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ちゅん、ちゅん

雀の鳴き声の聞こえる穏やかな朝・・・それは、いつもの朝のようでいて、ちっともそうではなかった・・・。

シンジがいつものように軽く欠伸をしながらキッチンに向かうと、アスカが彼より早くそこに立っていたのだ。

「・・・?な、何で・・ア、アスカが?・・」

「あら、シンジ様おはようございます。」

「へ?・・・シンジ様って・・・?」

「もうすぐ朝食ができますから、お座りになってお待ちください。」

「え?、ううん・・・」

どういうことか戸惑っているシンジをよそに、アスカは手際よく朝食の用意をしている。
 
 

「・・・なんだよ、それ・・・?」

しばらく呆けていたシンジだったが、やっと状況を把握して、呻くような声を出した。

アスカは表面上は天使のように微笑みながら答える。

「人類の期待を一身に背負う、エヴァのエースパイロットにこんな雑務をさせるわけには参りませんわ。」

「・・・やめろよ。」

「シンジ様のお口に合うかどうかわかりませんが・・・」

「やめろって言ってるだろ!」 
 
アスカは肩を震わせるシンジを冷たい視線で一瞥し、作りかけの料理もそのままに自室へと向かった。

そして、シンジとすれ違いざまに一言。

「嫌なら、出て行けば?」
 





 
 
Writing by HIDE




 

徹夜明けでミサトが帰宅したとき、そこにシンジの姿は無かった。

もしやと思ってシンジの部屋を覗いてみたが、荷物はそのままで、書き置きらしきものもない。

ミサトは取り敢えず胸をなで下ろし、アスカの部屋に向かって呼びかける。

「アスカー、シンジ君は?」

「知らないわよっ!」

間髪入れずに帰ってくる怒声。

「また、ケンカか・・・。」

ミサトは天を仰いでひとつため息をつくと、自嘲気味に呟いた。

「もう、限界かもね・・・。」
 
 

 
 

「綾波、いる?」

シンジはドアの隙間からレイの部屋の中を覗き込んだ。

ベッドに腰掛けて本を読んでいたレイが顔を上げる。

「何か用?」

「あ、特に用ってほどでもないんだ。他に行くところがなかったから・・・。」

そう言ってレイの視線から顔を背ける。

「そう。」

レイは再び読んでいた本に視線を落とした。

素っ気ない応対だが、シンジもこの程度は予想している。

彼はしばらく玄関でどぎまぎしていたが、遠慮がちに声を出した。

「あの、上がっても、いいかな?」

「・・・好きにすれば。」

シンジは自分の居場所を見つけたような気がして、少し嬉しかった。
 

 

 
 

「シンジ君、帰ってこないわね。」

缶ビール片手にミサトが呟く。

リビングでくつろいでいたアスカがそれを聞きとがめて振り向いた。

「何で私に言うのよ?」

「別にアスカに言ってるわけじゃないわ。ひとりごとよ、気にしないで。」

「まあ、シンジごときがどうなろうと、私の知ったことじゃないわ。」

それを聞いたミサトが眉をひそめる。

「そういう言い方はないでしょう?家族なんだから。」

アスカはミサトから視線を逸らすと、吐き捨てるように呟いた。

ミサトに聞こえるように。

「表面上はね。」

ミサトは空になったビール缶を握り潰した。

その話題にはそれ以上触れないようにして、無理していつもと変わらぬ声を出す。

「晩御飯、どうする?」

「いらない。」
 
 

 
 

シンジはレイの部屋の角でただ置物のように座っていた。

既に夕方の5時を回っている。

シンジがここに来たのは、昼少し前だったから、都合5時間以上もこうしていたことになる。

だが、別に苦痛ではなかった。

ここにいれば人に疎まれることはない。

嫌なことを強要されることもない。

それに、レイはいつもと変わらないそぶりに見えたが、シンジには明らかに意識していることがわかった。

これはシンジにしかわからないことであったが。
 
 

シンジは暗くなってきた窓の外に気が付き、ベッドの脇に置かれた時計に注意を向ける。

「もう、こんな時間か・・・。綾波、お腹空かない?」

その声にレイが顔を上げると同時に、シンジの腹が大きく音を立てた。

考えてみれば、朝から何も口にしていない。

「・・・少し・・・。」

恥ずかしそうに頬を染めるシンジに向かって、レイは短く答えた。

シンジの顔がパッと明るくなる。

「じゃ、じゃあ、僕が何か作るよ。こう見えても結構得意なんだ。」

今にも踊りだしそうな仕草で冷蔵庫に向かったシンジだったが、あることに気付いてはたと足を止める。

恐る恐る冷蔵庫を開けてみたが、案の定、その中には固形の栄養食品とミネラルウォーター以外のものは入っていなかった。

キッチンに調理器具らしきものも見あたらない。

「何か買ってくるよ・・・。」

少し残念そうに肩を落とし、部屋を出るシンジ。

「待って。」

振り向いたシンジの目の前に差し出されたのは、一枚のカード。

「お金、持ってるの?」

「ごめん・・・。」

シンジは申し訳なさそうにそれを受け取ると、とぼとぼと歩き出した。

彼は自分の情けなさに幻滅していた。
 
 

 
 

「そう・・・。いえ、いいわ。しばらく様子を見ることにします。ええ、ご苦労様。」

ミサトは受話器を置いて、またひとつため息をついた。

その背に皮肉たっぷりの声が浴びせられる。

「で、諜報部は何だって?大切なパイロットは見つかったの?」

ミサトは極力アスカの皮肉を気にしないようにして、淡々と答えた。

「ええ。レイのところに転がり込んでいるらしいわ。」

「へ〜、シンジにしては大胆な行動じゃない?こりゃ、今日は帰ってこないかもね。」

鋭い目でアスカを睨み付けるミサト。

「やっぱりあなたに原因があるんじゃないの?」

アスカはおどけた仕草で肩をすくめた。

「怖い怖い。やっぱり可愛いシンちゃんのことが心配なのね〜。」

そこまで言ってミサトに背を向けると、一言付け加えた。

今度はミサトに聞こえないように。

「・・・私なんかよりもね・・・。」

 

 
 

「そろそろ、帰らなきゃ・・・。」

夜も更けた頃、シンジが小さく呟いた。
 
丁度レイが風呂場から出てきたところだったが、彼女は何も言わない。

背を向けて固く目を閉じるシンジを気にする風もなく、下着を身に着ける。

そして半分濡れたままの髪でシーツに潜り込み、シンジに背を向けた。

シンジは少し悲しくなったが、仕方なく別れの言葉を口にした。

「じゃあ、おやすみ。今日はありがとう。」

そう言って立ち上がろうとしたとき、レイが背を向けたまま声をかけた。
 
 

「帰りたくないのなら、居れば?」
 
 

シンジは立ち上がろうとして中腰になったまま、しばらく迷っていた。

レイのことだから深い意味は無いことだろう。

純粋にシンジのことを心配してくれているのは彼にもわかる。

だが、シンジは意を決すると立ち上がった。
 
「ありがとう、綾波。でも、ずっとここにいるわけにも行かないから・・・。」

そう、彼の家はここではない。
 

 

 
 

「ただいま・・・。」

「おかえり、シンジ君。遅かったわね。」

肩を落としながら帰宅したシンジを待っていたのは、いつもと変わらぬミサトの笑顔。

ミサトはシンジを慮り、何も尋ねようとはしない。

シンジは何も聞かれないことが嬉しいような、悲しいような、複雑な気分だった。

ただ、テーブルの上に散乱したビールの空き缶がミサトの心を代弁しているような気がして、少し罪悪感に苛まれる。

「ミサトさん。ご飯は食べたんですか?」

シンジは空き缶を片づけながら、その中に食物らしきものが見あたらないのに気付いて、そう問いかけた。

「ううん。ちょっとそんな気分じゃなくて・・・。」

「ちゃんと食べないと保ちませんよ。昨日も徹夜だったんでしょう?待ってて下さい、今何か作りますから・・・。」

そう言いながら冷蔵庫を開けたシンジの背中を、棘だらけの声が突き刺す。

「あ〜ら、お帰りになっていたんですの?シンジ様。私はてっきりもう帰らないものと思っておりましたわ。」

ミサトとシンジのやりとりを聞きつけたアスカが、パジャマ姿で顔を出していたのだ。

アスカを睨み付けるミサト。

申し訳なさそうにうなだれるシンジ。

「ごめん、アスカ。僕には他に行くところがないんだ・・・。」

挑発的に微笑んでいたアスカの柳眉が吊り上がる。

ツカツカとシンジに歩み寄り、その頬を思いっきり殴りつけた。

「バッカじゃない?!どうしてそこで謝れるのよ?!情けない男ね!ホントに帰ってこなけりゃ良かったのに!ずっとファーストのところに居ればいいじゃない!」

「ごめん・・・。」

「ほらっ、またそうやって!」

叫びながら再び振り上げたアスカの手を、ミサトが掴んだ。

「いい加減にしなさいよ。」

その声と瞳は、限りなく威圧的で、限りなく冷たかった。

ミサトに気圧されて動きを止めるアスカ。

だが、今度はミサトに矛先を向け、挑戦的に睨み付ける。

「何が家族よ!ミサトはシンジさえいればいいんでしょ?!私なんかおまけに過ぎないのよ!エヴァだってそう!シンジがいれば、使徒は倒せるのよ!」

ミサトの手を振りほどいて部屋へと引き返すアスカに、シンジは声をかけることが出来なかった。
 
 

 
 

「ねえ、ミサトさん。」

肘を突いて何やら考え込んでいたシンジが、口を開いた。

「何?」

シンジが残り物で手早く調理した食事をほおばりながら、聞き返すミサト。

「どうしてこうなっちゃったんですか?僕が何か悪いことでもしたんですか?」

ミサトは食事を採っていた手を止めると、優しい声を出す。

「シンジ君は悪くないわ。悪いのはあなたたちが変わらざるを得ない状況を作り出した、私たち大人よ。」

「・・・アスカと初めて出会ったときのようには、もう戻れないんですか?」

「戻りたいの?ケンカばっかりしてたじゃない。今でもそうだけど・・・。」

それを聞いたシンジの表情が暗く沈んで行く。

「・・・いつも、無くしてからわかるんです。あの頃はアスカとケンカしてても楽しかった。でも、今は辛いだけなんです・・・。」

ミサトは立ち上がり、食べかけの食事を生ゴミの袋に放り込んだ。

「もう、私たちにはどうにも出来ないわ。これはアスカ自身の問題だもの。彼女が過去を振り切ることが出来ない限り、もう以前のアスカには戻れないのよ。」

シンジはしばらくうなだれたまま右の手のひらを開握させていたが、やがて決意を込めて顔を上げると、澄んだ瞳でミサトを見つめた。

「教えてくれませんか?彼女の過去に何があったのか。」

だが、ミサトはシンジの瞳の奥にある微かな怯えを見逃さなかった。
 
 

まだ、早い。
 
 

そう判断したミサトはシンジから目を背けた。

「シンジ君。世の中には知らない方がいいこともあるのよ・・・。それに、あなたがそれを知ったらアスカは間違いなくここを出て行くわ。ここで私たちと暮らしていれば、もしかしたらアスカが過去を振り切るための手助けが出来るかも知れない・・・。」
 
 

でも、それはシンジ君次第。

あなたが何もしなければ、何も変わらない。
 
 

ミサトは心の中でそう付け加えたが、それを今のシンジに求めることは酷のような気がして、口に出すことは出来なかった。

シンジがもう少し大人になってからでも遅くはない。

ミサトはそう思っていた。

取り返しのつかないことになるまでは・・・。
 

 

 
 
 
 

「最近のアスカのシンクロ率、下がる一方ですね。」

「困ったわね、この余裕のない時期に。」
 
 
 

 
 
 

「久しぶりに3人揃ったってのに、ギスギスしてるわね。」
 
 
 
 

 
 

「シンクログラフ−12.8。起動指数ギリギリです。」

「酷いものね。昨日より更に落ちてるじゃない。」

弐号機のコア、変更もやむなしかしら?
 
 
 

 
 
 

「もう限界かしらねぇ。3人で暮らすのも・・・。」

「臨海点突破?楽しかった家族ごっこもここまで?」
 
 
 
 

 
 

「子供なんか、絶対要らないのに。」
 
 
 

 
 
 

「心を開かなければ、エヴァは動かないわ。」
 
 
 

 
 
 

「私たちは何もしなくていいのよ!シンジだけが居ればいいのよっ!」
 
 
 
 

 
 

「みんな、みんな、大っ嫌い!!」
 
 
 

 
 
ケイジにけたたましく響きわたる警報。

非常事態を告げる緊急放送。
 
 

『総員、第一種戦闘配置。対空迎撃戦用意。』
 
 

「使徒?まだ来るの?」
 
 

 
 

「零号機発進!超長距離射撃用意!弐号機、アスカはバックアップとして発進準備!」

「バックアップ?!私が?零号機の?」

「そうよ。後方に回って。」

「冗談じゃないわよ。エヴァ弐号機、発進します!」
 
 

 
 

「・・・いいわ。先行してやらせましょう。」
 
 

そう、これは彼女が過去を振り払うための最後のチャンスだから・・・。
 
 
 

 
 

せめて、人間らしく・・・
 

Ver.-1.00
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ざれごと

ども、一ヶ月のご無沙汰でした。

どっか行ってたわけじゃなくて、単にスランプだったんです(笑)。

今回のオクトパすトーリーへの参加がスランプ脱出の契機になることを祈りたいです。

何も書けないよ〜(涙)。

え〜と、これは本編21〜22話のサイドストーリーに仕上げてみました。

あのプロローグからは無理があるって?

何事もチャレンジです(笑)。


 HIDEさんの『彼女がかわった理由』−出来ることならあの頃へ−、公開です。
 

 本編21〜22話・・・・
 アスカ人のとっての地獄の日々のサイドストーリー

 本編も辛かったですが、
 このサイドストーリーも重たいな (;;)
 

 この先どうなるかがわかっているだけに、
 あの時をよりさらに辛い・・・
 

 いやややややぁぁぁ思い出したくないのぉ(爆)
 

 さあ、訪問者の皆さん。
 チャレンジャーHIDEさんに(^^)感想メールを送りましょう!


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