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【G・O・D】
作・H.AYANAMI 

レイは、シンジとのVRDF(仮想空間近接戦闘)シュミレーターでの格闘訓練中に倒れた。

VRDFシュミレーターは、操作するものの動きをデジタル化して、その動きを3D仮想空間上に再現するものだ。

要するに3D化した格闘戦ゲームを想像すればよい。

しかし、ゲームとは違い、実戦を想定したものであるから、攻撃を受ければ、電気的な刺激として”痛み”が操縦者に伝わるように作られている。
もちろん、その痛みの程度は加減されていて、もし本当の戦闘ならば、即死するような衝撃を受けても、その痛みは決して気絶するほどにはならない程度に調節されるようになっていた。

今、3D仮想空間上で、シンジの”乗る”エヴァは、レイの”乗る”エヴァに後ろを取られていた。

レイのエヴァによって、シンジのエヴァは羽交い締めされている。

シンジの首の部分につけられたフィードバックシステムには、先ほどから連続的な電気パルスが送られ続けられていた。もちろん本当に窒息してしまうわけではないが、シンジは、次第に息苦しさを感じるようになっていた。

(なんとかしなければ、このままでは本当に”落とされて”しまう)  

最後の力を振り絞り、上半身を思いきり捻る。瞬間、レイの絞める力が弱まる。

シンジの首がわずかに動くようになる。

(チャンスだ)

シンジのエヴァは、レイのエヴァのあごへ、思い切り頭突きをくらわす。

当然、衝撃は、レイにフィードバックされる。3D上のレイのエヴァはそのまま後ろ向きに倒れた。

シンジのエヴァは、振り向き、レイのエヴァが倒れているのを確認するとその上にまたがった。さっきのお返しとばかりに押さえ込みにかかる。

「シンジ君、訓練中止よ、レイが意識を失ったの」

「えっ、なんですって」慌てて飛びのくシンジ。

3D上のシンジのエヴァは、転げるようにレイのエヴァから離れた。  

もっとも、レイが意識を失った時点で、フェイルセイフが働き、フィードバックシステムがカットされたので、シンジの措置は無意味だったが・・・。





−病室、ベッドにはレイが横たわっている。

伊吹マヤ二尉がつきそっている。


レイが目を覚ました。起き上がろうとする。

「まだ寝てなきゃ駄目よ。レイちゃん」 

マヤは、起き上がろうとするレイを、手で制しながらやさしく言う。

素直に従い、再び横たわるレイ。

左手を毛布から出し、自分のあごの辺りをさわっている。

「あごは心配ないわ。少し赤くなっている位よ」

「それより体調が悪いことをどうして教えてくれなかったの?」

レイは、なぜか反射的に顔を反対側にそむける。

その白い顔に赤みが射してくる。

『・・別に、病気ではない、はず・・』つぶやくレイ。

「・・そうね、確かに。・・学校で習ったの?」

『・・本を、読みました』

「そう・・いつから始まったの」

『・・昨日、から』

「そう、じゃあ今日、明日が一番つらいときね。もう痛くない?」

下腹に感じられる疼痛は今だに続いているが、こうして横になっていればそれほど辛くはなかった。

『・・大丈夫、です』

「そう、この機会だから少し話しておきたいんだけど、聞いてくれる?」  

『・・はい』素直に肯く。

「あのね、あなたの読んだ本に書いてあったかどうか分からないけれど、生理の時の症状の現れかたには、個人差が大きいの」

「私の一番上の姉なんかはね、ひどく”重い”方なの。その期間のうち3日間はベッドから起き上がるのもつらそうだったわ」

「子供のころ姉の様子を見ていて、少し後に自分にもそれがやってくると知った時に私は女に生まれた事を悔やんだわ。毎月毎月あんな苦しい思いをしなければならないのかって」

「幸い、私は姉のように”重く”はなかったけれど、それでも10代のころは、自分が女に生まれたことが、いやでしょうがなかった・・・」


マヤは、そこまでを一息にいうと、レイの方を見やった。

レイも、マヤの顔を見ている。

「レイちゃん、私たちになぜこれがあるか知っているわよね」

『・・生殖の、為』

「せ、生殖って!?意味は正しいけど・・・赤ちゃんを産むためよ」

『・・赤ちゃん・・』レイの言葉には、わずかに驚きの響きがあった。

「今の私は自分が女に生まれて良かったと思ってるの。いつか私も赤ちゃんを産む。・・・命を育み、未来に命を伝えてゆく」

マヤは、どこか夢見るように話した。

『・・未来に、命を伝えてゆく・・』レイはマヤの最後の言葉を繰り返す。

「だからね、レイちゃん。自分の身体をもっと大切に扱いなさい。辛いときは、ちゃんと言いなさい。私か、葛城三佐に言ってくれれば、すぐに分かってあげられるから」

レイは黙って肯く。

「・・・それじゃ、私はまだ仕事が残っているから、これで行くわね」

部屋を出て行こうとするマヤに、レイが声をかける。

『伊吹二尉・・』

「何、レイちゃん」振りかえるマヤ。

『・・すみません』

「いいのよ」レイに笑いかけ、マヤは病室を出ていった。




レイは、病室の白い天井を見つめながら考えている。

(私・・・赤ちゃんを・・産むことができる)

(赤ちゃん・・私の命を、継ぐもの・・未来へ、続く、命・・・)

『赤ちゃん・・早く、産みたい・・』レイは声に出して言っていた。

レイの脳裏に、なぜかシンジの顔が浮かんだ。

(私・・碇君の・・・赤ちゃん・・・産みたいの?)   

レイは自分の顔が赤らむのを感じていた。

しかしそれがなぜなのかは、どうしても解らなかった。

【G・O・D(Gift of Diana)】END 


ver.-1.10 1997- 04/13

ご意見・感想・誤字情報などは iihito@gol.comまで。


【作者の部屋】

「綾波光の読者質問箱(嘘)」

今日は読者から寄せられた(大嘘)質問に作者自らお答えします。

Q1.VRDFシュミレーターとは?

A1.作者の思いつきです。本編18話での参号機との戦闘以降開発されたものと想定しています。既に人の動きをリアルタイムで3D化する技術は実用化されていますから、画像同士の接触をフィードバックすることさえできれば、現在でも可能だと思います。

Q2.綾波レイは「血を流さない女」のはずでは?

A2.それはあくまでも「あちら」の設定です(笑)。作者は綾波レイをあくまでも14歳の普通の少女として描いてみたいのです。従って、普通あるものは、あるものとして、今回の作品を書きました。

Q3.実際に、ベッドから起きあがれないほど”重い”女性がいるのですか?

A3.作者が、実際に知っているのは約1名です。実は作者の姉です。彼女も出産後体質が変わったとかで、それで寝込むようなことはなくなったようです。

以上で今回の「綾波光の読者質問箱(嘘)」を終わります。ありがとうございました。


 綾波 光さんの短編【G・O・D】発表です!

 「血を流す」事でレイに生まれる新しい感情・・・

 自分を未来に継げる。
 母になることが出来る。

 それを知ってシンジの顔が浮かぶ・・・・

 一歩一歩「人」の心に近づいていくレイが伝わってきます。
 これが[綾波光]さんのレイに対する愛情なのでしょうか。

 暖かい気持ちになる短編でしたね!

 読者の皆さんも綾波光さんに感想を送って下さいね!!


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