オクトパすトーリー / めぞん / TOP / [フラン研]の部屋


 
 
 
彼女がかわった理由
Inner pulse
(奇妙な夢)
 
 
 
 

ちゅん、ちゅん

雀の鳴き声の聞こえる穏やかな朝・・・・・それは、いつもの朝のようでいて、ちっともそうではなかった・・・。
シンジがいつものように軽く欠伸をしながらキッチンに向かうと、アスカが彼より早くそこにたっていたのだ。

「・・・?な、何で・・ア、アスカが?・・」

「あら、シンジ様おはようございます」
「へ?・・・シンジ様って・・・?」
「もうすぐ朝食ができますから、お座りになってお待ちください」
「え?、ううん・・・」

どういうことか戸惑っているシンジをよそに、アスカは手際よく朝食の用意をしている。

一体アスカ、どうしちゃったんだろ? ・・彼女、アスカか?
思わず注視するシンジ。

さらさらとなびく栗色の髪、人形のように・・と彼女の前では絶対に言ってはいけないのだろうけど、美しい、白く滑らかな肌。きらきら輝く青い瞳。

そう、確かにいつものアスカだよな。

あれ、いつもの?

シンジは頭を抱えた。

「どうなさいました?」アスカが心配気にシンジをのぞき込む、シンジは急に目の前に現われた彼女に驚いて「わっ」と飛び退いた。

あれ? だって・・

「シンジ様、朝食の準備が出来ました。どうぞお召し上がりになって下さい。」
演技などではなく、明らかに本心から嬉しそうに微笑むアスカ。

「あ、う、うん…」
シンジが戸惑いながらテーブルを見ると、そこには間違いなく、完璧な朝の食卓があった。

いや、完璧かどうかは分からないのだが。シンジは基本的に和食派なので、その意味ではごはんに塩じゃけ、味噌汁に沢庵位が「完璧」になるのかもしれない。目の前に並んでいる物は残念ながら、程良く焼けたクロワッサンにオムレツ、ハム2切れにサラダ、オレンジと香りの良いコーヒーだった。

シンジは感動、というよりまず衝撃を受けていた。

「こ、これ、これ、アスカが作ったの?」
言わずもがなの事を聞く。

「え、ええ、そうですが。・・どうかされましたシンジ様、今日は何か御様子が変ですが・・」
手をエプロンの前で組み、またアスカは心配気にシンジの顔をのぞき込んだ。

「この所の試験勉強で、疲れてらっしゃるのですか?」
 
シンジは、アスカがどこまでも純真な目で問い掛けて来るので、却って冷静になった。
 
 

違う、間違ってる、ここは僕の世界じゃない。
 
 

「騙されないぞ。」シンジは持っていたフォークを置いた。

「お前となんか、一緒になってやるもんか!」
「し、シンジ様、大丈夫ですか?」

「うるさい、近付くな! あ、ああ・・・あ、アスカを、汚しやがって! 元気だった頃のアスカを返してくれよ!!」
シンジは泣きながら立ち上がり、驚いて身動きの取れなくなっているアスカの襟を持ち上げた。

「返せ! 返せよ! あの元気で、怒りっぽくて、いつも僕を馬鹿にしていた・・でも、それでも可愛かった、アスカを返せ!!」

「し、し・・・シンジ様?」
涙で滲んでいる視界の向こうに、これ以上なくオロオロしたアスカが見える。
「お医者様をお呼びしましょうか、シンジ様?」

シンジは、脱力してそこに座り込んだ。

「勝手にしろ・・僕も、アスカみたいに心をズタズタにされて、病室に送られるのか? 君の望みは一体何なんだ? 君達、使徒って、一体何なんだよ!」


「良い、レイ? 一回経験があるからって、油断しちゃ駄目よ。モニタのマークが揃ったら、投擲開始。」

「はい。」

司令塔の緊張は最大限に高まっていた。

第17使徒タブリスで最後かと思われた使徒だったが、その後何故か第18、第19と新たな使徒が来襲、チルドレンやネルフ職員達は終わりの全く見えない戦いに疲労の色を濃くしていた。

この日第3新東京市にやって来ていたのは、だから第20使徒だという事になる。タブリス以降使徒は人類と何等変わらない形態をとるようになり、今回の使徒も見た目は平凡な民間人の女性にしか見えない。黒髪で、年齢はミサトと同じか、やや上位だろうか? しかしその彼女が今、第3新東京市上空300メートル前後に両手を広げて浮遊し、街を真っ白に染める強力な光を発しながら、碇シンジの搭乗しているエヴァ初号機の動きを完全に沈黙させているのだった。

「シンジ君の状況は?」
「回路依然繋がりません!」慌ただしくミサトに答えるマコト。

「カウントダウン開始。10、9、8」マヤが自分のモニタを確認しながら正確に秒数を読み上げる。

全てが正確でなくてはならない。何か一つでも欠けていたら、アウトだ。しかし何一つ欠けていないと断言できるだけの確証を得る時間が今まで用意されていなかったのもまた事実だ。
それでも彼等は仕事をこなし、絶望を奇跡に変え続けて来た。

「7、6、5」レイがロンギヌスの槍のコピーを振りかぶる。
「4、3、2、1、0。」
 

エヴァ零号機から力強く投げ出された槍は強大なATフィールドを突き抜け、彼女の体を打ち抜いた。
呆気無いほど簡単に折れ、落ちて行く使徒だったモノ。

使徒とは言え見た目はただの人間である事から、その光景に目を覆うオペレーター。

第20使徒、殲滅。彼女から放たれていた可視光線に非常に近いエネルギー波も、完全に消滅した。


アスカはシンジが取り敢えず静かになってくれた事でややほっとしたようだった。
「どうやらかなりストレスがたまってらっしゃったようですね・・・かわいそうなシンジ様・・・それでは、今日はお休みになられたほうがよろしいですね。」

シンジを、半ばひきずるように寝室に連れて行く。シンジはもう抵抗する気力も失せ、だらっとアスカによりかかるように引きづられて行った。

しかし、シンジはそこでまたもや重大な問題に気付いた。

「どうでも良いけどさ・・・ここ、ミサトさんの部屋だよ?」
アスカは、ほんの少しムッとしたように見えたが、すぐ笑顔を取り繕ってシンジに聞く。

「ミサトさん・・・って、どなたですか? この家に私以外の女性をお連れしたのですか?」
「な、何言ってんだよ! って使徒に言っても無駄か・・・ううん、何でもないよ。確かに僕は疲れてるみたいだ。」

「・・・そうですね。ゆっくりお休みになられたほうが良いと思いますわ。」
アスカは微笑みながら、シンジをミサトの部屋、であるべき場所に何故か鎮座しているダブルベッドに寝かせた。

「それでは、ごゆっくりお休みになられて下さい。学校には、私の方から連絡いたしますから。」アスカは部屋を出た。
 

「はあ。夢の外は、一体どうなってるんだろ。僕はもう死んじゃったのかな・・・いや、一番可能性が高いのは、今頃僕は303病室の隣で、本物のアスカと同じようにチューブの力で細々と生き永らえているって所だろうな。・・・ミサトさん、悲しむだろうな。・・食事、大丈夫かな。」

シンジは大きすぎるベッドで居心地悪そうに横になった。


「それでシンジ君の容態はどうなの。」
「謎、としか言いようがないわね。」

ミサトは声を荒げた。
「リツコ、新しい冗談を言いたいの?」

「冗談ではないわ。あらゆるメディカルチェックをした結果、彼は、全くの健康体なのよ。」
「え、健康体?」

2人は集中治療ボックスの中で安らかな顔で眠るシンジを見下ろした。

「そうよ、ショックによる失神の可能性すら、認められないわ。彼の示している数値は全て正常値で安定しているの。」
「だって、物理的にそんな訳ないじゃない。シンジ君初号機内から救出されてから、意識が無いのよ!」

シンジを指差すミサトを横目で見るリツコ。

「意識が無いと言うより、寝ているのよ。」
「寝ている?」
「脳の神経活動は問題無く行なわれているわ。いえ、本当は、問題が一つだけ有るの。・・・その神経活動が、あまりに活発過ぎるのよ。」
「どういう事よ。」

リツコは充分真摯な顔でミサトに答える。
「謎、と言ったわ。・・・もちろん全力で状況の解析、治療法は探します。でも今の所は、これ以上は何も言えないの。」

「・・・ありがとうリツコ。良い知らせを、期待してるわ。」
恐ろしいほどフラットな声でミサトは言い、リツコの返事も聞かず重い足取りで医療室から出て行った。


目が冷めたら、そこは病室の白く冷たい天井・・・ではなく、やはりミサトさんの部屋らしき場所だった。
この世界では、ミサトさんはいないらしいから、という事はここは、僕の寝室なのだろうか。でも、それにしては随分可愛らしい飾り付けが随所に見られる。テディベアとか、変な猿のぬいぐるみとかが置いてあるし、写真立てには・・・

シンジは思わず立ち上がってまじまじとその写真を眺めた。

制服姿で一緒に写るシンジとアスカだ。シンジがアスカを背後から抱きしめ、アスカは少し恥ずかしそうに、しかしとても嬉しそうにシンジの腕につかまっている。場所は・・良く分からないが、どこかの海らしい。

こんな写真見た事無い・・・こっちの世界のアスカみたいだし。

シンジは何とも言えず不思議な気持ちで写真を眺めている。

「どうされたんですか。そんな写真を見て。」振り向くとアスカが頬を染めて、ドアを開けて入って来ていた。

「あ、うん・・・何でもないよ。」シンジは特に笑う事もなく、ただ曖昧に答えた。もう逆らうのは、面倒臭かった。
アスカ、学校休んだんだ。・・・って、本当のアスカはもうずっと休学中なんだよな。

アスカはそんなシンジの様子に気付いているのかいないのか、にっこりと微笑んで近付いて来る。
彼女は両手でトレイを持っている。シンジが滅多にかいだ事の無い香りのするジャスミンティーと、きれいに並べられたクッキーだ。
「軽くおやつをいただきましょう。」アスカは微笑んだ。

シンジは手に持っていた写真立てを机に戻す。ふと見ると、隣に細長い箱がある。
 

トレイを置いてシンジの後ろから眺めていたアスカは、心配そうに溜め息をついた。
「シンジ様、もしかしてそれも、分からないだなんておっしゃらないでしょうね。」

シンジは少し申し訳なくなった。
「あ、ご、ごめん・・・分からないよ。・・ぼ、僕、ちょっと記憶が混乱してるみたいでさ。」

アスカは悲しげに微笑み、箱を開けた。

「フルート・・・かな。」中身を見て呟くシンジ。

「ええ。シンジ様は日本を代表するフルート奏者の一人ですわ。」

銀色に光輝くフルートを惚けて見つめていたシンジは、驚いてアスカの方を向いた。
「ぼ、僕が? これを?」

「ええ。吹いてみたら、いかがです? 何か思い出されるかもしれませんわ。」

「う、うん・・・」フルートを手に取るシンジ。アスカに持ち方を直される。
「ああ、そうではなくて、右手と左手が反対ですわ。そう、そう持つんです。」

シンジは息を吸い込み、指を適当に押さえて吹いてみた。

ぷふぅ、と言う情けない音しか出なかった。

「・・・駄目、みたいだね。」少し悲しくなって言うシンジ。

「大丈夫ですよ。私が付いています。」そう言いながらも、アスカもショックは隠せないようだった。
 

シンジはふと思い出した。
「あ、あの・・・アスカさ、この家は、つまり、僕とアスカしか住んでないの。」

「ええ。・・・子供はまだいらない、ってシンジ様がおっしゃるから・・・」恥ずかしそうに頬を染めるアスカ。

「ここここ子供!?」
「え、ええ、どうかされましたか?」
「だ、だ、だ、・・・ね、ねえ、あアスカと僕って、どういう関係なの?」
 

アスカは、はっと息をのみ、シンジの顔をまじまじと見つめた。目に涙がたまりだしている。
「覚えて、らっしゃらないんですね。」

「・・・・ごめん・・・」
「シンジ様と私は、婚約者です。残念ですが、法律上まだ婚姻は難しいので・・・」
「ぼ、僕とアスカが? 婚約者?」
「は、い・・・」

シンジは溜め息をついて、ベッドにばさり、と倒れた。
「ごめん・・・僕は、アスカは好きだけど・・・やっぱり変だよ。この世界は、嘘の世界だよ。僕はここに居るべきじゃないんだ。」

「シンジ様・・・・」


リツコはミサトがシンジに一種独特の感情を抱いている事を知っていた。特に加持がいなくなって以来、ミサトにとって、シンジは「男」だった。それはもちろん、年齢の差や互いの立場からその関係はおのずと限定された、普通とはやや違った現われ方をしたものではあったのだが、ミサトはシンジを「保護者として守る」という部分で愛しているといえた。
そしてこれは、チルドレンを管理する上官の態度としては明らかに問題のある、いや、問題外と言うべき態度であった。しかし、リツコにミサトを責める気は起きなかった。昔なら非難もしただろう。・・・しかし、皆が希望を失い、傷つき続けている今、リツコはミサトを非難し嘲笑するほど、冷淡かつ理性的にはなれなかった。

リツコはミサトを呼び付けた。

「シンジ君の状況が、少し分かって来たわ。」
「本当?」
「脳の異常な神経運動は、現在も彼の大脳に残存する正体不明のエネルギーが引き起こしているものと考えられるわ。」
「正体不明、って・・・」
「使徒が残したものでしょうけどね。」
「そ、それで、治療法は?」

リツコは口をつぐんだ。
「それはこれから探すわ。」

「・・・そう。」
「原因が少し分かりだしたという事は、答えに近付く第一歩よ。」

「あ、ありがとう、リツコ。」ミサトは自分の旧友の彼女なりの励ましに、弱々しく微笑んだ。


シンジは大学からの帰り道、学友のタミヤと共に雑談をしながら、キャンパスから駅までの道を歩いていた。2人とも白衣を着たままなので、結構異様だ。

「しかしお前も頑張るよな。フルートで食ってけるだけの才能があるっていうのに、脳神経学科に入るだなんて、絶対どうかしてるよ。」

苦笑いをするシンジ。
「うん。でも、フルートは、もうずっと昔の話だよ。」

「お前の記憶の無い頃の、な。」

シンジはタミヤの顔を横目で見ながら、同意した。

「うん。・・・分かっているんだ、拘っちゃいけない、っていうのは。あれが夢で、こっちが本当の世界なのは分かってるつもりだよ。・・・でも結局、今も拘ってる。治す方法を、元の世界に戻る方法を見付けなきゃ、って、結局、脳の研究を始めるようになったのだって、それなんだ。」

タミヤは顔を険しくするシンジの肩をぽん、と叩いて微笑んだ。
「こっちの世界で、ちゃんと地に足を付けてくれよー。奥さん相当苦労してるんだろ。」

「うん、・・・そうだね。アスカには迷惑をかけっぱなしだ。もう5年も経ってるっていうのに。・・・未だに未練があって、この世界は本物ではない、とかたまにわめきだすような僕にもじっと耐えて、支えて来てくれた。・・・本当に、アスカには、どう感謝すれば良いか・・・」

タミヤはシンジの肩を抱いた。
「辛いのは、碇、お前も同じだよ。」



 
「やはりそうね。」

「はい、使徒からの精神攻撃を受ける時に浴びた可視光線に近い光が、シンジ君の脳に大量の情報を伝達して、彼の脳を完全に制御化に置いているものと思われます。」

マヤの説明に頷くリツコ。

「だって、もう光はとっくに止まってるじゃない。」力無く聞くミサト。

「ええ、ですが瞬時に圧縮ファイルのような物をシンジ君の脳に記憶させ、現在はそれを急スピードで解凍・再生しているのではないでしょうか?」

ミサトは声を荒げた。
「それって、まだ精神攻撃が続いてるって事でしょ!」

「ええ、そうね。」
「だったら早く対処法を見付けなさいよ! もう使徒はやられてるのよ! 全力をあげて治療法を見付けなさいよ!」

マヤは、ミサトに気押しされながら、おそるおそる言った。
「しかし、現在も使徒からのエネルギーが完全に脳を支配していますから・・・」
「下手にそれを止めようとするのは逆に危険なのよ、シンジ君の体に、何が起きるか分からないわ。」

「そ、そんな・・・」


月のきれいな10月の夜だった。シンジはベランダで、フルートを吹いていた。

私を月に連れて行って。そして星の中で遊ぶの・・・

ところどころ調子外れになるが、それなりにうまく、切ない歌のメロディが奏でられる。
 

「また、向こうの事を思い出されているのですね。」背後から、アスカが微笑みかけていた。

「あ・・ご、ごめん。」

「・・・そんなに向こうの世界は、素晴らしかったのですか?」少しすねた様子で、アスカがシンジの隣によりそい、ベランダに顔を乗せる。

「・・・そんなんじゃないさ。ごめん。アスカには、悪いと思ってるよ。」
アスカを抱き寄せるシンジ。

「でも、僕はこっちでの記憶は、14歳以前は無いんだよ。君が言ったその沖縄も、両親の話も、ドイツでのコンサートの話も、全部僕の記憶ではないんだ。」
淡々と呟くシンジ。

「でも。その後の12年間は、覚えていらっしゃるのでしょう。」アスカは首の重心をシンジに傾けた。
「大学のセンター試験、医療実習、学部卒業、研究会参加。」

「何か、固い事ばっかりで、2人の想い出って感じじゃないね。」苦笑するシンジ。

「あら。でも、去年は、今頃富士宮ハイランドに行きましたわ。」
「ああ、そうだね。あれは面白かったね。・・・ごめん、僕が研究の方で忙しくて、中々休みとかとれないから。」
「今年も、行きたいですね。」

「そうだね。」
この日本には季節が無い。ここ第三東京を始め、全国的に気温は年平均20度で安定している。その意味では一年中春なのだった。

「・・・アスカ。」
「何でしょうか、シンジ様」
「一つ、頼み事があるんだけど、良いかな。」
「はい。」

シンジはいつものように穏やかに微笑むアスカの大人びた顔をちらちらと見ながら、顔を赤くした。
「その・・・ここもそろそろ手狭になってきたし、そろそろ引っ越そうと思うんだ。小さくても、一戸建ての家でさ。」

「・・シンジ様が望むのでしたら、それも良いかもしれませんわ。そうすれば今、隣の部屋に置いている実験機材や本棚も、全部自宅に置けますわね。」

「う、うん、それもあるけど、その・・・子供部屋を、用意しておきたいと、思ってさ。」
 

アスカは息を飲んだ。
「シンジ様! それじゃあ!」

「あ、あの、駄目なら、その分も本棚にしても良いんだけど。」
アスカはシンジに抱き付いた。

「シンジ様ぁ・・・」

「アスカ、今まで迷惑かけてばっかりで、本当にごめん。その、こんな僕でよければ、家族を、作らないか、って・・・ああ、何か変なプロポーズだね。」

「プロポーズ? シンジ様と私は、もうずっと夫婦ですわ!」

「それは、そうだけど・・改めてさ。」シンジはアスカの顔を両手で包み込んだ。
「アスカ、愛してるよ。」

「シンジ様・・・」アスカは喜びで泣き崩れた。


シンジはいつもの様子に苦笑した。
「こら、レイ! また泥だらけになって! 家の中に入る前に、シャワーを浴びて来なさい。」

「はーい。」
「ほら、やっぱりお父様もそう言われたでしょう? ちゃんときれいにするのよ。」

黒髪だが、顔の作りはアスカに似ているその女の子は小さな頬を脹らませた。

「分かってるもん。レイもう子供じゃないよぉ。」
「はいはい。もう一人でシャワーも浴びられるものね。」

「うんっ。」
首を思いっきり縦に振ると、彼女は風呂場へ駆けだして行った。
 

「全く、元気良いな。」
シンジは煙草をひねり潰した。

「そうですねえ、シンジ様。一体誰に似たのだか。」
「アスカ、君だろ?」

ソファに腰掛けながら学会誌を読むシンジをアスカは不思議そうに見つめた。
「・・・そう、ですか?」

「そうだよ。」シンジは微笑んだ。

「シンジ様から見て、私はレイ位におてんばですか?」アスカには珍しく、冗談めいた口調でシンジを見つめる。

「いや、そうは言わないけど・・・気付いてないのかい? レイの仕草、例えば、ふと髪をかきあげたり、一挙手一投足が、お母さんとそっくりだぞ。」

「・・私から見れば、レイはシンジ様のまねばかりしているように見えますわ。」
「そうか?」
「そうですよ。」

光の差し込むリビングルームで、2人は寄り添った。


レイは、庭で遊ぶカヲルを心配そうに見上げた。
「こら、カヲル! 危ないから、そこから転んだりするんじゃ、ないわよ!」

「分かってるよ。もう、姉さんはうるさいなあ。」

「ふう。」思わず肩を下げるレイ。

「もう、父さんも何とか言ってやってよ。カヲルの奴、この間もああやってラジコンヘリに気を取られて、気付いたら右足骨折してたのよ。このままじゃ、幾ら骨があっても足りないわ。」
「はは、良いじゃないか。それ位元気な方が、男の子は良いんだよ。」

「もう、この父にしてこの息子ありね・・・」溜め息をつき、テラスの父の隣に座る。
 

「良い天気ね。」

「・・そうだな。」シンジは、しばらく前から聞こうと思っていた事を口に出す決心をした。

「なあ、レイ。本当に良いのか?」
「え、何が?」
「・・進路さ。君が望むのなら、もちろん止めはしないが・・医師になるのは、並大抵の苦労ではないぞ。」

レイは母親から受け継いだ邪心の無い微笑みを見せた。

「父さんの苦労に比べれば、どうと言う事はないわ。」

「あのなあ。・・・まあ、確かにお前は第三東大に入るだけの実力はあるし、そこまで努力した事も認めるが・・そうだ、あの、テイスケ君とは、うまくやってるのか?」

「やだ、父さん、さては母さんから聞いたのね。誤解よ。別にただの友達。」
苦笑して手を振るレイ。

「いや、レイ・・・何というか、正直お前が不憫でな。もっと女の子らしい事も、させてやりたいのに・・「研究」と結婚してしまったら、元には戻れんぞ。」
「脅かさないでよ・・何言ってるの、こんな娘にさせたのは父さんよ。「人間の身体は最後まで残された謎の世界だよ」って父さんが言った時、心底格好良いって思ったわ。」

「何年前の話だよ。」頭をかくシンジ。

レイはストレートのロングヘアーをかきあげた。
「私は父さんの子よ。結構頑固なの。」

「そうかい。まあ、お前が望むなら良いんだよ。」
 

「ねえ、父さん。」テラスに座る2人の目の前に、泥で服を汚した小学生の男の子が語りかけていた。
「笛、吹かないの?」

レイは意地悪そうに頬杖をつく。
「カヲル、あんた将来笛吹きになるとか言ってたわね。医者なんか比べ物にならない位、大変よー、それで食ってくのは。」

「こら、レイ!」

「良いんだ、僕父さんの笛大好きだから!」小さな顔に決意の表情を見せるカヲル。
「ねえ、吹いてよ、笛!」

「ん、そうだな。こんな良い天気の日に吹かないなんて法は無い。」シンジはカヲルの頭を撫で、傍らに置いてあった箱からフルートを取り出した。

踊るような美しい調べが陽の当たる庭を包み込んでいた。


医療室は重い沈黙に包まれていた。
「リツコ・・」

「何。」
「さっきの言い方だと、つまり圧縮情報の再生を妨害する事は可能なのね。」
「仮定に基づいた理論上はね。保証は無いわ。」
「このまま手をこまねいて見ていて良いの? まだ、シンジ君への精神汚染は進行しているのよ。」

安らか、と言っていいシンジの眠る顔を2人はボックス越しに見下ろす。

「ジレンマね。信号を遮断すると、シンジ君の身体がどうなるか分からない・・・」
振り向いて背後にある幾つかのモニターに目を走らせる。

「やって見なきゃ分からないじゃない! このままじゃ、このままじゃ、私、シンジ君まで・・・」
泣き崩れるミサト。

「ミサト。・・仕事場に私情を持ち込むのは止めなさい。」

ミサトは何も言えずに、リツコを睨みつけた。

「・・確かに、あなたの言う事も一理有るわね。慎重に、最低レベルで信号の遮断波を照射してみましょう。マヤ。」
「はい。」
 
 

シンジの家はテープや横断幕で飾り付けされていた。シンジは隣によりそうアスカと笑みを交わす。

「本日はお忙しいところ皆様にお集まり頂き、大変有難うございます。これより、我が悪友、碇シンジ君の素晴らしい御令嬢、碇レイさんと、既に尻に敷かれているらしい婿養子の我が愚息、碇テイスケの結婚披露宴を執り行ないたいと思います!」
既にややアルコールの回っているらしい村井タミヤがそう言い終わると、十数人は口々に叫びながらクラッカーを打ちならした。

そんな周りの熱狂に嬉しそうに・・と言うよりは、うるさそうにしているレイとテイスケ。テイスケのタキシードはレンタルで借りた物だ。レイに至っては、「重いのは嫌よ」という理由でベールだけ借りて普段着の上から被っている。

「御静粛に、御静粛に! えー、続きましては、昔は天才フルート少年、その後脳神経学研究の若きホープかつ私のライバル、そして今はただの頑固親父と化してしまいました私の悪友、碇シンジ君の御言葉です! ほれ!」

まだアスカと話の途中だったシンジは無理矢理マイクの前に連れて来られる。
「え? え、ええと、おめでとう、テイスケ君、レイ。・・テイスケ君、向こうの段ボールの片付けは終わったのかい?」

「こら! お祝いの席で間抜けな事を聞くな!」タミヤの声にどっと沸く出席者達。レイは頭を押さえている。

「ご、ごめん。・・ええと、僕は喋るのが余り得意ではないので、その代わりと言っては何ですが、一曲吹かせて頂きたいと思います。」

暖かい拍手が起こった。

「あ、ありがと。それでは。」シンジがフルートを構えた。
 
 

「照射開始。」マヤがパネルを押した。
 
 

シンジはフルートを吹こうとして、そのまま倒れ込んだ。
「シンジ様!」
「と、父さん!」

シンジの目の前から薄れて行くアスカとレイの顔。
 
 

「どうしたの!」
「分かりません! 血圧、心拍数共に低下!」悲鳴のような声を上げるマヤ。
「シンジ君!」
「電気ショック!」リツコが指示を出し、苦しそうな表情のシンジはビクビク、と震える。
「駄目です、効果有りません! 心拍数、神経パルス更に低下!」
「リツコ!」
「妨害波照射停止、急いで!」
「はい!」
 
 

シンジが目を覚ますと、自分達の寝室だった。

「シンジ様!」アスカは気がつくと、涙を溢れさせてベッドのシンジに抱き付いた。
「目を覚まされたのですね。本当に良かった。」

「・・僕は、どの位寝ていたんだ?」

「丸2日ですわ。御医者様に見てもらっても、原因が分からないと言うし、このまま助からないんじゃないかと思ったら、私、もう・・・」
アスカはここ数年、見せる事のなかった涙を見せていた。落ち着いた大人の女性に見えても、シンジの事だけはやはり冷静ではいられなかったのだ。

「馬鹿だな。僕が、アスカやレイ、カヲルを置いて行く訳、ないじゃないか。」シンジは微笑んだ。

「シンジ様・・・」
 
 

「呼吸、心拍数、全て正常値に戻りました。」マヤはほっとした、というよりは呆然として報告した。

「ミサト。私達は、シンジ君が自分から起きるのを待つ事しか出来そうもないわ。」
リツコもやや疲れた表情でミサトに告げる。

「自分から起きるの?」
「圧縮情報の再生が全て終われば、起きる可能性が高いわ。それがいつになるかは分からないけれど。」
「それって、精神攻撃を完全に受け終わってから、って事じゃない! シンジ君の心が、それじゃ・・・」
「そうね、持たないでしょうね。」
「そ、そんな、シンジ君・・・」


その日は、シンジはいつものように長椅子に腰掛けて、学界誌を読み耽っていた。
「精神を閉ざしてしまった症例・・・か。治療法は基本的に存在しないからなあ。」
数年前からシンジは腰痛に悩まされていたので、日がなこうやって椅子に揺られながら学術雑誌を読み耽っているのだった。

「ばあ、だあ、ばあ、ばあ。」

「ほら、スグル、熊さんですよぉー。」
レイが赤ん坊の前でぬいぐるみを揺らす。

「ばあ、ばあ、ばあ。」手を叩いて喜ぶ赤ん坊。

「すっかり親馬鹿だな。」床に座り込んで赤ん坊と遊ぶレイに、シンジは穏やかに声をかけた。

「親馬鹿にでもならなきゃ、やってられないわよ、子育てなんて。」スグルの手を取りながら微笑むレイは、シンジのめくっていたページを見て表情を曇らせた。

「・・・ああ、この分野は、お前のやっているところだな。」

「ええ。・・最近の仮説ではね。精神を閉ざして眠っている人達は、自分の意識の中では理想の世界に生きているのではないか、って言われているわ。」
スグルを抱き上げながら話すレイ。

「・・まあ、現実世界が辛くて内側に逃げているわけだからな。」
「そうかもしれないけど・・どうやら、考えられていたよりも遥かにリアルな「夢」を見るらしいのよ。」
「ほお。」
「ばあ、ばあ、ばあ。」
「ん、どうしたのスグル? ・・あら、湿ってるわね。」
 

その時ドアをバタンと開けて、長髪の青年が駆け込んで来た。
「た、大変なんだ。」

「どうしたんだカヲル。」
「母さんが、母さんが!」
 

シンジとレイが2階の彼女の部屋に駆け付けると、数年前から寝たきりになっていたアスカが弱々しく微笑んだ。
「シンジ様・・・あなたの気を引くためなら、私は何だってしますわ・・」

細く、皺皺の手をベッドから差し出す。
「シンジ様・・」
手をやや乱暴につかむシンジ。
「アスカ、しっかりしろ! カヲル、桃源台病院のメディカルカーを呼んでくれ! レイ、私の部屋の簡易ペースマスターを!」
頷いて駆け出して行く2人。

「駄目です。自分で、分かりますわ。」
「駄目だ、アスカ、諦めるのが一番いけないんだ! アスカ!」

「シンジ様・・・私は、本当に幸せですわ。愛する人に見取られて・・・こんなに穏やかに、死を迎えられるなんて。」
ゆっくりと、一言一言切って呟くアスカ。
 
「アスカ・・駄目だ・・僕がアスカに、どれだけ迷惑を掛けたか・・アスカ・・君はまだ、死んだら・・」

アスカはシンジの頭を抱きかかえるように手を回した。
「シンジ様・・・・・愛してますわ。」

「僕もだ・・・愛しているよ、アスカ・・・・・・」
「・・・・・・・嬉しい・・」

「アスカ? アスカっ! アスカあ!!」

アスカはこれ以上無い幸せな顔で永遠の眠りについた。


「今年の龍神祭も凄かったわねぇー。でもほんっと、皆付き合い悪いわ。バツイチだからって何よ。カリイもマキも逃げやがって!」
「どうしたの、ママ?」
「あ、う、ううん、何でもないのよー。あ! ほら、テックマンのお面があるねー。」

「本当だ!」スグルは浴衣姿のレイから離れ、駆け足でお面屋の前に行く。

シンジとレイとスグルは、夜店の並ぶ神社の境内を歩いていた。レイとスグルは浴衣だが、シンジは普通の洋服だ。杖をつき、一歩一歩踏み締めるように歩く彼に合わせているので、レイは歩いては止まり歩いては止まりしなければならない。

「なあ、レイ。」シンジはしわがれた声で聞く。

「なに、父さん。」レイは髪を短く切った、40代とは思えない若々しい顔で微笑む。

「ああ、カヲルは・・どこに行ったんだ。」
「やだわもう、新しいアルバムのレコーディングでアメリカに行ってるって、ずっと言ってるでしょう?」
「ああ、そうか。・・そうだったな。」
 

「ママー、これ買ってよ!」

「んー? よし! お祭だし、出血大サービスで買ってあげよう! 普段はこんな事無いから期待するなよ!」レイはニコ、と笑いスグルに300円を手渡した。

「やったあ!」

ぼん、ひゅー、ぼん。
 
「あら・・花火。」レイの見上げた先には、夜空に大きく光を散らす大菊輪が開いていた。思わず見とれるレイ。
 

シンジはそれなりの人込みの中で歩くのが辛くなったらしく、甘酒処のベンチに腰掛けていた。
「父さん、疲れた?」スグルの手を引きながらやって来るレイ。

「ああ、少しな。」
「・・ごめんなさいね。やっぱりもう、外は・・」

「いや、そんな事はない。」シンジはレイを遮る。
「龍神祭は、あー・・テレビで、見るもんじゃあない。こうやって、自分の目で見てこそ、ありがたいし、楽しい物だ。」

「・・うん、そうね。私も今日は楽しかったわ。・・ん?」膝を叩くスグルに耳を貸すレイ。
「ん、良いわよ、言ってらっしゃい。」スグルは夜店のゲーム台へ駆けて行った。
 

「父さん。」レイの顔は花火の光で微妙な色付きの陰影を作る。
「何だ。」
「私、父さんの娘で、本当に幸せだわ。」空の花火を見上げながら、レイは呟く。
「私もお前が娘で、良かったと思っているよ。」

「・・知ってるわ。」レイは微笑んだ。
 
 

「なあ・・レイ。」
「今度は何、父さん。」
「その後、研究は進んでいるのか? ・・例の、精神障害の臨床例さ。」

「父さんは、幾つになっても仕事の話が好きね。」何故か寂しそうにうつむくレイ。

「そうか、そうかもしれんな。・・が、どうなんだ。」
最近この質問をするといつも逃げられる。シンジは、今日こそはっきりさせようと思っていた。

レイはしばらくの間黙っていた。やがて寂しそうに微笑み、口を開いた。
「今日、私も言おうと思っていたの。」

「それは好都合だな。」
「・・ねえ、そもそも、何故そんな研究がされるようになったか、父さんは知ってる?」
「はあ? それはつまりだな、そういった研究で、やがては治療法を・・」

「違うのよ。」レイは目を上げた。
「私達が研究をしていたのは、いかにしてそういった状態に敵を陥れるか、という技術だったのよ。」
 

「・・何の話だ、レイ?」
「私達は最初は、直接敵のトラウマとなる事を思い出させる事で敵の戦闘意欲をそぎ、しいては精神崩壊に至らしめていたわ。しかしタブリス以降、むしろ敵が望む世界を提供するほうが敵の戦闘意欲をそぐのに効果的である事に気がついたの。」
「レイ?」

「そこで僕達はアラエルの時得たデータで、実験を試みる事にしたんだ。」
向こうから銀髪の少年が歩いて来た。

「カヲル? ・・・いや、カヲル、君・・・」
「シンジ君、この世界は君が望んだものではない。何故なら僕達使徒にとっても時間は有限で、君の精神を全て調べる余裕は無かったからね。」

「・・その代わり、あなたとある程度環境を共にしている同居人、そして私達が唯一完全に分析が完了したサンプルのデータを使う事にしたの。」
「レイ」が感情のこもらない声で呟く。
 
 
「これは、エヴァンゲリオン弐号機パイロット、惣流・アスカ・ラングレーさんの望んだ世界なんだ。そして今、僕達の設定したプログラムは完全に終了した。」
 

「エヴァ・・ンゲリオン? アスカ・・・ラングレー?」シンジは幼い頃、14歳のある日、高熱に浮かされて見た、奇妙な夢を思い出した。
「で、では、あれは!! 夢じゃ、無かった・・・」
シンジは自分がボケてしまったのだと信じたかった。
 

「ここはシンジ君の戦闘能力をそぐ為に僕達が作り上げた世界さ。・・・シンジ君には、お詫びのしようもないよ。」

「でも、シンジさん。」
彼女の顔はよく見れば、第20使徒のそれだった。

「私達はあなたとアスカさんの心を見て、人間という種の素晴らしさが分かったわ。単独種でない、弱い個体の結び付きの美しさを。人間以外の使徒は、これからは、人間も尊重する事になるでしょう。・・私は、そう信じてる。」
 

「・・・・だが、アスカは・・・本当の世界のアスカは、治るのか?」

カヲルは顔を曇らせた。
「残念だが、シンジ君・・」
 

「でも、私の想い出は、ずっとあなたの中で生き続けますわ。」
ふと見上げると、この世界で初めて会った時の14歳のアスカが微笑んでいた。

「あぁ!」声にならない声を上げるシンジ。

「ふふ。知ってました? 私、家が北欧の大公家の系統で、元々、本当にこういう喋り方だったんですよ。」

「そしてこれが、アスカ君の望んだ世界だ。」大学で知り合った時の若々しい白衣のタミヤが隣に現われた。
「アスカは、お前の事をずっと好きだった。現実の世界で本人が直接口にする事は、なかったがな。」

「・・・ああ、知っているよ。」
74歳のシンジはゆっくり立ち上がり、14歳のアスカに手を差し伸べた。

「シンジ様・・」アスカはシンジに駆け寄って、抱きしめた。
 

「愛しているよ、アスカ・・・」

「私も愛していますわ、シンジ様・・・」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

そして全てが光に包まれ、シンジの感覚は眠るように薄れて行く。
全ての光景が溶け、最後には、アスカの体温も・・・

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

シンジは目を覚ました。

「シンジ君! 大丈夫、シンジ君!」圧縮空気の音と共に集中医療ボックスが開き、シンジが蛍光燈の光がまぶしそうに目を開いた。

シンジは口を開き、辺りをゆっくりと見回していた。

「し・・・シンジ君? シンジ君、大丈夫? シンジ君?」シンジの呆然とした様子に目を見開き、不安気に聞くミサト。

「ミサト・・・さん?」

「シンジ君!!」ミサトはシンジに抱き付いた。
 

「脳の神経パルス、平均値に戻りました。クシー波の残存量ゼロを確認。心拍数その他健康状態、変化無く正常を保っています。」
「・・・そう。」リツコはマヤの報告を聞いても、自分達の無力さに険しい表情を浮かべ続けていた。
 

「ここは・・・ネル、フ・・・ネルフ! ・・中央、病院。あ、あの、ミサトさん、使・・徒、は?」

「レイが、倒したわ。」ミサトは涙で赤い顔で微笑みを浮かべた。

「レイ・・・あや・・なみ? 綾波、レイ・・・」
確認するように呟くシンジ。

「・・・ミサトさん。」
「何、シンジ君。」
「僕が、気を失ってから・・どの位、経ったんですか。」

「約20分間よ。」リツコが壁の時計で確認しながら答える。

「・・・そう、ですか・・・」


数日後

シンジは、定期試験の為ネルフ本部に来ていた。アスカはまた容態が悪化したらしく、シンジには面会が許されない特別治療室に移送されていた。

シンクロテストの結果は、レイは通常値を保っていたが、シンジは最近の通例でわずかにポイントを下げている。

モニタのデータにやや厳しい表情を見せながら、ミサトが声をかける。
「最近、司令と副司令、見かけないわね、リツコ。」

「・・・そうね。」リツコは今朝、電車で会った冬月が「これからは「後始末」で忙しくなるな。」と呟いていたのを思い出し、首を傾げた。

「んー、こんな所かしらね。シンジ君、レイ、上がって良いわ。あ、それからシンジ君、ちょっち来てくれない?」
「は、はい・・・」
 

シンジはテストプラグが見渡せるモニタールームにやって来た。
「シンジ君。戦闘中に何かお守りを付けていたい気持ちは分かるけど、あんまり大きすぎるのは考え物よ。」

ミサトの口調から判断して、どうやらシリアスな問題ではないらしい事を知ったシンジは内心安堵の溜め息をついた。
「は、はあ・・・」

「いや、そんなに気にしなくても良いんだけどさ。LCLなんかに漬けちゃって良いの? あれ。まあ今度から、忘れてプラグの中に置きっぱなしには、しないようにね。整備の人ギョッとしてたわよ。えっと・・・あ、そうそう、さっき日向君に頼んで、もうシンジ君の部屋に戻ってるから。ま、そんだけ。」

「はあ・・」シンジは訳が分からないままに帰宅した。

 
 
シンジは一人、ミサトのマンションの自室に戻った。部屋の明かりを付けると、確かに机の上に2、3の書類と共に箱があった。
シンジは箱を開けた。

中に入っていたのは、古ぼけたフルートだった。
 

 

シンジはしばらく目を見開き、動けないでいた。

やがて、彼はゆっくりとそのフルートを手に取り、口を近付ける。
 

Fly me to the moon, and let me play among the stars...
 

流れるように美しい。そして少し悲しい調べが、周囲を満たし始めていた。

原作:新スタートレック第125話・超時空惑星カターン "The Inner Light"
 

ver.-1.00 1997-10/03公開
 
感想・質問・誤字情報などは こちらまで!

「…あれ? フラン研さんのオクトパすトーリーは、他の作家の皆さんの感想とか、無いんですか?」
「え? あ、ああ、その…そういうのって、IRCっていう難しい文明の利器を持ってないと出来ないらしいのよ。」
「つまり、フラン研さんはそれを持っていない、と。」
「うん。あ、これ見てるチャットフリークの方は、感想のチャットをして、ログを私に下さい! したらそれをここに乗せまし。」
「IRCが無いから後書きを一人で書いてる…友人が居ないとか、孤立無援だとか、学校さぼりまくってゼミから電話かかるとか、そう言う事じゃないんですね?」
「(何か今1個、シャレになってない事実を言われたような気が…)ち、違うの。そういう事じゃなくってよ。おほほほほ」
「ふーん、ま、良いですけど。…この話、また、例によってパク…「引用」、なんですね。」
「(振り上げていた鈍器を降ろす)ん、ま、まあ、ちゃんとオリジナル物も書くから、さ。」
「これってスタトレが元ネタだって事ですけど…良いんですか? エヴァトレでやるんじゃなかったんですか?」
「ああ、もちろんこれのエヴァトレバージョンも書きますよ。その内。」
「(氷結、そして崩壊)」
「ん? どうしたの?」
ひゅぅぅぅぅぅ。
…マイナス30度の世界。そこではバナナに、釘を刺せるという…(うん、オチた。多分オチてるぞ。)

…そんな訳でお願いしたところ、さっそくログ頂きました。謝謝。m(__)m

00:37 <&NV:Izumi____> うまいなぁ......
00:39 <&NV:dionaea> 見事に落としたね
00:39 <&NV:Ohtiki___> ・・・・・・・やっぱりだあぁぁぁぁぁ(;;)
00:39 <&NV:dionaea> ふふふふふ(−−)
00:40 <&NV:dionaea> キーホルダーに続きフルートね・・・・つらい?ねえ辛い?>ohtuki
00:41 <&NV:Ohtiki___> ・・・・鬼!悪魔!極悪人!その他諸々!!!!!(−−)>ディオネア
00:42 <&NV:dionaea> 私は今回無関係ですよ(^^;>ohtuki
00:43 <&NV:Ohtiki___> い〜や!きっと何かんでるに違いない!!!!(;;)>ディオネア
00:43 <&NV:dionaea> 実は・・・って嘘嘘(^^;
00:44 <&NV:Ohtiki___> とうとう白状したな・・・
00:44 <&NV:dionaea> 後書きどーすんの?(−−;>ohtuki
00:44 >&NV:TakoHachi< ふうううううううううう
00:44 >&NV:TakoHachi< さすがやねぇ
00:44 <&NV:Ohtiki___> 言っちゃえば楽になるよ・・・(−−)>ディオネア
00:45 >&NV:TakoHachi< いや、これは、もう、名作だね
00:45 <&NV:Ohtiki___> とまあ冗談はこれぐらいにして(^^)
00:45 <&NV:Ohtiki___> どうしよう(^^)>ディオネア
00:46 >&NV:TakoHachi< これって、私の中では、ディオさんの奴より来てますわ
00:46 <&NV:Izumi____> 今、現実逃避してます(笑)
00:47 <&NV:Ohtiki___> ディオさんのはまだましに見える・・・(;;)
00:47 >&NV:TakoHachi< っていうか、ディオさんのは完璧なLASだったでしょ
00:48 <&NV:Ohtiki___> うん(^^)>たこはち
00:48 >&NV:TakoHachi< でも、わずか20分間に一つの人生を送っちゃったわけでしょ、シンジ
00:48 <&NV:Ohtiki___> しかしこの設定でここまで・・・(^^;;
00:49 >&NV:TakoHachi< そうそう、凄いですね、フラン研さん
00:49 <&NV:Ohtiki___> シリアスになるとは・・・・(^^;;
00:49 <&NV:Izumi____> さすがだ....>フラン研さん
00:49 >&NV:TakoHachi< ここまでの超シリアスになるとは...
00:49 <&NV:Ohtiki___> 肩身狭いどころか消えたね・・・私(;;)
00:49 <&NV:Izumi____> まいったね......
00:50 <&NV:dionaea> シリアスで来るとはねえ・・・
00:50 >&NV:TakoHachi< 私も消えたよ
00:50 <&NV:Izumi____> おいらなんかとっくにないよ.....
00:50 <&NV:Ohtiki___> ・・・・・・
00:50 >&NV:TakoHachi< それで、変にアスカが復活しないのが良かった
00:50 <&NV:Ohtiki___> いじけモード全開・・・(;;)
00:51 <&NV:Ohtiki___> ・・・これって、アスカも同じ夢見たのかな・・・
00:51 <&NV:dionaea> それはあるね
00:51 <&NV:dionaea> たぶんエンドレスで
00:51 >&NV:TakoHachi< アスカ人としては、復活して欲しかったけど、SSを読む者としては、復活しないで良かったと思う
00:52 >&NV:TakoHachi< 夢、見てますかね...アスカ...
00:53 <&NV:dionaea> 後書きどないしますか?
00:53 <&NV:Ohtiki___> ところでもう後書き入ってるの?(^^;;
00:54 >&NV:TakoHachi< もう、私の独断と偏見で、ここまでのログをちょこっといじって
00:54 >&NV:TakoHachi< フラン研さんに送ります
00:54 >&NV:TakoHachi< で、いいですか?>ALL
00:54 <&NV:dionaea> 了解
00:54 <&NV:Ohtiki___> 良いですよ(^^)
00:54 <&NV:dionaea> 了解(^^)
00:54 <&NV:Izumi____> .....は、はじめてだ...
00:55 <&NV:Izumi____> らじゃ
00:55 >&NV:TakoHachi< なにが?>泉水
00:55 >&NV:TakoHachi< はじめてって
00:56 <&NV:Izumi____> いつものおいらのコメントのスタイルを破れたこと>たこはち
00:56 >&NV:TakoHachi< なるほど>Izumi
00:57 <&NV:Ohtiki___> 今回作品が作品だし・・・・(^^;;>Izumi
00:57 <&NV:Izumi____> だしょ?だから.....さすがにやっちゃいけないと思って....>おおつき
00:58 <&NV:Ohtiki___> ・・・それにしてもオクトは面白いんだか恐いんだか・・・
00:58 >&NV:TakoHachi< ここまでくると、恐いね
00:59 <&NV:dionaea> びっくり箱みたいなもんだね(^^;
00:59 <&NV:Izumi____> 感涙に値するよ
00:59 >&NV:TakoHachi< 値するね
00:59 >&NV:TakoHachi< さて、すのーさんと将軍がどう来るか、
00:59 >&NV:TakoHachi< 楽しみだ
01:00 <&NV:dionaea> きつそうだな・・・・・



「あうあうあう、有難うございますぅ。こんな錚々たる面々の方々に誉めて頂けるなんて、感激です!(ToT) いや、今本当にキー打つ手が震えてます。…ところで将軍って、まさか私の師匠(と勝手に呼んでいる)も書かれてるんでしょうか?」
「ハン。ったく、内輪で何やってんだか。」
「あ、ああアスカ様(こいつが来るとまとまる物もまとまらなくなる!)…あの、今日はちょっと、お引き取り願」ばき
「ごぶぅ」
「ったく。上のチャットの奴等! あんたらもあんたらよ。こんなお涙頂戴20分間世界一週話のどぅおこが良いのよ! 大体さあ、あんたら最後の一行ちゃんと見てる? 原作があるのよ! 原作が!! 真面目にオジリナル作品で勝負してる奴等(…って、あんた達の事よね)と同じ場所で比較しちゃいけないのよ! この盗っ人ネギ坊主の作文はね! まああんた達は、こいつよりは人間的に遥かにましだけどお。こんな盗っ人を誉めるなんて、つくづくあんたらって、バカのつくお人好しよね!」
「(復活)い、良いじゃないですかぁ、好きで書いてるんだし。コラージュだって、一つのさいの」がんっ
「ぐぶっ」
「くだらない事ぬかしてんじゃないわよ。あんたのは、コラージュじゃなくてコピーでしょ。「寝室が嫌なら、本棚でも…」とか、「あなたの気を引くためなら、私は何でも」とか、全部「まんま」じゃない! まれにオリジナルなところが、あたしが大公家の家系で元々敬語で喋ってたぁ? 何それ? あんた大詰めで笑わせてどうすんのよ。」
「(また復活)別に…ギャグじゃないんです…」
「(無視)それからディオネア! 「見事に落とした」って、あんた馬鹿ぁ? 最後の笛を吹くのも、ずぇんぶ原作と「まんま」なのよ! こいつの作文はね!」
「ああ! 人気投票永世第一位のディオネア様を敵に回すのだけは止めてえ!」(;;)
「私がチャットの奴等に言ってる「馬鹿」と、あんたに言ってる「馬鹿」は、全然質が違うのよ! 「最近ダウンタウンつまらないよね」の「つまらない」と、「いいとも…つまんねえ…」の「つまらない」位の差があるのよ! 分かった!」
「ひ、ひどい、ひだすぎる!」
「…あれ? ディオネアの言った「落とした」って、まさか「バナナに、釘を刺せる」のギャグの方についてじゃないでしょうね?」(^^;

 フラン研さんの【オクトパすトーリー】作品、
 『彼女がかわった理由 Inner pulse(奇妙な夢)』、公開です!
 

 おおお、凄い!
 ここまで出来るのかぁ!!
 

 現実の世界と、
 夢の中。

 辛いところと、
 理想の世界。
 

 20分間の一生・・
 フルート。
 

 おおお、凄い!
 ここまで出来るのかぁ!!

 

 隣の部屋で寝るアスカも同じ夢を見ていたのでしょうか。

 目覚めたシンジ。
 ないアスカ。

 起きないからこそ、物語が・・・
 たこはちさんが同じ事言っている(^^;
 

 この”IRCチャット”の部分、
 フラン研さんが作ったと、最初、思っていました(^^;;;
 以前私のコメントでやられたことがあったので(笑)
 

 さあ、訪問者の皆さん。
 私の心を揺らし、熱くさせるフラン研さんに感想メールを送りましょう!

 

 

 

 灼熱の世界。
 砂漠では車のボンネットで卵が焼けます。

    全然落ちないや (;;)


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