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ねがい 第3話 決戦前夜 C-part  




「すまん。待たせたな」
「いえ、今来たところですから」
「じゃ、行こうか」

 シンジが乗り込むと同時に車は急発進した。タイヤの悲鳴が夜の町に響きわたる。運転しているのは長髪の優男。しばった後ろ髪が特徴的だ。無精ひげも彼のオープンカーの前では彼をひきたたる小道具の一つに感じられる。
 ・・・・ただ、着ている服はジャージだった。黒のウィンドブレーカーを着込み、足下はサンダル。なんともこの優男には不似合いな格好だ。

「加持先生、買い物行くときまでジャージなんですか?」
「ああ、そうだけど変かい?」
「いや、そういうわけじゃ」
「つい、癖でね。授業じゃずっと来てるわけだし」
「はあ」

 外に買い出しに行くときは先生が同行する。今日は体育の加持先生が店まで送ってくれることになっていたのだ。さすがにこの時間では購買部も開いていない。近くのコンビニまで買い出しに行くのだ。

「それと、先生はやめてくれよ。そういうがらじゃない」
「じゃあ、加持さん」
「ああ、それがいい」
「加持さんもこの学校出身だったんですか?」
「ああ、葛城・・・君たちのやさしい担任、ミサトと同じさ。中高時代はつるんでいろいろやったもんだ」
「そうなんですか。加持さんの時もこんなに泊まり込みとかしてたんですか?」
「もちろんさ。オレ達の時代はまだセカンドインパクトから復興しきってなくてな。設備はぼろかったがもっと無茶なことができたもんさ」
「・・・・セカンドインパクト」

 無意識にシンジの口からその単語が漏れる。授業で教え続けられてきたその事実。巨大隕石の衝突による、その悲劇。

「なんだ?興味あるのかい?あの忌まわしい過去に」
「いや、特別そういうわけじゃないんだけど」
「碇司令、君のお父さんに聞くのが一番いい」
「父さんに?」
「ああ、そうだ」
「・・・父さんってどんな人なんですか?」
「ん?君は自分の父親のことを他人に聞くのかい?」
「いや、加持さんは父さんと仲いいって聞いたから」
「仲がいいのは校長さ」
「そうですか・・・」

 しばしの沈黙が2人を支配する。
 その重みに耐えきれなくなったように口を開いたのはシンジ。

「あの、加・・・」
「ちょっと待ってくれシンジ君」
「え?」

 何かまずいことでもあったのかとシンジはドキリとする。

「夜の町ってのはこんなに静かなものだったかい?」
「え?」
「物音一つ聞こえない。何か、そう何かがかけている気がする」
「・・・いえ、ぼくにはわかりません」
「そうか、気のせいだったのか」

 加持はその言葉とは裏腹に釈然としない表情を浮かべていた。



「実行委員会より連絡します、各団体、各クラスの責任者の人はB棟、祭本部まで集合してください」

 学校中に緊急放送が流れた。朝日が大時計を照らす。その短針には珍しく故障の告知がかかっている。しかし、時計が止まろうとも時は止まりはしない。学校がその重いまぶたをあける時間だ。登校してくる者、起き出して体操を始める者、顔を洗う者などで学校全体が急にあわただしくなり始めていた。

「朝よ!バカシンジ!」

 ここでも、いつもの朝の風景が繰り返されている。
 アスカが腰に手をあて、胸を張ってさけぶ。

「す〜ず〜は〜ら〜、朝よ、起きなさい!」
「シ〜〜ンちゃん、朝だよ〜」

 それぞれの方法で朝を告げる少女達。それをケンスケはつまらなそうにビデオにとっていた。

「オレを起こしに来る娘なんていないからなあ」

 彼の悲しいつぶやきは誰にも聞かれることなく、唯一、ビデオだけがデジタル音質で録音しているのみであった・・・・。

「ほら、シンジ(シンちゃん)今日で最後なんだからきちんと起きなさい!(起きて!)」
「・・・・なにも、2人で声あわせなくても」
「何いってんのよ!あんたが起きないからでしょ!」
「アスカ、朝からそんな口調じゃシンちゃんがかわいそうよ。もっとやさしく起こしてあげなきゃ。ね、シンちゃん」
「う、うん。そうだね」

 寝起きで話の内容もよくわからず、生返事をするシンジ。もちろん待っていたのは紅葉だった。

「バカシンジ!」

 パン!
 いつものごとく乾いた音が炸裂。これでやっとシンジの目が覚めるのだった。


「ふぁ〜。しかし眠いなあ」
「これで、また重労働の1日の始まりか」

 宿舎から校舎まで校庭を横切って移動しなければならないのだが、大きなオブジェが運ばれ、釘を打つ音、放送の音が響く校庭は、こんな眠い朝にはひどく感じが悪い。皆、げんなりしていた。

「そうゆうたら、わしらいつからとまっとるんや?」
「忘れたよ、そんな昔のこと」

 トウジとケンスケがどこまでほんとかわからないような会話をしている。シンジは眠気のせいか明後日の方向を眺めたままである。

「あと、もう一息だよ。がんばろう!」
「そうよ、今日1日で終わりでしょ!根性見せなさいよ!」
「明日が学園祭なんだからね」

 レイとアスカは顔には寝不足の傾向がみられるものの、男性陣のように疲れた態度はみせない。
 それぞれの朝がすぎていき、長い長い1日がまた幕開けようとしていた。

「あ、あれ」
「ミサト先生!」

 ものすごい勢いでミサトの車が校門を通り抜けた。そして、そのまま急停車するとミサトもまたものすごい勢いで校舎に突入した。

「どうしたんだろ?」
「さあね」
「きっとまた寝坊したんでしょ」
「そんなことより、準備いそがないと!」
「そう、今日こそは帰って寝られるようにがんばるのよ!」
 
 少年、少女達は持ち場へと散っていった。


<1時間前 ミサト>

(・・・・・・・・コーヒーの香りがする)

「・・・・・ここは・・・どこだっけ?」
「やあ、おめざめかい?葛城」
「加持!なんで、私の部屋に!」
「おいおい、めちゃめちゃいわんでくれよ。昨日の晩、宿舎じゃ飲めないからって体育教官室に押し掛けてきたのはそっちだろ?」
「・・・・う、そうだったわね」
「寝相の悪さ、変わってないね」
「な、何バカなこといってんのよ!」

 朝っぱらからミサトの顔が朱に染まる。

「いい、このことリツコにはいわないでね」
「へいへい。こないだ怒られたとこだもんなあ。学校で酒のむなって」
「うっさいわね」
「ところで葛城、いいのか?帰らなくて。昨日いってたろ。明日は朝から一回家に帰るからはやく起こしてくれって」
「あ〜〜、わすれてたわ」

 ミサトは言うがはやいかいそいそと身支度をすます。もっとも昨日の服のままだったので準備も何もないのだが。

「じゃね、加持。起こしてくれてありがと」
「どういたしまして。気をつけてな」

 加持の返事を待たずしてミサトは消えていた。加持は1人、部屋を片づけ始めるのだった。
(変わらないな、あいつも)
 ミサトの残り香のする布団をたたみながらふと昔を思う加持であった。


次回に続く

ver.-1.00 1997-4/04

ご意見・感想・誤字情報などは ps017969@kic.ritsumei.ac.jpまでお送り下さい!



 ど〜も!ここまで読んでくださった方、ほんとにほんとにありがとうございます〜!
 今回も状況説明的に終わってしまいました。しかも、<1時間前 ミサト>がまだ終わってない〜〜。読んでくださっている方、わけわかんないかもしれないけど、ごめんなさいね。次回ではもう少し状況が把握できるようにしますのでお許しを。

 ゲシッ!
作者 「痛っ」
アスカ「あんたね〜、また私のセリフが少ないじゃない!」
作者 「あっ天の声」
 ゲシッゲシッ!
作者 「はっ天の足」
アスカ「は〜〜。バカね」

 [たつ]さんの投稿「ねがい」第3話 C-part公開ですよ!

 おお−−! 加持さんがかっこいいぞ!!
 でも・・・ジャージ・・・・・「お前はトウジかいっ」ってつっこんじゃいましたよ(笑)

 アスカちゃんとレイちゃんに起こされるシンジ君は、まあ、いつもの事として、
 トウジ君も委員長といい感じですね。
 でも、やっぱりケンスケはあぶれちゃうんですね・・・・・(涙)

 ミサトさんもなんだか・・・・・ですね。

 そろそろ学園祭本番ですね。
 なんの劇をするのかな?

 さあ、訪問者の皆さん。たつさんに応援のメールを送りましょう!!


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