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【あの日、二人】

作・H.AYANAMI 



 ―NERV本部内、指令公務室。 
 室内にいるのは、碇ゲンドウと葛城ミサトのふたり。  


「葛城三佐、ファースト・チルドレンとサード・チルドレンの交流を遮断しろ」  

「はっ?総司令の御命令の意味が理解できかねますが」

 ゲンドウの眼鏡が光る。

「当面、君にはサード・チルドレンの厳重監視を命ずる。レイに近寄らせるな」

「・・しかし、何のために」  

「命令を実行したまえ、葛城三佐」


「・・わかりました」 

 しなやかに身を翻し、ミサトは、指令公務室を後にする。  


(何?親子してレイの取り合い?)  

(それだけのことに、作戦部長の私を使おうというの?ふざけてるわね)  





 ―再び、指令公務室  


 ミサトが出ていったのとは異なる扉から、綾波レイが入ってくる。  

 ゲンドウは座したまま、レイが近づいてくるのを待っている。  


 レイは、ゲンドウの前までくると、じっとゲンドウの顔を見つめる。  

 おもむろに、ゲンドウが口を開く。 

「・・レイ、もうシンジとは接触するな」  

 レイは、ゲンドウの顔を凝視ながら、ぽつりと答える。 

『・・イヤ、です』  

「これは命令だ、レイ」  

『・・命令を、拒否、します』  

 レイの目には、そのときゲンドウの顔が、わずかに歪んだように見えた。  

「・・なぜだ、レイ。なぜそれほどまでにシンジにこだわる」  

『・・碇君は・・総司令の・・くれないものを、私にくれました』  

「何だ、それは」 ゲンドウの声には、怒気が含まれている。  


『・・温もり、です』  

 ゲンドウは沈黙する。ただ、じっとレイを見つめている 

 レイもまた、少しも臆するところ無く、ゲンドウを見つめ返している。  

 おもむろにレイが言う。 

『・・他に、お話が無いのでしたら、これで、失礼します』

 ゲンドウに背を向けて、立ち去ろうとする。  

 ゲンドウは、咄嗟に声をかける。 

「待て、レイ」


 振り向いて、ゲンドウを見つめるレイ。 

 後の言葉を持たず、ただ黙ってゲンドウはレイを見つめる・・・優しさに満ちた眼 差しで。  

 レイは、もうその眼差しに触れても、自分の感情がほとんど動かされないことに安 心する。  



『・・・碇君が、待ってますから』 

 それだけ言って、部屋を出ていってしまう。  



 一人残されるゲンドウ。  

(あんなひ弱なガキに、我等の計画が根底から覆されようとは・・・)  


 それが、彼の、我が子に対する、偽らざる感想だった。



 シンジは、帰り際に、ミサトに呼び止められた。 

「シンジ君、今日は早く帰れそうなの。晩ごはん作っといてね」  

「・・はい、珍しいですね。ミサトさん」  

 シンジの話しぶりには、落胆が含まれている、とミサトには思われた。

「あら?シンちゃん、私が早く帰ると、何か都合が悪いの?」  

「えっ、そ、そんなことないですよ。ぼ、僕に何があるっていうんですか」 

 そう言うシンジの顔は、既に紅潮している。  

(それじゃ、何かあるって言ってるのと同じじゃないの・・・これだからシンジ君を からかうの、止められないわ) 

「ひょっとして、誰かとデイトとか」  

「そ、そんな事あるわけ無いじゃないですか!!」

 シンジは強く否定する。  

(ホント、シンジ君って、見てて飽きないわ)  

「そおー? ま、いいけど。久しぶりのシンちゃんの手料理、楽しみに帰るから」  


「ミ、ミサトさん、何か食べたいものありますか?」  

「そうねえー、いい、シンジ君にまかせるから。じゃ、ね」 

 ミサトは、足早に、シンジの元から離れていった。  




(碇指令、すみませんが、私に出来るのはこれぐらいです。後のことは諜報二課にで も指令して下さい。私もいろいろ忙しいんです)  

 いまは親子の争いに関わっているべき時ではない、真実を知る為の時間はもう余り 残されてはいないはず・・・。

 ミサトの直感は正しかった・・・。



 レイは一人、地上へ通ずるエスカレーターのコンコース前に立っていた。 


 実のところ、シンジとはっきりと約束しているわけではない。 

 ただ、ここのところ、どちらか先に来た方がここで待ち、一緒に帰ることが習慣に なっていた。  

 シンジは、レイの姿を見つけると、その元に駆け寄った。 

「あ、綾波、ごめんね、待った?」  

『・・良いの』

 素っ気なく言い、先に立って歩き出し、エスカレーターに踏み込む。  

 シンジはあわてて付いてゆき、レイの一段下のステップに立つ。  

(綾波の様子がおかしい)  

 いつもの綾波とはどこか違う。シンジにはそう感じられた。  

「あ、綾波・・」おずおずと声を掛ける。  

 レイが振り向く。 

『・・何、碇君』  

「あ、あのさ・・どこか具合でも悪いの?」  

『・・別に、どこも悪くは無いわ』  

「そ、それなら別に・・良いんだけど・・」 



 それきり、会話は途切れてしまった。 

 地上に出てからも、二人とも何も話さなかった。 

 シンジは、ただレイの後に付いてゆくだけだった。  

 レイは、滅多に自分から話すようなことない。 
 
 シンジも、ただその場限りの、間を持たせるだけの会話は得意ではない。 

 だから、こうして二人黙ったまま、帰路につくのもそう珍しいことではない。

 しかしシンジはある種の違和感を感じていた。 

(やはり、今日の綾波はどこか変だ)



 突然、レイが立ち止まった。 

 シンジは下を向いていて、レイが立ち止まったことに気づくのが遅れた。  

「あっ」 シンジはレイを突き飛ばしそうになり、あわてて両手を広げバランスを取 ろうとする。 

 間に合わなかった。結局シンジはそのままレイにしがみついてしまった。  

「ご、ごめん。わ、わざとじゃないんだ」 

 あわててレイから離れようとするシンジ。けれども、シンジはレイから離れること はなかった。  

 シンジがレイにしがみついたその刹那、レイは振り向いていた。そして、自分から シンジにしがみついていた。  

「ど、どうしたの、綾波」 シンジはあわてた。 


 町のかなりの部分が破壊され、住民もかなりの数が他所へ疎開してしまったとはい え、

 ここは路上である。誰に見られるか分かったものではない。 

 シンジは辺りををきょろきょろと見回した。  


「うん!?」

 シンジはレイが自分の胸で、雨に打たれた小犬のように震えているのに気づいた。  

「あ、綾波、綾波。いったいどうしたというの?」 

 しがみつくレイの体を無理矢理引き剥がすようにして、シンジはレイの顔を覗き込 む。  

レイの赤い両目には涙があふれている。 

「綾波!?・・・どうしたの? いったい何を泣いているの?」  


『・・碇君・・わたし、怖い・・』 

 レイは、それだけ言うと、再び、シンジの胸に顔を埋める。  

「怖いって、いったい・・・」 

 シンジには、レイをこれほど怯えさせるものの見当が付かない。  

「と、とにかくここじゃ話もできないから、綾波の家へ行こう」  

『・・うん』

 しかし、レイはシンジの体から離れようとはしなかった。

 二人は、もつれ合うように再び歩き出し、レイの部屋に向かった。



 ―綾波レイの部屋 



 レイはベッドの端に腰掛けている。 

 シンジは、傍らの椅子に腰掛けている。  


 半ば放心状態のレイを、引きずるようにして階段を上らせて、此の部屋に連れ帰り 、

 ベッドに座らせたのは、およそ1時間前。 


 レイは押し黙ったまま、ずっと下を向いたままだ。 

 見たことのないレイの在りように、シンジは声もかけられず、またその場から動く ことも出来ずにいた。

 しばらくの間、シンジはじっとレイの様子を伺っていたが、やがてそれにも耐えら れなくなり、

 今はレイと同様に、下を向いたままだった。


『・・碇君』突然、レイがシンジを呼ぶ。  

「え、何? 綾波」驚いて顔を上げるシンジ。  


『・・私、もうじき・・消えるわ』  

「あ、綾波、一体何を言ってるの? 消えるって、どこかへ行ってしまうってこと? 」  

『・・うん』ぽつりと答える。  

「一体どこへ行くって言うの?いやだよ、綾波・・僕のそばから離れないでよ」  


『・・どこへ行くのか・・私も知らない・・ただ・・』  

「・・ただ?」  


『・・そこに行けば、綾波レイは消えてしまう・・・私は、私でなくなる、の』  


 シンジには、レイの言っていることが分からない。感情が高ぶる。 

「あ、綾波、そんなのいやだよ!!」

「お願いだからそんなこと言わないで、綾波は、綾波のままで・・・いつまでも僕の そばにいてよ!」


 シンジは、レイを抱きしめていた。レイの体が壊れてしまうほどの強い力で。 

「綾波、綾波、綾波・・・・」うわごとのようにレイの名を呼び続ける。  


 心の中でレイは応える。 

(ありがとう、碇君・・・でも、だめなの・・あの人は私を見逃してはくれない。)  

(私は・・・あの人の”望み”を叶えるための”鍵”だから・・・)  


『碇君』

 レイは、意外なほどの強い声でシンジの名を呼ぶと、シンジを自分の体から引き離 し、

 シンジの顔を見つめて、静かにこう言った。

『・・碇君、私を、殺して』


 呆然とするシンジ・・やがて、ようやく呟くように言う。 

「・・急に、何を言い出すの・・」


『あの人は、決して、私を見逃しはしない・・・時が来れば、きっと、私は消されて しまう・・・あの人の、望みを叶えるために・・・・・私はその為に今日まで生かさ れてきたのだから』

『・・今、碇君の、手で、殺されれば、私は、綾波レイとして、死ぬことが出来る・ ・碇君の、綾波レイとして・・』

 レイの覚悟は悲壮なものだった。



(あの人、あの人って、まさか、でも綾波がいうあの人は・・父さん以外に考えられ ない)

(父さん・・・僕から母さんを奪い、僕を捨てた。その上今度は、綾波まで僕から奪お うというの? 自分の望みを叶える。ただそれだけのために・・・)


「父さんだね、僕の父さんが綾波を消してしまうんだね」

 シンジはレイを問いつめる。


『・・うん』肯くレイ。  


 シンジの父親への感情はこのとき質的な変化をとげた。

 いままで父親の存在はシンジにとっては、疎ましいもの、漠然とした嫌悪を感ずる 存在だった。


 今シンジは、はっきりと自覚した。父親は憎悪の対象、打倒すべき敵なのだ、と。  

 暗い情念のこもった目で、シンジは目の前の少女を見つめている。  


(父さん、僕は、綾波を父さんの好きにさせたりはしない・・・僕の、僕だけの綾波 にする)  


 父への憎悪は、いま目前の少女に対する欲望に姿を変えた。

 次の瞬間、シンジはレイをベッドに押し倒していた。

 シンジはレイに馬乗りになり、両腕でレイの華奢な肩を押さえつけた。 

 レイは、シンジの狼藉に抗らおうとはせず、されるがままになっている。


「綾波、君を、僕だけのものにする」


 レイは僅かに肯き、目を閉じた。  


 シンジは、レイが拒む意思を見せないことを確認すると、レイの着ているものを脱 がし始める。 

 やがてレイは一糸まとわぬ姿にされる。 


 まぶしいようなレイの白い裸体をみたシンジは、ベッドを降りて、着ているものを 引き千切るようして脱ぎ始め、自分も全裸になった。 

 既にシンジは、欲望にはち切れんばかりの状態だ。 

 シンジは再びベッドにあがる。閉じられていたレイの両足を開かせ、その部分を確 かめると、シンジは一気にレイに侵入しようとする。  


 レイは目を閉じたまま、シンジにされるがままになっていたが、その瞬間、表情に 苦悶が走った。

 シンジを受け入れた激痛は、自然、レイの瞳に涙を浮かばせている。 

 思わず両腕で覆い被さるシンジを押しのけようとするが、シンジはレイの両腕を掴 んでベッドに押しつける。

 レイの体は、シンジの四肢によって磔にされる。



 ・・やがて、シンジは自分が完全にレイの中に入ったことを自覚する。 

 「ふーう」思わず安堵のため息を漏らす。 

 レイの顔を見る。苦痛に歪み、涙で濡れたその顔を見て、シンジの心にはわずかに 怖じ気が走った。

 しかし、ここで止めようと思わなかった。

 レイの肩の辺りに自分の頭を押しつけ、レイの顔を見ないで済むようにした。 

 すぐにシンジは動き始める  シンジが動く度に、レイの下腹には痛みが加えられる 。  


(・・・碇君・・・とても、熱い・・・とても、痛いわ・・殺すなら、ひとおもいに ・・)  


 シンジはレイの脈動が急速に高まってゆくのを感じる。 

 それにあわせるかのように、シンジの動きが早まってゆく。 

 力いっぱいに自分をレイにぶつけている。  

 レイの痛みもさらに高まり・・・しかしようやくレイは、痛みの中に潜む未知の快 感に気づき始める。


「うっ」 短いが決定的な快感がシンジを襲う・・・・シンジの動きが止まる。  



 荒い息をつきながらレイから離れたシンジは、レイの横に仰向けになった。   



 レイもまた、天井を見上げていた。下腹の痛みはいまだ続いていたが、今は耐えら れないというほどのものではなくなっている。  


(碇君・・もう大丈夫・・あの人に呪縛されていた、綾波レイは・・死んだわ) 

(・・だから・・今の私は・・・碇君だけの・・綾波レイなのよ)  


(綾波、僕はもう、決して君を離さないよ) 

(たとえ相手が父さんだって・・・絶対に負けはしないよ)


 二人は、どちらからともなく互いの顔を見る。  

 と、その時だった。突然ベッドの傍らにおかれていたレイの携帯電話が鳴り出す。  

 レイは起きあがり、電話に出た。 

『はい、綾波です。葛城三佐ですね』 

「レイ、非常召集よ、すぐ本部まで来て」 

『はい、了解しました』 

「あっ、そこにシンジ君が来てるでしょ、ちょっち替わって」 

『・・碇君、葛城三佐から』  

「ミサトさんが!?」電話を受け取るシンジ。 

「もしもし」 

「ど、どうして僕がここにいるってわかったんですか?」 

「それは・・まあ・・女の勘って奴かしら・・そんなことより緊急事態なのよ!レイ といっしょにすぐ本部まで来てちょうだい」  

 ミサトは白々しい嘘をついた。チルドレンたちは、24時間監視されているのだ。  


「・・緊急事態って!?、使徒はもう来ないんじゃなかったんですか」 

「電話では話せないわ。とにかく急いで来なさい」 

「・・・わかりました」  

(なにが起こったと言うんだろう?) 服を身につけながらも考え込むシンジ。  


『急ぎましょう』 身支度を整えたレイから声がかかる。  

「う、うん」 レイの言葉に促されてシンジは玄関に向かった。  




 僕らは、NERV本部への道を急いだ。 それが、僕らの最後の戦いが始まりだった 。

 すべてを賭けた戦いの・・・。



ver.-1.20 1997- 04/24

ご意見・感想・誤字情報などは iihito@gol.comまで 。


 【作者の部屋】 

えー本日は、青少年の行動原理にお詳しい、赤木リツコ先生においでいただき お話を伺うことにいたしました。

作 者「本日はようこそ。早速ですが、シンジ君の行為について、どのように お考えでしょうか?」

リツコ「青少年の欲望は、しばしば破壊的衝動を伴います。その意味で、シン ジ君の行動はその典型と言って良いのではないでしょうか」

作 者「・・なるほど、それではレイちゃんについてはいかがでしょうか」

リツコ「処女性というのは、実に文化的な規範です。21世紀の今日において は、それ自体語られることは少なくなりましたが、彼女の場合には、深層心理の レベルにおいてそれが強く影響していたんだと思います。彼女はそれを失うこと によってむしろ心理的な自由を獲得したように思います。多分徐々にではありま すが、彼女の性格は変貌するのではないでしょうか」

作 者「・・なるほど、それでは、拙作についてはどのような意見をおもちでしょう か?」

リツコ「・・無様ね。だいだいあなたの作品には、まともな落ちが付いてない じゃない。いつも次に含みを残すような終わり方ばかりしていて・・ はっきり言って最初から望みも持てないし、期待も出来ないわ」
 「私、自分で言っていてだんだん不愉快になってきたから、これで帰ります。 これから飼っていた猫のお葬式なのよ。さよなら」

作 者「ほ、本日は、あ、ありがとうございました・・・(呆然)」



 [綾波 光]さんの短編、【あの日、二人】公開です。

 シンジとレイの初めての行為。
 そのきっかけにシンジの父親に対する対抗心があったのは否定できないのかも しれません。
 しかし二人の間には確かに愛があったのでしょう。

 愛・・・難しいですね。
 この年の男に子にとって、愛と性欲の境目は何処にあるのでしょうか?
 実際私はどうだったのだろう・・・・?

 ゲンドウの思惑、ミサトの動き、気になる点が沢山出てきますが、
 これは短編なんですね・・・・・続きが気になります(^^)

 読者の皆さんはシンジ達に何を感じましたか?
 [綾波光]さんにメールを送って下さい。



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