?天上さん」

 「ああ、すごぶる結構でごわす。はやく退院して、ここの名物、ライスワインでも飲りたいもんでごわす」

 「何をおっしゃてますの?ほんの数日前までは生死の境をさまよっていたと言うのに」

 緒方ユウは呆れ顔で言う。

 「ハハハ・・・冗談ですたい。それより一つ聞きたいことがあるのでごわすが・・・」

 「・・・はい?・・・何でしょうか?」

 「ちょっと、おいの方へ来てくれんですか」

 天上は緒方ユウを自分のいる窓辺に呼び寄せる。

 「あの娘のことでごわすが・・・」

 車椅子の娘を指差す。

 「あの娘は一体何の病気で入院してるか知っておるでごわすか?」

 緒方ユウは中庭をのぞき込み、天上の指差した方を見た。そして答える。

 「ああ、あの子なら・・・記憶を失っているんです。何でも木星軌道上を脱出カプセルで漂流していたそうて・・・」

 「漂流・・・でごわすか?」

 「ええ、どうやらアウターリミッツの襲撃を受けたらしくて・・・他に生存者がいないので詳しいことは分からないそうですが」

 アウターリミッツ、と聞いて天上は僅かに眉を動かした。だがすぐに元の表情に戻ると、更に尋ねた。

 「・・・それで、回復の見込みはあるのでごわすか?」

 「・・・さあ?何しろライフサポートシステムの限界を超える長期間の漂流だったそうですから。低酸素状態が長く続いたらしくて・・・命があっただけでも奇跡だって、ナースセンターでも噂してます」

 「・・・そうでごわすか・・・」

 天上はそれ以上はもう何も言わず、じっとその娘を見つめ続けた・・・・・。

 



つづく ver.-1.00 1997- 11/14

ご意見・感想・誤字情報などは iihito@gol.com まで。


 【懺悔の部屋】

 作者は関西地方及び九州地方の皆様に何らの恨みや偏見を持っていないことを、ここに改めて申し上げたいと思います。
 効果の程は別として(^^;)、人類が全銀河に広がれば、当然に星系ごとの方言のようなものが生じるであろうと言う、作者の考えを表現するために「無茶な」かつ「出鱈目な」訛を多用しました。しかしそれ以外の他意はありませんのでお許しいただきたいと存じます。

 とにかく「明るい」物語を書きたくて、これを書き始めたはずなのに・・・どんどん「暗く」なってゆきます。やはり作者が「根暗」だからでしょうか・・・・・エーイ、こうなったらレイちゃん以外はみんな「不幸」にしてやるぅー(自爆)。

 と言う訳で・・・・・既に作者の意図を無視して(?)「一人歩き」を始めた物語ですが、とにかく頑張ってみます!?・・・何とぞ御見捨て無きように御願い致します。

 


 綾波さんの【宇宙刑事シンジ】episode-02、公開です。
 

 うーん、ど・ろ・ぬ・ま(^^;

 に
 なりそうでしたけど、
 冷静な話し合いが開始されたようで−−
 

 アーロングループのトウジ
 シュバルツのアスカ。

 

 

 抗争への引き金となった事件は
 加持も預かり知らぬ物・・。

 なにやら汚い影が見え隠れですね。
 

 こちらも気になりますが、
 もっと気になるのが

 天上・U・ハルヲ

 オリジナルネームを持つ初の登場人物。
 

 あやしい訛を駆使する彼は何者でしょう?

 

 

 さあ、訪問者の皆さん。
 綾波さんに「次は東北弁を」と(^^;メールを送りましょう!


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