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【二色の独楽・パート2】
作・H.AYANAMI  

・・・長い口づけの後も、僕たちは、じっと抱き合ったままだった。

僕は、綾波が”もういい”というまで、このままでいるつもりだった。

そうすれば、満足して・・僕と一緒に”寝たい”など言わないだろう、そう思った。

僕だって、一応男だし、綾波と一緒”寝たり”したらどんなことになるか分からない。

と、そこまで考えたとき、僕の”一部”が僕の意思とは関係なく、"膨張"し始めた。

(まずい)僕はあわてた。

「あ、綾波、も、もういいでしょ?」

『・・うん』

長い抱擁の時を終え、僕たちは互いの体から離れた。

僕は、僕の体の変化を、綾波に気づかれなかったかどうか、そればかりが気になって、綾波の方を盗み見た。

綾波は、先ほどの思い詰めた表情に比べると、今はどこか安らいだ顔になっていた。

(良かった、綾波には気づかれずに済んだ、らしい)

「あ、綾波、もう遅いから、寝ようか?」

(”寝ようか”じゃなく”眠ろうか”じゃないか)

僕は、先に立って、自分の部屋へ歩き出した。


『・・・碇君?』

綾波は、僕が急に黙り込んでしまったのを、不審に思ったようだ。

「あ、綾波、何でもないよ」

そう言いながら、僕は綾波を、僕の部屋の前まで誘った。

僕は、部屋の明かりを点けると、綾波を招じいれた。

「せ、せまい部屋だけど、が、我慢してね」

「そ、それじゃ、おやすみ」

僕は、部屋を出ていこうとした。

扉を閉めようとした僕の右手を、綾波が掴んだ。

「あ、綾波?」

『・・碇君・・私と一緒じゃ・・いやなの?』  

「そ、そう言う訳じゃ・・綾波、ぼ、僕だって男なんだよ。一緒に寝たりしたら・・」

”どんなことになるか分からないよ”そう続けようとして、僕は絶句してしまう。

綾波の両目からは、大粒の涙があふれ出そうとしていたからだ。

「ご、ごめんよ、僕が悪かった。綾波を悲しませるようなことをしてしまって・・」

「だ、だから、もう泣かないで・・今夜はこの部屋で、綾波と一緒に眠るから・・」

綾波は、僕の顔をじっと見つめている

『・・本当?』

「ほ、本当さ・・・だから、安心して。もう眠ろう」

『・・うん』




あれからどれくらい時間が経っただろうか?

僕は、じっと、暗い天井を見つめ続けている。

綾波は、僕の隣で、静かな寝息を立てている。

狭いベッドの上に二人では、いくら綾波がきゃしゃな体をしているからと言っても、ほとんど身動きがとれない。


 ・・・あれからもたいへんだった。

僕が、綾波と一緒に眠ることに同意した後、

綾波は、僕の目前で服を脱ぎだしたんだ。僕はあわてて止めた。

服のまま眠るわけにはいかない、自分はいつも服を脱いで(つまり下着だけで)眠るのだからと、さも当然という顔をしていた。

僕は、それでは僕が困ると言って、僕の、最近はあまり着ることもなくなった、洗濯済みの僕のパジャマをとりだして、綾波に着るように頼んだ。

綾波が着替えている間、僕は後ろを向いたままだった・・真っ赤になりながら・・。



そう言えば、と僕は思い出す。

僕が、何日も悪夢に悩まされ、綾波の元へ”救い”を求めに行ったとき、綾波はやはり下着姿で眠っていたのだ。

それなのに、僕は、僕の”欲望”に悩まされることは無かった。

あのとき、はじめて僕と綾波が抱きしめあったとき、僕は自分のことを、少しもイヤらしいとは思わなかった。

なのに、僕は今日に限って・・綾波の体に”反応”してしまった。

(まずい)僕はあわてて、他の事を考えようとする。

・・学校は・・・無くなってしまった。

いや建物はかろうじて残っているのだが、生徒が居ない。

みんな居なくなってしまったからな・・・。

洞木さんや、ケンスケ、そしてトウジ・・・。

トウジ、きっと僕のことを決して許してはくれないだろう。

僕のせいで、一生直らない傷を負ってしまったのだから・・・。

それにアスカ、アスカのことだって僕に”力”があれば助けられたのかもしれない。

みんなそうさ、僕が、僕が”弱い”から、周りの人を傷つけてしまうんだ。

この町が、こんな姿になったんだって僕の”弱さ”のせいなんだ。

ぼくは怖いんだ。自分が・・・何もしなくても結局人を傷つけてしまう・・・。

僕は、今にも叫び出しそうになるのを、ようやく堪える。

今夜は一人ではないのだ。隣には綾波が眠っている。


僕は、首を回して、綾波の方をみる。

綾波は、僕の方に顔を向けている。安らかな寝息をたてている。

(綾波、どうして君は、こんな頼りない、弱い、駄目な、イヤらしい、この僕を・・信じてくれているの?)

その時だった、綾波が僕を呼んだのだ。

『・・・碇君・・・』

「綾波!?起きているの?」

僕は驚いて、綾波の顔を見つめる。

レイの様子に変化はない。安らかな寝息をたてたままだ。

(寝言なのか)

また、夢を見ているのだろうか、僕が”消える”夢を。

(綾波・・・僕はどこにも行かないよ)

僕は、首を伸ばして、綾波の頬に、そっと口づけをする。

暗闇の中ではあったが、僕は、綾波が微笑んでくれたような気がした。

僕は心の中で、さっきの言葉を繰り返す。

(僕は、どこにも行かないよ。いつも綾波のそばにいるから・・・)

(だから、綾波も僕のそばから離れないで・・・)

僕は、顔を天井に向けて目をつぶる。

暗闇の中で、レイの規則的な寝息だけが聞こえている。

僕は、いまの自分が幸福であるような気がした。 

いつのまにか、僕は眠ってしまっていた・・・。







夜明け前、日が昇るにはまだ少し間のある頃、レイは目覚めていた。

レイは考えている。傍らで眠る少年のことを。

(・・碇君・・あなたは・・どうして・・私に・・優しいの?)

このごろの自分は、どこかおかしい。

今までなら、どんな夢を見ても、恐ろしいと思ったことはなかった。

いや、恐ろしいことなどほとんどなかったのだ。”絆”を失うこと、以外には。

あの日以来、悪夢を見続けた。シンジを見失う夢だ。

眠ることが怖くなった。温もりが欲しかった。

昨晩は、遂に耐えられなくなって、ここへ来てしまった。

少年の温もりが欲しかった。狂おしいほどに。

少年はそれをくれた、私の求めていたものを。

でも・・レイは思う。これは私の望みだったのだろうか。

二人目の綾波レイと、この少年の間に”絆”があったのは間違いない。

私の受け継いだ記憶には、確かにそれがあった・・・。


・・・違う。少年を、少年との”絆”を求めたのは、いまの私。いまの綾波レイ。

レイは、シンジの方へ顔を向ける。健やかな寝息が聞こえている。

レイは、頭を傾けて、そっとシンジの胸に自分の頬を押し当てる。

シンジの温もりと、規則的な鼓動とが、が伝わってくる。

(碇君の、温もり)

(碇君の、鼓動)

レイは、頭をあげて、シンジの顔の方を見上げる。

(・・碇君・・私、いま幸せよ・・・碇君は、いま幸せ?)

『!』レイには、シンジが笑ったように感じられた。

(・・碇君・・ありがとう)

レイは、再びシンジの胸に、自分の頬を乗せた。


心地よい温もりの中で、レイは、自分が再び眠りの世界へ引き込まれてゆくのを感じていた。


【二色の独楽・パート2】END  


ver.-1.10 1997- 04/16

ご意見・感想・誤字情報などは iihito@gol.comまで。




【作者の部屋】

−今日のゲストは、再び「碇シンジ」君です。

作 者「ゴメンね、シンジ君。今回も、君とレイちゃんの”熱い”夜を書いて上げられなくて」

シンジ「べっ、別に良いですよ。綾波と、そ、そんな夜を過ごせなくっても・・・」

作 者「その割には、君はレイちゃんの体に”反応”してたみたいだけど?」

シンジ「い、良いじゃないですか、僕だって健康な14歳の男なんだから・・・」

作 者「考えてみれば、おかしいよね。この前レイちゃんの部屋を訪ねたときに、しちゃっても良かったんだから」

シンジ「あっ、あの時は、カオル君のことで思い詰めてたし・・。それよりどうすんですかこれから・・・数少ない読者も逃げちゃいますよ、こんなウジウジと進まない話」

作 者「そうだねぇ・・実は2通ほどメールをいただいてるんだ”二人の熱い夜を期待してます”って内容の」

シンジ「そ、それじゃあ次こそ・・(じゅる)」

作 者「なんだ、やっぱり君が一番期待してるみたいじゃないか」

シンジ「ち、違いますよ。ただ僕は読者が期待する物を書いた方が、い、良いんじゃないかと・・・そう言いたいだけで・・・」

作 者「私はね、シンジ君。二人が結ばれることを嫌ってる訳じゃないんだ。ただね、二人の関係は、まだ同朋愛というレベルにとどまっていると考えているんだ」

シンジ「同朋愛、ですか?」

作 者「うん、それでね、二人が結ばれるのは、互いが、異性としての互いの人格を認めあい、愛情の対象として意識しあうようになってから、と考えている」

シンジ「なるほど(何だか、分かったような分からないような説明だ)・・・それで、次回作の予定は?」

作 者「うん、とりあえず、このシリーズはお終いにして、別の話を書きたいと思う」

シンジ「終わらすんですか、この話。(要するに、濡れ場が書けないだけでしょ)それで次の話の内容は・・・」

作 者「うん、君は次回、一つの別れを経験することになる・・・」

シンジ「ええ、まさか僕を、綾波から引き離して、そのまま”退場”させるんじゃ!?」

作 者「まあ、その辺は・・・次回のお楽しみと言うことにしておこう・・・・」

【作者の部屋】END


 [綾波 光]さんの【二色の独楽・パート2】発表です。
 短編・・・ではなく、もうこれは連載ですね。

 戦いの中で傷つき、失った心の部分を
 お互いのふれあいの中で徐々に取り戻していく二人です・・・・

 ちょっとした体のふれあいと、柔らかな心のふれあい・・・・・

 二人の心の透き間は埋まっていくのでしょうか?
 そうなっていくことを祈っています。

 

 それにしても気になるのが【作者の部屋】での二人の会話ですね。
 一体「一つの別れ」とは?
 ああ、次回が気になる−−−!!

 訪問者の皆さんも[綾波 光]さんにエールを送って下さいね!!
 一言だけのメールでも、大きな喜びなんですよ!!


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