彼女がかわった理由
〜少女達の聖戦〜
雀の鳴き声の聞こえる穏やかな朝・・・・・それは、いつもの朝のようでいて、ちっともそうではなかった・・・。
「・・・?な、何で・・ア、アスカが?・・」
「あら、シンジ様おはようございます」
どういうことか戸惑っているシンジをよそに、アスカは手際よく朝食の用意をしている。
「
なんなんだ……一体……」一人呟いてみるが、それで事態が変わるわけでもない。
アスカの後ろ姿に彼が一人混乱しているうちに、料理が完成したらしく、彼女の動作が止まる。
「はい、できましたよ。シンジ様」
「え、あ、う、うん。あ、ありがとう……」
「ささ、たーんと召し上がれ」
と、幸せそのものの笑顔で手際よく純和風の朝食を並べていく。
(毒は……入ってないよな……)
普段のアスカに聞かれたら、それこそしゃがみアッパー昇竜拳ぐらいは食らいそうなことを考えながら、彼はおそるおそる手前にあった味噌汁をのぞき込み――絶句した。
「……ア……アスカ……こ、これ……」
「おいしそうでしょ? 今日はシンジ様のために腕によりをかけて作ったんですのよ。きゃっ、恥ずかしい!」
一人で赤くなった頬に両手をそえながら身悶える彼女はとりあえず無視し――彼はもう一度それをのぞき込んだ。
上等な赤味噌の中に浮かぶヤモリの頭。ぱっくりと口を開けて、ややより目がちの視線をこちらに向けてきているそれをしばし凝視し――彼はひきつった笑いを浮かべながら、
「ア、アスカ……これってなんかの冗談……?」
そのシンジの言葉に、アスカは大仰な仕草でのけぞり、ハンカチを目元に当てながら(どこから取り出したのかは不明だが)、突然さめざめと泣き出した。
「ア、アアアスカ!?」
「シンジ様ひどい……私が心を込めて作った料理を……冗談だなんて……ごめんなさい。私が悪いんですよね。シンジ様のお口に合う料理を作れなかったのは万死に値する罪! 今ここで腹かっさばいて……!」
「ちょ、ちょっと! ちょっと待って!」
何故か血のりで真っ赤に染まっている、先ほどまで使っていた包丁をつかんだアスカを、あわてて後ろから羽交い締めにする。
「離して下さい! シンジ様が私の料理を食べてくれないのなら……いっそ死なせて!」
「わ、分かったよ! 食べる! 食べるから!」
そのシンジの台詞に、ぴたり、と動きを止め……彼女はゆっくりと振り向いた。
肩越しの視線でこちらを見やりながら、
「本当ですか……」
「う゛…………」
涙に輝く彼女の目に見つめられながら――彼は、なんとなく罠にかかったような気がしていた……
「むー! むー! むむー!」
彼女はその物体をちらりと見やり――再び視線を元に戻した。
「むー! むーむむーむむむむー!」
それ以上は振り返らず――とりあえず、その物体に対する答えではないことを彼女は言った。
「作戦は順調……ダミーは標的に対して絶大な効果を発揮……」
淡々と――言われていること以上の意味は付与せず話す。
彼女の前には、なにやら怪しげなパネルやらレバーやら――その全てがここからは見えないところにあるスーパーコンピューターにつながっているのだろう――と、映画館のスクリーンを一回り小さくしたような、巨大なディスプレイが設置されていた。
その画面には、アスカの持つ箸から、お好み焼きの上のかつお節のようにぐねぐねと動く白米を食べているシンジの姿が映っていた。
そのひきつった笑顔を見るように――彼女は視線をあげる。
「むー! むー! むむむむむむむ……ちょっとファースト! 何やってんのよアンタ!」
突然意味のある言葉を話し始めたそれを、肩越しに見やる。
あくまで首だけを曲げたまま、
「うるさいわね……」
それの下には、締めが緩かったのか、よだれでべとべとになったさるぐつわが落ちている。
「なにがうるさいわね、よ! いきなり人が惰眠を貪ってるところを拉致監禁してきて、言うことはそれだけ!? いい加減にしとかないと終いには東シナ海に沈めるわよ、この無表情!」
それの言葉はまだ続いていたが――彼女は、あきらめたように一つため息を付くと、そちらへと体ごと向き直った。
「少し静かにしていてくれない?……あなたの声って頭に響くの」
そのレイの声に――それの血管(だか何か)が三つほど切れる音がした。
「ふざけるんじゃないわよ! この能面女! この惣流・アスカ・ラングレーさまを緊縛なんかして、ただですむと思ってんの!」
簀巻きにされたまま、だんだんと肩で地面をうつ彼女。
レイはしばらくその姿を半眼で見つめていたが――ふと、ディスプレイに視線を戻す。
そこには、目の前に広がるヤモリの両目に涙すら浮かべながら、味噌汁を飲み干しているシンジの姿があった。その向かいには、アスカが組んだ両手の上に顎を載せながら、やたらと嬉しそうな笑顔でその様を見つめている。
「大体なんなのよあれは! なんであんな所にあたしがいんのよ! ちょっと、答えなさいよ朴念仁!」
レイはもう一度ため息を付き、
「あそこにいるのは弐号機パイロットのデータから作られたアンドロイド……あのアンドロイドに非道の限りを尽くさせ、絶望した碇君をこの私の愛で癒してあげるという、完璧な計画……」
誰に言うわけでもなく――誰に聞かせるためなのかははっきりしていたが――呟く彼女。
その動かない視線の先では、ようやく味噌汁を飲み終わったシンジが、紫色の卵焼きを前にネジの切れたような笑いをあげているところだった。ほとんど廃人と化したシンジの口に、アスカ(のアンドロイド)は楽しそうに形而上的な意味の付与された漬け物を押し込んでいる。
(碇君可哀想……でも耐えて。私があなたを癒してあげるから……)
後ろでまだなおなにか叫んでいる彼女は無視しつつ――腕の前で両手を組みながら、祈るような姿勢でぼうっと妄想にふける彼女だった。
「
ほら、シンジ様。お代わりはいくらでもありますからね。たーんと召し上がれ」シンジは自分の中で何かがゆっくりと壊れていくのを感じながら――焼き鮭の上にうっすらと浮かび上がる人の笑顔(らしきもの)はもう気にしないことにしようと決めた。
(でも……これも慣れれば結構いけるかも……)
…………
どうやら、常識や理性というものを遠く北極海の彼方に投げ捨ててしまった同居人たちと暮らすうちに、彼の環境適応能力はゴキブリの3241倍(推定)にまで進化してしまったようだった。
ここまでくるともはや人と言うよりも使徒に近いような気がするが、それを指摘できる人間は、残念ながらこの場にはいなかった。
「そろそろ潮時かしら……私が止めに入ってあの極悪赤毛猿を殲滅の後、碇君を抱きしめて……それから、それから……」
モニターに見入りながら、1人で妄想にふけっている彼女をジト目でにらみながら、アスカは静かに力を蓄えていた。
フィスト・オブ・フュアリー――アメリカのプロボクサーが戦闘能力を最大限にまで高めるために使う方法で、怒りによって精神力を極限状態にまで高め、肉体の持つ能力を最大限に引き出す荒技である。
「それじゃあ、私はそろそろいくわ……元気でね、セカンドチルドレン……」
ぶちぶちっ!
「ちょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっとまちなさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい」
「………………」
(頬を流れる冷や汗さえなければ)完全な無表情で、彼女は振り返った。
怒りが具現化したオーラを背後に背負いながら――アスカが壮絶な笑みを浮かべる。
「さぁぁぁぁぁって。かぁぁくぅぅごはぁぁあできてるわよねぇぇぇぇえぇ?」
妙な言い回しをつけながら、アスカ。
「……平和的解決って、人類の生み出した結末の極みだと思わない?」
「いいえ、少しも」
にっこりと即答して。
「我は放つ光の白刃!」
ぎゅぼぉうっ!!
「ギガ・スレイブ!!」
づぐぁぁぁぁぁぁぁん!!
「ジェット・トゥ・ジェット・アパカー!!!」
ごずぁぁぁぁんっ!!
「乱れ雪月花!!!!」
ずばしゃぁあぁぁっ!!
「レッドホットシューティングスターハリケーン!!!!!」
ごんっがんっぐぎょっずごべらどーん!!
……………………
「終わった……何もかも……」
ほとんど瓦礫と化した部屋の中で、血塗れの肉片をさりげなく踏みつけながら――彼女はゆっくりと呟いた。
ゆっくりとかぶりを振る。
「虚しい……」
風は穏やかに吹き抜け、太陽は今日も昇っていた。
これで一つの悪が滅びた。だが、またいつ第二第三の悪が現れるか分からない。
頑張れアスカ。それ行けアスカ。この世界から悪の闇を払うその日まで、君の戦いは終わることは……
「天魔よ!!」
ぐらぎしゃあぁぁあぁ!!!
「なに勝手なモノローグ付けてんのよ! さあ、早くシンジを助けに行くのよ!」
……そして。
彼女が駆けつけたときには既に倒れていたシンジは(やはりあれを食べるのは無理だったらしい)、アンドロイドを一撃で灰にしたアスカの手厚い看病によって一命は取り留めた、のだが……
「いやだぁぁぁぁぁっ! ご飯なんて見たくないぃぃぃぃぃっ!!」
「…………アスカ。いい加減にシンジ君の食事恐怖症治らないの?」
「……あたしに言わないでよ……」
とりあえず、葛城家は今日も平和ではあった。
ver.-1.00 1997-12/12公開
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どうも、ぎゃぶりえるです。
なんか他の作者の方々のものに比べてだいぶ短くなってしまいましたが、ご容赦ください。
IRCを使おうかとも考えましたが、まだいまいち理解してなくて何となく恐いのでやめました(機械オンチ)
今回、アスカの使った技の元ネタが全て分かった人。メール下さい(笑)
特に正解したからといってなにか特典があるわけでもありませんが、暇があったらあててみてください(^^;
ではでは。
ぎゃぶりえるさんのオクトパすトーリー作品『』公開です。
強いぞアスカ(^^;
素晴らしい攻撃力で悪を殲滅だ!
自分はシンジをいじめるくせに、
他人がシンジに危害を加えるのは我慢できないアスカちゃん(^^)
その事がアスカちゃんの攻撃力を倍加させていたのかな?
おっと、
自分をシンジから引き離す事。
自分以外がシンジのそばにいる事。
これもきっとアスカちゃんの癇にさわったに違いない?!
でもでも、アンドロイドまで壊さないで欲しかった・・・
・・・俺にくれ!(爆)
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