オクトパすトーリー
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彼女がかわった理由
anthology
ちゅん、ちゅん
雀の鳴き声の聞こえる穏やかな朝・・・・・それは、いつもの朝のようでいて、ちっともそうではなかった・・・。
シンジがいつものように軽く欠伸をしながらキッチンに向かうと、アスカが彼より早くそこにたっていたのだ。
「・・・?な、何で・・ア、アスカが?・・」
「あら、シンジ様おはようございます」
「へ?・・・シンジ様って・・・?」
「もうすぐ朝食ができますから、お座りになってお待ちください」
「え?、ううん・・・」
どういうことか戸惑っているシンジをよそに、アスカは手際よく朝食の用意をしている。
シンジは頭の中で、今起きている事の異常性を分析してみた。
「ううむ……」
思わず唸ってしまった。ここからどうすればいいのか、全く良いアイディアが思い浮かばないのだ。
私は小説家。今、とある作品を書いている途中だ。ただの作品ではない。アンソロジー用の貴重な一本なのである。
私の元に編集者の神田氏から連絡が来たのは、かれこれ二ヶ月程前だった。午前5:00にようやく仕事を終え、気持ちよく眠っていた私は枕元に置いていた電話に起こされるはめになったのだ。(枕元に置くのは、寝転んで話せるからという不純な動機からである)時計を見るとまだ9時を少し過ぎた所。受話器を上げとけばよかったと思いながら、5回目のコールでそれを取った。
「はい……月丘です」
不機嫌さはなるべく隠す、それがまた骨の折れる仕事だった。しかし、頑張った甲斐あって、相手はそれに気付かず――そう願っている――明るい声で挨拶してきた。
「神田です」
新人同然で遅筆の私にとって、神田という人物は良き編集者である。徹夜で私の家で(ホテルだと缶詰のようでいやなのだ)ああでもない、こうでもないと書いたこともある。いい思い出だ。私はミステリーを書いているのだが、神田氏はSFも担当している。末永く付き合いたいものだと思う。
「突然ですけど、月丘さん、アンソロジー、他の作家の皆さんと書いてみませんか?」
「アンソロジー?」
「ええ、そうです」
素っ頓狂な声を上げたのが自分でもそれとなく分かったが、神田氏は声の調子を変えなかった。
「アンソロジー、知ってるでしょ?」
知らないわけがない。「ええ」と返事をしておいた。
「実はこれは******さんが企画されたんですけど……」
「たこはちさんが……」
神田氏が某売れっ子作家の名前を出したのに対し、私は無礼にも、その尊敬するべき人物を愛称で呼んだ。
「ええ、でもこれ、ちょっと変わってるんですよ。アンソロジーって、普通テーマを決めてするでしょ?例えば、月丘さんの書いてるミステリーなら、『密室』とか『アリバイ』とか……」
「はい」
つい先日、密室アンソロジーを買ったばかりなのだ。それは仕事そっちのけでその日のうちに読破した。〆切が迫っているというのに、我ながら呑気である。
ところで、たこはちさんが企画したものが、どのように変わっているかと云うと、こういう事なのだ。
「今回の企画はですね、出だしの文章を******さん――律義に本名で云っている――が書かれるんですよ。それで、他の作家の方々が、その続きを書く、そういうのです。ジャンルは不特定で、これもまた魅力の一つですね」
これは面白そうだ。私は早速参加表明をしたのだが、後になって少し後悔した。それは他の作家のレベルがあまりにも高すぎ、自分のような青二才がその企画に参加してもいいのかという心理からであった。
「まあ、固くならないで」
参加する作家の名前を聞いた私の心境を察したのか、神田氏は落ち着いた声でそういうと電話を切ってしまった――固まっている私を余所にだ。
数日後、私の元に出だしの文章が届いた。ある少女の性格が変わったのに対し、少年Aが困ってしまうものだった。私はコーヒーを片手に、しばらくそれを眺めていた。20分ほど無意味にそうやって過ごし、ようやく腰を上げる気になり、仕事部屋へと向かった。
最初、私が考えていたストーリーはサスペンスだった。SFも考えたのだが、何分そのジャンルは今注目のS氏とF氏の新鋭若手作家二人からの寄稿があったとの事だった。彼らの作品と並んでも恥ずかしくない物が自分に書けるのか――答えは否である。自分が書いているミステリーでさえ、あまり良い評判とはいえないのだ。出版社に「日本のエラリー・クイーンとまでは云いませんから、現代の江戸川乱歩とでも宣伝してくれませんか?」と尋ねたところ、「早くそう呼ばれるようになって下さい」という有り難いお言葉が返ってきた経験がある。自分の実力を改めて思い知らされた一瞬であった。そんなものだから、ついついプレッシャーなどに押されぎみになってしまうのだ。無難だと思っていたサスペンスだが、設定に無理が出てきたのでそれを捨て、代わりに多重人格ものを執筆していたところに、神田氏からの電話があったのだ。
「原稿、進んでいますか?」
私は自信満々に「ええ、もうバッチリですよ。最初はサスペンスを考えてたんですけど、それを捨てまして、今は多重人格ものを書いてるんです……」
ぺらぺらと、頑張って喋り続けて、神田氏の反応を待った。最後まで喋らせてくれたのは、彼の優しさだったのだろう。
「あ、でも、あのSさんが二重人格ものを寄稿されまして……」
世界が崩れるような感覚を覚えた。
S氏――SF作家のS氏とはまた別――と聞いて、自分は知らなかったとはいえ、なんと恐ろしくも無謀な事をしていたのだろうと思った。『あの』S氏が人格ものを書き上げてしまったからには、自分の出る幕はない。私はそれからしばらく考え込む毎日を過ごしたのだった。
「どうなってますか?」
受話器の向こう側に、神田氏の明るい声が聞こえる。
「えっとですね、その、ちょっと……あはは」
「あはは、じゃないですよ。その様子じゃ、難航してるみたいですね」
バレたようだ。私には推理作家は向いてないのかもしれない。
「うーん、月丘さん、ピンチですね、ついでにこの神田も危なくなってきたワケか……」
私は軽はずみにあの企画に乗った事を後悔し、神田氏に心の中で詫びた。と同時に、何故あんな企画を自分みたいな未熟者に持ってきたのだと少し彼を責めてみたりもした。
「ううむ」
「ううむ、じゃありません。なんとかして下さい、今週中に」
受話器の向こうで、神田氏が拝んでいる姿が目に浮かんだ。
「いや、拝まないで下さいよ、ホント。僕だって困ってるんですから……なんとかします」
「月丘さん……」
「なんですか、神田さん……」
「缶詰……経験した事ないでしょ?」
「え?え、いや、結構ですよ。僕は一人でゆっくりと執筆するのが好きなんです」
ホテルに缶詰――監禁というイメージを持つのは私だけであろうか。
「いや、環境変えるのがまたいいんですよ、これ効きます」
まるでドリンク剤の宣伝のような言い方だ。本当に効きそうな気がした。
「ホテル用意します。できたところからファックスで送って下さい」
「えー」
「えーじゃありません。期限知ってるでしょ?急ぐんです」
黙っていると神田氏の溜め息が聞こえた。
「月丘さん……年が明けたら、私名刺が変わってるかもしれませんけど、そうなってもよろしくお願いしますね」
泣き落としとはなかなか卑怯である。少しいじめたくなった。
「ええ、遊んであげますよ、時々飲みにいきましょうね」
「月丘さん!」
「大丈夫ですって、まだ一週間あるんでしょ?それまでに上げてみせますよ。そんじゃ」
「あ、切る気だな!待って下さい、話しはまだ……」
私は受話器を置いた。
私は手持ちの原稿を眺めていた。
アンソロジー「彼女が変わった理由」とそれが転がってくる前から持っていたミステリー、「死者の現場不在証明」である。後者はすぐに脱稿できる。結構自信ある一作だ。これで、現代の乱歩と宣伝してもらえるかもしれない。尤も、主観で物を見るのは危険なのだが。
昼頃に、交流ある高名な作家、秋月氏が訪れてきた。私は突然の来訪を詫びる彼にコーヒーを勧め、愚痴を聞いてもらう事にした。
秋月氏との付き合いは、私が作家としてデビューした頃からあった。某文学賞を運良く受賞した時、受賞パーティで大先輩の彼が話し掛けてきてくれたのだ。新人の私にも丁寧な態度で接してくれて感動した覚えがある。それ以来、色々と相談にも乗ってもらうようになったのだ。
私の話しを聞いて、秋月氏は一つ深く息を吐いた。
「なるほどね……良いアイディアが浮かばないか……」
作家にとって、これほど困る事はないのだ。
「そうだね、そんな時は無理にいい物を書こうとしなくてもいいんです。自分が書ける物を書きたいように書く……それでいいんじゃないかな……」
ほうほうと頷くだけしかできなかった。なんとなく、目の辺りがさっぱりした気分になった。さすがは秋月氏だなと感心した。要するに自分は力みすぎたのだ。
秋月氏を見送り、私は早速仕事部屋へとこもった。彼の助言を忠実に守りながらワープロに向かった結果、なんとか一本の作品ができあがっていた。
「原稿、あがりましたよ」
「ホントですか?」
神田氏は心底嬉しそうに云った。こっちまで嬉しくなってしまう。
「じゃあ、今日取りにいきますね」
電話を切った後、私はコーヒーを煎れて自分の作品を読み直した。anthologyと名打たれたそれは、何故か可愛く思えた。
私は神田氏の来訪を待った。たまには、こんな作品もいいのではないか――そんな事を思いながら……。
The End
ver.1.-00 1997-12/15 公開
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どうも、月丘です。
ようやく書き上げました、オクトパすトーリー……。
遅くなって申し訳ないです。
無断で名前を出してしまった秋月さん、たこはちさん、ごめんなさい。
気を悪くなさらないで下さい。m(_ _)m
ちなみに、これには元ネタあります(笑)
たまにはこんなストーリー、まあ、笑って許してやって下さい。
では、次回作でお会いしましょう。
月丘
月丘さんのオクトパすトーリー作品『anthology』公開です。
おお!
こういう切り方もあったのか!!
アイデアですね(^^)
しかし、ひとつ重大な欠陥が・・・
”EVA小説”になっていない(笑)
書くのが遅れるうちに
自分が書くつもりのネタを他の人が使ってしまい
発表の機会を逃す・・
月丘さんの焦り・落胆・遠慮etc
実録物ですね(^^)
書きかけでやめた作品も読みたいな(^^)/
さあ、訪問者の皆さん。
斬新な料理を見せた月丘さんに感想メールを送りましょう!
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